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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
終章 激闘王国編

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第41話 邪竜の軍団。

 タフターン山の南。


 ちょうど試練の洞窟と正対する位置は、緑豊かな森林が広がっていた。

 その緑に紛れながら進んでいたのは、魔王の配下サキュバス――アルティが放ったSクラスのモンスターたちだった。


 魔猿族を主体とした軍団は、慎重に頂上を見つめた。


 山の斜面に見える影を見て、魔猿たちは騒がしくなる。


 横一列に並んでいたのは、フードを目深に被った大魔導の軍団だ。

 A+クラスのモンスターの出現。

 Sクラスを自負する魔猿は、歯茎を剥きだし笑った。


 余裕――とみたのだろう。


 それはとても愚かな事だった。


 山の斜面から聞こえる声に、1匹の魔猿は耳をそばだてる。

 ぼそぼそと聞き取りにくかったが、それは呪文だった。


「きっきぃいいいいいいいいい!!」


 まさに猿のように喚く。

 散開! と種族の言葉で叫んだのだが、時すでに遅かった。


 魔猿たちが光に包まれる。


 瞬間、豪雷が大地に突き刺さった。


 木々を吹き飛ばし、地面は弾け、その圧力に潰される。

 膨大なエネルギーに魔猿は為す術なく、身を焼き尽くされていった。


 残されたのは、キノコのような爆煙と一瞬に荒れ地とかした森林の無残な姿だ。


 風のダンジョンでも使用した戦略級魔法。

 今回は主であるガーデリアルの力を使わず、大魔導たちの魔力だけで施行した。

 100体の大魔導。

 そのすべてが、Sクラスになるまで、訓練所で鍛え上げられている。


 その魔力を注いだ戦略級魔法。

 如何なSクラスのモンスターとて、逃れることは出来ない。


「大魔導A」


 魔導部隊の長である大魔導Aは振り返る。

 話しかけたのは、大魔導Bだった。


 彼らはさまよえる騎士のように名前を持たない。


 人間と関わりが深いとは言え、人間らしい文化は持たない。

 それがモンスターとしての矜恃だった。


 だが、集まってしまうと、なかなか名前がないと不便だ。


 そこで大魔導Aは、A~Jまでの組みを作り、さらに0(番号なし)~9までの数字を割り当てた。

 こうして名前問題は解消されたというわけだ。


 0(番号なし)は基本的に組のリーダーを務め、さらに大魔導Bは大魔導Aの補佐的な役割を与えられていた。


「思ったより早く済んだが、他の応援に回るか?」

「必要ない」


 大魔導Aはきっぱりと言い放った。


「我らが必要であれば、主から命令が来るはずだ」

「なるほど」

「わかった」


 大魔導Bをはじめ、他のリーダーたちも頷いた。


 大魔導Aはふと顔を上げる。

 タフターン山の頭上に垂れ込める暗雲を見て、フード奥の怪しげな光を細めた。



 ◆◆◆



 一つ目族が配置されたのは西側だ。


 ここは南側と違って、植物も少なく、荒涼としていた。

 山肌はむき出しになっており、遮蔽物も少ない。


 攻めるのは難しいが、一つ目族の体力と侵略能力なら問題ない、と判断された。


 何より一つ目族は、地形の不利など考えるほど知能は高くない。

 むしろ、その突進力を生かすためにも、遮蔽物がない地形は有利だと考えられた。


 一つ目族の目玉が頂上を向く。

 案外可愛い(まなこ)に映ったのは、ただ荒涼とした山肌。

 敵の姿はなく、雨の臭いがする風が北から南へと向かって吹いていた。


 知能Dという彼らも、さすがに躊躇う。


 罠を疑ったが、結論と対策を出せるほど、賢くはなかった。


 大きな足を上げ、山肌を登り始める。

 中腹まで何事もなく、頂上が見え始める頃、事は起こった。


 1匹の一つ目族が斜面を踏み出した瞬間、山肌が一気に崩れ去る。


 一つ目族たちを中心にぽっかりと大穴が空いた。


「が、ぁ?」


 口は半開きのまま、ただ一つ目族たちは首を傾げた。

 なすすべないまま、空中に放り出される。


 1匹、底に叩きつけられると、さらに巨体が被さった。

 あっという間に、一つ目族の山が出来る。


 薄暗い穴の底で、一つ目族たちは顔を上げた。


 頑丈な身体を売りとする彼らは、この程度で死なない。

 そのほとんどが無傷だった。


「があ……」


 大きな目を細かに動かし、状況を観察する。

 その大きさだけあって、彼らは目がいい。

 薄暗くとも、昼間のように行動できるのは、彼らの隠されたスキルだ。


 その大きな瞳が最初に捉えたのは、人間の子供ぐらいの小男だった。


 全身は土埃にまみれ、手にはスコップや鶴嘴を持っている。


「ドワーフ」


 土と鉄を愛するモンスターであることは、一つ目族たちも理解していた。


 だが、それに跨がる獣に首を傾げた。

 普通とは違う。

 肌が亀の甲羅のように高質で、剣のように鋭角に角張っていた。


 見たこともないモンスターは、赤い目を光らせる。


 本能的に一つ目族は、それがいけないもの(ヽヽヽヽヽヽ)だと悟った。


「があああああああああ!!」


 闇雲に叫んだが、遅い。


 収束した赤い光が、一つ目族たちを貫いた。

 巨体の首が、腕が、胴が細い光に容赦なく切り飛ばされていく。

 綺麗に網の目状に切られると、バラバラになった遺体はサイコロのように転がった。


「が、あ……。う……」


 奇跡的に生きていた一つ目巨人族は、一つ目を動かす。

 身体は動かない。

 そもそも四肢はちぎれ、もはや目玉しか動かすことができなかった。


 その自慢の目で暗闇を見つめる。


 ドワーフが近づいてきた。

 一つ目巨人族に息があることに気づくと、持っていたスコップを振り上げる。


「わりぃな。恨むなら、なんの警戒もしなかった間抜けなダンジョンマスターを恨んでくれや」


 スコップを目玉に突き刺す。


 断末魔の悲鳴とともに、血しぶきが暗い穴の底に広がっていった。



 ◆◆◆



「これで我の3勝だな」


 我は顎門を動かし、ニヤリと笑った。


 対して目の前に浮かんだサキュバス――アルティは、奥歯を強く噛む。

 苦虫をかみつぶしたかのように顔を歪ませた。


「なによなによ。魔王様にもらった精鋭なのよ! Sクラスなのよ! なのになんで、こんな辺境にいる田舎モンスターをやっつけれないのよ!!」


 呪詛の言葉を吐く。


 すでに表情には余裕はない。

 大量の汗を掻きながら、仲間のモンスターを罵り続けた。


「所詮、お前はダンジョンマスターではないということだ。ここは我の縄張りだぞ。すべてのパターンに対して、必勝を考えているのは当たり前だろうが」

「黙りなさいよ! 童貞ドラゴン!!」


 ふん……。

 久しぶりに聞いたな、その言葉。


「お前こそ黙れ、淫売。2児の父に向かって童貞などと叫ぶな」

「うるさい! あそこしゃぶって童貞卒業とか舐めてんのかよ!」


 我が前にギャル女神の姿はない。

 親父も笑わないような下ネタギャグを無意識のうちいってしまうほど、キレた女がいるだけだった。


「そう。キレるな、サキュバス。皺が残るぞ」


 たしなめる。

 とはいえ、もうすでに結構なお年なのだろうがな。


「まだよ! まだ東の魔龍族が残っている! あんたのところにはもう戦力は残ってないでしょ。いるのはせいぜいCクラスの竜骨兵程度。それが集まったところで――」


 息を吐く。


 同調したわけではないが、我もまた嘆息した。


「すでにそっちは決着が着いているぞ」

「なにいってんのよ、ガーちゃん……」

「自分の目で確認するがいい」


 サキュバスは大きく目を見開き、東を見た。



 ◆◆◆



 元観光用の入り口から侵入した魔龍族はすでに全滅していた。


 広い空間に出た瞬間、奥から流れてきた洪水に飲み込まれたのだ。


 それがただの水であれば、なんの問題もなかった。

 魔龍族の体力なら耐えることは容易だっただろう。


 だが、我がそんな優しい水攻めを仕掛けるわけがない。


 魔龍族を襲ったのは水ではない。


 空間を埋め尽くすほどの膨大な量のスライムだった。


 スライム攻めともいえる攻撃に、即応できる余地はあった。

 魔龍族は竜だ。

 一斉に火を吹けば、あるいは殲滅できたかもしれない。


 だが、初見で対処できるほど、魔龍族に対応能力はなかった。


 あっさりと飲み込まれ、自慢の喉の中にスライムが注ぎ込まれる。

 火を吹こうにも、火袋の中にまでゲル状の物質が押し込まれ、魔龍族は窒息死に追い込まれた。


 口を塞ぎ、なんとか難を逃れるものはいた。

 だが、火を吹いて対処をしようにも、顎を開ければスライムの思うつぼだ。


 ある程度は焼き払うことが出来ても、結局口の中にスライムを突っ込まれて即死する。


 残った魔龍族は力任せでスライムを振り払うしかなかった。


 しかし、我が育てたスライムは、ただの雑魚モンスターではない。


 訓練所で育てたところで、結局雑魚であることに変わりはなかったが、その過程の中で彼らは1つの特技を得た。


 それは“硬化”だ。


 スライムは徐々に硬くなっていく。

 ともに、飲み込まれた魔龍族の動きを止めていった。


 古代でいうところのベークライトのようにスライムは硬くなる。

 魔龍族の動きを完全に止めた。


 いくら魔族でも、酸素は必要になる。

 腹に火を飼っている竜にとって、空気は何よりも重要だ。

 当然、他のモンスターよりも消費量が激しい。


 超密室の中で、徐々に空気を消費していく。

 如何なSクラスの龍とて、酸素がなければ活動が出来なかった。


 荒く息を吐き出し、朦朧とした意識の中で、魔龍族は事切れていく。


 そして軟化したスライムにゆっくりと消化されていった。



 ◆◆◆



 ミーニク村の戦線も落ち着いていた。


 魔龍族の全滅を見届けると、ニーアはSAVAGE110の銃身を下ろす。

 銃口はちんちんに熱くなり、白い湯気が景色を歪めていた。


 ふっと、息を吐き、静かになった村を見回す。

 ニーアは拠点にしていた櫓から一気に下へと降りた。


「――――ッ!」


 不意に気配を感じる。


 SAVAGE110を改めて構え直し、スコープを覗いた。


 立っていたのは、魔族だった。


 薄い蝶のような羽をヒラヒラと動かし、綺麗なくびれに手を置いている。

 表情に浮かんだ笑顔は、例に漏れず禍々しかった。


 キツい赤いルージュが塗られた唇が動く。


「久しぶりね」


 お互いの間に、湿り気を吹くんだ風が流れた。


次話はニーアの過去のお話になります。

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