表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
終章 激闘王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/56

第40話 邪竜、女神と再会する。

「やー!」


 ミーニク村の中心で、可愛い少女の声が響き渡る。

 たったナイフ1本を手に持った獣人の少女は、モンスターがひしめく村を駆け抜けていった。


 村を襲う魔龍族の体躯は、その少女よりも何倍も大きい。


 にも関わらず、かろやかな動きで攻撃をかわし、空に描かれた線をなぞるように部位を切り裂いていく。

 それは戦士と言うより、モンスターという食材を切る料理人(ダイナー)のようだった。


「早く! タフターン山へ」


 竜の料理人(ダイナー)――フランは足を止めた。


 顔見知りの老婆が、家と家に挟まれた小さな隙間に隠れているのを見つけたのだ。

 よく目をこらさなければわからなかっただろう。

 人間以上の嗅覚と聴覚を持つ、フランにしか出来ない芸当だった。


「足が……」


 老婆は怪我していることを主張する。

 フランは小さな背中を老婆へ向けた。


「フランが安全な場所に連れていきます」

「でも――」


 老婆はおろおろと辺りを見渡した。

 自分よりも小さな少女に負ぶさるのを遠慮したのだろう。

 男手を探したが、周りにはモンスターしかいなかった。


「さっ。早く、お婆ちゃん」

「こ、こうかい?」


 老婆は観念する。

 獣人少女の背中に身体を預けた。

 すると、フランはすっくと立ち上がる。


 その力に、老婆は目を丸めた。


「凄い力持ちね、あなた」

「はい。だから、安心して下さい」


 フランは笑顔を老婆に向ける。

 安心させるためだったが、思わぬものを目にする。


 モンスターだ。


 魔龍族が三叉槍を振り上げていた。


 フランは慌てて振り替える。

 ダマスカスナイフを掲げ、受け止めようと体勢を取る。

 だが、じかで受ければ、如何な竜の巫女とて吹き飛ばされるのは必至だ。

 その場合、老婆が犠牲になるかもしれない。


 フランの顔に初めて焦りの色が浮かんだ。


 だが――。


 突然、魔龍族の眉間に穴が開いた。

 衝撃が一瞬、遅れてやってくる。

 魔龍族の竜の顔がはぜたのだ。


 巨体はゆっくりと倒れる。

 砂埃を巻き上げた。


 フランと老婆は咳き込む。

 やがて顔を上げた。


「大丈夫、フラン?」


 屋根の上に立っていたのはニーアだった。


 その手にはごつい銃を提げている。

 SAVAGE110という狙撃用のライフルだ。


「ありがとう、ニーア」

「そのお婆ちゃん、助けるの?」

「はい。怪我をしてるんです。タフターン山へ」

「わかった。援護する」


 ニーアは頷く。


 すると、長く重そうな銃身を易々構えた。


 迫ってくる魔龍族を次々に撃ち殺す。

 モンスターの鮮血が、まるで花火のように暗い空へと散っていく。


「退路を整えた。早く」

「はい」


 ニーアは走る。

 老婆は目を伏せ、礼をいった。


 その老婆は一路タフターン山を目指す少女の耳を見ながら、呟いた。


「すまないね」

「いいえ。村を守るのがフランの仕事ですから」

「違う。前村長の家にお嬢ちゃんがいた時、私たちはお嬢ちゃんを助けてやれなかった」

「…………ッ!」

「私たちがもっといえば、村長もあんなひどいことはしなかったかもしれないのに」

「気にしないで、お婆ちゃん」


 妙に明るい少女の声に、老婆はまたびっくりした様子だった。


「もう何も思ってないよ。今のフランは幸せだもの」

「そうかい」


 老婆は笑った。


 フランは前を向き、走った。


 憎悪も、悲しみも、諦観も、絶望も……。

 あの時、抱いていた気持ちはフランの心の中にはない。


 村長が竜の炎に焼かれた日。

 フランの中の気持ちもすべて焼き殺されていた。


 でも、老婆の言葉は少し嬉しかった。


 自分のことを気遣ってくれる人がいることに気づいたからだ。


 獣人の少女の瞳に少しだけ涙に濡れいていた。



 ◆◆◆



 ニーアとフランが村人の救出作戦をしている間、我は1匹の魔族と対峙していた。


 その者は、妖精のような薄い蝶の羽を持っていた。

 一部だけを見れば可愛げもあっただろう。

 だが、魔族だけあって、その姿は禍々しい。


 目が痛くなるようなキツい桃色の髪。

 肌は死人のように青白く、纏う黒のドレスが目のやり場に困るほど、局部をギリギリまで露出させていた。


 パッチリとした瞳こそ、どこか偶像的な可愛さはあれど、浮かんだ笑顔はまさに魔族らしい。はっきりとした悪の相が見えていた。


 恐らくサキュバスだろう。


 薄い羽をパタパタと動かし、黒雲の下で宙に浮いていた。


「やっほー。おひさー。げんきー?」



 ガーちゃん!



 聞き覚えがある綽名だった。


 遠い昔に聞いたような気がしたが、案外最近であることを思い出す。

 赤い眼光を対峙するサキュバスに叩きつけた。


「女神アルティか」


 いや、女神というのはおかしいか。

 女神だった――というべきか。


 アルティは艶然と微笑む。


「よかったー。覚えてくれてたんだー。アルティ、とっても嬉しい」

「ふざけるな、淫売め。貴様が、我の意識を封印していたのは、もうとっくに気づいているのだぞ」


 聖剣を抜くと死ぬと聞き、女神アルティから独立した瞬間からおかしいとは思っていた。


 まず記憶が曖昧なこと。

 あまりに世界が我の知らぬ間に変わってたこと。


 おそらく我は数百年単位で眠らされていたのだろう。


 それを主導したのは、女神ではなく、サキュバスだったというわけだ。


「あははは……。すごーい! 自分で気づいちゃったんだ。ガーちゃん、エラいね。頭なでなでしてあげようか」

「いらん! サキュバスよ。我を眠らせたのは、魔王の命令か」


 サキュバスは嬉しそうにくるりと反転した。


「そうよ、ガーちゃん。ガーちゃんが守る聖剣は、魔王様にとって天敵だもの。だけど、ガーちゃんと本格的には戦えない。聖剣はともかく、お腹の中にある武器は、魔王様にとっても魅力的だったしー」

「だから、我を眠らせ、この地に封印した」

「そーよ。けどー、人間どもにしてやられちゃった」


 サキュバスはがっくりと肩を落とした。


 我はその事情をグローバリから聞いていた。


 タフターン山の東に出来た観光用の坂路。

 あれは我の封印術を弱めるための工事だったらしい。


 観光用を目的に、人間側が発案し、坂路を作ったのだと聞いた。


「だけどー、もう1度封印すればいいってアスティは考えたのー。ふふふ。頭いいでしょ、アスティ」


 キランとウィンクを送る。

 我は尻尾を振って、否定した。


「やってみるなら、やってみるがいい」

「やーん。こわーい。でも、アスティが揃えたモンスター軍団は強いよー」

「ならば、比べようではないか。我とそなた……。どちらが強いか」

「あはーん。ガーちゃん、ぐいぐいくるね。いつの間に肉食系なったのかなー。ちょっとアスティ、好みかもー」


 アスティは空中でくねくねと動く。


「でーも……。精鋭っていっても、ガーちゃんの所の強いのって、巫女だけでしょ。ああ、でもあの竜の子供もつよいよねー。だけど、今はおねんねしてるんでしょ」


 影を纏い、サキュバスは悪魔のように笑った。


「そんな状態で勝てるのかなー」

「勝てる」

「そりゃあね。村の方の戦線はアスティの負けだよぉ」

「でーも、まだ三方から敵は来るよ。どうやって、対処するの? 巫女も子供もいないんでしょ?」


 今、タフターン山を襲撃しているほとんどのモンスターが、Sクラスだ。


 対して、我の手元にはデュークの騎行部隊と、大魔導の魔導部隊がSクラス。

 それ以外は、Bクラスがせいぜいだった。


 すでにデュークの部隊は、村の防衛に使っている。

 大魔導部隊は問題ないだろうが、残り2方向からの対処が難しくなるだろう。


 このサキュバスは、そんな愚かな(ヽヽヽヽヽヽ)ことを考えて(ヽヽヽヽヽヽ)いるのだ(ヽヽヽヽ)


「くはははは……!!」


 我は大笑した。


 初めてアスティの顔から笑みが消える。

 ぷくぅ、と頬を膨らませた。


「見せてやろう」

「もー。なにがよ!」


「戦いの優劣は、モンスターのクラスに寄らないということをだ」


 我は口を開け、ニヤリと微笑んだ。


終盤に向けて、伏線回収をどんどんしなきゃ(使命感)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ