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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
終章 激闘王国編

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第39話 邪竜、願いを託される。

 我はグローバリからカステラッド王国についての様々な情報を聞いた。


 その説明の一字一句を聞き漏らさず記憶し、最後に尋ねる。


『して――。グローバリよ。そなたは今後、どうするつもりだ』


 正直、ここでなくすのには惜しい男だ。


 武力。

 知力。

 胆力


 そして意志力。


 そのどれをとっても、グローバリは今我が配下と比べて、群を抜いている。

 率直にいって、手元に置き、我がモンスターを率いてほしいと思う。


 この男にとっても、悪くはない話だ。

 死なせてしまった仲間の分まで生き、彼らが渇望した望みを叶える。

 グローバリにとって、それがもっとも幸福なことではないだろうか。


 しかし、我の誘いに大竜騎士団団長は首を振った。


「守護竜ガーデリアルの直々の誘い。光栄な事に思う」

『では何故、断る』


「すでに地獄へ行く準備は出来ている」


 グローバリは静かに答えた。


 ああ……。


 我は思わず唸りを上げた。


 この男には我が欲しいすべてが揃っている。

 唯一欠点があるとすれば――。


 不器用なことだろう。


『罪悪感か』


 感じないのも問題だが、そればかりでは人間は成長出来ない。

 古代の人間もそうして、前を向いて日々戦ってきた。


「それもある」


 グローバリは否定しなかった。

 顎にキュッと力を込めた。


「おそらく魔王はこの戦況を見つめている。お前と同じく千里眼でな」


 我は頷いた。


 可能性は高い。

 遮蔽物があるダンジョンの中を覗くことは出来なくても、逐次このタフターン山を見張るぐらいはしているかもしれない。

 そうでなければ、人の軍である大竜騎士団を我の元に差し向けるようなことはしなかったであろう。


 何より相手に千里眼があるからこそ、グローバリは周りくどく、血道を広げるような手段で、危機を伝えにきたのだ。


「もし、俺が裏切ったと知り、王国の現状がガーデリアルに知られたとなれば、すぐにでもここを襲うだろう。お前の口からカステラッド王国の真実が露見することを恐れてな」

『今、ここでタフターン山を全力で襲撃されるのは不味いな』


 国1つがダンジョンと聞けば、その戦力は我が思う以上に膨大なものかもしれない。なれば、時が必要だ。国を作るまでいかなくとも、受け止めるだけの戦力を構築しなければならない。


「大竜騎士団はタフターン山の試練(ダンジョン)に挑み、完膚無きまでにやられた。その事実だけ、魔王に見せることが出来て、初めて我らの大望は完遂する」

『それはお前たち騎士団にとって、不名誉を喧伝するだけだぞ』

「些末なことだ」

『我が魔王を討てるかどうかすらわからんのにか』


 現状、勝算は限りなく低い。


 一も二にも戦力が違う。

 騎士団400騎を相手にするだけで、我らは裏技まで駆使して勝利をもぎ取ったのだ。


 次はこの10……いや、100倍の戦力がやってくる。

 そう考えるだけで、少々めまいがしそうだった。


「お前は魔王を討てなかった――それだけのことだ。プレッシャーをかけるわけではないが……。ガーデリアル、お前でダメなら、もはや奇跡でも起きぬ限り人間に未来はないだろう」

『何故、そこまで我に期待できる』

「簡単なことだ」



 お前は、我らより強かった……。



「私は私より強い者を信じるのでな」


 我は思わず嘆息を吐いた。

 呆れてしまうほど、幼稚な答えだ。


 だが、我はそこにグローバリの矜持を見たような気がした。


『獣か、貴様……。魔王も強いかもしれないぞ』

「剣を交えたことをないものの強さなど、私には計りかねる」


 岩盤のように硬かったグローバリの顔が、和らぐ。


 我がこの男を視認して、初めての笑顔だった。


 はっ――。


 釣られて笑う。


 全く厄介な願いを託されたものだ。


 我の望みは簡潔だ。

 我が妻と永久に生きること。

 平たく言えば、このタフターン山でイチャイチャしていられれば良い。


 魔王がどうの。

 人間の願いがどうの。

 そんなものは関係ない。


 だが、我は我の生きる道を阻む者を容赦しない。


 人間であれ、魔族であれ。

 冒険者であれ、勇者であれ。

 そして魔王であれ……。


 我と我が家族、そしてこのダンジョンが轢き殺すだけだ。


 長い首をもたげた。


『良かろう。そなたの意志を引き継ごう』


 引き継ごうなどと生やさしいものではないがな。

 もはや、押しつけられたというに等しい。


「感謝する、ガーデリアル。これで私も心おきなく死ねる」


 グローバリは剣を掲げた。

 刃を自分の方へと向け、鍛え抜かれた太い首元に当てる。


『グローバリよ』

「なんだ、ガーデリアル。まだ何か質問か」

『1つお前に謝っておこう』

「謝る。我が兵を殺したのは、わた――」

『いや、その前にもお前たちの兵を殺した』

「警備兵のことか。心配するな。あやつらも、私が殺したようなものだ。地獄で詫びの文でもしたためよう」

『罪滅ぼしではないが』

「なんだ?」


『お主に武人として“死”をくれてやろう』


 乾いた音が鳴る。

 グローバリが持っていた剣を落としたのだ。


 瞳を見開き、我がいる頂上へと顔を向けた。


 その言葉を聞き、大竜騎士団団長はすべてを理解したのだ。


『怨敵を憎々しげに見つめ、呪いの言葉を吐き散らし、武人として、祖国を守る最後の一兵卒として、華々しく最後を遂げるが良い。それこそ騎士の本懐であろう』


 グローバリの瞳から滂沱と涙が流れた。


 汗と土、そして血にまみれ、武人の顔は無惨に汚れていたが、その涙だけは美しかった。

 やがて膝を折り、嗚咽を漏らす。

 赤子のように泣きじゃくった。


 兵のこと。

 民のこと。

 国のこと。


 それらすべてをため込んでいたのだろう。

 涙を見せぬまま、その生涯を閉じることを望んでいたかもしれない。


 しかし、グローバリは我慢できなかった。

 思いも寄らぬ贈り物(ギフト)

 自分の望みが初めて叶うものを見て、ついに決壊したのである。


 騎士は絞り出すようにいった。


「ありがとう……」


 そしてグローバリ・ヴァル・アリテーゼは壮絶な最後を遂げたのだった。



 ◆◆◆



『ガーディ』


 ニーアの声を聞き、我はハッと長い首をもたげた。


 空は相変わらずどんよりとした曇り空だ。

 先ほどまで雷が鳴っていたが、今は落ちついている。

 だが、今にも雨が降ってきそうなほど、黒い雲が全天を覆っていた。


 我はニーアの現在地を探る。

 彼女は、フランとともにミーニク村に向かっていた。


 すでに村にはデュークが指揮する騎行兵団が到着し、現れたモンスターに対処している。


 だが、騎行兵団もモンスターだ。

 村の動揺が拡大する恐れもある。

 故に、我はニーアとフランを差し向けていた。


『どうしたの、ガーディ。考えごと?』

「ああ。グローバリ・ヴァル・アリテーゼのことを少しな」

『そう。……ガーディ、優しい』

「我が優しい……?」


 意外な返答に、我は一瞬キョトンとしてしまった。


 確かにニーアに対して優しく接しているが……。


『ガーディの生き方、ニーア好き。生きるために戦う。とてもシンプル。でも、それは凄く大事なこと』

「う、うむ。改めていわれると照れるな」

『でも、ガーディ。時々、遠回りする。ニーアを奥さんにしてくれたことも、フランを助けたのも、家族を守るためにダンジョンを作ったのも、本当はガーディにとってはいらないこと。……魔王と戦うことも』

「それも我が生きることに必要だと判断しただけだ」


 ニーアはクスクスと笑った。


『だから、ニーアはガーディ好き。ガーディがドラゴンだからじゃない。そんなガーディだから好き。……大好き』

「我もニーアが好きだ。そんな我を認めてくれるからこそ、我はニーアが好きなのだ」

『倒そうね、魔王を』

「無論だ」


 我の願いは後にも先にもたった1つしかない。


 妻とイチャイチャしたい。


 そのためなら、守護竜にも、邪竜にも、そして――。


 一国を救う勇者にもなろう。


 我は改めて首を伸ばした。

 涎に濡れた牙を持ち上げ、顎を開く。


「全部隊に告げる。我がダンジョンを取り囲む悪鬼羅刹どもを蹂躙し、魔王ルドギニアの前にその屍をさらしてやるが良い!」



「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 途端、地響きのような声が山の四方から聞こえた。

 その音量は万の兵に匹敵した。


“じゃりゅうだって~♪、つらいんだも~ん♫”

“たたかえば♪ こ~おいっちゃうよ~♪”


何故か謎の歌が出来てしまったw


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