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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
終章 激闘王国編

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第36話 竜の部下

 キャッキャッと喜ぶ我が娘達。


 我は千里眼で様子を伺いながら、赤い瞳を細めた。


「ルニア、フラリル」

「なに、パパ」

「はい、パパ」


 歯切れの良い返事が返ってくる。


 我は少し息を吸ってからこういった。



「どうやら、まだ終わってないようだぞ」



 歓喜に沸いていた2人の顔から、笑みがこそげ落ちる。

 再び戦士となり、各々手ではなく、武器を握った。


 振り返る。


 我の忠告通り、明らかに致命傷を負ったはずの冒険者たちが身を起こしていた。


()てぇ……」


 槍騎士は頭を振る。

 鮮血が飛び散り、堅い床に赤い斜線が引かれた。


「やれやれ……」


 魔法士も杖を突き、立ち上がる。

 ローブは血に濡れ、ぐっしょりと重たくなっていた。


 大男の側に近づくと、杖でその頭をぶっ叩く。


 ハッと目を開けると、うめいた。


「起きたか」

「おで、ねてた」

「ああ……。いい夢ではなかっただろうがな」


 大男の首筋からはいまだ血が吹き出ている。

 それでも、さも当たり前のように立ち上がった。


 死んだはずの3人の冒険者は、再びルニアとフラリルの前に立ちはだかる。


 我が娘は冷たい視線を送った。

 地獄から舞い戻ってきた冒険者を観察し、こう言い放つ。


「普通の人間じゃない」

「やはりそうでしたか」


「「あなたたちは、魔族ですね」」


 凜と少女の声は重なり、冷たい鉄の間に反響した。


 ニヤリと笑ったのは、3人の冒険者だ。

 くふ……と笑いはじめると、哄笑を上げる。


 槍騎士は嬉しそうに顔を歪めた。


「なんだ……。気づいていたのか」


 瞬間、冒険者たちの身体は膨れ上がった。

 もはやそれは爆発に近い。


 皮膚が各々の防具を突き破って膨張していく。

 人間の肌とは思えない異様な色へと変化し、あるいはナイフのような剛毛が伸びていく。


 ある者は背中に翼を生やし、ある者は大蛇のような尻尾でぴちゃりと床を打ち、ある者の顔には大きな目玉が現れた。


 ただの人であれば、そのグロテスクな変態に意識を刈り取られたであろう。


 1ついえることは、それは決して人の所行ではなかった。


「しゅるるるるるるるるる……」


 荒々しく吐き出された白い息は、まるで炎のようだ


 ルニアとフラリルは、現れた3匹の化け物を見上げる。

 2人の眼光は、一層苛烈に光っていた。


 その瞳に映った3匹の異形。


 大きな目玉を持つ巨人。

 蝙蝠の翼と大蛇の尻尾、そして白毛を生やした大猿。

 そして、竜の鱗の肌に大木のような四肢を持つ魔龍。


 邪悪さをその身の中から迸らせ、我が試練の間に居並んでいた。


『まさか――』


 我は顔をこわばらせた。




 我にはかつて3匹の忠実なる部下がいたことを覚えているな。


「うん。ガーディには3匹の部下がいた」


 我の質問に、横に立ったニーアは頷いた。


 千里眼を持たない彼女は、今娘達がどうなっているかは知らない。

 でも、何かとんでもないことが起こっている事は、我の表情から察したのであろう。


 我と同じく顔をこわばらせている。


 大きく首を動かし、我は頷く。


 かつての部下――。


 一つ目族の異端児“巨人”アディンギア。

 悪魔族であり、知略家バルズ。

 そして我が最強の眷属ベルムル。


 3匹は、我が試練の洞窟に常駐し、聖剣を求める勇者たちを葬ってきた。

 だが、そんな屈強な部下達も、寿命には勝てなかった。

 我が気がつかぬうちに天寿を全うしたのだ。


 その――はずだった。


「どういうことだ……」


 我は千里眼で戦況を確認しながら、再び目を細める。


 どう確認しても、愛娘の前にいるのは、かつての部下たちだった。


「ニーア、確認するぞ。我が配下たちは、寿命で死んだのだな」

「間違いない。一つ目族のアディンギアも、悪魔族のバルズも、魔龍ベルムルも寿命で死んだ。その骨は今も残っている」


 では、あそこにいるのは、同族か。

 いや、彼らは召喚されたモンスターだった。

 ならば、この3匹も何者かによって召喚されたに違いない。


 こんなことが出来るのは、同じダンジョンマスター。

 それも我と同等の力を持つものしかいないだろう。


「ふん……。まずは先制パンチというわけか」


 我は息を吐き、遠くの空を見つめた。





 第一試練の間――鉄の籠の中で、我が娘と3匹のモンスターは向かい合っていた。


『ルニアよ。フラリルよ』

「なに、パパ?」

「はい、パパ?」


 2人に呼びかける。

 また歯切れの良い返事が返ってきた。


 かつてのこの試練の洞窟を守ってきた最強モンスターの前でも、我が娘たちは微塵も恐れていない。


 むしろ戦いたくて、うずうずしているように見えた。


『遠慮をすることはない。存分に暴れよ』

「わかった、パパ」

「わかったよ、パパ」


「「叩きのめす!!」」


 銀と金の髪が天を衝くほど闘気を燃やす。


 対して、モンスターたちは笑みを浮かべた。


「聞き違えか。我らを“叩きのめす”といったぞ、ネフィーザ」

「戦力の違いがわからないのでしょう、ベリガル」


 魔竜ベリガルは大きな三叉槍を構える。

 魔猿ネフィーザは手を前に突きだし、呪唱準備にかかった。


「はやくつぶす」

「ダールギィン、加減をしろよ。お前が本気で暴れると、山ごとなくなってしまう」

「うが?」


 一つ目族ダールギィンは首を傾げた。

 顎からはだらしなく涎を垂らしている。


「ダールギィンにそんな忠告は無駄ですよ」


 猿の顔に一層深く皺を寄せ、ネフィーザは笑った。


「では、行くか」


 ベリガルは少し身体を傾けた。


「こっちはいつでもいいよ、モンスターさん」


 待ちきれない様子で、フラリルは「来い」とジェスチャーを送る。


「うががががああああああああああ!」


 戦闘は唐突に始まった。

 ダールギィンがいきなり飛び出したのだ。


 それを合図にフラリルも飛び出す。

 大竜牙を振りかぶり、ダールギィンの脳天に落とした。


 一つ目族モンスターも迎え撃つ。

 鉄塊のような槌を振り回すと、大竜牙にぶち当てた。


 大きな衝撃と音を放つ。


 同時に硬い竜の骨が砕け散っていた。


 フラリルの目が見開く。

 一瞬、硬直した。


 その隙を何か本能めいたもので捉える。

 ダールギィンは槌を今度は振り上げた。


 直撃――。


 フラリルは鉄の天井に叩きつけられる。

 かなりの硬度を持つ鉄板が、ぐにゃりと飴細工のように曲がった。


「くふっ」


 フラリルの上品な口から鮮血が飛び散る。


「ルニア!」


 巨人の攻撃を諸に受けたフラリルの方を向く。

 少女の言葉は悲鳴じみていた。


「姉妹の心配をしている場合か!」


 ルニアの前に、魔竜ベリガルがいた。

 巨体の割りに素早い。


 だが、ルニアほどではない。


 突風のように打ち出された三叉槍を余裕で回避する。


「そんなもの当たらない」

「速いな。だが……」


「足を止めてしまえば、どうということはない」


 暗闇から声が響く。

 ベリガルの背後――魔猿ネフィーザの手が光っていた。


「魔法――!」


 気が付いた時には遅い。


 事が起こったのは、ルニアの足元だった。

 自分の影から手が伸びる。

 細い足首をがっしりと掴んだ。


「こんなもの!」


 力任せに引きちぎろうとするが、ビクともしない。


「無駄だ。私の魔法は呪いに近い。お前は、そこから1歩も動けないぞ」

「呪い?」

「驚いている場合ではないぞ」


 再びベリガルの三叉槍が襲いかかってくる。


 ルニアは足を止めたまま腰を切り、あるいは剣でさばく。

 だが、腰を入れられないぶん、切れも力もない。


 白い肌が、竜の鱗が徐々に削られていく。

 鉄の床に鮮血が飛び散っていった。


「どうした、小娘! さっきの威勢はどこへいった?」

「くっ――!」


 ルニアの顔が苦痛に歪む。


「もういいぞ、ベリガル」


 魔龍の後ろから声が聞こえる。

 ベリガルがさっと退いた瞬間、ネフィーザの手から魔法が放たれた。


雷魔破砲(サンダー・ベクター)


 しわがれた魔猿の手から、極大の雷が放たれる。


 もはやそれは巨大なエネルギーの塊だった。


「――――ッ!」


 小さな少女が光に飲み込まれる。

 甲高い野獣の咆哮のような轟音が、鉄の籠に反響した。


 光が収縮する。


 そこに少女の姿は欠片も存在しなかった。


「消し飛んだか」


 しゅるるる、とネフィーザは息を吐く。


「竜の子供と聞き、少々楽しみにしていたのだがな」


 ベリガルも槍を収めた。


 一方、ダールギィンの方も終わろうとしていた。

 天井に叩きつけられ、落下したフラリルの前に立つ。

 その細腕を乱暴に掴み、釣り上げた。


 大きく口を開ける。

 今まさに食べようとしていた。竜の子を。


「待て。ダールギィン」

「うが?」

「見ているのだろう、ガーデリアル」


 ベリガルは顔を上げ、言葉を放った。


「とっとと降伏しろ。お前の命と引き替えに、娘を助けてやろう」


 …………。


「どうした? 答えろ、ガーデリアル」

『その必要はない』

「なんだと?」


 我の冷然とした回答に、ベリガルは顔を歪めた。


『聞こえなかったのか、三下モンスターども。その必要はないと言ったのだ』

「ふん。娘とて使い捨てか。……冷酷だな、邪竜よ」

『そうではない』

「は?」

『我が娘に手助けなど必要はない』


「その通りだよ、パパ」


 だらんと釣り上げられていたフラリルの目に光が宿る。


 んしょ、と可愛い気合いを放った。

 すると、フラリルの背中から翼が飛び出す。


 我が娘は羽ばたきを繰り返す。

 ダールギィンの手首を掴むと、そのまま持ち上げてしまった。


 さらにそこから回転を加える。

 古代にあったという技――「ジャイアントスィング」だ。


「うががあああああ!」

「いけぇえええええ!」


 ダールギィンの悲鳴と、フラリルの気勢が重なる。


 竜巻のように風を吹き上げた状態から、フラリルはダールギィンの手首を離した。


 いかな巨人の一つ目族とはいえ、遠心力には逆らえない。

 高速で打ち出され、鉄の壁に突き刺さった。


 想像も出来ない衝撃に、ダールギィンの大きな眼が回る。

 白目を向き、昏倒したところをフラリルは、さらに追い打ちをかけた。


「とどめです!」


 小さな拳を振るう。

 その拳打は、一つ目族の命ともいえる目玉をあっさりと破壊した。


 緑色の鮮血が舞う。


「ああ。びしょびしょです。ママにしかられるかも」


 モンスターの血に染まった己の姿を嘆く。


「ダールギィン!」


 あっという間の出来事に、ベリガルもネフィーザもフォローを忘れ、見入ってしまった。

 気が付けば、仲間が1匹やられていた。


 そんな2匹の間に、声が聞こえる。


「仲間の心配をしてていいの?」


 奇しくもそれは、先ほどベリガルがかけた言葉と同じだった。


「「貴様ッ!」」


 振り返る。


 ベリガルと同じ蝙蝠の羽。

 だが、魔龍よりも雄々しく、そして優雅に羽ばたいていた。


 銀髪の少女が2匹の間に立っていた。

 やや白い肌が焦げ付いているが、表情は平然としている。

 いや、むしろどこか眠たげだ。


 その姿は我が妻ニーアにどんどん似てきているように見える。


「くそ!」


 反撃しようとベリガルが槍を構えた。

 瞬間、その太い幹のような腕はなくなっていた。


 目の前には、剣を払った姿勢のルニア。


 ハッと気付いた。

 慌てて背後を見る。


 中空で円を描き、自分の両手がぽとりと落ちていた。


 痛みが落雷のようにベリガルを襲う。


「うぎゃああああああああ!!」


 見えなかった。

 まるで剣閃が見えなかったのだ。


「お前、今まで本気を――」

「うるさい」


 剣が刺さる。

 さも以前からそうであったかのように魔龍の喉元を貫いていた。


 ベリガルの目がぐるんと回る。

 ルニアの前に、倒れ臥した。


「ひ、ひぃいいいいいいい!!」


 ルニアは翻る。

 ネフィーザが背中を向け、逃走していた。


「逃がさない」


 冷たい瞳を向ける。

 やおら胸を広げ、大きく息を吸い込んだ。


「お返し」


 パッと閃光が走る。


 ルニアが大きく開けた口から極大の雷光が放たれた。


 炎息――ではなく雷息。


 名前はともかく、光は巨猿を包んだ。

 空気を焼き、モンスターを焼き、その悲鳴すら焼き殺す。


 残ったのは、魔猿の影だけだった。


『見事だ! 2人とも』


 我が娘を褒め称えるのだった。


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