第31話 山に眠りし者
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タフターン山で我は、ミーニク村のハーバラドから報告を聞いていた。
村の者を王都に潜入させ、その動向を観察させていたのだ。
いわゆる諜報活動というものだが、大したことはさせていない。
ただ旅費を渡し、王都観光をさせてきたに過ぎない。
どうせ王都では戦の話で持ちきりなのだろうと思ったが、案の定だった。
その編成は、下町で遊ぶ子供すら知っているレベルだったからだ。
ハーバラドを下がらせ、我は大魔導とデュークを呼んだ。
今や彼らは、我が配下の二大巨頭だ。
我は2匹の現状を確認した。
なまえ :さまよえる騎士
Lv :60(MAX)
ちから :S ぼうぎょ :S+
ちりょく :A すばやさ :C
きようさ :B うん :B
けいけんち:867 ませき :S×2 A×6
なまえ :大魔導
Lv :40(MAX)
ちから :A- ぼうぎょ :S-
ちりょく :S+ すばやさ :A+
きようさ :S うん :A-
けいけんち:1150 ませき :S×3 A×8
訓練所を作らせたのは、正解だった。
共にレベルMAXまで強化し、少し名の知れた冒険者程度では、太刀打ちできないレベルにまで到達した。
我はデュークを騎行部隊の隊長に任じ、大魔導には魔導部隊を与えた。
そこに我が妻ニーアと古代の兵器で武装化したリンのゴブリン部隊、クリーチャーとドワーフの工兵部隊が続く。それが今、我の現有戦力だった。
妻ニーアは我の背中の上でゴロゴロしている。
相変わらず可愛い。
大魔導とデュークが到達するまで、ペロペロし合いながら遊んでいた。
「失礼します。主」
「大魔導、ここに」
「うむ。よく来たな」
我は首を上げた。
全身鎧姿のデュークと、フードを目深に被った大魔導を迎える。
「どのような用件でしょうか?」
「先ほど、村の者が来ていたようですが……」
「カステラッド王国のほぼ全部隊が攻めてくる」
蒼竜騎士団1500騎。
破竜騎士団2000騎。
炎竜騎士団700騎
そして大竜騎士団1700騎。
さらに王直属の兵団を合わせ、1万から1万2千の大軍が、タフターン山にやってくることになる。
「大竜騎士団は団長が先の戦いで戦死したのでは?」
「どうやら再編成されたらしい。……王都に残っていた残りの部隊を、元副団長が昇格し、率いているようだ」
なんとも忌々しい。
我を手こずらせてくれた団長が鍛えた部隊がまだ残っていたのだ。
さらに、また我に刃を向けようとしている。
あまりこうは思いたくないが、運命じみたものを感じていた。
「恐れることはありません、主」
デュークは勇ましく声を上げ、1歩進み出た。
「たとえ、相手がカステラッド王国の全軍であろうと、我が騎行部隊が必ずや蹴散らしてみせましょう」
「相変わらず勇ましいな、デューク。では、尋ねよう」
「なんなりと」
「我らの弱点とはなんだ?」
デュークはぴくりと身体を振るわせた。
突然出てきた――主の弱気を感じさせる――質問に、兜の奥の光を細めた。
「恐れながら主。我らには弱点など――」
「弱点はある」
といったのは、我の背中でゴロゴロしていたニーアだった。
「ニーア様まで……。そんな弱気な」
「現実として存在する。それに向き合わなければ、強くなれないよ、デューク」
「ぬぅ……。私もまだまだ修行不足のようです」
肩(当て)を落とした。
我は尋ねる。
「ニーアはわかるのか?」
「わかる。ニーアはガーディの妻。何でも知ってる。この前来た冒険者の胸をずっと千里眼で見ていたことも知ってる」
「な! ちょ! 誤解だ、ニーア!」
「ホント?」
オフホワイトの瞳で見つめられる。
怖ひ……。
「む、無論だ。我はそなたの胸しか見えておらん」
「わかったー。以後、そんなことに千里眼を使っちゃダメ」
「うむ。以後、気を付けよう――――はっ!」
ニーアを見つめる。
すごい睨んでいるかと思ったが、涙目だった。
ぎゃあああああ!
泣くな。
泣くでない、ニーア。
そして、自分の服を引っ張り、胸を見る。
「仕方ない。ニーアの胸……魅力ない」
「な、何を言う! ニーアの胸にはニーアの胸にしかない魅力があると思うぞ」
「たとえば……」
「慎ましさというのも時に魅力だ。逆に過剰なのは、時に醜く見えるものだ」
「じゃあ、ガーディはおっぱい小さい女の子が好き?」
う……。
そうはっきり言われるとだな。
我も迷うというか。
確かに、胸の大きい方が……。
「じぃ――――」
だから、そんな瞳の光を消して、見ないでくれ!
我はニーアの殺意に負けた。
「そ、そうだ。ちっぱい胸の方が好きだ」
「良かった。じゃあ、ガーディをもっとスリスリする」
ニーアは我の背中を、全身を使いスリスリする。
おお……。
少々硬いが、肋骨の感触が心地よい。
これはこれでいいかもしれぬ。
「あ、あの……。主、ニーア様。お答えをお聞きしたいのですが」
デュークが申し訳なさそうに我らの会話に割って入った。
我は大きく咳を払いつつ、ニーアに答えるように促す。
彼女は立ち上がって、デュークたちを見下ろしながら答えた。
「数だよ」
そうだ。
単純に数が足りない。
向こうは1万2千。
対して、こっちは工兵部隊を併せて、500にも満たない。
ダンジョンに配置したモンスターは、ほとんど使い捨てみたいなもので、数のうちに入らない。前回のようにスケルトンを呼び出して戦力差を埋める作戦も、今回はうまく行くとは限らなかった。
さすがに1万以上の大軍が、一斉にタフターン山に殺到してくれば、いくら質や武器の能力で勝っていても、押し切られる可能性が出てくる。
それに――モンスターや我の加護を受けた巫女とて、体力が無尽蔵ではない。持久戦となれば、こちらが圧倒的に不利になる。
むろん、我はこの1万2千をまともに相手をしようとは考えていない。
いくつか策を練り、すでに下準備を始めている。
それでも1万とはいわないが、初撃を受け止められるだけの戦力として、半分の5千は欲しいところだった。
現状、この戦力差を埋める方法はない。
ともかく、その現実は部隊長たちには知っていてほしかった。
「失礼しやす」
現れたのは、鉄の面を被った小男だ。
鉄の面には小さなガラスがはめ込まれていて、そこからギラリと光った目が見えるようになっている。
手と足は猿のように毛むくじゃらだが、太い筋肉が搭載されていた。
我が召喚したドワーフだ。
「どうした、オイディル?」
我が初期に召喚したドワーフで、工兵部隊を任せている。
名前は我が付けた。
ちなみに部隊長の中で唯一大魔導だけが名前がないが、ヤツは「人間と似たようなことはしたくない」と拒否をされている。
ドワーフは常に地下で生きているため、光に弱い。
スケルトンのように消滅することはないが、面を被って、目を保護しないと立っていられないほどだという。
「へぇ……。鉱床のことで報告を」
「おお! 見つかったか」
「いえ。申し訳ありやせんが、この山にはめぼしい鉱床はありやせんでした」
「そうか」
「主には申し訳ねぇ」
オイディルは頭を下げる。
デュークの次ぐらいに忠実で、職人気質なところを我には気に入っていた。
「ただ……」
「ただなんだ? 妙なものを見つけまして……」
「妙なもの?」
我は目を細めた。
オイディルは、我の目で確かめてほしいと懇願した。
我は動けぬので千里眼を飛ばす。
ニーアを含めて他の者は、オイディルとともにタフターン山の地下へと潜っていった。
広い空間に出る。
大魔導が光の魔法を掲げた。
「おお……」
どよめきが起こる。
現れたのは、大きな骨だった。
一体何の骨か何かわからないが、ともかく大きい。
肋骨らしきものだけで、100人ぐらいの人間がすっぽりと収まりそうだ。
「いきなり出てきましてね。骨なんか土をいじってれば出てくるもんですが、これだけ大きなものは、おいらも初めてです」
あちこちにオイディルと似たような容姿のドワーフが、骨を獲りだしていた。
すると、ニーアが骨に近づく。
スンスン、と鼻を利かせた。
やおら顔を上げると、言った。
「これ……。竜だよ」
ギョッと皆が驚いた。
「間違いない」
我が妻は頷く。
ニーアは筋金入りの竜マニアだ。
その彼女が言うのだ。
おそらく間違いないだろう。
そもそもこれ程の大きさのモンスターなど、竜以外にそうそういない。
くくく……。
ふふふふ…………。
あっっはっはははははははは!!!」
我は突如、大笑した。
大気が震える。
タフターン山の岩肌がビリビリと動き、ニーアたちがいる空洞の鍾乳石が1本落ちた。
我は赤い眼を光らせる。
鼻息を吹いた。
「勝ったぞ……」
我は宣言した。
一応、完結までノンストップでお送りする予定です。
ある程度、書き溜めが出来ているので、毎日20時頃に更新しようと思ってます。
(※ 何か諸事情で更新出来ない場合は、出来るだけ事前に連絡いたします)
今後ともよろしくお願いします。




