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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
外伝 ある日の冒険者たち……

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外伝 ある日の冒険者たち……(タフターン山編)

お待たせしました。


 翌朝――。


 今日からダンジョンを攻略だ。

 昨晩、村の宿で夜を明かしたシィータたちは、準備を整え出立した。


 宿を出ると、シィータは大きく伸びをする。


「いや、気持ちいい朝だな、2人とも。見ろよ、この青い空。タフターン山の頂上があんなにくっきり見えるぜ」


 絶景絶景、と青空をバックにそびえるタフターン山を眺める。


 そこにのそりと乙女が2人現れる。

 アマンダとリーリンの顔は、今日の大空のように青くなっていた。


「シィータ、元気すぎ……」

「よく平気でいられるわね。無料の朝食もおかわりしてたし」


 アマンダ、続けてリーリンが恨みがましい視線をシィータに向ける。

 2人ともげっそりと少しやせ細っていた。


 竜の巫女から料理を振る舞われた後、3人は村あげての歓迎会にお呼ばれした。

 もちろん、飲み食い無料(タダ)だ。


 さすがに美女の舞い踊りというものはなかったが、振る舞われた酒肴はすべて竜の巫女の手料理とあって、どれも絶品だった。

 3人は調子に乗って飲み食いしまくり、今の状態(ステータス)となったわけである。


 ちなみに3人とも大食らい大酒飲みだが、シィータが底抜けに酒が強い。

 それがむしろ彼の唯一長所といえるのだが――ともかく、3人にはおなじみの光景だった。


 1人元気なシィータは軽やかにターンする。

 へへん、と笑って、仁王立った。


「なんだいなんだい。お天道さんが、俺たちの新たな門出を祝福してくれてるのに、その情けない面はなんだよ、だらしないぞ、2人とも」


 リーリンは眉をひそめる。


「うっさい! だから、あんたと酒は飲みたくないのよ」

「激しく同感……」


 アマンダもうんうんと頷いた。


「そもそも今から私たちはダンジョンに潜るのよ。お天気なんて関係ないでしょ」

「いいだろ。気分だよ。き・ぶ・ん」


 ともかく、3人はタフターン山を登る。

 情報通り、2つの入り口を見つけた。


 村人曰く、おすすめはタフターン山の東の方にある入り口らしい。

 北側はドラゴンに見つかりやすいし、難易度が高いからやめておいた方がいいと聞いた。


「入り口が2つあるっていうのは面白いわね」

「難易度が違うってのもいいよな。Bクラスぐらいになったら入ってみようか」

「やめなさいよ。村の人もいってたでしょ。Aクラス冒険者でも難しいって」

「覗くくらいならいいじゃねぇか」


 シィータとリーリンは元気に口論する。

 アマンダはいつものことだと、息を吐いた。


 東側に周り、入口を見つける。


「構えは普通ね」


 リーリンは呟く。

 まるで昔からそこにあったような穴がぽっかりと開いていた。


 シィータは盾を構え、先行する。

 アマンダ、殿をリーリンが務めた。


「アマンダ! リーリン! 上だ」


 先行するシィータが叫んだ。


 天井にバーラルバッドが垂れ下がり、赤い眼を光らせていた。

 冒険者たちを見つけると、高い声を上げて威嚇する。


 すると、天井から滑空してきた。


「シィータ、魔法でやる!」

「わかった。時間を稼ぐ。リーリン!」

「補助魔法でしょ! わかってるわよ」


 一同は固まり、アマンダを中心にフォーメーションを組む。


 アマンダは陣を描き、リーリンが詠唱前の集中に入った。

 それをシィータが守るように盾を構える。


 飛来してくるバーラルバッドの攻撃を弾いた。

 だが、Eクラスのモンスターとはいえ、数が多い。

 詠唱中のアマンダやリーリンに攻撃がいかないようにするのが、精一杯だった。


「ちょ! リーリン、まだかよ! 痛ッ! いたたたた!!」

「うるさい! 集中できないから黙ってよ」

「黙ってられ――ぎゃあああ! 引っかかれた!」

「シィータ、黙る。それ以上、喋ったらまずシィータからやる」

「お前ら、どっちの味方だ!!」


 ようやくリーリンの魔法が入る。


癒しの風(リンスト・シェル)!」


 緑の光がシィータを包む。

 バーラルバッドに負わされた傷が、徐々に回復を始めた。

 一定時間、小回復する魔法だ。


「よし! これなら!」

「私も手伝うわ!」


 シィータ、リーリンが加わり、襲いかかってくるバーラルバッドを追い払う。


「アマンダ!」

「まだかよ!」

「今、終わった……」



爆刃風(ラスト・ウィード)】!!



 アマンダたちを中心に風が逆巻く。

 圧縮した空気が、鋭い刃となって解き放たれた。


 縦横無尽に撃つ出された風の刃は、バーラルバットに襲いかかる。

 黒い体躯あるいは翼を切り刻んだ。


 奇声を上げながら、モンスターたちは撃墜されていく。

 残骸を見ながら、シィータは呟いた。


「すげぇ……。さすが、アマンダ」

「容赦ないわね」

「行くわよ、2人とも」


 アマンダが歩き出す。


「気合い入ってんな、あいつ」

「精晶石でしょ? 早く獲りたいのよ」


 肩を竦めるリーリン。

 シィータも同意し、エルフの魔法使いの後を追うのだった。




 その後、D級とE級のモンスターに遭遇する一行。


 危なげなく撃退し、魔石を拾っていく。

 どうやらギルドの情報通り、Dクラスの難易度のようだ。

 もうすぐCクラスになれる程の腕を持つ彼らには、比較的易しいダンジョンだった。


 それでも警戒は必要だ。

 フォーメーションを戻し、慎重に洞窟の奥へと進んでいく。


 アマンダは他の2人に警戒を任せつつ、マッピングに勤しんでいた。

 ある程度、ダンジョンをマッピングすると、ギルドがボーナスがもらえるのである。


 ダンジョンの構造を理解しようと、周りを見渡していたアマンダは、視界に収まった光を見て、つと立ち止まる。


「どうしたの、アマンダ」

「あれ……」


 杖で指し示す。


 洞窟の奥から緑の光が漏れ出ていた。


「精晶石じゃない?」


 リーリンが目を輝かせる。


「おい。あんまがっつくなよ。トラップに引っかかるぞ」

「わかってるわよ。チェックお願いね、シィータ」

「やっぱ俺がやんのか」

「男の子でしょ!」


 がっくりと項垂れる戦士の背中を、リーリンが叩いた。


 入念に下見を行い、シィータは頷く。

 どうやらトラップはないようだ。


 3人は精晶石がある部屋に踏み込む。


 目映い緑の光を放つ宝石たちが、冒険者を出迎えた。


「わー。すごーい!」

「おお!」

「こりゃ! 当たりだぜ」


 岩肌が剥き出すように精晶石が輝いていた。

 さすがに潰れてしまった風のダンジョンと比べれば、微々たるものだが、これだけでもかなりの額になるはずだ。


 3人はあらかじめ用意していた採掘道具を使い、慎重に精晶石を岩肌から削っていく。


「さすがに全部といかないわね」

「カモフラージュの魔法とか使ってよ。フロアごと隠しておこうぜ」

「激しく同意」

「シィータもたまには良いこというわね」

「たまにかよ!」


 カモフラージュをかけ、一旦精晶石の部屋から出る。


「どうする? このまま帰る?」

「まだ暴れ足りないし。経験点稼ぎしようぜ」

「――ってシィータは言ってるけど、アマンダどうする?」

「激しく同意とはいわないが、異論はない」


 マッピングもあまり進んでいない。

 この先どうなっているかも気になった。


 3人は奥へと進むことに決める。


 洞窟を登っていった。

 すると、思いも寄らない敵が現れる。


 全身を鎧で覆ったモンスターは、フルフェイスの兜の奥から赤い光を発した。


「さまよえる騎士!」

「おいおい! いきなりC級モンスターかよ」


 すると、騎士は大笑する。


「ふはははは……。よく来たな、冒険者たちよ」

「喋ったぞ!」

「ここのダンジョンのボスね」


 ダンジョンには、ダンジョンマスターの他にも、ダンジョンのモンスターを束ねるようなボスといわれるモンスターが存在する。


 たいてい基本能力よりもレベルアップしたモンスターで、傾向として知能が高い。


「そ、その通りだ。たわし――じゃなかった――私はここのダンジョンのボスだ」

「やっぱりボスだな」

「なんかぎこちないボスね……」

「激しく同意」

「う、うるさい! 主の命令がなければ……あ、いえ……すいません。はい。言われた通りやります」


 いきなりさまよえる騎士は何もない空間に向かって、ペコペコし始めた。


「なんか謝ってるわよ」

「ボスって感じじゃないな」

「激しく同意」


 くるりとさまよえる騎士は、シィータたちに向き直る。

 盾と剣を構えた。


「行くぞ! 冒険者ども!!」


 問答無用で襲いかかってきた。


 思いっきり飛び上がると、3人に向かって剣を振り上げ落下してくる。


「散開!」


 シィータは溜まらず叫ぶ。


 本来、彼が初撃を受け、モンスターの足を止め、リーリンが援護、アマンダが魔法で攻撃するのが、このパーティーの必勝法だ。


 だが、さまよえる騎士のような重量級を受け止めることなど不可能に等しい。


 ――てか、やりたくねぇ!


 本心を心の中でしまいながら、シィータは走る。

 リーリンもアマンダも下がった。


 落雷のような音が突き刺さる。


 さまよえる騎士の剣が、地面にめり込んだ。

 なんとか初撃は回避出来た。


 か――――に見えた。


 刺さった剣を中心にして、地面にヒビが入る。

 あっという間に、網の目のようになると、ぽっかりと穴が開いた。


「うわぁ!」

「ちょっと!」

「むぅ!」


 突然、3人は中空に放り出される。


 気がついた時には、地面に落下していた。





 …………。


 暗闇の中、シィータは目を覚ます。


 何があったのか冷静に考え、仲間のことを思い出した。


「シィータ! アマンダ!」


 返事はない。


「ちっくしょう! はぐれたか」


 シィータは道具袋をさする。

 ともかく暗闇から脱出しなければならない。

 火はないかと探ったが、ランプなどの灯火系の道具は、アマンダが持つ魔法袋に突っ込んだままだ。


 どうしようと、頭を掻いた時、シィータはふと頭を上げた。


 シャ――――――――ッ!


「水? 水源か?」


 山の下に川が流れているのだろうか。

 水が流れるような音が聞こえる。


 しかし、川の音にしては弱々しい。


 シィータは暗闇で足を取られながらも、水の音がする方へ近づいていった。


 すると、ぼんやりとした白い光が見える。


 精晶石の明かりとは違った。

 どちらかといえば、光魔法の明かりに近い。


 リーリンたちだろうか。

 水源の音を頼りに集まってきた可能性はある。


 シィータの足取りが速くなる。


 現れたのは小屋だった。

 見たこともない造りの建物だった。

 外壁が見たこともないほど滑らかに出来ている。


 水の音はこの小屋の中からだった。


 不意に香水の匂いが、シィータの鼻を突く。

 貴族の女性が使うようなフローラルな香りだ。


 こんなところで水浴びでもしているのだろうか。


 だとすれば、こんなダンジョンで水浴びをする人間など、2人しか考えられない。


 シィータは自分の姿を見た。

 泥だらけだ。

 自分はこんな状態だというのに、仲間2人は呑気に水浴びをしている。


 シィータのこめかみに青筋が浮かんだ。


 心に浮かんだ憤怒をいさめることなく、小屋の中へと踏み込む。


 脱衣所だろうか。

 編み細工の駕籠に、アマンダが来ている魔法士のマントらしきものが、入っていた。


 横を見ると、ガラス扉がある。


 曇りガラスになっていて、女性のシルエットが浮かび、扉の隙間からは湯気が出ていた。


 シィータは勢いのままドアを開け放つ。


「おい! なにやってんだよ、あま――――」


 戦士の青年の声が止まる。


 その目を大きく見開いていた。

 一杯に広げられた瞳に映っていたのは、濡れそぼった女性の肢体。


 だが、アマンダでも、リーリンでもない。


 知らない少女(ヽヽ)が、天井から雨のように降ってくるお湯に打たれていた。


 ぐっしょりと濡れた長い髪。

 綺麗に浮き出た鎖骨と、白亜の彫像を思い起こさせるような白い肌。

 やや未成熟な胸の上を、大きな滴が滑り落ち、下腹部へと消えて行く。


 赤い瞳はぼんやりとシィータを見つめていた。


 シィータは呆気に取られながら、思わず尋ねる。


「えっと……。君、だれ?」


 すると、少女はむっと表情を曇らせた。


「あ。いや、ちょっと俺は、そのぉ……」

「排除……」

「へっ?」


 シィータの脇を抜け、少女は風のように湯浴みをしていた部屋から出る。


 駕籠に入った荷物に手を突っ込むと、鉄の筒をシィータに向けた。


 ――なんかヤバイ!?


 それが武器なのかどうかすらわからない。

 だが、何か物騒な物であることは直感的にわかった。


「ご、ごめんなさい!」


 シィータは慌てて小屋から飛び出す。


 予想通り、獰猛な音が背後で聞こえた。

 近くにあった岩が吹き飛ぶ。


 幸運にも攻撃が外れたおかげで、シィータはその場から逃げることが出来た。




 タフターン山入口では、アマンダとリーリンが口論していた。


 アマンダが咄嗟に魔法を使って、落下を回避したのだ。

 リーリンを助けることが出来たが、シィータはそのまま落ちてしまった。


 魔法士と治療師だけでダンジョンに残るのは危険だ。

 2人は一旦入り口へと戻ったのだが、突然リーリンがシィータを探しに行くと言い始めた。


「どいて、アマンダ! シィータを探さなくちゃ!」

「落ち着いて、リーリン。私だって助けに行きたいけど、今のままじゃ二重遭難になる。ギルドに事情を説明して、冒険者の応援を――」

「それじゃあ、遅すぎるわ! お願い、シィータを助けに行かせて!!」


 食い下がる。

 ついにリーリンの目に、涙が浮かんだ。


 アマンダはリーリンの気持ちを知っている。

 だが、リーリンはア(ヽヽヽヽヽヽ)マンダの気持(ヽヽヽヽヽヽ)ちを知らない(ヽヽヽヽヽヽ)


 リーリンの気持ちは痛いほどわかる。

 でも、友人を2人も失う結果だけは、避けたかった。

 大事な人を2人も失うなど、想像するだけで苦痛になる。


 つとその時、入り口の方から声が聞こえた。


「わああああああああああああああ!!」


 叫び声はこちらに向かってくる。

 聞き覚えのある声に、アマンダとリーリンは顔を見合わせた。


 ダンジョンの奥から軽装の戦士が走ってくる。


 2人の横を駆け抜けていった。


「「シィータ!」」


 叫ぶと、シィータの足が止まる。

 キュッと音を立てると、その場でターンした。


「おお! 2人も無事だったのか!?」

「無事だったのかじゃないわよ! すっごい心配したんだから」

「激しく同意!」


 涙を堪えるリーリンの横で、アマンダは頷いた。

 俯く治療師の仲間の頭を、シィータはポンポンと叩く。


「わりぃわりぃ! 許せよ」

「許さないわよ! 絶対許さないんだから!!」


 リーリンは目を腫らしながら、叫んだ。


 横目で見ながら、アマンダは大きく息を吐く。

 やがてシィータに尋ねた。


「シィータ。ところで、なんで走ってきた?」

「大方モンスターの尻尾でもふんだんでしょ? あんた、ドジだから」

「そうだ。聞いてくれよ。実はさ。ダンジョンの奥で女の子に会ってさ」


「「あ゛!?」」


「しかもさ。湯浴みの真っ最中だったんだ」


「「あ゛あ゛!?」」


「いやー。びっくりしたぜ、その子がさ。――って、なんで2人ともそんな険悪ムードなの?」

「別にぃ……」

「激しく同意」

「ちょ! 俺は嘘なんていってないぞ! ただ事実をありのまま……」

「それはようございましたね。女の子の裸を見られて」

「違う! 違うんだ! 信じてくれ、リーリン」

「ふん!」

「ホントなんだって……」

「サイテーです、シィータ」

「ぎゃああああ! アマンダまで」

「行きましょう! アマンダ」

「激しく同意」

「ちょっと待って! 俺、足を怪我してて。ちょ! 回復してくれよ。回復ぷりぃぃぃぃっずうぅうう!!」


 シィータの叫び声は、夕闇を迎えたタフターン山にこだますのだった。


 以来、3人の噂が噂を呼び、タフターン山とミーニク村に冒険者たちが訪れるようになった。


 ただダンジョンの中で湯浴み中の女の子を見たという噂は、その後都市伝説のように語り継がれたという。



 ◆◆◆



 タフターン山頂。


 ここにもシィータに対して、並々ならぬ怒りを燃やすものがいた。


「おのれ! あの戦士! 生かして返すものか!! 我が妻の裸を見るなど」


 ガーデリアルは長い首を動かしながら、炎を放つ。


 その巨体を抑えていたのは、多くのモンスターたちだ。

 中には、さまよえる鎧のデュークや大魔導の姿がある。


「主! 落ち着いてください! あの冒険者たちに良いイメージを持ってもらうために、今日まで創意工夫を凝らしたのではありませんか。ここお怒りをお鎮めください!」

「そうです。村まで巻き込んでの歓迎作戦が、ご破算になりますぞ」


 デュークと大魔導は必死に抑える。


 そもそもシャワー室をダンジョン内に作るのを許したのは、ガーデリアルだった。

 そのため余計に許せないのだ。


「おのれ! 今度、来た時は覚えておれよ、人間。我が炎で塵1つ残さず消し去ってくれるわああああああああああああ!!」


 竜の嘶きは、一晩中続いたという。



〈外伝 了〉


次回からいよいよ終章です。

カステラッド王国との全面戦争となりますので、お楽しみに。


新章の創作にあたり、少し充電期間をおきたいと思います。

次回更新は9月1日になります。

再開時には活動報告&Twitterなどで告知させていただきますので、ご確認ください。


ここまで感想・評価などをいただけると励みなります。

今後ともよろしくお願いします。

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