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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
外伝 ある日の冒険者たち……

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外伝 ある日の冒険者たち……(ミーニク村編)

ちょっと遅れました。

「ここがミーニク村か……」


 冒険者シィータ(男 21歳 独身 職業:戦士)は顔を上げた。


 見窄らしい――如何にも田舎の村という風情の村の入口。

 そこにある看板には『ようこそ! ミーニク村へ!!』と真新しい文字で書かれていた。


「思った通り、田舎の村ね」


 仲間のアマンダ(雌性 18歳 エルフ 職業:魔法士)もまた看板を見上げながら呟く。

 その横で3人目の仲間であるリーリン(女 20歳 シィータに片想い 職業:治療士)は、笑顔だった。


「あら。私はこういう風情の村は好きよ」

「はいはい。王都暮らしが長かった都会の娘はいうことは違うわね」

「ちょ! 何度も言ってるでしょ。王都暮らしっていっても、私が住んでいたのは下町で。そもそもアマンダだって、いいところの――」

「おいおい。村に到着早々、喧嘩は止めようぜ。……ほら、とりあえず宿の確保だ」

「誰か来た」


 アマンダは指をさす。


 すると、ぞろぞろと村人数人がこちらにやってくる。

 ハーバラドと名乗った男は、ミーニク村の村長だと自己紹介した。


「あなた方はミーニク村に来たはじめての冒険者です。ようこそ。ミーニク村へ」


 看板に書いてあった言葉を、そのまま伝える。

 すると、村娘(といっても、少々お年を召しているが)から、花輪を送られ、首にかけられた。


「どうぞ。宿はこちらです」


 言われるまま3人は、村の奥へと案内された。




 村の宿屋を勧められると、3人はひとまず部屋に入った。

 ベッドに腰掛ける。


「結構、いいベッドじゃない」

「部屋はリフォームしてあるし。悪くはない」

「冒険者第一号ってことで、宿屋代はタダだし。早く来て正解だったな」


 シィータは満足げだった。


 3人は話し合い、今後の予定を考える。

 まだ陽は高い。

 今すぐにでもダンジョンに行くことができるが、村で準備してからでも遅くないと判断した。


 宿を出て、村長からもらった村のマップを見ながら、ひとまず道具屋を探す。

 件の店はすぐに見つかった。

 宿の隣の隣だったからだ。

 これではマップはいらない。


 3人はマップを畳みながら、苦笑した。


 道具屋は他の街とは建物の構えは違う。

 おそらく昔は民芸品か何かを売っていたのだろう。


 街と比べると、商品は若干高い。

 ダンジョンの目の前と考えれば、安いかもしれないが、なかなか小憎い価格設定だ。


「いらっしゃい。ああ……。あんたらが、ここに来た冒険者だね。今日はサービスしておくよ」

「どれぐらい?」


 尋ねたのはリーリンだ。

 パーティーの大蔵大臣である彼女は、値段にはうるさい。


「2割り引きでどうだい?」


 それだと街より少し安くなる。


「回復薬10個と、あと解毒剤も付けて!」

「あいよ!」


 商品を取りに、主人は奥へと引っ込んだ。


「おいおい。いくら何でも買いすぎなんじゃ? 今からダンジョン潜るんだぜ。あんまり荷物は持っていかない方が……」

「激しく同意」


 シィータとアマンダが抗議するが、彼女は突っぱねた。


「何を言っているのよ。道具市の日(バーゲン)はまだ先よ。少しでも安いうちに買っておかなくちゃ!」


 シィータとアマンダは顔を見合わせる。

 リーリンは自他共に認める大蔵大臣ではあるのだが、安いという言葉には弱かった。




 道具が入った買い物袋をシィータに押しつけ、村の探索は続く。


「結構、色々あるわね。武器屋に防具屋……。あ、研ぎ屋もある」

「マジで! 俺、そろそろ剣が……」

「ちょっと! アマンダ、あれ!」


 2人は店先に並べられた光り輝くものを見つける。


「「宝石だ!」」

「ちょ待って! 俺の話、聞いて」


 シィータの言葉など無視して、女性陣は宝石屋に走る。

 ショーケースに並べられた紺碧の石に目を光らせた。


「これ……。もしかして……」

「おや。その格好、冒険者の人かい?」


 女店主が店先に出てくる。


「これ……。もしかして精晶石ですか?」

「ああ。そうだよ。よくわかったね」

「この子、魔力を帯びた鉱石には目がないんです。ね? アマンダ?」

「他人に対して、物欲の権化みたいな紹介をしないでください、シィータ。私は魔法士です。研究対象として、魔法素材が好きなだけです」

「さっき宝石と思って、目を輝かせてたじゃねぇか」


 後ろでシィータが肩を竦める。


 野次を無視して、アマンダは店主に尋ねた。


「この石はどこで?」

「この先のダンジョンさ」

「タフターン山で精晶石が見つかったんですか?」


 あそこに鉱床があるなんて初めて聞いた。


「最近見つかったんだよ。あんたたち、それを狙ってきたんじゃないのかい?」


「知りませんでした。……竜の恩恵がもらえるって、ギルドから聞いて。でも、竜の恩恵ってピンとこなかったんですけど……。まあ、新しいダンジョンなら他の冒険者が来る前に手をつけておこうかなって」


 リーリンは首を振る。


 だが、精晶石が取れるなら別だ。

 これは獲って金にすれば、しばらくは遊んで暮らせることが出来る。


 ――シィータと私の結婚資金とか……。


「おい。どうした、リーリン。行くぞ」


 目の前にシィータの顔があった。

 リーリンの顔がぼひゅんっと音を立て、真っ赤になる。


 思わず突き飛ばしてしまった。


「お前、何をするんだよ」


 シィータは落とした回復薬を拾い集めながら言った。


「あ、あんたが、前に出てくるから!」

「はあ?」

「知らない!」


 リーリンは、そのままくるりと背を向け行ってしまった。




「なんか腹ヘラねぇ?」


 シィータはお腹をさすりながら、項垂れる。

 そういえば、村についてから何も食べていなかった。


 すると、アマンダは鼻をくんくんと動かす。

 ピンとエルフ特有の長い耳を立てた。


「あっちからいい匂いがする」

「アマンダって、エルフなのにたまに獣人並の嗅覚をもつよ――痛ッ!」


 ぽこりと杖で、シィータの頭を叩く。


「うるさいです。早く行きますよ」


 足早にアマンダは歩き出す。

 どうやら、彼女もお腹が空いていたらしい。




 村の中央に出た。


 比較的広い広場には、屋台が出ている。

 肉を焼く匂い、魚を焼く匂い、野菜を煮込む匂い。

 四方からいい匂いが漂ってくる。


「ああ~~。どれも美味そうだな」

「あれにしましょう」


 アマンダが杖で示したのは、小さな獣人の女の子が切り盛りしている屋台だった。


 まだ10歳ぐらいだろうか。

 その割にはしっかりとしていて、特に手先の動きがプロ並だ。


 焼いた石の上で、あっという間に野菜を切ったかと思えば、隣で焼いていた生地の上に載せていく。

 たっぷりの野菜を載せ終えると、今度は肉を薄くスライスし、野菜の上に置いていった。


「う~ん。いい匂いね」

「たぶん、あの生地の匂い。すりつぶした昆布を入れてるんだと思う」

「もしかして、冒険者さんたちですか?」


 焼き時間の合間に、少女は話しかけてきた。


「ええ? さっきついたところ。偉いわね、お嬢ちゃん。おうちの手伝い?」

「いえ。ここはフランのお店です」

「フランっていうの……。そう偉いわね」


 おそらく保護者のお店を手伝っているのだろう。

 この手さばきも、親の料理の仕方を見て、覚えたのかもしれない。


 ――それにしても、極まってるわね……。


 リーリンは少女の手さばきを見ながら、感心した。


 頃合いを見計らって、少女は裏返し始める。

 じゅぅ、という音とともに、勢いよく湯気が立ちのぼる。

 肉の焼ける匂いが、鼻を直撃した。


「うまそう……」


 シィータは涎を拭う。


 フランという少女は、ヘラと包丁代わりに使っているナイフで丁寧に裏返していく。生地の上に大量の野菜や肉が載っているのに、全く飛び散らない。


「見たこともない食べ物ね」

「古代のお料理なんですよ」

「へぇ……。よくそんなの知ってるわね」

「えっと……。フランのパパとママが知ってて」

「料理の学者なのかな。フランちゃんのご両親って」

「そ、そんなとこです。あ。焼き上がりましたよ」


 フランはまたひっくり返す。

 そこに甘辛いソースと、魚のすり粉をかけた。


「はい。どうぞ」


 フランは人数分の皿をシィータたちに差し出した。


「え? 私たち、まだ注文してないわよ」

「サービスです。ミーニク村にようこそ」


 フランは笑う。

 無垢な少女の笑顔だけで、心を洗われそうだ。


 1人健気に店先に立つ少女を見ながら、リーリンは財布の紐を緩めるか否かを迷う。


「じゃあ、いただきます」

「私もいだたく」


 遠慮するリーリンを尻目に、シィータとアマンダは差し出された皿を取る。

 ソースで手をベトベトにしながら、かぶりついた。


「うんめぇ!」

「おいしい!」


 2人は悲鳴ともいえるような声で絶叫した。


「リーリンも食べてみろよ」

「もう……。わかったわよ」

「はい。リーリンさんも、どうぞ」

「ごめんね。明日、また来るから。その時はお代を出すわ」

「ありがとうございます」


 また花のように笑う。


 明日は倍掛けで払おうと、リーリンは心に決めた。


 皿を取り、熱々の生地を掴んで一気に頬張った。



 おいしい……。



 涙が出そうなぐらい美味しかった。


 郷愁にかられたわけでも、健気な少女の背景に感動したわけではない。

 ただ単純に、料理の美味さに感動した。


 シャキッとした鋭さを残した野菜の甘み。

 サクッとした生地からほのかに漂う魚介の旨味。

 そしてピリッとしたソースの辛み。


 その三重奏が、口の中で絶妙なハーモニーを奏でている。


 だが、何よりも主役は肉だ。


 カリッと香ばしく焼かれた肉から、質の良い肉汁が荒波のように押し寄せてくる。


 味の四重奏。

 しかし、どれも喧嘩することなく、本来の味を損なうことなく、舌を刺激する。


 気が付けば、自分の手の平よりも大きな料理がなくなっていた。


「どうですか?」

「う、うん。美味しかった。美味しかったよ、フランちゃん」

「ありがとうございます。……ああ、あとその料理って能力に+補正がかかりますから、後で確認しておいてくださいね」


 そういわれて、3人は早速冒険者カードを確認する。


「マジかよ!」


 シィータのカードを持った手が震えていた。


「こんなことって今まで――――あっ」


 アマンダが何か気付き、顔を上げた。

 聞いたことがある。

 前にウロルの街で能力が向上する料理を振る舞ってくれた冒険者がいると。


「まさか……。あなた、竜の巫女?」

「はい。申し遅れました。竜の巫女の1人フランと申します」


 よろしくお願いします、とフランはペコリと頭を下げるのだった。


明日はダンジョン編をお送りします。

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