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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第2章 竜を守る乙女たち

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第30話 邪竜は多忙を極める。

 ミーニク村の中央に村人が集まっていた。


 今度はなんだろう、と不安げな顔をしている。


『ミーニク村のものご苦労である』


 我の念話が村に轟く。

 すると、村人は膝を付き、口々に我に賛辞を送った。


『お前達に仕事を頼みたい』

「どういう仕事でしょうか、ガーデリアル様」


 村長となったハーバラドが顔を上げた。


『うむ。先日、我はウロルの北方にあるダンジョンを破壊した。これでこの辺りの冒険者は、我がダンジョンへと来ることになるだろう』

「おお!」

「冒険者がとうとう……」

「忙しくなるぞ」


 どこか暗い村人の顔が一気に輝いた。

 にわかに騒がしくなる。


 そんな中、ハーバラドだけが冷静だった。


「それが仕事なのでしょうか? ご心配なく。すでに冒険者を受け入れる準備は出来ています」

『それは重畳……。だが、お主に頼みたいのはそこではない」

「では――」

『うむ。そのダンジョンには大量の精晶石が存在する』

「精晶石?」

『大量の魔力を帯びた石だ。売れば魔石以上に高値で売れるだろう』

「もしや、その精晶石をとってきてほしい、と?」

『察しがいいな、ハーバラド。その通りだ』


 風のダンジョンにある精晶石の数は膨大だ。


 元々あの地層にあったものなのだろう。

 どうやら、風魔人は精晶石を餌に冒険者を呼び込んでいたようだ。


 まだまだ我のダンジョンは未完成である。

 あまりこう言いたくないが、冒険者が魅力に感じる財宝がない。


 今あるものといえば……。


 聖剣と聖剣級の名剣が、1振りずつ。

 そして我の加護がついてくるというものだ。


 どれも魅力的ではあるが、少し高嶺の花がすぎるように思う。


 その点、精晶石は気軽に持って帰ることが出来る。

 うまくダンジョンを整理できれば、クラスに関係なく冒険者を呼ぶことも可能だ。


 これはニーアたちが、ウロルのギルドで持ち帰った情報だが、冒険者でもっとも多いのはDクラスだという。次にF、G、Eと続く。

 実は、冒険者の7割がDクラス以下なのだ。


 どうやら冒険者として食っていけるラインというものがあるらしく、それがDクラスなのだという。

 故に、冒険者が志す者は、まずDクラスを目指すのだそうだ。


 ダンジョンを作る側として、気をつけなければならないことは、あまり強いダンジョンを作ってはいけないということだろう。


 出来れば、CもしくはD判定されるダンジョンが望ましい。


 その点においても、彼の風魔人はよくやっていた。

 多くの精晶石がありながら、ダンジョンの最強モンスターがC+クラスの牛鬼だったのも、ダンジョン自体の難易度を上げないためだろう。


 忌々しいことだが、我々はあの魔人のダンジョン作りを参考にした方が良いようだ。


 だが、王国側と事を構えている我々が、レベルを下げるというわけにはいかない。

 国1つ相手にしても、びくともしない強固なダンジョンが必須だ。


 幸いなことに、我々には2つのルートがある。


 入り口をふさいだ観光用のルートを復活させ、低レベルダンジョンへと作り替える。それが今、我が思い浮かべている構想だった。


 そのためには、とにかく魔力と宝物が必要だ。


 そういう意味で、風のダンジョンに大量の精晶石があるのは、僥倖だった。


「危険ではありませんか。いくらその――ジンというダンジョンマスターがいなくなったとはいえ、村人がダンジョンに潜るのは」


 ハーバラドが珍しく反論する。


 新村長の意見は村人達の共感を呼んだらしい。

 ほとんどのものが頷いていた。


「それにダンジョンマスターがいなくなったとはいえ、冒険者と鉢合わせになれば、奪われるかもしれません」

『もっともだな。だが、心配するな。ダンジョンの通常の出入り口は塞いでおる』


 やったのはリンとニーアだ。

 我も千里眼で確認している。


 さらにニーアはウロルへ行って、ダンジョンが壊されたと報告している。


 ギルドの登録書から風のダンジョンの名前がなくなれば、冒険者が近づいてくることもないだろう。


 村人たちには、別の入り口を使ってもらい、精晶石を獲ってもらうつもりだ。


『ダンジョンの中のモンスターもすでに駆逐している。一応、不安ならこやつをつけよう』


 村の者たちの前に現れたのは、クリーチャーだった。


 動く鉄の塊に、村人達はどよめく。


「なんだ? こいつ?」

「なんか弱そう」

「どことなく可愛いかも」

「大丈夫なのかね」


 首を傾げる。


 すると、クリーチャーは気に触ったのか。

 本体についた目を赤く光らせた。


 ビィン!


 赤い光が近くにあった岩を溶かす。


「「「「おお!」」」」


 村人は歓声を上げた。


 不安を口にしていた村人達は、一斉に口を噤んだ。

 竜信仰の厚い老人たちは、タフターンの方を向いて拝んだ。


 ハーバラドもまた山の方を向く。


「安全なのはわかりました。しかし、ここからミーニク村まで距離があります。皆、それぞれ仕事がありますし。冒険者を受け入れる準備のこともあります」

『わかっておる。だから、タダとはいわん。獲った功績の2割をやろう。それがお前たちの賃金代わりだ』

「に、2割ですか?」


 ハーバラドが驚くのも無理はない。


 一応、村人に声をかけるに当たって、我は鉱山夫たちの給料を調べていた。

 その相場は獲った功績の1割以下だ。

 ひどいところでは、5分というところもあるらしい。


 それと比べてみても、2割というのは破格だった。


『受けるか?』

「受けます。いや、受けさせてください!」


 ハーバラドの態度がころりと変わる。

 村の者はすでにお祭り騒ぎだ。

 もう大金を手にしたかのように舞い上がっている。


『ただし、そこまでの旅費や採掘に使う道具代は自腹だぞ』

「かまいません。いいだろう? みんな」


 うんうん、と頷いた。


 調子のいいものが「宴会だ!」と声を上げる。

 早速、その準備が始まった。


 相変わらず、人間とはお祭り好きのようである。




「ガーディ。良かったの?」


 尋ねたのは我が妻ニーアだった。


 1度リンと一緒にダンジョンへ行った後は、日がな1日我の背中でゴロゴロしている。


 まるで猫のようだが、これがまた愛らしい。

 我も1日中、妻を愛でることができるからな。

 出来れば、ずっと我の背中にいてほしいものだ。


「何がだ、ニーア?」

「クリーチャーは貴重。村人の護衛につけるのは少しもったいない」

「確かにな。だが、適役が他にいない。大魔導やデュークの容姿では、村人を恐れさせるだけだし、フランは護衛には向いてない」

「ニーアは?」

「お主が我が前からいなくなるのは、もうこりごりだ」


 我は顎でニーアの頬をさする。

 愛撫にキャッキャッと子供のように喜んだ。


 以上の理由から、消去法でクリーチャーが選ばれたというわけだ。

 人によっては不気味に見えるかもしれないが、可愛いと思うものもいる。


 攻撃防御に優れ、何より従順だ。


 遠隔地の警護として、これほどの逸材は他にいないだろう。


 とりあえず、精晶石の件はひとまず片付いた。

 他にもやるべきことがある。


 王国軍の侵攻は、明日にでもあるかもしれないのだ。


 ここが我の正念場だった。


 我は念話で大魔導に話しかける。

 部下は図書室で、次の魔法の開発を行っていた。


「ご用でしょうか、主よ」

『大魔導よ。お主、地質には詳しいか?』

「恐れながら、主。魔導のこと以外は、門外漢でして。……ただ一応、用件はお聞かせください」

『風のダンジョンに大量の精晶石があったように、我のダンジョンにも掘れば金になるような鉱石はないかと思ってな』

「なるほど。良案かと思います」


 大魔導は少し考えてから、返事した。


「では、ドワーフを召喚なさってはいかがでしょうか?」

『なるほど。土の民か。確かにあやつらなら、鉱床を掘り当てるかもしれないな』

「ただドワーフを召喚するには……」

『わかっておる。お主と同じく部屋が必要だ』


 大魔導の召喚に図書室が必要だったように、ドワーフを呼び出すためには“工房”が必要になる。


 ドワーフは土の民であり、そして鉄の民でもある。


 金属を精錬できる工場が必要なのだ。


『工房は時間がかかるな』

「クリーチャーを増やすしかないかと。もうすぐ精晶石が手に入りますし」

『わかっておる。大魔導、大義であった』

「ありがとうございます」


 我は念話を切る。

 ふーと息を吐いた。


 精晶石の発掘に、ドワーフ召喚。

 その前に工房、そしてクリーチャーの増援。


 大忙しだな。


「ガーディ、頑張れ!」


 我の背中の上で、ニーアは大きく手を振りながらエールを送る。


 時々見えるおへそが、とても愛らしかった。

 やはり我が妻は最高だ。


 妻の激励に我は振るい立つ。


 次なる指示を与えていった。


次話で2章が終了です。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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