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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第2章 竜を守る乙女たち

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第27話 邪竜は退く!?

なんとか今日中に間に合いました。

 爆風が洞窟の中で逆巻いた。

 身体の軽いニーアとフランは吹き飛ばされそうになる。


 それを支えたのはデュークだった。


 2人は鎧の後ろに隠れると、改めて風魔人ジンと名乗るダンジョンマスターを見上げた。


「大きいです」

「うん。でも、ガーディの方がかっこいい」


 口々に感想をいう。


 ジンは眉根を上げた。


「はあ? あんなロートル竜より俺様の方がカッコいいに決まってるだろ」

「主を知っているのか」


 デュークは剣を構えたまま尋ねた。


「遠目で確認ぐらいはな。でも、いつも寝たままだったな。おかげで俺様は、この辺りで勢力を拡大することが出来た……」


『我が眠っている方が都合が良かったわけだ』


「そうだ、ガーデリアル。あんたが聖剣の守護なんて古くさい任務をやっている方が、俺様として助かったんだけどな。全く……。なんでよそ様のダンジョンにちょっかい出そうなんて考えたのかねぇ」


『知れたことだ、風魔人よ。我が妻と娘とともに生きるためよ』


「人間の巫女を妻と娘扱いかよ。何を勘違いしてるのかねぇ。俺様たちにとって、巫女なんて使い捨ての盾だろう。なくなりゃ補充すればいい」

「そんな使い捨てなんて!」


 珍しく声を荒げたのは、フランだった。


「じゃあ、あなたにとってキヌカさんやキヌアさんはなんだったんですか?」

「契約者さ。俺様を守ってくれる代わりに力を与える。古代の言葉でいやぁ、ギブアンドテイクってヤツだ。それ以上でもそれ以下でもねぇよ」


「あなたはキヌカさんたちが死んで悲しくないんですか?」


「そのキヌカを殺したのは、あんたらだろ?」

「――――ッ!」


 フランは言葉に詰まる。

 頭の耳を前に倒し、肩を落とした。


「無感情というわけじゃねぇ。折角、育てた巫女を殺されたんだ。怒ってはいる。俺様のものを壊されたんだ(ヽヽヽヽヽヽ)からな(ヽヽヽ)


『お前にとって、巫女もモンスターもダンジョンの部品なのだな』

「そうだぜ。こいつらは消耗品! なくなれば、またかっさらえばいい。俺様の風でな」


 ジンは大きく手を広げた。


 空間を獣魔のように縦横する風が、さらに強くなる。

 重いデュークはともかく、ニーアとフランは立ってるのもやっとだった。


「だが、その前に報復だ。巫女をやられたんだ。俺様も巫女を()らなきゃフェアじゃねぇ。ガーデリアル、あんたの巫女を殺らせてもらうぞ!」

『我が巫女も、我が配下も柔ではない』

「主のいうとおりだ。やれるものなら、やってみろ!」

「キヌカさんを侮辱したこと、許せません!」

「倒す!」


 デュークは剣を。

 フランはナイフを。

 ニーアは銃を構えた。


 同時に、敵ダンジョンマスターを睨み付ける。


 まさにむき出しの殺意を向けられ、ジンはなおも笑みを浮かべた。


「おおよ! やってみるならやってみろよ!!」


 ジンは大きく手を薙いだ。

 三爪の風の刃が3人を襲う。


 3人は分散し、初撃をかわす。


 デュークは前へ。

 残りの岩陰へと走る。


「でやあああああああああああああああ!!」


 デュークは疾駆する。

 暴風の中でも強い推進力を持って、ジンに斬りかかった。


「援護する」


 ニーアは岩陰から顔を出す。


 M1887(ソードオフ)とFN57を構えて、撃ちまくった。

 そのすべてはジンが作り出す風の壁に阻まれる。


 だが、ジンをその場に釘付けにした。


 デュークが飛び上がる。

 キルゾーンに踏み込んだ。


 しかし、ジンは笑っている。


「そんな攻撃で俺様に近づけるかよ!!」


 風圧がさらに上がる。


 全身鎧というデュークをあっさりと吹き飛ばした。

 壁に叩きつけられる。


「デューク!」

「大丈夫です、ニーアさん」


 剣を杖代わりに、さまよえる騎士はかろうじて立ち上がる。


「は! お前らがあのお昼寝ドラゴンにどんな風に鍛えられているのか知らないけどよ。俺様は風の魔人だぜ。お前らには指1本触れることはできないさ」

「たあああああああああああ!!」


 余裕綽々のジンに勇敢に斬りかかったのはフランだった。

 岩場の死角を利用し、背後に回り込んだのだ。


「見える!」


 フランの目には見えていた。


 風の流れ。

 ジンに届くための刃の軌道が。


 しかし――――!


「しゃらくせぇ!!」


 1歩遅い。


 その軌道はジンを目の前にして消える。

 風の鞭が小さな身体を捕らえた。


 吹き飛ばされたフランは、宙を舞う。


「フラン様!!」


 デュークは暴風の中を突っ切る。

 ギリギリ落下点にたどり付くと、なんとかフランを受け止めた。


 喜びのつかの間、ジンは再び風の刃を振るう。


 デュークはフランを抱きしめると、自ら盾になった。

 が、その甲斐空しく風圧に耐えきれなくなった2人は、吹き飛ばされる。


 意識こそあるが、デュークの鎧の一部があちこち飛ばされ、黒い瘴気のようなガスが漏れ出ていた。


 ニーアは岩陰からジンを見上げる。


「強い……」


 珍しく相手を讃える言葉を使った。


 対してジンは面白くないような顔をしている。

 むしろ、怒っていた。


「こんなもんかよ。竜の巫女つってもよ。あーあ。つまんねぇ。キヌカもこんなヤツらに負けたのか」


 やれやれ、と首を振る。


 その時、デュークの腕から這い出たフランが顔を上げた。

 額から血を流し、獣人の少女は激昂する。


「キヌカさんを悪くいわないでください」


「うるせぇぞ。犬っころ。そもそもお前らよ。こんなんで俺様を倒そうと思ったのかよ。俺様はダンジョンマスターだぞ。お前らんところのヒキニートドラゴン様と同じぐらいエラい存在なんだ。ちょっと人間やそんじょそこらのモンスターに勝ったからって、調子くれてんじゃねぇぞ」


 悔しいが、ジンの言うとおりだ。


 ダンジョンマスター“風魔人”のジンの強さは本物だった。

 今のニーア達ではさすがに荷が重い。


 我は決断した。


『ニーア、そしてデューク。フラン、よく聞くがよい。――退け』

「ガーディ! わかってる?」


 ニーアは睨んだ。


 明後日の方向へと向けられているかと思いきや、その視線は確実にタフターン山頂上にいる我へと向けられていた。


 ニーアの言いたいことはわかる。


 ここでダンジョンマスターを叩けば、我にはかなりの利得がある。

 まず近場にあるライバルダンジョンをつぶせること。

 このダンジョンをつぶせば、少なくともウロルの冒険者たちは、我がダンジョンに来ることになるだろう。


 さらに風のダンジョンにある大量の精晶石をゲットできる。

 召喚の媒介にも大金に代えることも可能な石は、とても魅力的だ。


 しかし、退けば元の木阿弥である。


 巫女やモンスターに対してドライな感情を持つジンのことだ。

 すぐに巫女を勧誘し、精晶石を使ってすぐに大量のモンスターを召喚するだろう。


 時間をおけば、攻略が難しくなる。

 ニーアの「わかってる?」という問いには、そのすべては凝縮されていた。


 我は一拍おいて、妻に答えた。


『大魔導よ』


 我が呼びかけると、突如大魔導は風が荒れ狂うフロアに転移してきた。


 ローブをたなびかせつつも、しっかりと地に足を付けている。

 目を細めたのは、ジンだった。


「ほほう……。大魔導――A+クラスのモンスターを俺にぶつけようってのか」

「…………」

「案としては悪くねぇ。しみったれた巫女と亡霊騎士を相手にするよりかは、百倍楽しめるだろう。……それでも俺様には届かねぇがな」


 ジンは風の刃をぶつける。


 大魔導は呪文を唱えた。

 風を操り、刃を打ち消す。

 ジンは忌々しげに眉根を寄せた。


 一方、大魔導の方がくるりと風魔人に背を向ける。


「ニーア様。主のご命令です」

「え? 大魔導が戦うんじゃ」

「退きます」

「ダ――――」


 大魔導はさっと手を振った。


 ニーア、フラン、デュークの身体が光に包まれる。

 そしてジンの目の前で、2人と2匹は消えるのだった。




「ダメ!」


 ニーアの声が大きく響いた。

 外――と思ったが、違う。


 転送された先は、まだダンジョンの中だった。


「ここって……」


 同じく気がついたフランも、周りを見渡す。

 デュークもまた顔を上げた。


「先ほどまで我々が戦っていたフロアですな」


 その通りだ。


 大量の精晶石とジンがいたフロアの手前。

 ニーアたちが多くのモンスターに囲まれたフロアだった。


 すでにモンスターの気配はない。


 代わりにあったのは、夥しいほどの血とその臭いだった。


「主よ、撤退するのではなかったのですか?」

『……撤退ではない。我は退けといったのだ』

「え?」

『戦闘は続行……。ここでジンを迎え討ち、ヤツを倒すぞ』

「ガーディ!」

『不服か、我が妻よ』

「不服じゃない! あいつ、倒す!」

『それでこそ我が妻だ。……さて、反撃といこうか我が精鋭たちよ』


 口角を上げる。


 風の魔人よ。


 お昼寝ドラゴンの力――とくと味合うがいい。


明日もこの時間になるかもです。

よろしくお願いします。

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