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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第2章 竜を守る乙女たち

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第25話 大魔導、圧倒!

大魔王ではありません。大魔導です。

「だ、大魔導だと……」


 キヌカは後退する。

 突如、洞窟に現れたモンスターを見て、唇を震わせた。


「A+クラスのモンスターだと! どうやったら、そんな――――」

「それがあなたの主と、我が主の違いでしょう」


 大魔導は風のダンジョンの巫女を睨む。

 居並ぶモンスターたちを見て、息を吐いた。


「CやBの雑魚モンスターばかり……。そんな場所でお山の大将気取りですか、巫女よ。ダンジョンの巫女の質も落ちたものです。おっと……。ニーア様やフラン様は別ですよ」


 敵が目の前におるのに、相変わらずの軽口だ。


 だが、逆に我には心強い。


 纏う空気も、この場の誰よりも大ボス感を感じさせる。


「大魔導さん、来てくれたんですね」

「“さん”は必要ありません、フラン様。どうぞ私のことは大魔導と呼び捨て下さい」


 気障に一礼する。

 そのモンスターに命令したのは、ニーアだった。


「大魔導。モンスターの無力化して。巫女はニーアがやる」

「ニーア様。相変わらず勇ましいですな。さすがは我が主がお認めになられた伴侶。仰せに従いましょう」

『我からも命ずる。大魔導よ。蹂躙せよ――」

「かしこまりました。我が主」


 大魔導は杖の柄の先で、強く地面を叩く。


 雰囲気が変わった。

 戦闘モードになったのだ。

 敏感に察したのは、仲間の方ではなく、敵モンスターだった。


 先ほどまで勢いよく歌っていたセイレスが黙っている。

 よく見れば、その唇が震えていた。


「何びびってんだい! この雑魚モンスターども! とっとと歌うんだよ!!」


 キヌカは檄を飛ばす。


 セイレスたちは皆で顔を見合わせた後、大きく息を吸い込んだ。


 だが、その一瞬前――。


 大魔導は呪文を唱えた。


「呪え! 悪理の覇王44番目のユダスよ。貴君の盤上の使徒。鏡骨を前に!」



 鏡理の呪いリフレクション・カース



「あ――――――――」


 セイレスが歌い出した途端、その口から血が漏れた。


 1匹だけではない。


 声を上げようとしたセイレスが、喉を押さえのたうち回った。


「なに……? 何が起こってるんだい?」

 突然、苦しみだしたモンスターに、風の巫女であるキヌカは、ただただ慌てふためくしかなかった。


 その彼女へ向かい、大魔導は1歩踏み出す。


「そんなに驚くことではない。魔法に反応して、魂を食う呪いを放っただけだ」

「呪いだと!」


 大魔導は、その名前から魔法の専門家であると決めつけられがちだが、呪術にも通じている。


 魔法が神や精霊から力をもらうのに対し、呪術は悪魔や魔神から力をもらう御技だ。その2つを使いこなすのは、上級の冒険者とて難しい。

 大魔導がA+モンスターと位置づけられる最大の要因だった。


 セイレスはもはや使いものにならない。

 魂を呪いに食われ、ただ息をするだけの骸となっていた。


「大魔導、すごい」

「うう……。でも、ちょっと怖い」

「ありがとうございます、巫女様。ご心配なく。巫女様方には決して向けませんので」

『当たり前だ』

「はい。主……。さてまだやりますか、風の巫女よ」

「当たり前だ! うちはセイレスだけじゃねぇ」


 キヌカが背にする通路の奥から大きな影が立ち上る。


 のそりと姿を現したのは、オークだった。

 通常のオークよりも大きい。


「牛鬼ですな」


 大魔導の指摘通りだった。


 本来オークの頭はどちらかといえば、猪に近い。

 しかし、大魔導たちの前に現れたのは、牛の頭をしていた。


 我は千里眼で敵の能力を確認する。



 なまえ  :牛鬼

 Lv   :6

 ちから  :A   ぼうぎょ :C+

 ちりょく :D   すばやさ :C

 きようさ :D   うん   :B

 けいけんち:199 ませき  :B×1 C×5



 ほう。


 力がAか。

 なかなかのパワータイプのモンスターのようだ。


 それが18体。切り札を切ってきたらしい。


 個々の能力は大魔導が圧倒しているが、数が気になる。

 少々荷が重いかも知れない。


 ニーアは能力の結果を聞いて、大魔導の前にでる。


「大魔導……。下がって。あの牛鬼はニーアたちがやる」

「おや。お約束したはずですよ。私はモンスター。巫女様は敵の巫女を」

「大魔導さんと相性が悪いです」

「フラン様。私のことは“大魔導”と……。ご心配なく何の問題もありません」

「強がりをいうなよ、大魔導! 行け! 牛鬼! 抹殺しろ!」


 巫女の命令に牛鬼が奮起する。

 鼻息荒く、まさに猛牛のように突進してきた。

 手に持った戦斧が鈍く光る。


 戦斧を振り下ろされようと瞬間、大魔導は唱えた。


「炎の純精霊イフリルよ。其が帯びし炎刃の太刀。我が前より出で、眼前の敵をなぎ払え!」



 炎刃・鳳雀(フレイム・グレイド)



 手で空を切る。


 瞬間、牛鬼の五体を襲ったのは、炎の刃だった。

 1番前を走ってたモンスターが、蝋のように溶ける。


 18体いた牛鬼は、一撃で半分以下にまで減った。


『ぐふふふ……。圧倒的ではないか』


 千里眼で戦況を確認しながら、我は笑いを抑えられない。


 相手がC+クラスとはいえ、ここまで大魔導が圧倒するとは思ってもみなかった。

 図書室を設置し、残った魔宝石をつぎ込んだだけはある。


 残りの牛鬼はすっかり戦いていた。


 先ほどまでの勢いはなく、戦斧を持ったまま立ちすくんでいる。


「チッ!」


 舌打ちをしたのはキヌカだった。

 ニーアたちに背を向け、奥へと向かう。


「逃げた」

「ニーア様、フラン様。ここは私が――。お2人は巫女を追って下さい」

「任せた!」

「大魔導さん! 頑張ってください」

「だから、私のことは――――」


 大魔導の台詞を最後まで聞かず、ニーアとフランは後を追った。




 狭い一本道を進んでいく。

 広いフロアに出た。


「ふわぁあ」


 思わずフランの口から歓声が漏れる。


 視界に広がっていたのは、精霊石で出来た巨大な柱だった。

 目が眩むような宝石の柱が、何本も建ち並んでいる。

 紺碧の樹海に迷い込んだかのようだ。


 キヌカの姿はない。


 そもそも柱がブラインドになり、視界が悪かった。


『気をつけよ、ニーア。フラン』


 我は声を掛ける。

 依然として、千里眼は2人を介してしか見ることは出来ない。

 よって我もキヌカの位置を確認できずにいた。


「フラン……。わかる」


 ニーアに促され、フランは耳そして鼻の順に相手の痕跡を探る。

 やがて獣人の少女は首を振った。


「ごめんなさい。ここの空気……。見た目以上に活発に動いていて」


 ニーアのマントと、フランの毛が揺れていた。

 洞窟でありながら、かすかに大気が動いている。


 音と臭いが分散し、フランの五感を惑わしていた。


「もう少し前に出よう」

「はい――」


 フロアの中央に向かって数歩歩く。


 瞬間、影が広がった。

 キヌカが、2振りの短刀を振り上げる。


『ニーア! 後ろだ!』


 念話で飛ばした。


 ニーアは超反応する。


 M1887(ソードオフ)では遅いと思ったのだろう。

 FN57をマントの中から速射する。


 キヌカは短刀で弾丸を弾き落とした。


 カウンターは未遂に終わったが、キヌカの足が止まる。


 ニーアはマントの中でM1887(ソードオフ)に持ち替えた。

 マントをボロボロにしながら、散弾を放つ。


 が、キヌカも黙って見ていたわけじゃない。


 ショットガンの攻撃を読むと、後ろへ下がる。


 速い!


 あっという間に、視界から消えた。


「大丈夫? フラン」

「はい。ありがとうございます」

「――――ッ!」


 振り返った瞬間、ニーアは息を飲む。

 彼女の背後に後退したはずのキヌカが立っていた。


「フラン! 伏せて!」


 ニーアは叫んだ。

 しかし、フランの反応は遅れる。

 ニーアは眉間に皺を寄せ、妹分の首根っこを掴むと、引き倒した。


 今まさに振り下ろされようとしてた二刀を、M1887(ソードオフ)とFN57で止める。


「ほう。やるじゃないか!」

「不可解。さっきまでいたニーアの前にいたあなたが、なんでこっちにいるの」

「奥の手をベラベラと喋る冒険者がこの世界のどこにいるんだい!」


 キヌカは押し込もとする。

 力は向こうが上か。しかもニーアには体重差がある。


「やあ!」


 横合いからフランが切りつけた。

 キヌカは寸前でかわすと、また柱の陰に隠れた。


「待って! キヌカさん」

「フラン、待つ!」

「あひゃあ!」


 ニーアがフランの尻尾を掴むと、フランは奇声を上げた。

 涙目になりながら、姉貴分を睨む。


「ニーアさん……。その尻尾は――」

「ごめん。でも、深追いはよくない」


 我もニーアの考えに賛同した。


 キヌカも巫女だ。

 ニーアやフランのように何か特殊な能力を持っているかもしれない。

 それが一瞬にして、彼女らの背後に回れるような能力なら、深追いは厳禁だった。


「風のダンジョンの巫女なのですから、何か高速で動くとか」

『可能性があるだろうが、我はそれだけではないような気がする』

「ガーディの意見に同意」


 ニーアはこくりと頷いた。

 すると、フランは軽く手を挙げた。


「あの……。フラン、さっき気づいたんですけど」

『なんだ? なんでもいってみるがよい』

「あまり自信はないんですけど……」


 そう断って、フランは耳打ちした。


 ニーアは片眉を上げる。


「ホント?」

「はい。自信はないんですけど」

『ぬぅ。それが本当なら我らの背後を一瞬でついたからくりも説明が付くな』


 我はうなり声を上げる。

 ニーアは頷いた。


「わかった。ニーアが前に出て囮になる」

「そんな! 危険ですよ、ニーアさん」

「大丈夫? ガーディもいい?」

『囮の件はわかった』

「ガーディ様まで……。白状です」


 フランは尻尾をピンと立て、荒々しく振り回した。

 頬を膨らませ、怒っているのだが、どこか愛らしく感じてしまう。


『案ずるな、フラン。もうすぐ援軍が到着する。ニーアはくれぐれも気をつけてな』

「ありがとう、ガーディ」

『うむ』

「あとさっきは嬉しかった」

『さっき?』

「ニーアのことがこの世で一番大事って言った。嬉しかった。とっても」

『当たり前であろう。それよりも、そなたを見捨てるような発言したこと……。すまなかったな』

「いい。結果的にニーアもフランも無事。ありがとう」


 タフターン山の方を向いて、ニーアははにかむように笑顔を送った。


 ああ……。


 早く帰ってきてくれ。

 ペロペロしたい。


 ペロペロしたいんじゃあああああ!


 が、今は戦闘中……。

 我慢だ、ガーデリアル。


 己を戒めた。


 一方、ニーアは走り出す。


「作戦会議は終わりかい!!」


 また予想もしないところから、キヌカが現れた。

 あっさりとニーアの背ろを取る。

 2振りの短刀を振り上げ、今まさにニーアの頸動脈を貫こうとしていた。


「フラン!」


 背後で声を聞きながら、我が妻は叫ぶ。


 キヌカの背後にフランが迫った。

 女冒険者を見事に挟み込む。


 だが、キヌカの表情に表れたのは、歪んだ笑みだった。


 ダマスカスナイフが振り下ろされる一瞬前、フランの背後にキヌカ(ヽヽヽ)が現れた。


 ――キヌカさんが2人……。


 フランは驚く。

 揺さぶられる獣人の感情。


 それをよそに、フランの背後に迫ったキヌカは叫んだ。


「ばぁあか!!」


 舌を唾液でびしょびしょにしながら、恍惚の表情を浮かべる。


 ギラリと短刀を光らせた。



「いや、愚かなのはそっちだ。風の巫女よ」



 野太い声がもう1人のキヌカの向こうで聞こえた。


 身の毛のよだつ殺気に、動きが止まる。

 振り返った瞬間、キヌカに見えたのは、中身のない鎧のモンスターだった。


「ひぎゃあああああああああああああああ!!」


 下品な悲鳴が洞窟内に響き渡った。


 無情にもモンスターが持った剣が、袈裟斬りに振り下ろされる。


 血しぶきがダンジョンに散った。


お気に入りが2000件を越えました。

付けていただいた方ありがとうございます。


この数を倍に出来るよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします!

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