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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第2章 竜を守る乙女たち

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第24話 ダンジョンマスター

24話目にして、ようやく世界の構造に触れる話。

 ニーアは天井にショットガンを撃ち、穴を開ける。


 精霊石がある鉱床に戻ったが、キヌカの姿はすでになかった。


「逃げた?」

『すまんが、わからぬ』

「千里眼で見えないんですか?」


 フランの質問に我は唸る。


 実はダンジョンに入ってからというもの、うまく千里眼で覗けないのだ。


 ニーアとフランは我の加護を受けているので、その視線を介して2人の様子は見ることが出来るのだが、それ以外はさっぱりだった。


『どうする、ニーア。我は一旦退却した方が良いと考えているが』

「それがガーディの命令なら従う。けど、そうでないなら、キヌカを見つけ出したい。フランを泣かせたこと後悔させる」

「ニーアさん……」


 少しジーンと来たフランは涙を拭った。

 我は息を吐く。


『我が妻ならそういうと思って、すでに援軍は送っておる』

「さすが、ガーディ。いーこいーこ」

『うむ。我々はパートナーだ』

「ニーアとガーディは相思相愛。運命共同体」


 ぐっと親指を立てて、ニーアは天へ向かって掲げた。

 横で見ていたフランが羨ましそうに見つめる。


「いいな。フランもそういう人がいたらいいのに」

『フランも我が妻になるか』

「ガーディ! 浮気ダメ()!」

『冗談だ。そなた以上の女子(おなご)はおらん』

「当たり前! ニーアはいい女」

『ならば、フランは我が娘にしよう』

「ガーディ様……。ありがとうございます」

「フランはニーアの娘。ニーアが育てる」


 何故か、えっへんと胸を反らした。

 フランは困ったように苦笑する。


「でも、ニーアさんってどっちかというと……フランのお姉さん?」

「むぅ! フランはニーアの娘なの!」


 ニーアはフランに飛びつき、耳をモフモフする。


 さっきキヌカが触っている時に気になっていたのだろう。

 やわらかい、と良い顔を浮かべ、フランの頭を撫でるのだった。




 2人は鉱床を出て、ダンジョンの奥へと進む。


 薄暗い大きなフロアに出た。


「試練の間みたいですね」

「気をつけて……。何かいる」


 出迎えたのは、無数の赤い光点だった。


 空間全体に広がる。

 やがて目が暗闇になれてくると、2人は唸った。


 我は吠える。


『ビッグラッドか!!』


 一言でいうなら、大きな鼠だ。


 我は千里眼を使い、能力を確認した。



 なまえ  :ビッグラッド

 Lv   :2

 ちから  :F+ ぼうぎょ :G

 ちりょく :G  すばやさ :E

 きようさ :G  うん   :G

 けいけんち:6  ませき  :G×7



 個々の能力はさほどでも無い。

 ゴブリンよりも少し強い程度であろう。


 だが、数が多いというのは、それだけで脅威だ。


 スライムもこれだけ集まれば、高レベル冒険者とて飲み込むかもしれない。

 ……スライム部屋か。今度、一考してみよう。


 ビッグラッドは部屋に入ってきた人間2人をターゲッティングする。


 なんの合図もなしに、一斉に襲いかかってきた。


「フラン!」

「はい。大丈夫です! 自分で何とかします!」


 ニーアは早速、M1887(ソードオフ)を構える。

 フランもまたダマスカスナイフを抜いた。


 迫ってくるビッグラッドを迎え討つ。


 口火を切ったのは、やはりニーアのM1887(ソードオフ)だった。


 散弾銃は、単体の敵よりも複数の相手に真価を発揮する。

 1発の(シェル)で、多くのモンスターの肉体を貫いた。

 面白いぐらい死体の山を積み上げていく。


 フランも奮戦していた。

 ビッグラッドの防御は弱い。

 ダマスカスナイフで、髪を切るかのように大鼠の肉を並べた。


 動きの洗練さはニーアに負けるが、獣人であるフランの潜在能力は計り知れない。


 見てて、びっくりするほどの超反応を見せる時がある。


 フランはレオボルドを倒した時、ナイフの軌跡があらかじめ見えていて、自分はそれをなぞっただけだといっていた。


 竜の料理人(ダイナー)となったことによって、彼女の中に隠されていた能力が覚醒したのかもしれない。


 劣性と思われた戦はあっさりと覆ろうとしていた。


 ニーアはとどめを刺す。

 残しておいた手榴弾をビッグラッドに投げつけた。


 大きな音と大鼠の悲鳴がフロアを揺るがす。

 音に驚いた鼠が撤退していった。


「はあはあ……」

「やった! やりましたよ」


 フランはその場で跳ねる。

 ニーアはM1887(ソードオフ)の銃床こそ握っていたが、フラフラだ。


 スケルトン、さらにビッグラッドとの連戦。

 そしてM1887という新銃の負担は、小さな身体を確実にむしばんでいた。


 やはり撤退すべきか……。


 我がそう決意した時、声が聞こえた。


「思った以上にやるじゃないか」


 聞き覚えのある声に、フラン、遅れてニーアが顔を上げた。


 赤髪の女が口角を歪めて、立っていた。

 禍々しい殺意を隠そうともせず、ダンジョンの奥へと向かう道に塞いでいる。


 キヌカだ。


 さらに衝撃的だったのは、彼女の周りには多くのモンスターがいたことだった。


 先ほどのビッグラッドをはじめ、妖精系モンスターのセイレスやオークが、キヌカの後ろで控えていた。


「あたしの声はあんたたちのダンジョンマスターに聞こえているんだろ?」


 キヌカの問いに、2人は頷く。

 すると、女冒険者は手を広げた。


「ようこそ風のダンジョンへ歓迎するよ、タフターン山の竜ガーデリアル」

『やはり、こやつもダンジョンマスターに加護を受けし者か……』


 我は喉を唸らせた。


 ダンジョンマスターとは、我のような存在のことだ。

 ダンジョンを管理するため、女神に遣わされた神獣。

 その加護を受けし、巫女――それがニーアとフランだ。


 そしてキヌカもまた、このダンジョンマスターに仕える巫女なのだろう。


「その通り。初めましてといっておこうか、ガーデリアル」

『薄々勘づいてはいたが、本当に巫女とはな』

「はは……。竜だけが巫女を選ばれるわけではない。神に選ばれ神獣はこの世界にはたくさんいるんだからね」

『それが多くのダンジョンを管理しているというわけか……』

「ほう。記憶をなくしているという噂は聞いていたけど、眉唾だったのかい?」


 ダンジョンレベルが上がったことによって、我の記憶は確実に蘇りつつある。

 さらに、千里眼によって次第に、世界がどんな状況にあるか理解しつつあった。


 すなわちダンジョン同士の闘争。


 女神は数多くの神獣をこの世に遣わした。

 それは人間の戦争によって不浄となった世界を、浄化するためだ。


 しかし、浄化作業は終わり、神獣だけが残された。


 神獣は生き抜くためダンジョンを作り、人が作りし物、あるいはその命を求めた。

 だが、人間は有限である。

 武器を持つ者はもっと限られる。


 故に、より価値あるダンジョンの探求が始められ、神獣は技術を磨いた。


 それが我が持つ召喚システムだ。


 我は世界の仕組みを忘れていた。

 何故そんなことになっったかはわからない。

 だが、ゆくゆくわかることだろう。


 そんなことよりも、今は目の前の敵だ。


「ガーディ……。どうすればいい?」

『色々と聞きたいことはあるが、やることはシンプルだ。――ニーア』

「うん」

『フラン』

「はい!」

『そやつらを倒せ。このダンジョンを破壊し、この地方の覇権を握るぞ』

「わかったー」

「わかりました!」


 2人は戦闘態勢を取る。

 小さな少女の殺気に、キヌカはただ肩をすくめるだけだった。


「へー。やり合おうってのかい。あんたの主はなかなか血の気が多いね。嫌いじゃないよ」


 ニーアはM1887(ソードオフ)を構えた。

 狙いをキヌカに向ける。


「変わった武器だね」

「ガーディのお腹の武器強い。大人しくした方がいい」

「かもね……。でも、これならどうかな?」


 キヌカはさっと手を挙げた。


 すると、セイレスが歌をうたいはじめる。

 空気が歪むほどの高音が、フロアに反響した。


「く、ぐぐうううう!」

「痛い! 頭が痛いですぅ!」


 2人は耳を塞いで蹲った。


 だが、どれだけ強く手を耳に押し込んでも歌は聞こえる。

 むしろ一層痛みが増した。


 魔法の歌だ。


 耳ではなく、脳に直接響いてくる。

 2人は武器を取り落とした。


 キヌカはゆっくり2人に近づいていく。


「最後のレクチャーだ。巫女はダンジョンの中では、味方の魔法の影響を受けないんだよ」


 膝を曲げ、屈む。

 苦しむニーアとフランを見ながら、口角を歪めた。


 おもむろにショットガンを拾い上げる。


「確かこうだったね」


 見よう見まねで構えをとる。


 戦闘のセンスの高さか。それとも経験豊富ゆえなのか。

 その姿は堂に入っていた。


 銃把に手をかける。


「聞こえているんだろ、ガーデリアル。取引をしよう」

『取引だと?』

「あんたの巫女の命を引き替えに、あんたのところのダンジョンを明け渡しな」

「ダメ! ガーディ、ダメ! そんなことをしたら、ガーディ死んじゃう」

「あんたには聞いてない」


 M1887(ソードオフ)の短い銃身で、ニーアをぶつ。


 小さな少女はあっさり倒れた。


「さあ、どうする? ガーデリアル。あんたの可愛い奥さんが死んじゃうよ」

『風のダンジョンの巫女よ。我の答えはもちろん――』



『断る、だ』



 キヌカの三白眼が広がる。


 銃身を振り回しながら、犬のように吠えた。


「あんたのフィアンセがどうなってもいいっていうのかい? ああ……。そうかい。あんた、この子に飽きたんだろ? だから殺せって」

『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 我は思いっきり念話で吠えた。

 その声は肉声で地下深い洞窟まで轟くほどだった。


『愚か者め。ニーアは最愛の妻だ。1人だった我に――竜である我に初めて愛を語ってくれた女子(おなご)だ。ニーアに代わるものなどこの世にいない! それだけは断言する』

「だったら! もっと大事にしたらどうだい! 引き金を引いたら、あんたの妻の頭は果物みたいに破裂するんだろ。だから――――」

『何度もいわせるな、愚かな風のダンジョンの巫女め。その必要はないといっている。何故なら――――』


 我が言い終える前に、キヌカは顔を上げた。


 洞窟に何か甲高い飛行音が聞こえる。

 すると、発光する物体が、洞窟を貫き、降り立った。


「な――――!」


 キヌカは絶句し、銃を取り落とす。


 他も同様だ。

 目の前に突然現れたモンスターの格の違いを悟り、セイレスたちは歌うのをやめてしまった。


 布のすり切れる音が、洞窟に響き渡る。

 ニーアとフランの方を向いた。


「お待たせしました、ニーア様。フラン様。大魔導、主の命令により参上いたしました」


 フードの奥の光が、怪しく光った。


ダンジョン同士の戦いの様相ですが、これからもイチャイチャするのでよろしくお願いします。

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