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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第2章 竜を守る乙女たち

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第23話 ソードオフ・ダンサー

ちょっと長めです。

読む時は気をつけて下さい。

 キヌカとともにやってきたのは、街の北にあるダンジョンだった。


 我のタフターン山とは違い、地下へと向かう構造になっておる。

 ニーアとフランを連れ、しばらく階下へと降りていった。


 広い空間に出る。


 丁度、試練の間と似たような場所だ。

 キヌカは立ち止まると、2人の少女に振り返った。


「ここならいいだろう」

「「?」」


 2人は顔を見合わせる。

 振り返ったキヌカの顔は穏やかに見えた。

 殺気を臭わせるような雰囲気もない。


「悪かったね。あんたらに辛く当たって。まあ、こっちもこっちなりに事情があったんだ」

「どういうこと?」


 ニーアは尋ねる。

 キヌカは肩を竦めた。


「わからないかい? 今までのは演技さ」

「演技?」

「あんたらも馬鹿だよ。竜の力なんて他の人間に見せつけるなんてさ。知らなかったとはいえ、もう少し慎重になるべきだった」

「よくわからない。事情を話して」

「事情も何も……。あんたら、あのままあたし以外の冒険者なんかと手を組んでたら、すり切れるまで利用されていたよ。あそこにいる冒険者は、そんなヤツばかりさ。だから、あたしが強引にあんたたちを引き取ったってわけ」

「あなたも、その1人かもしれない」


 ニーアの言葉に、キヌカは「ははっ」と笑った。


「そういう警戒心があの場ではほしかったのさ。……じゃ、行こうか」

「どこへ?」

「決まってるだろ? ダンジョン探索さ。あんたらは冒険者になりたくて、ギルドに登録しにきたんだろ?」


 ニーアとフランはもう1度、顔を見合わせる。

 同じタイミングで頷いた。


「ダンジョン探索は、冒険者の醍醐味さ。そのいろはをあたしが教えてやろうというわけさ」

「見返りは?」

「なーに。美味い飯を食わせてもらった――そのお返しだと思ってくれればいい。……ああ。そうだ。1つ聞きたかったんだ。なあ、獣人のお嬢ちゃん」

「な、なんでしょうか?」


 フランはぴくんと尻尾を立てる。


「あの肉に、柑橘系のソースを使ったのはなんでだ? あのままでも十分美味しかったはずだけど」

「えっと……。キヌカさんが、お肉が苦手と聞いて。あっさりと食べられるように工夫しようと思ったんです」

「なるほど。あたしのためか。ありがとよ」

「と、飛んでもないです。フランは、キヌカさんとも仲良くなりたいと思ってて」

「そうかい……。そういってもらえると、嬉しいわね」


 キヌカの頬が少しピンク色になる。

 照れを隠すように翻った。


「さ。行くよ」


 2人を連れ、歩き出した。




 その後、キヌカは本当にダンジョンの歩き方のレクチャーを始めた。


 モンスターの痕跡の見つけ方。

 迷った時の対処法。

 ダンジョンの罠の種類など、2人が我の元にいれば知り得なかった情報がたくさん詰まっていた。


「罠ってのは2種類ある。ダンジョンの初めから仕掛けられていた罠と、冒険者が仕掛けた罠だ」

「冒険者がダンジョンに罠を増やすんですか?」


 すっかり生徒役となったフランは尋ねた。


「よくあることさ。ダンジョンに何度も潜るメリットってなんだと思う?」

「宝物?」

「ダンジョンにしか生息しない魔草と、鉱物」

「ニーアが正解。宝物は1度とったらおしまいだけど、魔草はまた生えてくるし、鉱床さえ見つけることが出来れば、多くの鉱石を拾うことが出来る」

「なるほど」


 フランはポンと手を叩いた。


「ダンジョンの中で良い繁殖場所や鉱床を見つけたりしたら、自分で独り占めしたいと考えるのが冒険者の心理としては普通だ」

「だから、罠を仕掛けるんですね。よくわかりました」

「うん。フランは可愛いねぇ」

「うぅん……。キヌカさん、くすぐったいですぅ」


 キヌカは獣人少女の頭と耳を触り、モフモフする。


 すっかり仲良くなった2人は、さっきからこんな感じだ。

 といっても、キヌカが一方的にフランにスキンシップを仕掛けていた。


「よーし。では、あたしのとっておきの場所を紹介しよう」


 キヌカが向かったのは、ダンジョンの奥深くにある鉱床だった。


 そこにはたくさんの精霊石で埋まっていた。


 何千年と生きた精霊が結晶化したもので、ここでは風の精霊の結晶が取れるのだと、キヌカは説明する。


 風の精霊石は、紺碧色に光を放ち、ダンジョン地下深く空間を、幻想的な色で染め上げていた。


「綺麗……」


 フランの瞳が緑色の光に溢れかえった。

 ニーアもぼーと光景を眺める。


 キヌカは自慢げに胸を反らした。


「どうだい? なかなかの絶景だろ」

「はい」

「竜の巫女様のお近づきの印だ。持てるだけ持って帰るがいい」

「いいんですか? ここはキヌカさんが見つけた鉱床じゃ……」

「あたしが見つけただけど、あたしのものじゃない。ダンジョンはみんなのもの……。それがあたしの持論さ」


 すると、フランはペコリと頭を下げる。


「ごめんなさい、キヌカさん」

「なんだい? 改まって……」

「キヌカさんって凄い怖い人だと思ってました。でも、ホントは優しい人だったんですね」

「よせよせ。世辞を言ったって、何も出てこないよ」


 そう言いながら、キヌカはまたフランの耳をモフモフする。


「ほら。そんな入口に突っ立ってないで。奥の方に言って、よく見るがいい」

「はい! 行こう、ニーアさん」

「フラン、待って!」


 フランは駆け出す。


 緑色の鉱石を横目に、キヌカに言われたまま鉱床の中央に足を運んだ。



 ガタン!



 瞬間、フランの足場が消えた。


 落とし穴だ。


 完全に虚をつかれたフランは、真っ逆様に落ちていく。


「フラン!」


 ニーアは手を伸ばしたが、遅かった。

 背後から影が被る。

 振り返ると、キヌカが立っていた。


 もちろん(ヽヽヽヽ)心配などして(ヽヽヽヽヽヽ)いない(ヽヽヽ)


 その三白眼は愉悦に歪んでいた。


「どうしたんだい? 早くフランを助けないとね」


 すると、キヌカはニーアを背後から蹴った。


 たまらず、ニーアも穴に落下する。

 幸い下には何もなく、さほど高さもない。


 だが、崖がつるつるとしていて、登るのは容易いことではなかった。


「フラン!」


 側で倒れていた妹分を揺り動かす。


 意識はある。


 ひとまずホッとすると、前を見た。


 何が動く。

 いや、動いていた。


 ニーアとフランの目に映ったのは、炎の塊。

 タフターン山でもお馴染みの人魂だった。


 それが穴の底にあった骸骨に憑依する。

 次々にスケルトンが立ち上がった。


 ニーアはキヌカを睨んだ。


「だましたな」

「騙した? はは! あんたも冒険者だろう? 騙し騙されるなんて当たり前さ。あたしも例外ではなかった。それだけさ」

「そんな……。フランは信じたのに」


「フランちゃん。あんたは良い料理人になれるかもしれないが、良い冒険者にはなれないね。モフモフ出来ないのは残念だけど、まあまたあんたみたいな鴨を見つけて、モフることにするさ」


「ひどい……」


「なんとでもいいな。心配するな。あんたらが持ってる金と装備は……。後でゆっくりと回収してやるから。あんたたちは、そのスケルトンの仲間にでもなるがいい。同じ冒険者同士だ。話は弾むだろうさ。精々仲良くな」


 キヌカは軽く手を振り、穴を塞いだ。

 ケラケラ、と悪魔のような笑い声が遠ざかっていく。


 穴の中は闇に包まれる中、ニーアは手早くカンテラをつけた。


 明かりを向ける。

 すっかりスケルトンの軍団に取り囲まれていた。

 悪夢のような光景は、決して夢ではなかった。


「ひどい……。フランは信じてたのに」


 ポロポロと涙したのはフランだった。

 その獣人の少女の手をニーアは握る。


「大丈夫。……あいつが裏切るのはわかってた」

『うむ。ようやく尻尾を出したか』

「が、ガーディ様。まだ念話が届くのですか? あたし、てっきり――」

『すまぬな、フラン。諸事情で会話を控えておった』

「あの尻尾って? キヌカさんは人間ですよね」


 この状況でボケをかますとは……。

 これは度胸がついてきたというべきなのか。


「あの女……。ニーアたちがギルドについてから、ずっと見張ってた」

「え? フランたちをですか?」


 そうだ。


 キヌカという女は、ギルドでニーアを見かけてから、ずっと尾行していた。


 レオボルドを倒した時も、道具屋で買い物をしてた時も、フランが料理を作っている時も、四六時中我々の動向を監視していたのである。


 むろん、我はその様子を千里眼で見ていた。


 それは冒険者として怪しんでいたというよりは、何か別の目的があって監視しているように我には見えた。


「またフランだけ仲間外れですか?」

『今回は、我もニーアに話していない。だが――』

「変な視線には気付いてた。それがあの女だとわかったのは、ついさっき」

「フランだけ気付いてなかったんですね……」

「大丈夫。フランもいつかわかる時が来る。それよりも――」


 目の前のスケルトンたちをどうするかということだ。


 残念ながら、ニーアは閃光音響弾を持っていない。

 明かりと言えば、今手に持っているカンテラぐらいなものだ。


「ガーディ。あれを使っていい?」

『許可する。遠慮なくぶちのめすがいい』

「やったー!」


 ニーアはマントの内側からFN57よりも一回り大きな銃を取りだした。


 これまでの銃とは一線を画す大きな銃口。

 切りつめられた銃身とストックは、小さな少女の身体にはぴったりと合っていた。



 なまえ  :じゅう(M1887ソードオフ仕様)

 いりょく :B+  たいきゅう :D

 しゃてい :F   はんどう  :C+

 れんしゃ :D   とくしゅ  :むげん

 おもさ  :C+



 ニーアは銃を構えた。


 銃の弾は貫通力に優れているが、破砕力となると後塵を拝する。

 スケルトンに対しての相性は弱いが、この銃は違った。


『ニーア、見せつけてやるがよい。そなたの新たな力を』

「わかったー」


 引き金を引く。

 すると、無数の散弾がスケルトンを襲った。

 脆い骨だけの身体を穴だらけにして吹き飛ばす。


 さらにニーアは連発。


 目の前に迫ったスケルトンを一掃した。


「すごい……」


 フランは思わず呟く。


 だが、ニーアの(ヽヽヽヽ)解体ショーここからだった。

 周囲のスケルトンを一掃すると、今度は自ら討って出る。

 群れに突っ込むと、M1887をぶっ放した。


 反動利用し、襲いかかる白い手から逃げると、また一体を破壊する。


 翻るローブ。

 そして硝煙。

 散弾銃を連発しながらの高速移動攻撃と、時折レバーを回す姿は、銃というより一振りの剣に見えた。


 ニーアはまるで踊るように銃を撃ち続ける。

 さながら『剣を持たない剣舞(ソードオフ・ダンサー)』といったところだろう。


 ほう……。


 我は思わず唸った。

 ニーアの次の武器を散弾銃にしたのは、彼女からの要望だった。



 ガーディの側にいて戦えるほどの強い力の銃が欲しい。



 竜を守れるほどの力。

 圧倒的な破壊力。

 さらにニーアが持てる程に軽く、反動力も少ない銃。


 そこで選ばれたのがM1887ソードオフ仕様だった。


 しかし、能力ほど甘いものではない。

 FN57よりも重く、反動も強い。


 それでもニーアは選んだ。


 結果、見せられたのが、今の彼女の戦いだった。


 ここまでとは思わなかった。


 竜の加護を得ているとはいえ、その動きは極まっている。

 いや、もはや彼女にしか出来ない芸当だろう。

 あっという間に、スケルトンは半数になった。


 荒い息を吐く。


 さすがに全滅させるのは難しいか。


『フランよ』

「は、はい」


 じっとニーアの戦いを見ていたフランは、ピョンとジャンプした。


『タフターン山と同じ死霊が出やすいのだろう。だが、我の千里眼で見る限り、その場所しか発生しておらん。その部分だけ、結界の作用が弱める呪具が使用されているはずだ』

「呪具……」


 フランは咄嗟に鼻を利かせた。


 血と腐った臭いの中で、かすかに異臭をかぎ分ける。


 料理人(ダイナー)にとって香りも、大事な要素だ。

 加えて獣人の高い五感が、彼女の嗅覚を鋭敏にさせていた。


「あ。前に貼った符のインクの匂いがします」

『それだ。それを破壊せよ』

「はい」


 フランも飛び出す。


 それを見て、ニーアはフォローに走った。

 妹分に襲いかかるスケルトンを次々と破砕していく。


 やがてフランは岩場に辿り着いた。

 子供のお腹ぐらいの岩を転がす。


 符が張られていた。


「えいっ!」


 ダマスカスナイフを取り出すと、縦に切り裂いた。


 すると、スケルトンが苦しみ始める。


 次々に骸骨が崩れていった。

 人魂が浮き上がると、消滅していった。


 結界の効果が、穴にも及んだのであろう。


「やったー」


 フランはぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 ニーアもふーと息を吐く。


『ご苦労だったな、ニーア、フラン』

「フランは何も……。ニーアさん、凄いです」

「ニーア、凄い?」

『ああ。よくやったな、ニーア』

「てへへへ……」

『戦ってる時のニーアは格好良かった』

「惚れ直した?」

『うむ。今までよりも100倍惚れ直した』

「うーん。早くペロペロして褒めてほしい」


 待ちきれないというように、ニーアは我からもらった鱗を出すとスリスリする。


『帰ってきたら、お主の服が溶けるまで舐めてやろう』

「ガーディのエッチ」


 頬を染める。

 でも、満更でもない様子だ。


「あの……。ガーディ様。フランも……」

『そなたが望むのであれば』

「やったー!」


 フランはまた飛び上がる。


 こちらも待ちきれないというように激しく尻尾を振るのだった。


明日も同じぐらいの時間になると思います。

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