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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第2章 竜を守る乙女たち

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第22話 モンスター解体

 尻尾を振って森の中を駆け回っていたフランの足が止まる。


「あ! そうだ、ニーアさん」


 振り返ると、すでにニーアは立っていた。


 若干足に擦り傷ができていたが、元気そうだ。

 その証拠にVサインを送ってる。


「フラン、やったね」

「に、ニーアさん! 気がついたんですね」

「うん。フラン、ごめん。ニーア、最初から気づいていた」


 ニーアはずっと気を失った振りをしていた。

 それはフランに自信をつけさせるためだ。


 我もそれに気づいていて、フランのサポートに回ったというわけである。


 危険な賭けではあったが、効果はあった。

 これでフランも徐々に我の巫女としての自覚が芽生えるであろう。


「そうだったんですか。ごめんなさい。フランが弱いから」


 俯くフランの顔をニーアは持ち上げた。

 彼女が持つカードを取り上げると、本人に見せつける。



 なまえ  :フラン

 Lv   :6

 じょぶ  :りゅうのだいなー

 ちから  :B  ぼうぎょ :C+

 ちりょく :C+ すばやさ :B

 きようさ :S  うん   :A+

 とくしゅ :致命斬撃

 しゅご  :りゅうのちから



 レベルが5つも上がっていた。


 レオボルドを倒したからだろう。

 軒並み能力値が上がっておるようだ。


 フランの顔が輝いた。


「フランは弱くない。レオボルドを倒した。誇るべき」

「……はい! これからは、ニーアさんに負けないように頑張ります」

「その意気……。ニーアも負けない」


 2人は笑う。


 我はフランがいてくれて良かったと思った。

 ニーアは竜マニアだ。それが理由かどうかはわからぬが、どこか人間に対しては辿々しく感じる時がある。


 だからフランという存在が、彼女を人間にさせているような気がするのだ。


 ニーアもフランの姉であり、母であろうとしているように感じる。

 フランもまたニーアを1つの目標とするだろう。


 我は予感する。


 きっとこの2人は良いコンビになる。

 そう我に確信させてくれただけでも、2人の旅は決して無駄ではなかった。


「ガーディ。ガーディ」


 ニーアの声に我に返った。


『すまん。少しボーとしておった』

「ニーアがいなくて、寂しいのはわかるけど、しっかりしてほしい」

『う、うむ……。正直にいうと、寂しい』

「もう少しだから、ちょっと待って。帰ったら、一杯スリスリして上げる」

『待っておる。我も一杯ペロペロしてやろう』


 早く帰ってきてくれ。

 舌がペロペロしたくて、むずむずしておるわ。


「それよりもガーディ、気づいた」

『うん?』

「レオボルドが魔石になっていない」


 モンスターは通常、命が止まると消滅し、魔石に変わる。

 リンやデュークの能力値を見た時に見える『ませき』という項目がそれだ。


 だが、レオボルドは死んだはすなのに、死体のまま転がっていた。


『ふむ。これも竜の料理人(ダイナー)の能力かもしれんな』


 料理人であるならば、素材を殺しては(ヽヽヽヽ)いけない(ヽヽヽヽ)

 つまり、フランが倒したモンスターは、魔石に変化することなく、その状態を維持するのであろう。


「フラン。すごーい」

「フランが凄いんじゃないです。ガーディ様の恩恵がすごいんですよ」


 それでもフランは顔を真っ赤にして照れていた。


 2人は相談した結果、レオボルドを解体することにした。

 かなりの巨体だったが、フランの手であっという間に解体される。


 赤みの部分は思ったよりもプルンとしていて、美味しそうだ。


 フランはパクリと摘まんだ。


「フラン、生肉危ない」

「ご心配なく。フランたち獣人は生肉を食べ慣れてますから」


 小さい割に、彼女は結構ワイルドだった。

 レオボルドを倒したことにより、度胸がついたのかもしれない。


「うん。ちょっと臭みがありますけど、うまく調理すれば問題ないかもしれません。燻製にしたらいいかもですね」

「この牙も売り物に使えないかな」


 ニーアはレオボルドの牙を見つめる。

 試しにその辺の木に投げると、パンでも裂くように突き刺さった。


「すごい硬いですね」

「売り物になるかもしれないから持って帰ろう」


 フランとニーアは解体したレオボルドの一部を持って、ウロルに戻った。




 2人は街に戻ると、早速道具屋に入った。

 レオボルドの牙を査定してもらうためだ。


 店員は入ってきた小さなお客さんに目を細めた。


「いらっしゃい。お嬢ちゃんたち。生憎とここにはお人形は売ってないよ」

「売りたいものがある」

「玩具なら、玩具屋にいったらどうだい?」


 店員はなかなか取り合ってくれない。


 ニーアは黙って、カウンターの上にレオボルドの牙を置いた。

 見たことのない獣の牙を見て、店員はますます疑念の表情を浮かべる。


 だが、軽く叩いたり、ルーペで覗いたりしていると、目の色が変わった。


「お嬢ちゃん、これはなんだい?」

「レオボルドの牙!」

「レオ――――! なんだってぇええ!?」


 カウンターの向こうで、店員が飛び上がる。


 ニーアの横でフランが、剥いだレオボルドの皮を見せた。

 雄々しいモンスターの顔までついている。


 今度は、店員はひっくり返った。

 足をわなわな震わせながら、起き上がる。


 我は千里眼でその様子を見ながら、密かに笑った。


「お、お父さんが獲ったのかな?」


 先ほどまで仏頂面だった店員が、たちまち営業スマイルを浮かべる。

 上客が来たと思ったのだろう。


「違う。ニーアが獲った。取り扱ってくれないなら、他を当たる。さよなら」

「ちょ、ちょっと待って!!」


 2人が出て行こうとするのを、店員は必死に止めた。

 改めてレオボルドの牙を鑑定する。


「保存状態がいい。時々、抜けた牙を冒険者が拾ってもちこむけど、これはさっきまで付いてたぐらい新品だ」


 それはそうだろう。

 死んで間もないモンスターを解体してもってきたのだからな。


「それでどれくらいになる?」

「カステラッド銀貨で8枚でどうだい?」


 我は念話を飛ばした。


『安い。ニーア、ふっかけよ。どうせそなたらを子供と思って侮っておるだろう』

「ダメ。それじゃあ、安い。他を当たる」

「待った待った。わかった。じゃあ、10枚」

「20枚じゃなきゃ、ダメ」

「じゃあ、16枚! それ以上は……」

「18枚……。それじゃきゃ、他を当たる」

「わかった! 18枚でいいよ」


 ふう、と店員は息を吐いた。

 汗びっしょりだ。

 ギリギリのお値段なのだろう。


 牙は4本ある。

 しめて、カステラッド銀貨72枚。

 人さらい一味を倒した報奨金と合わせて92枚。あと数枚で金貨1枚分になる。


「お嬢ちゃん、商売がうまいね。商売人になった方がいいよ」

「ニーアは商売人にならない」

「じゃあ、冒険者……?」

「違う。ニーアはもう(ヽヽ)お嫁さんだから」


 2人は財布をパンパンにして、ギルドへ向かった。




 ギルドに行くと、例の獣人の受付嬢が迎えてくれた。


 ちなみにペッパーさんというらしい。


 レオボルドを倒してきたと話すと、道具屋の店員と同じく目を剥いた。


「ほ、ホントですか?」

「はい。これが証拠です」

「うひゃああああああ!!」


 フランが顔つきの毛皮を見せる。

 ペッパーは悲鳴を上げて仰け反った。


 その声を聞き、ぞろぞろと冒険者が集まってくる。


 レオボルドの生皮を見て、同じくひっくり返っていた。


 ある者はレオボルドが魔石化していないことに疑問を持つ。

 竜の料理人(ダイナー)について説明すると、感心しきりだった。


 これでますます竜の加護の価値が上がるであろう。


「じゃあ、これが報酬です」


 ペッパーはレオボルドを倒した報酬を渡す。


 カステラッド金貨2枚。

 幌付き荷台と、若い馬を2頭買えるほどの大金だ。


 自然と拍手が起こる。


 ギルドのほとんどの冒険者が、小さな冒険者に最大の賛辞を送っていた。

 しかし、その中にキヌカはいない。


「キヌカはどこ?」

「キヌカさんは、確か近くのダンジョンに仲間と潜ってるはずよ。明日の晩には戻ってくるかも」

「ちょうど良かったです。キヌカさんをびっくりさせようと思って、持ってきたんです」


 フランは袋から例のレオボルドの肉を取り出した。




 ペッパーの言うとおり、キヌカは次の日の晩に戻ってきた。


 やたらと騒がしい夜のギルドに、彼女は目を細める。

 漂ってくる香ばしい匂いに気づくと、鼻をひくつかせた。


『ニーア、戻ってきたようだぞ』


 千里眼でキヌカが帰ってくるのを見張っていた我は、ニーアに伝えた。


 フランも気づき、顔を上げる。

 その手に握った皿には、ピンク色の綺麗な肉が盛られていた。


「こんばんは。キヌカさん」

「あんたたち、戻ってたのかい? 首尾は?」

「はい。これ」


 今度はニーアがレオボルドの毛皮を見せる。

 牙の抜かれた獅子の姿に、キヌカすらたじろがせた。


「レオボルドの生皮かい? どうやってそんな――」

「まあまあ、これも食べて下さい」


 フランはキヌカに肉を食べさせる。


 フォークに刺さった肉を差し出すと、キヌカは前髪を軽く掻き上げ、口を開けた。


 口内に入れた瞬間、スモークの良い匂いが口と鼻を貫く。

 その匂いをさらに感じたくて、キヌカは咀嚼した。


「ふむ!」


 おいしいと言おうとして、うまく言葉に出せなかった。


 それほど美味だった。


 感じたことのない肉の歯ごたえ。

 こりっとしながら、肉の旨みがじわりと口内を侵略していく。


 なのに、後味はスッキリさっぱり。

 おそらく柑橘系のソースをかけているのだろう。

 しつこくなく、肉の脂を嫌うキヌカでも、何枚でも食べれそうな気がした。


 さらに肉への欲求とともに、女冒険者の腹がある者を求める。


「エールだ! エールを飲ませろ!!」


 叫んだ。


 ギルドの机に置かれたエールを見つけると、キヌカは一気に呷る。


「ぷっははあああああああ!! うめぇええ!」


 唸りを上げた。


 最初は暗殺者のように暗い顔をしていたキヌカに、笑顔が灯る。


 フランはニコリと笑った。


「お気に召したようで良かったです」

「もしかして、お嬢ちゃんが作ったのかい?」

「はい……」

「マジかよ……。この肉は?」

「レオボルドの肉です。いかがですか?」

「めちゃくちゃうまい――――あっ!」

「ありがとうございます。まだありますから、どんどん食べて下さいね」


 ギルドはさながら宴会場になっていた。


 交流会と称して、ペッパーが用意した突発的な飲み会は大成功だった。

 その要因はやはりフランの料理だ。

 珍しいレオボルドの肉が食べられると聞いて、多くの冒険者が集まっていた。


「フランの料理で能力値が上がる」


 ニーアが竜の料理人(ダイナー)の力をさりげなくアピールする。


「マジかよ!」

「あ。ホントだ。俺の素早さ+補正されてる」

「俺もだ!」


 口々に声を上げた。


 評判を聞き、ますますみんな肉をがっつく。

 たちまち完売してしまった。


「すげぇなあ、竜の加護」

「俺のとこのパーティに入ってくれないか」

「いや、俺だろ!」

「お前のところは、もう定員オーバーだろ」


 いつしかニーアとフランの争奪戦になった。


 大騒ぎを始める冒険者たちを鎮めたのは、またもキヌカだった。


 2人の前に立つと、睨む。

 ニーアはそれに負けない眼力でキヌカを睨み返した。


「これでニーアたちのことを信じてくれた?」

「いいや。ダメだね」

「おい。キヌカ、いつまでも変な意地を張るなよ」

「うるせぇ! 意地なんて張ってないよ! ただ……。竜の力は信じよう」

「良かったです」

「だが、お前達は信じられねぇ」

「どうすればいい?」


 ニーアが尋ねると、キヌカは口角を歪めた。


「あたしと一緒にダンジョンへ付いてきな。そこで一定の成果を出せれば、信じてやるよ」


 かくして2人は、キヌカとともにダンジョンへ赴くことになった。


レオボルドってイメージとしては虎なんですけど、そもそも肉食獣って美味しいのだろうか……。


明日の投稿が少し遅れます。

夕方に投稿する予定なので、よろしくお願いします。

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