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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第1章 邪竜ガーデリアルと幼妻

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第17話 邪竜、誕生。

ようやくこのサブタイを掲げる時がやってきました。

1章終了です。

『リンよ。自分の功を喜ぶのはいいが、まずは役目を果たせ』


 念話で我は説教する。


 相手はリンだ。


 手榴弾がもう少し遅かったら、もしかして死んでいたかもしれない。

 それどころか騎士団を閉じ込めることに失敗し、一転ピンチに陥っていただろう。


 当の本人はシュンとしょげていた。


 おそらく騎士を殺して、レベルを上げたかったのだろう。

 リンもリンなりに、我に貢献しようと考えたのだ。


『お主が死ねば、ニーアが悲しむ。以後、気を付けるように』

「ぎぃ……」


 我もそれ以上は追求しなかった。


 念話を切ると、少し息を吐いた。


 人やモンスターを扱うというのは、面白いと思う部分もあるが、反面難しいと感じることがある。

 特に我が出す命令には、皆の命がかかっておるのだ。

 判断は慎重に下さなければならない。


 あの騎士団の団長も、そういうことを考えながら、指揮棒(タクト)を振っているのだろうか。1度、話してみたいものだ。


「ガーディ、優しい」


 ニーアは我の鱗に頬ずりしながら言った。


「我はいつも優しいぞ」

「リンにあまり怒らなかった」

「そういうことか。リンもリンなりに精一杯やっている。それを認めないわけにはいかん。まあ、あの場面で本当に命が尽きておれば、墓穴の前で罵倒してやったかもしれんがな」

「うん。やっぱりガーディは優しいよ」

「言っただろう。我はいつも優しいと」


 我は顎の裏でニーアの髪を撫でる。

 ほんの一時、戯れた後、顔を上げた。


『さて……。準備はいいか? フラン?』


 念話を飛ばす。


 フランは以前爆破された観光用入口にいた。

 彼女は岩の合間に隠れていたが、我の声を聞いた瞬間、ピンと尻尾を立てた。


「あ。はい!」

『リラックスしろ。そなたのやることは難しいことではない』

「はい。この符を剥がせばいいんですね」

『そうだ』

「あの」

『なんだ?』

「私は符を剥がしたら、どうすればいいのでしょうか」

『…………』


 我は返答に窮した。


 本来であれば、そのまま麓の村に身を隠してほしい。


 だが、我は小さな魂の覚悟を感じた。

 それをあっさり裏切るわけにはいかない。


 我は言葉を返した。


『シチューが食べたい。作れるか?』

「え? あ、はい。得意料理です」

『うむ。では、頼む。竜の肉たっぷりでな』

「ふふふ……。また痛い思いをしますよ」

『構わぬ。もう慣れた。……では、そろそろ剥がせ』

「はい」


 フランは岩に貼られた符を剥がした。


 何も起こらない。

 少女は首を傾げた。


 一方、我はニヤリと笑う。


『フラン。ご苦労だった』


 主の労いの言葉を聞き、フランはホッと胸を撫で下ろした。


 顔を上げる。

 快晴の空が見えた。


 戦をしているとは思えぬぐらい、青い空が広がっていた。



 ◆◆◆



 洞窟内は大混乱に陥っていた。


 グローバリ、そして彼が率いる大竜騎士団が目にしたのは、大量の人魂だ。

 赤、青、黄、緑――様々な色をしたさまよえる魂が次々と湧いて出てくる。


 モンスター討伐に慣れた騎士団も、人魂の大量出現によって、戦かざる得なかった。


「落ち着け!」


 グローバリの声が閉鎖空間を貫く。


 悲鳴と慌てふためく声が、しんと静まりかえった。


 だが、グローバリも二の句を告げられないでいた。

 何故、こんなところに人魂が出現したのか、説明できずにいたからだ。


 もし同行していた観光協会のデュバリイェがこの場にいたら、なんらかのレクチャーを受けることが出来たかもしれない。しかし、彼が絶命していることは先ほどグローバリ自身が確認していた。


 1つだけ明白なのは、これがガーデリアルの罠であるということだ。


「全員、方陣を――」


 指示を出そうとした時、グローバリの耳に奇妙な音が聞こえた。


 カラカラ……。コロコロ……。


 硬い木の皮を叩いたような音。

 ひどく耳障りだった。


 そこでグローバリは気付く。

 浮いていた人魂が、いつの間にかいなくなっていたのだ。


 ――まさか。


 グローバリの顔から汗が垂れる。


 地面を見た。


 大量の骨が埋まっていた。

 それはくつくつと鍋の蓋のようにひとりでに動き出す。


 人の骨、獣の骨が組み上がり、フロアを埋め尽くさんばかりの勢いでスケルトンが姿を現した。


「ひぃ!」

「ぎゃあああ!!」


 あちこちから悲鳴が上がる。


 すでに戦闘は始まっていた。


 人や獣、あるいはモンスターの骨が、大竜騎士団に襲いかかる。

 細い骨の手に槍や剣を持ち、暴れ回る。


 1体の戦力は騎士たちに遠く及ばないものの数が違う。


 天井、床、あるいは上のフロアから。

 めまいがするぐらいの多くのスケルトンが、騎士団を取り囲んだ。


 団長であるグローバリも剣を振るった。


「堪えろ! 魔法消しの煙の効果がなくなれば、魔法が使える」


 魔法が使えれば、スケルトンを大量に焼却することが出来る。


 それまで別個に倒していくしかない。


 だが、1人……。また1人と騎士たちはスケルトンの波に飲まれていく。


 剣を振るい、仲間を鼓舞しながら、ガーデリアルに対する怨嗟の気持ちは深まっていった。



 ◆◆◆



 騎士団に襲いかかっておるのは、以前我を手こずらせたスケルトンどもだ。


 タフターン山は冥界にほど近い場所にあり、死霊が集まりやすい。

 故に結界で封じこちら側に出てこないようにしている。


 それを我はフランに命じて、解かせた。


 今は正午前だ。

 空には陽があり、光が燦々と大地に降り注いでいる。

 光を嫌う死霊も、外には出てこない。


 しかし、真っ暗闇となった洞窟内部は別だ。


 死霊は洞窟に殺到した。

 さらに試練の洞窟には、兵士や山賊どもの死体がいくつも転がっている。

 この時のために、我は回収せず、放置しておいたのだ。


 すべては計画通り。


 あの団長の憎々しげな顔が目に浮かぶようだった。


「ぐふふふふふ……」

「ガーディ、楽しそう」

「そうか。我は楽しんでいるように見えるか」


 確かに楽しいかもしれぬ。

 大切なものができ、責務こそ重くのしかかるものの、我は充実していた。


 3000年生きてきて、初めて心の底から生を楽しんでいた。



 ◆◆◆



 スケルトンの強襲を受けたグローバリは、さらに絶望の淵に立たされていた。


 ようやくスケルトンを倒したと思えば、今度はアンデッドの軍団が、上のフロアから降りてきたのだ。


「嘘だろ……」


 近くにいた騎士が呟く。

 グローバリもまた唇を噛んだ。


 現れたのは、大竜騎士団の鎧に身を包んだかつての先遣隊だった。


 先頭には、グローバリが任じた隊長がフラフラと歩いている。

 スケルトンの波に生き残った騎士団は息を飲んで、引き下がった。


 しかし、アンデッドは容赦ない。


 人間に反応すると、奇声を上げて騎士団に襲いかかった。


 気が付けば、騎士団の数は80を割っていた。

 団としてはもはや死に体も同然だ。


「全員、生き残れ!!」


 グローバリは叫ぶ。


 それは命令でもなんでもなく、ただ彼の願望を口にしただけだった。

 それでも団長の声に鼓舞され、騎士団はアンデッドとなった仲間を迎え撃つ。


 ――もうすぐだ。もう少し耐えることが出来れば。


 魔法消しの煙が薄くなってきている。

 が、1人でも生き残れば、後世に大竜騎士団の強さを伝えることが出来る。


 ――1人でも多く。


 グローバリは自ら先頭に立つ。

 元仲間のアンデッドの胴を真っ二つに切り裂いた。


 団長の勇姿を見て、団員たちの士気が上がる。


「おおおおおおおおおおおお!!」


 気勢を上げ、アンデッド軍団に襲いかかる。


 しかし、その間を割って、生きた剣が騎士団たちを貫いた。


 まるで紙くずのように数人の騎士たちが薙ぎ払われる。

 化け物じみた膂力に騎士団たちの足が止まるのも無理からぬことだった。


 赤い1対の光が、闇色の洞窟で輝く。


 現れたのは、全身武装の騎士。

 さまよえる騎士というモンスターだった。


 しかも、通常のさまよえる騎士よりも強い。

 漂ってくる闘気が尋常ではない。


 グローバリは確信する。


 この騎士こそが、ガーデリアルの最終兵器だと。

 竜の流儀に則るのであれば、最終試練なのだろう。


 消沈気味だった魂が激しく燃え上がる。


 自然と叫んでいた。


「そやつを討ち取れ!」


 引き気味だった騎士団が1歩前に出る。


 瞬間、再びさまよえる騎士に薙ぎ払われた。


 グローバリ自ら、前に出る。

 さまよえる騎士の激しい打ち掛けを、全力を持って止めた。


「押し通るぞ、亡霊よ!」

「ほう。団長よ、やってみるがよい!」


 激しい剣の応酬が始まった。



 ◆◆◆



 西の地平に陽が傾く頃、我の近くで爆発音が聞こえた。

 試練の洞窟の出口を塞いでいた岩が、吹き飛ばされる。


 現れたのは、重傷の騎士だった。


 べったりと血が貼り付いた黒髪。

 頭から流れた鮮血で片目が塞がり、唇も同じく血に濡れていた。

 フルプレートの鎧は鉄靴だけを残してすべて吹き飛ばされ、片方の手はなくなって、骨が剥き出しになっていた。


 我に近づく足取りは非常にゆっくりであったが、片手で握った剣の柄を決して離そうとはしなかった。


 その騎士が出てきた洞窟から、我が配下デュークも姿を現す。


 鎧にいくつか傷が入っていたが、重傷の騎士よりは溌剌としていた。

 手に剣を持ち、じっと我に近づいていく騎士を見つめている。


 騎士は我の前で止まる。


 顎を上げた。


「貴様がガーデリアルか……」


 傷の割にはしっかりした口調だった。


 我は頷く。


「如何にも我が守護竜ガーデリアルである。よくぞ来た。試練を越えし、勇者よ。さあ、聖剣はすぐそこである。己の力を試すがよい」

「聖剣などいらぬ」

「では、そなたは何をしにここに来た」

「問うためだ……」


 我は少し首を上げ「ほう」と唸った。


「お前に聞きたい。貴様の目的はなんだ? 何故、王国の兵を、我が配下のものを殺した? 王国の滅亡か! それとも支配か!? 応えろ、ガーデリアル」


 激昂する。

 我はふんと息を吐いた。


「生きるためよ」

「なんだと……」


 騎士はカッと瞳を見開く。

 全身を震わせた。


「そんなことのために……」

「そんなことのため? では、聞くがお主はなんのために生きている?」

「国のため? 国王のためだ」

「我も同じだ」

「何だと……」


 今度は目を細め、騎士は疑念を向けた。


「最初は聖剣を抜かれれば死ぬと聞き、慌てて生を願った。だが、今は違う。配下がおり、我のために飯を炊いてくれるものがおり、そして愛するものが出来た。よって、我はおいそれと死ねなくなったのだ」

「ふざけるな!」


 騎士は再び吠えた。

 それは竜である我が鼻白むほどの覇気を伴っていた。


 騎士は1歩前に出る。


 呪詛を込めた瞳で、我に呪いを吐いた。


「そんなことのために私の仲間を殺したのか! 多くの人間を殺めたのか?」

「我は少々複雑な腹の構造をしていてな。そうでなければ、生きていけんのだ」

「腹の肥やしのために、人間の命を奪うなど許されるものか」

「そうか? 貴様らとて、豚や鳥を食べるではないか。それと何が違う」

「我らは豚や鳥ではない!」

「それは傲慢というものだ。命を奪うことはそなたらの仕事なのだろうか。それが当たり前の権利と思った時、お前たちは悪なのではないか?」

「黙れ黙れだまれだまれぇえぇええええ!」


 覇気を吐く。


 改めて我を睨み、呟いた。




「この……。邪竜めが――」




 悪魔の囁きにも似た怨嗟の声を聞き、我は1度目を伏せた。

 再び開いた時、我の目は血のように赤くなっていた。


 端から見れば、それはまさしく邪竜の形相であったかもしれぬ。


「そなたらにとって、我が悪というのであれば、そう呼ぶよい――――」




 邪竜ガーデリアル、と――――。




「名を聞こう。勇者よ」

「貴様に名乗る名などない」

「良かろう。ならばかかってくるが良い。邪竜はここだ」


 我は翼を広げる。

 暮れなずむ空を覆い隠した。


 天に向かって吠声を轟かせる。


 名もなき騎士は唇を噛み、痛みに耐えながら、片手で剣を振り上げた。

 最後の気力を絞り、蛮人のように吠え、我の方へと走ってくる。


 我の口内に炎が吹き上がった。

 炎圧が体内でMAXになった瞬間、我は一気に吐き出した。

 紅蓮の刃は一気に騎士を飲み込む。


 悲鳴は聞こえない。


 揺れる炎の向こうで、影が1歩ずつ我に近づいてくる。

 死すら跳ね返す執念は、一瞬我をたじろがせた。


 しかし、思い空しく影は炎の中に散る。


 すべてを吐き出した時には、名もなき騎士の姿はなかった。

 我は首をもたげる。


 再び天を仰ぐと、叫んだ。


「我々の勝利だ!! うおおおおおおおおおおおおお!」

「ガーディ! やった! すごーい」


 ニーアは構えていたSavage110を放り投げ、手を一杯広げて抱きついた。

 さらに配下は祝福の声に包まれる。


「主君、おめでとうございます」

「ガーディ様、おめでとうございます」

「ぎぃぎぎぎぎ」

「にゅるにゅるるるる」


 デュークは傅き、フランは涙を払い、リンはパンパンと手を叩き、スライムはにゅるにゅるしていた。


 後に、邪竜ガーデリアルとして世界に名を轟かせる。

 我の歴史的な1勝だった。


邪竜ガーデリアル、誕生です。

明日から新章スタートします。

大量の素材を手に入れたガーデリアルのダンジョン経営が開始。

様々なスキルを習得し、一気にお話が動いていくことになりますので、今後ともよろしくお願いします。


ここまでで何か感想をいただければ幸いです。

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