第14話 新たなる力。
日間ジャンル別8位でした。
現状維持! もっと頑張るぞい!!
硬質な音を立てて、鎧の騎士が山の峰伝いから昇ってくる。
タフターン山の勾配はそれなりにキツい。
山に登り慣れた者でも苦労するだろう。まして、鎧を纏ってとの登山となれば、拷問に等しい。
しかし、騎士は一切体勢を崩すことなく、頂上まで登りきった。
「ご苦労だった、デューク」
我の新しき配下『さまよえる騎士』を労う。
千里眼で仕事ぶりをつぶさに観察していたが、鬼神のように戦っていた。
結果、1人で50人以上も殺した。
あれほど自由に暗がりの中で動かれては、いかな練度の高い王国騎士団とてなす術なかっただろう。
デュークは我の姿を見上げた後、傅いた。
てっきり血塗れた姿で現れるかと思いきや、鎧は洗浄されていた。
主の前に汚れた姿を見せたくなかったのであろう。
死霊系のモンスターになっても、その姿勢は見事だ。
我も玉座に座った王の気分になる。
ちなみにデュークと名付けたのは、我だ。
ニーアがアイディアを出すと「さっちゃん」とか「ヨエル」とかなんとも安直で弱そうな名前が出てきたので、直接命名した。
本人も気に入ってるらしい。
「デューク、グッジョブ」
「ありがとうございます。我が主。お后様も」
「おきさき!」
突然、ニーアは素っ頓狂な声を上げた。
ぼひゅん、と少々間抜けな音を立てて、赤らめる。
「な、何か失礼なことをいったでしょうか。ニーア様は主の奥様とお聞きしているので、そう言葉を使ったのですが」
「良い良い。これで本人は気に入っているのだ」
「ニーアお后様。ガーディのお姫様、てへへへ……」
いやんいやんと、ニーアは顔を振る。
「さしずめデュークは姫を守る騎士といったところだな」
「姫と騎士の禁断の関係……?」
「な、何故、そうなるのだ!」
「ガーディ、嫉妬してる?」
「ししししし、し……嫉妬なんぞしておらん。わ、我はニーアを信じておる」
「大丈夫。ガーディの方が格好いい。いーこいーこ」
「そ、そうか。改めて言われると、良い気分だ」
そもそもニーアは竜マニアなのだ。
竜以外のものに心を寄せることはあり得ぬ。
幾多の英雄譚にあるような悲劇は起こらんだろう。
うむ。大丈夫だ。
何かあったら、燃やせばいいし。
「ご飯できましたよ」
フランが尻尾と笑顔を振りまきながらやってくる。
手には土鍋が握られていた。
我の前に置く。
蓋を開けると、蒸気と共にいい匂いが漂ってきた。
中には山菜や肉が入れられ、まだぐつぐつと煮立っている。
山菜は程良くしんなりとし、プリプリのお肉は女の肌のように白くなっていた。
「おいしそう」
「ぎぃぎぎぎぃいい」
ニーアとリンが涎を拭う。
まるで姉弟のように見えた。
「山菜は朝に取れたものを村の人に分けてもらいました。新鮮ですから、甘みがあって美味しいですよ」
「フラン、村に行ったのか?」
「はい。お鍋を借りに。いつまでも兜の裏を使う訳にはいかないので。ダメだったでしょうか?」
「それは良いが、何もされなかったか?」
「ええ。特には。心配しなくても大丈夫。。フランをいじめてたの、村長と一部の人ですから」
「そうか。だが、村に行く時は我に一言いってくれ。一応、お主のことを千里眼で見ておくとする」
我もこのところ山賊や騎士団共の監視で忙しかったからな。
周りを見る余裕を失っていた。
フランもそうだが、ニーアも、モンスターたちも我のことを理解してくれる家族だ。大事にしなければならない。
たとえ、大勢の人間を殺めてでもだ。
『いただきます』
全員が手と声を合わせる。
早速、箸で鍋の中身を突っつきはじめた。
王都の方ではナイフとフォークだが、田舎に行くほど箸を使うようになるそうだ。
おそらくナイフなどの食器が、高価なためだろう。箸はいざとなれば、その辺りに落ちてる枯れ木でも代用できるしな。
「おいしい」
「ぎぃぎいい」
またニーアとリンが声を合わせる。
2人で猛烈に掻き込み始めた。
全く仲がいいな。
だが、それ以上仲は良くなるなよ、リン。
燃やすぞ。
「ガーディ様も」
「うむ。いただくとしよう」
「ガーディ様、あーん」
「あーん」
我は大口を開ける。
舌の上にちょこんと山菜を載せてくれた。
味わうように転がす。
うむ。うまい。
山菜に出汁の旨味がよく絡んでおる。
野菜本来の甘みと相まって、まろやかな味が舌の上を滑っていった。
「デューク様もいかがですか?」
「いえ。そんな。主の晩餐の席で食べるなど恐れ多い」
「よい。許す。今日の功労者はそなたなのだ」
「あ。でも、そもそもデューク様はご飯を食べれるのですか?」
デュークはフランを見つめる。
一対の赤光がギラリと光った。
フランは「ひっ」と小さく悲鳴を上げ、パタンと耳を閉じる。
「ご、ごめんなさい。フラン、失礼なことを言っちゃいました」
「お構いなくフラン殿。私の方こそ怖がらせてすいません。目が光るのは癖のようなものでして」
「デューク、お主は食べることが可能なのか?」
「むろん食べることはできます。主と同じく私には食物に寄る栄養の摂取は必要ありませんが、食べることぐらいなら」
「では、存分に食べるがよい」
フランは器に盛るとデュークに差し出す。
我々はまじまじとその様子を見つめた。
デュークの鎧の中身はがらんどうである。
どうやって食べるのか。皆の興味が集中した。
「では、ありがたく」
改めて手を合わせる。
器を持つと一気に口の方へ向けて、すべて流し込んだ。
地面に置くと、中身は空っぽになっていた。
なんだ、それは?
手品?
「もう1回! もう1回!!」
もう1杯ではなく、もう1回というあたり、ニーアも同じ感想を抱いたようだ。
請われてはしょうがない。
デュークはフランによそってもらうと、また同じ事を繰り返した。
「面白い! もう1回!」
「こらこら、ニーア。見せ物ではないぞ」
「でも、不思議! 食べ物が消えちゃう」
「はははは……。消えているのではなく、私の鎧の中は特殊な空間になっておりまして、死してる者であれば霊子に変換することが出来るのです」
なるほど。
随分、面白い内臓構造になっておるようだ。
「味もわかるのか?」
「はい。……特にこのお肉」
「うまいか?」
「はっ。肉も美味しいのですが、肉から出てる出汁がたまりませんな。濃厚でいて、それでいてしつこくなく、何度でも食べたいぐらいです。これはなんの肉なのでしょうな」
皆が無言で我の方を指さした。
デュークの赤い眼が、一瞬小さな点だけになる。
我はぼそりと呟いた。
「我の肉だ」
「なんと主のお肉なのですか? そうとは知らず、すみませぬ」
デュークはずっささささ、と後ずさりすると、頭を下げた。
なかなかのオーバーアクションだ。
からかいがいあるかもしれん。
「良い。特別な事があれば皆に供すことにしている。尻尾の肉ゆえ、しばらくすれば再生するだろう。あまり気に病むな」
「はっ! しかし、主よ。1度調べられた方がいいかもしれませぬ」
「どういうことだ?」
「この肉には、能力値を高める効果があるような気もします」
「なんだと……」
我は目を細めた。
我は千里眼でゴブリンを覗いてみた。
なまえ :ゴブリン
Lv :2
ちから :F ぼうぎょ :G
ちりょく :F すばやさ :F
きようさ :F うん :G
けいけんち:5 ませき :G×5
ほう。確かに……。
以前、リンを覗いた時は、力がGだと記憶しているが、Fに変化しておる。
そのことを告げると、リンは喜んだ。
腕をまくり、力こぶを見せる。
「ぎぃぎぎぎ」
「うん? 確かに力が上がったようだ、か」
「ぎぃい!」
我としては、力よりも知力が上がってほしいものだ。
しかし、めでたい。
さすがに毎日とはいかんが、定期的に食べさせるのも悪くはないだろう。
折角、召喚したのだ。長生きはしてもらわないと困るし、何より名付け親のニーアが悲しむだろう。
調子に乗ったリンは、近くにあった岩に手刀を入れる。
だが、割れたのは岩ではなく、リンの手の方だった。
「ぎぃぎぎぎぎ」
ぱっくり割れた傷口から緑色の血が流れる。
間抜けなゴブリンは横に置き、同じくスライムも覗いてみた。
なまえ :スライム
Lv :3
ちから :E ぼうぎょ :F
ちりょく :G すばやさ :F
きようさ :G うん :G
けいけんち:2 ませき :G×2
なんといつの間にかレベルが上がっていた。
そういえば、警備兵の1人を倒していたな。
その時にレベルが上がったのか。
リンも1人倒しているが、あれは落とし穴に落としただけで、経験値のカウントには入っていないようだ。
すっかり忘れていたが、モンスターも経験値を得ればレベルが上がるのだったな。
なんとかこいつらを鍛えることは出来ないだろうか。
最後にデュークのレベルも見ておくか。
なまえ :さまよえる騎士
Lv :27
ちから :B+ ぼうぎょ :A+
ちりょく :B すばやさ :E+
きようさ :E うん :E
けいけんち:295 ませき :B×3
やはりレベルが上がっているな。
騎士団を50人も殺したのだ。
当然といえば、当然か。
ちなみに魔石はSクラス=Aクラス×10というように、各ランクとの間に10個分の価値に相当するようだ。
つまりデュークはレベルが上がったことによって、「B×2 C×5」からCクラスが5個増えたことにより「B×3」という価値に変わったのだろう。
「ガーディ、ニーアのレベルも見て」
「残念だが、人間が門外漢なのだ。――というか、竜マニアのお主なら聞かなくてもわかっておるだろう」
「むぅ。ニーアのレベル気になる」
「確かギルドに登録すれば、見られるんじゃないでしょうか?」
説明したのはフランだった。
「前に村長がそんなことをお話ししてました」
「だそうだが、どうするニーア」
「ギルド行くのめんどくさい。ガーディのもと離れたくない」
ゴロゴロと猫のように我の腹をさすった。
「でも、みんなが成長してるズルい。ニーアも成長したい」
「成長か……」
「新しい銃ほしい! もっと強力なヤツ。リンが持ってるのでもいい」
サブマシンガンか。
制圧力は確かに高いが、猫のように動き回るニーアには向いていないような気がするな。
ならば、ハンドガンということになるが――。
「よし。ならば、ニーアに新しい銃を授けよう」
「やったー!」
ニーアは諸手を挙げて喜ぶ。
我は早速、腹の中にある宝物を解放した。
「ぐおおおお……おおおおお…………ぐぐぐぐ…………」
「ガーディ、頑張れ! ひぃ、ひぃ、ふー。ひぃ、ひぃ、ふー」
「「ひぃ、ひぃ、ふー。ひぃ、ひぃ、ふー」」
ニーアと一緒に他の者も声を上げる。
しかし、なかなか出てこない。
今回はいつもよりも大きいからなかなかに難産だ。
「ぐごごごおおおおおおお!」
我は叫んだ。
うぇ、と吐き出す。
我の体液にまみれ、現れたのは今までのハンドガンやサブマシンガンとは比較にならない大きな銃だった。
望遠鏡のように大きなスコープ。
グリップと銃把の部分はどの銃とも構造は似ているが、弾倉は大きく、小さな弁当箱のようだった。
2脚の足が銃身の手前に立てられ、銃口付近は何やら膨らんでいて、一風変わっている。色は黒。あらゆるところに彫りがあり、銃の無骨さをより際立たせていた。
全長は小さな子供ぐらいはあるだろうか。
ともかくスケールが段違いだった。
なまえ :じゅう(SAVAGE 110)
いりょく :A+ たいきゅう :A
しゃてい :A はんどう :C
れんしゃ :D とくしゅ :むげん
おもさ :B
「重いよ、ガーディ」
ニーアは一旦持ち上げるもののふらつき、そのまま倒れてしまった。
リンと一緒に持って、ようやく持ち上げることが出来るほど、銃は重たかった。
「それは今までニーアが使っていたハンドガンとは違う。狙撃銃というものだ」
「狙撃銃……?」
「うむ。射程がかなり長くてな。ここから麓の村まで届くほどだ」
「なんと……。バリスタよりも射程が長いのではありませんか?」
「しかも、射手の腕によっては百発百中もあり得る」
「でも、こんな銃……。ニーアは振り回せないよ」
「その銃はどちらかといえば、寝転んで撃つ銃なのだ。まあ、とにかく使い方を教えよう。使いこなすことが出来れば、ニーアはまた強くなれるぞ」
「わーい! ニーア、もっと強くなるよ!」
ニーアは飛び上がって喜んだ。
糞暑いのに、鍋とか出してすいませんm(__)m
でも、暑い時に鍋とか食べたくなるよね……食べたくない?




