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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第1章 邪竜ガーデリアルと幼妻

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第13話 山賊と騎士団、どっちが強いの?

日間ハイファンタジー部門8位まで来ました。

日間総合も19位と、もうすぐ一桁です。

ブクマ・評価ありがとうございます。


今日はちょっと長いので読む時はお気を付けください。

 ミーニク村を我が統治下に収めて3日目。


 特に混乱があるわけでもなく、村人どもは大人しくしていた。

 我の約束事が効いたらしい。

 よっぽど生活に困っていたとみえる。


 ともかく、村人どもは順調に我がいった2つの噂を流した。

 3日目になり、ようやくそれが功を奏する形となった。


「やっと動いたか」


 西の方を見ながら、ニヤリと笑う。

 我の背中でお昼寝していたニーアは、寝ぼけ眼を擦った。


「ガーディ、何を見てる?」

「うむ。実はな」

「は! まさかのぞき!?」

「なんでそうなる!」

「千里眼をそんなことに使うなんて、ガーディは天才」

「割と誰でも考えそうなことだと思うが……。いや、待て。そんなことよりもだな。竜の我が人間の女の裸など興味があると思うか?」

「ガーディ、女の人の裸興味ないの!? ショック……」


 しょぼんと、我が妻は項垂れた。

 しまった。ニーアも人間の女だった。


「待て待て。ごほん……。そ、そなたの裸なら――」

「まさかガーディが男の裸に興味あるなんて」

「そっちか!!」

「え? 違う!」

「断じて違う! 男の裸も興味ない! あるのは――」

「オカマ?」

「同じことであろう!!」


 ぬぅ。なにげにニーアとのやりとりがしんどくなってきたぞ。


 年かのぅ……。


 我は咳を払い、改まって説明した。


「ニーアよ。我が見てたのは山賊どもだ」

「山賊?」


 実は、我は千里眼によって、近隣の状況をつぶさに観察していた。


 最近、カステラッド王国が隣国に届けるはずだった物資を、山賊が強襲し、2人の兵士を殺したことも知っていた。


 これは我々からすればとても幸運なことだ。


 おそらくだが、王国側はタフターン山での一件も、山賊の仕業ではないかという疑念を抱いているだろう。


 それはともかくとして、噂を聞いて1番怯えているのは、山賊どもだ。


 王国の地方警備兵ではなく、騎士団が報復に来る。普段、街のごろつきを相手している警備兵と、本物の戦の経験がある王国騎士団とは雲泥の差がある。

 戦々恐々とする顔が目に浮かぶ。


「状況はわかった。でも、ガーディ。それでどうなるの?」

「山狩りとなれば、ヤツらは当然隠れ家を変えるだろう。だが、そう易々と安穏に暮らせる場所などない。そこでヤツらは考える」


 王国の捜索の手が伸びない場所。

 例えば、タフターン山だ。


「でも、ガーディ。ここにもいずれ騎士団が来る」

「そうだな。だが、ヤツらは噂を信じるなら、落ち着きを取り戻したタフターンにやってくるはずだ」


 おそらく王国側は、この事件のことをまだ伏せているだろう。

 正体不明の敵に、王国の兵が殺されたのだ。

 調査ないし、平定するまでこの不名誉を公表することはない、と我は考えていた。


 山賊側の立場に返れば、タフターン山は絶好の場所だ。


 まがいなりにもここは観光地という位置づけになっている。

 王国の兵が詰めていることからも、由緒正しい土地柄なのだろう。

 王国の公的な土地であり、しかも観光地。


 山賊どもが馬鹿でなければ、タフターン山に捜査の手が伸びないと考えるだろう。


「うまくいくかな」

「大丈夫だ、ニーア。山賊どもはなかなか頭がいいらしい。こちらにやってきておる。財宝をたんまり抱えてな」


 まさに鴨が宝石をくわえてくるという古来の故事通りだ。


 すると、ニーアは我の背中で別の方向を指さした。


「ガーディ、あれ」

「どうやら、もう1人のお客さんも到着したようだな」


 山々に囲まれた街道付近から砂煙が上がっている。


 千里眼で見る。

 騎馬に跨った集団が、旗手を先頭にこちらに向かってきていた。


 その数400。


 地方の山賊を駆逐しにきたにしては、なかなかの数だ。


 いいぞぉ。予想以上の数だが多い分は問題ない。

 我に貢ぐ武具の多くなるからな。


「くくく……」

「ガーディ、悪い顔」

「いや、何……。ここまで上手くいくとは思わなかったのでな」


 鴨が宝石を、雉が財宝を持ってきてくれたというわけだ。



 ◆◆◆



 騎士団が迫っていると知らず、盗賊達はすでにタフターンの麓にまで来ていた。


 観光用の入り口がふさがっていることを知ると、試練の入り口から入場する。


 人数は30名ほど。


 その手には、武器や盾を持ち、背中には近隣の街や村からかすめとった宝石や貴金属を担いでいた。


 試練の洞窟の中に入ると、盗賊達は持ってきた宝物を下ろし、汗を拭った。


「かしら、良かったッスね。隠れるところが見つかって」

「うるせぇ。誰のへま(ヽヽ)でこんなことになってると思ってるんだ」


 盗賊の頭目は、近くの部下をベコリと叩いた。


「いってぇ! でも、王国が運んでた物資を狙おうっていったのは、かしらじゃないですか?」

「兵士を殺すなとはいってねぇ。カステラッドの兵士共は団結力が強いんだ。たとえ、護衛兵1匹が殺されても報復を来るようなヤツらばかりなんだぞ」


 カステラッド王国で語りぐさになっている大竜騎士団が起こした合同訓練の噂は、盗賊達も知っている。

 そのため王国騎士団全体が、団結力が強いと思われていた。


 洞窟へ逃げ込み、やれやれとくつろいでいた仲間の1人が、部屋の角にあった鎧一式を見つける。


 触ろうとした瞬間、フルフェイスの兜の中身に赤い光が輝いた。


「うわあ!」

「どうした?」

「鎧が光った。目がピカッて……」

「はあ?」

「ホントなんだよ。信じてくれ!」

「ところで鎧なんていつ持ってきたんだ?」

「おい! うるせぇぞ、お前ら!」


 首を傾げたが、頭目の怒声がそれを遮る、


 その後、誰も鎧について追求することはなかった。


「ここで一旦落ち着いたら、他のところに行くぞ。場合によっては、隣国へ落ち延びることも考えておけ」

「「「へーい」」」


 やれやれと首を振った。


 頭目は奥へと向かう。

 薄気味悪い洞窟だ。そこら辺に死骸が転がり、血の臭いが漂っている。


 タフターン山がどういう場所なのかは伝え聞いている。

 試練に破れ散った勇者の死骸だろうと、頭目は推測するが、ふと立ち止まった。


 改めて鼻を利かせる。


 ――その割には血の臭いが濃いような……。


 腕を組んで考える。


「かしらぁ! 大変だ!」


 仲間が血相を変えてやってきた。


「騎士団だ。こっちに向かってる」

「な、なんだとぉ! ここは安全じゃねぇのかよ!」

「わ、わかんねぇ。もうすぐそこまで来てる」

「旗は?」

「竜だ。竜が描かれてた」

「大竜騎士団じゃねぇか!」


 頭目の顔がさっと青ざめる。


 こうなれば逃げの一手だ。

 持っていた宝石を捨て、頭目は入り口へと向かう。

 すでに仲間達が外の様子をうかがっていた。


「どうだ?」

「ダメだ! 囲まれてる!」

「数は?」

「100……ぐらいかな」

「本体じゃねぇなあ。先遣隊だろう」


 今はそんなことよりもどうやって逃げるかだ。


「一旦洞窟伝いに頂上へ行くぞ。そこから嶺を伝って、反対方向へ抜ける」

「頂上には竜がいるんだろ?」

「刺激しなきゃ大丈夫だろ。お昼寝ドラゴンって言われてるぐらい、いつもグースカ寝てるらしいからな」


 頭目は仲間を伴って、頂上を目指す。

 しかし、あとわずかというところで、山賊たちの足が止まった。


 頂上付近に誰かが立っていた。


 逆光でよくわからなかったが、シルエットからして小さな魔法使いに見える。


 すると、何かが落ちてきた。


 瞬間、閃光が走った。

 轟音とともに爆発する。


 頭目も含め、数人の山賊が爆風で吹き飛ばされた。


 幸運にも無傷だったが。大量の砂煙に何度も咳き込む。

 顔をあげると、頂上へと向かう道が岩で塞がれていた。


「くそ! 閉じ込められた」

「かしら! 騎士団の連中が入ってきた」

「明かりを消せ! こうなりゃヤケだ! 迎え討ってやる!!」


 頭目は愛用している斧を振り上げた。



 ◆◆◆



 王国観光資源調査室デュバリイェ・シューバルトは、不機嫌だった。


 折角、大竜騎士団団長であり、伯爵位を持つグローバリに取り入るチャンスだというのに、自分の横にいるのは、先遣隊を任された若い隊長だったからだ。

 聞けば、まだ30にも届いていない若造だという。


 表面上は騎士団に協力的だったが、内実は腸が煮えくりかえっていた。


「デュバリイェ殿、聞いておられますか?」

「――あ。失礼。考え事をしていたので」

「この試練の洞窟の構造はどうなっていますか?」

「1本道だったと記憶しています。竜が鎮座する頂上まで続いていて、出口と入口しかなかったはずです」


 タフターン山に来て驚いたのが、観光用の入口が塞がれていたことだ。


 観光用の道なら自分で手がけただけあって、目隠ししても進める自信がある。

 だが、試練の洞窟に入ったのは、片手で数えられるほどしかない。


「なるほど。では、出口から抜け、反対の峰伝いから降りることは可能なのでしょうか?」

「不可能とはいいませんが、あそこには竜がおります。容易ではないかと」

「反対側に人をやる必要もありそうですね」


 若い隊長は数人の騎士に命じ、山の反対側へ回らせた。


「では、我々も参りましょう」

「いや、私はここで」

「あなたは我々を案内するために、ここに来たのでは?」


 隊長の目は、応接室で見たグローバリと似た目をしていた。

 まるで団長が乗り移ったかのようだ。


「どうかご同行願いたい、室長」

「わ、わかりました」


 隊長は全員に下馬を命じる。

 100名近い先遣隊が、タフターンの試練の洞窟へと入る。


 数歩も先にいかないうちに、洞窟の奥から轟音が聞こえた。


「なんだ? なんだ、これは?」

「落ち着いてください、室長殿」


 不測の事態だというのに、慌てたのはデュバリイェだけだった。

 感情がないのではないかというぐらい、団員達は落ち着きを払っている。


「何か奥であったようですね。全員、駆け足」


 突然、登山走が始まった。

 団員達が一斉に駆け出す。

 デュバリイェもその波にもまれるように走り始めた。


 中は暗い。


 各々光の魔法を灯し、前に進む。

 だが、2層目のフロアに来ると、ふっと消えた。


 立ちこめていた煙に鼻を塞ぐ。


「魔法消しの煙か!」


 隊長が叫ぶ。

 さすがに焦りの色があった。


 魔法の力を減衰させる煙で、室内で使えば完全に封じることが出来る優れた魔法道具だ。

 軍隊も使うが、特に使うのが山賊や盗賊である。

 魔法を使える者が少ない彼らにとっては、練度の高い王国の兵士と戦うには必需品なのだ。


「ぐあ!」

「うわ!」


 完全な暗闇の中で団員達の叫び声が響く。

 そこに遅れてデュバリイェが自前のカンテラを持ってやってきた。


 室内がオレンジ色の光に照らされる。


 気がつけば、荒々しい姿の男達に囲まれていた。


 山賊だ。


「やっちまえ!」

「全員戦闘配置、来るぞ!」

「ひぃいいいいいいいい!!」


 山賊の頭目の声。

 先遣隊隊長の声。

 デュバリイェの悲鳴が見事に重なる。


 カンテラを取り落とした油が広がると、室内は炎に包まれた。

 その中で激しい剣戟の音が響く。


「相手は少数だ! 数で押し切れ!」

「野郎共! ここが踏ん張りどころだ! ぶっ殺せ!」


 さらに怒声がフロアに反響した。

 奇襲に成功した山賊だったが、落ち着きを取り戻した先遣隊に押されていく。


 さすがに山賊と騎士団では、練度も数も違った。


「くそぉおお!」


 最後に残った頭目は先遣隊隊長に斬りかかる。

 刃がこぼれた斧を華麗にかわすと、剣で心臓を一突きした。


 頭目は2、3言呪いの言葉を吐くと、崩れ去った。


 剣を鞘に収め、周りを見る。

 いつの間にか、立っていたのは、隊長と1人の隊員、そして地面に蹲った臆病者の室長だけだった。


「薄氷の勝利だな。敵ながらあっぱれといったところか」


 と思ったが、さすがにおかしいと感じた。


 改めて山賊の数を数えてみる。

 30弱といったところか。


 確かに最初こそ奇襲を受けて数を減らされた。

 加えて、暗闇に、不慣れな室内戦という条件がそろったものの、厳しい訓練を積んだ大竜騎士団の団員が、ここまで苦労するだろうか。


「ともかく戻るぞ。団長にこのことを報告しなければ。王都に帰ったら、みっちりしごかれるだろうがな。……お前はデュバリイェ殿に手を貸してやれ」


 側にいた隊員に命じる。

 しかし、返ってきたのは聞いたこともないくぐもった声だった。


「その必要はない」


 瞬間、隊長は横薙ぎに払われていた。

 鉄をも両断する膂力は、あっさりと人間の胴を2つに分ける。


 その時点で絶命していたのはいうまでもなかった。


「ひぃ! ひぃやああああああああああああああ!!」


 乙女のような情けない悲鳴を上げたのは、デュバリイェだった。

 腰が抜け、どすんと大きな尻を地面に付ける。

 額に脂汗を浮かべながら、後ずさった。


「やめろ! 私はデュバリイェ・シューバルト! 未来の伯爵閣下様なのだぞ! こんなところで! こんな穴蔵で死ぬような男ではないのだ!」


 錯乱気味に喚く。

 しかし、騎士は無造作に近づいてきた。


 兜の向こうに人の形相はない。

 あるのは、赤い一対の光だけだった。


 股の間からもよおすデュバリイェの前に立つと、おもむろに先ほど隊長を両断した剣を掲げた。


「ひぎゃあああああああああああ!」


 どくん、と兜の向こうの光が強く輝く。


 その瞬間、無慈悲に剣が振り下ろされた。


初の名前付きキャラが散る。

デュバリイェ、嫌いな悪役じゃなかったけど、まあ当然だよね。

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