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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第1章 邪竜ガーデリアルと幼妻

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12/56

第11話 守護竜、食べられる。

日間総合36位でした。

ブクマ・評価・感想をいただいた方ありがとうございます。

「お腹が減った」


 ニーアの腹が力なく抗議の声を上げた。


 新たに我らの仲間になったフランは、自分で作った即席の竈から顔を上げる。

 そこら辺に転がっている岩や石で、あっという間に竈を組み上げてしまった。

 なかなか器用な娘だ。


「ニーア様、何を食べたいですか?」

「む。フラン……」

「何でしょうか?」

「ニーアに“様”はいらない。ニーアでいい」

「で、でも……。ニーア様はガーデリアル様の奥さんだから。フランはガーデリアル様に仕えているわけだから、その……ニーア様も」

「そういう気遣いは不要。ここはフランが住んでいた村長の家じゃない」

「ニーアもたまにはいいことをいうな」


 我はニヤリと笑った。

 ニーアは眉間に皺を寄せる。


「たまにはじゃない。ニーアはもうちょっと良いこと言ってる」

「むぅ。それはすまない。……フランよ、ニーアの言うとおりだ。気を遣う必要はないぞ。むろん、我にもだ。きさくにガーディと呼んでくれ」

「そんな恐れ多いです」


 縮こまるフランの手を、ニーアは握る。

 照れているのか、フランはピンと尻尾を伸ばし、顔を赤らめた。


「フラン、言ってみて。ニ・ー・ア! ――はい」

「ニ・ー・ア」

「うん。じゃあ、ガ・ー・ディ」

「ガ・ー・ディ……様……」

「“様”だめ。禁止」

「ううー。難しいです」

「ぐふふふ……。まあ、フランの言いやすいようにいえばよい」

「わかりました、ガーディ様」


 ぐぅ……。またニーアの腹の虫が鳴った。

 とうとうパタリと寝ころび、お腹をさすった。


「お腹減った……」

「あ。そうだ。ニーア、何を食べたいですか?」


 ニーアは糖分が薄まった頭で考える。

 ふと我と目が合った。


 ガバッと飛び起きる。


「ガーディを食べたい」

「へ?」

「む?」




 竜の肉は珍味として貴族の間で重宝されていた。


 一説によれば、牛のように弾力があり、鳥のようにヘルシーだとして、貴婦人には人気の料理だという。


 竜マニアのニーアもそれを聞いていて、1度でいいから竜の肉を食べたかったと話した。


「そっと……。そっとだぞ、ニーア」

「動かないで、ガーディ」

「あわわわわ……」


 ニーアは我が尻尾の一部を切り取ろうとしている。

 再生の早い尻尾なら、という条件付きでOKしたのだが、怖いものは怖い。


 ……しかし、世界のどこに夫の肉を食べたいという妻がいるのだろうか。


「行くよ、ガーディ」

「う、うむ。ばっちこい!」


 緊張のあまり、思わず変な言葉を使ってしまった。


 ニーアは兵士から奪ったロングソードを我の尻尾に入刀した。


「うひ……」

「動かない!!」

「はひ……」


 くううう、妙な感覚だ。


 前にスケルトン軍団に取り付かれた時、かなりボコボコと殴られたものだが、その時よりも1000倍ぐらい痛いような気がする。


 我の尻尾は思ったよりも柔らかかったらしく、スッと刃物が通った。

 そのまま縦に切り込んでいく。

 しばらく我慢すると、ニーアは人間の頭ぐらいの肉を取りだした。


「おお! 美味そう」

「これが竜のお肉……」


 良質な赤みが詰まった肉を見て、2人の少女は目を輝かせる。

 ごくりと喉を鳴らした。


「も、もう。良いか?」

「うん。ご苦労様」

「お肉とっても綺麗です」


 我の肉を褒められても、返答に困るのだが……。

 切り取られた部分をペロペロとなめながら、喜ぶ少女たちを見つめる。


「早速、焼く焼く」

「待て待て。それではいつもと同じだぞ。折角、フランがいるのだ。ちゃんと調理をしてもらえ」

「お肉の料理ですか。うーん。実は村長はお肉が苦手で。あまり作ったことがないのです」

「なるほど。……では、ハンバーグというのはどうだ?」

「ハンバーグ?」

「なにそれ? 美味しそうなワード」


 ニーアは爛々と目を点灯させる。

 意外と食いしん坊キャラなのか、我が妻は。


「昔の人間共の料理だ。たまに千里眼で人間共の暮らしを見ていたことがあってな。よく作っておったから、レシピは覚えておる」

「教えていただければ、なんとか作って見せます」

「自分でいっておいてなんだが、なかなか手間がかかるぞ」

「フランは料理当番になったのです。一杯、料理を覚えたいです」

「うむ。その意気だ」

「ニーアも手伝う」


 と言うわけで、ハンバーグを再現することになった。




 ハンバーグは材料集めから始まった。


 肉はあるからいいとして、合わせる“たまねぎ”という植物がない。

 フランはそれをオーパという山菜で代用する。

 程良い甘みと若干の粘性、さらに歯ごたえが似ていることから採用された。


 卵は近くの山鳥の巣から拝借する。


 これで一通り揃ったが、ここからが難しい。


 まず肉を挽肉にしなければならない。

 少女2人では手がかかる作業だ。


 そこで我はリンに命じて、2人が材料を探している間に、挽肉にするように命じた。

 肉をこまめに潰していく。

 ゴブリンはあれで力が強い。

 肉体労働には打ってつけだ。しかも、自分もハンバーグを食べれると聞いて、張り切っていった。


 しばらくして、我の肉は挽肉へと変貌した。


「わーい。ありがとうございます、リンさん」

「リン、グッジョブ!」

「ぎぃぎぎぎぃい」


 緑っぽいリンの顔が赤くなる。

 女の子に褒められて、モンスターも満更ではない様子だ。


 そこからはフランの出番だった。


 あらかじめ取っておいた肉の脂を使って、鍋に引く。

 みじん切りにしたオーパを投入し、炒め始めた。

 実はこの鍋。兵士どもから奪った兜だ(勿論洗浄済み)。

 鉄で出来ていて、底が厚く鍋にはもって来いだった。


 ちなみにフランの案だ。


 なかなか賢い子供だと、感心してしまった。


 炒めたオーパを冷ましてから、肉と卵を合わせて混ぜ合わせる。

 たっぷりの肉は粘性を帯びて、卵とオーパとよく絡む。


 適度な形に整え、早速焼く作業になった。


「待て。フラン」


 鍋に投入しようとしたフランを止める。


 我は大きく息を吸い込んだ。

 近くの岩場に向かって炎を吐きだした。

 岩を溶かさないよう、焦がさないよう慎重に熱量を調整する。


 やがて熱々の岩焼きが出来上がった。


「この上で焼いた方がよかろう」

「すごい……。ありがとうございます、ガーディ様」


 フランは早速ハンバーグのたねを焼いた岩の上に並べていく。

 勢いよく油が飛び、胃に直撃するような音がタフターン山頂に響き渡る。


「美味しそう」

「ダメですよ、ニーア。まだ食べちゃダメです」


 涎を垂らしながら、摘もうとするニーアを、フランがたしなめる。


 これではどちらが年上で年下なのかわからんな。


 リンも長い舌を出してしきりに唇を舐めている。

 スライムまで寄って来た。


 自分の肉が、皆の視線を集めているというのは少々複雑な気持ちになる。

 かくいう我も、牙の横から滲み出る涎が止まらなかった。


 フランは槍を使って、器用に裏返しをする。

 両方に焦げ目がついたところで、水を振りかけた。

 白い蒸気が噴煙のように立ちのぼっていく。


 なかなか壮観だ。


 同時に、香ばしい肉の香りが一帯を包んだ。

 息を吸い込むと、胃が勝手に肉の形と味を想像してしまう。


 ぐぅおおおぎゅるるるるるる……。


 竜の鼾にも似た音を立てたのは、ニーアだ。

 腹の竜に構うこともなく、蒸気の中のハンバーグを見つめた。


 蒸気が薄くなり、フランは岩に近づく。

 槍で火の通りぐらいをチェックすると、小首を縦に動かした。


「出来ました」


 獣人の少女は汗を飛び散らせながら、叫んだ。




 皿に見立てた大葉の上にハンバーグと、木の実、山菜が載っていた。

 それぞれの前に並べられる。


「どうぞ、お召し上がりください」

「いただきます!」


 ニーアは手を合わせる。

 最近、我が教えた料理の時の作法だ。


 早速、ハンバーグを摘むと、口に入れた。


「おいしい!」


 至福、といわんばかりに、ニーアの顔に幸せが広がっていく。

 先ほどまで病人のようにやつれていた表情が、みるみる輝きを取り戻した。

 一気に頬張り、葉についた肉汁までペロリとなめる。


「おかわりもあります」

「おかわり!」


 早速、ニーアは叫ぶ。


「こらこら、ニーア。野菜も取らなければならぬぞ」

「むぅ……。野菜は嫌い」

「野菜が食べると、美人になれるというぞ。我はそなたがもっと美しくなるところを見てみたい。だが、お主が野菜嫌いでは、それも叶わぬか。残念」

「フラン。野菜も一杯もってきて!」

「は、はい」


 ふふふ……。まだまだニーアも子供よ。

 だが、その純朴で素直なところが我は好きだ。


 リンもスライムも満足そうだ。

 すると、フランは我の方に皿を差し出した。


「ガーディ様も、どうぞ」

「うむ。我は宝物ドラゴンゆえ、人間の食べ物は」

「でも、先ほど涎が――」


 見ておったのか。


 恥ずかしい所を見られたな。


 まあ、宝物ドラゴンとて人間の食べ物を食べられぬというわけではない。

 ここはフランの厚意に甘えるとしよう。


「いただくとするか」

「はい」


 フランの顔に笑みがこぼれる。

 我の前に生け贄と差し出された時とは別人だ。


「その代わり、お主と半分こしよう」

「え? でも――」

「先ほどから身の回りの世話ばかりして、食べておらんだろう。食事というのは、みんなで食べるからおいしいのだ」


 フランは息を飲んだ。

 大きく目を開けて、呆然と我を見る。


 すると、滂沱と涙を流した。


 我はペロリとなめる。

 少女の涙の意味を悟った。

 おそらく村長の家では、1度とて一緒にご飯を食べたことがなかったのであろう。


「辛かったか」

「はい。……でも、少し嬉しい」

「嬉しい?」

「お父さんとお母さんと一緒に食べていたことを思い出したから」

「――であったか」


 またペロリと舐める。

 それでも少女は泣き続けた。


「ごめんなさい、ガーディ様」

「謝ることではない。さて、そろそろハンバーグをくれぬか。出来れば、我の舌に乗せてもらえるとありがたい」

「はい。喜んで」


 フランは丁寧にハンバーグを半分こする。


「ガーディ様、あーん」

「あーん」


 ちょこんと我の舌に乗せた。


 咀嚼する。


 うむ。美味だ。


 オーパの甘さ、肉の甘さ、卵黄の甘さ。

 それが渾然一体となり、舌に滑らかな味わいをもたらしてくれる。

 油もしつこくなく、さっぱりとしていて、それでいて噛み応えが良い。

 焼き加減も良く、本当に初めて作ったのかと疑ってしまうほどだった。



 あとはまあ、我の肉であるという複雑な事情がなければ満点だったのだが……。



「どうだ、フラン」

「美味しいです。ガーディ様は?」

「うまいぞ。フランはきっと良い料理人になれるな」

「はい。もっと美味しく出来るように頑張ります!」


 その時、強い視線を感じた。

 振り返ると、ニーアがじっとこちらを見つめている。

 その目は、兵士たちに対峙するかのように冷たかった。


「じぃ――――――――――」

「ど、どうした、ニーア」

「ニーアも『あーん』したい」

「あーん? ああ……。う、うむ。良いぞ。存分にやってくれ」

「じゃあ、ガーディ。あーん」

「あーん」


 我の舌に置く。

 だが、置かれたのは山菜だった。


「こら! ニーア!」

「山菜食べると、綺麗になる。ガーディ食べると、格好良くなる」

「お主、自分が食べたくないからであろう」

「ばれた。ニーアの心を読めるなんて。ガーディとニーア、相思相愛」

「誤魔化すな!」


 我とニーアの夫婦喧嘩を見ながら、フランは笑った。

 リンも笑い、スライムもにょろにょろと波打つ。


 タフターン山に、幸せの音が響いた。


次回なるべく早めに投稿します!

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