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3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。  作者: 延野正行
第1章 邪竜ガーデリアルと幼妻

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第10話 村長、燃え散る。

お待たせしました。

ちょっと長くなったので読む時は気をつけてください。


日間総合50位。

日間ジャンル15位まで来ました。

ブクマ・評価いただきありがとうございます。

 生け贄をタフターン山に送り出した夜。

 村長はお告げを聞いた。


『村長よ。話がある。至急、タフターン山へ来るのだ』


 老人は飛び起き、深夜にも関わらず衛士の詰め所の扉を叩いた。

 竜のお告げについて説明する。

 そして、守護竜ガーデリアルが怒っていると主張した。


「きっと生け贄が足りないのだ」


 譫言のように繰り返した。


 深夜に起こされた衛士たちは、対応に迷う。

 頭のおかしい村長を無理矢理にでも寝かしつけたいところだが、今のままでは単独で飛び出しかねない。


 結果、衛士たちはタフターン山に同行することにした。


 村長はあの正気を失った目で「生け贄」と主張したが、さすがに2人、3人も生け贄を送るわけにはいかない。


 とりあえず、山の様子を見に行くことになった。


 夜明けを待ち、入口へと向かう。

 まず驚いたのが、観光用の入口が崩れ、塞がっていたことだった。

 自然に崩れたとは考えにくい。

 硬い岩盤が炸裂系の魔法でも使われたように砕かれていた。


 衛士と村長は仕方なく試練のダンジョンの入口へと向かう。

 すると、どこからともかく笑い声が聞こえた。


『よくぞ来た、村長よ。我は守護竜ガーデリアル。さあ、我が試練のダンジョンを通り、我が元へと来るがよい』


 竜の声を聞き、今まで半信半疑だった衛士たちも、ようやく村長の言葉を信じるようになった。


「ガーデリアル様。どうかお慈悲。生け贄が欲しければ、また差し上げます。お気に召さないのであれば、何人でも差し上げましょう。ただどうか。お怒りをお鎮めくだされ」


 村長は我を失ったかのように懇願する。

 膝をつき、何度も地面に額を打ち付け、謝罪した。

 しかし、竜からの反応はない。


「やはり……。やはり竜は――――」


 さめざめと泣くが、竜からの慈悲はない。

 どうする、と協議する衛士の横をすり抜け、老人は洞窟へと歩き出す。


 追いかけるように、衛士たちも洞窟へと入っていった。



 ◆◆◆



 来たか。


 村の衛士どもも一緒か。

 少々厄介ではあるが、ここは村長を讃えるべきであろう。


 これで再び武具が揃う。

 かなり集まった故な。

 そろそろ大型のモンスターでも呼び出せる頃合いだろう。


 我は千里眼で状況を確認する。

 第一の試練のスライムに念話を飛ばした。


『手はず通りだぞ、スライム』

「にょろにょろ」


 わかっているのかわかっていないのか。

 相変わらずわからぬが、まあ、良かろう。


 そうこうしているうちに、第一の試練の間に衛士と村長がやってくる。


 気持ちの悪いモンスターを見て、村長は縮み上がったが、衛士は至って冷静だった。


「落ち着いてください、村長」

「なんだ、スライムかよ」

「ビビって損したぜ」


 1人が村長を守り、2人が取り囲む。

 徐々にモンスターとの距離を詰めていった。

 やがて槍の間合いに入る。


「何が試練のダンジョンだよ」


 雑草でも刈るように衛士の1人は槍を振り下ろす。

 スライムはギリギリでかわした。


「くそ! すばしっこい」


 悪態を吐く。

 それと同時に何か硬い音が聞こえた。



 カチッ!



 瞬間、光が広がる。

 さらに耳を突き破るような鋭い音。


 視界が白に染まっていた。


 音も聞こえない。

 すべての感覚がなくなったような気さえした。


「くそ!」

「何も見えねぇ!」

「村長、ご無事ですか!」


 口々に叫ぶが、誰の耳にも入らない。

 やがて時間が立ち、次第に光は晴れていく。耳も聞こえるようになってきた。


 チカチカする目を何度もこすりながら、衛士たちは周りを見る。


 村長は無事だ。

 両肩を自らの手で抱き、震えている。


「なんだったんだ、なあ?」


 1人の衛士が同僚に話しかける。

 返事はない。振り返ると、衛士の1人が倒れていた。

 苦悶の表情を浮かべ、肌は真っ青になっていた。


「死んでる」

「スライムにやられたのか、嘘だろ。最弱モンスターだぞ」

「た、祟りじゃ。竜の祟りじゃ!」

「いえ。窒息死です。口の中にスライムが入り込んだのでしょう」


 村長を守っていた衛士が、口の周りについたスライムの一部を見つける。

 当のスライムは姿も形もなかった。

 仲間を診ていた衛士は立ち上がると、残った2人に進言した。


「1度撤退しよう」

「はあ! ふざけるな! 仲間が1人――いや、もしかしたら4人、5人かもしれねぇ。モンスターにやられてるんだ。今さら、おいそれと帰れるか!」

「私はガーデリアル様の元へ行かなければならないのです。あなたがいかなくても、私1人だけでも行きます」


 先ほどまで怯えていた村長は立ち上がる。

 衛士たちを押しのけ、先頭を歩き出した。


「俺は爺さんについていくぜ。帰るなら、お前1人で帰って、上司にでも報告しろ」

「おい。待て」


 呼び止めたが、衛士の言葉を聞く者はいなかった。





 スライムは人間のような聴覚器官や視覚を持たない。

 基本的に動くものに反応している。


 故に音響閃光弾の中でも、敵を補足し、襲うことが出来る。

 目も耳も塞がれた状態で死体が現れれば、祟りと間違うのも無理はない。


 ちなみに窒息死を狙わせたのも我の薦めだ。

 正直出来すぎなぐらいだろう。

 あと2、3回はこの戦法が使えそうだ。

 スライムの量産も頭の中に入れておくか。


 ヤツらはもうすぐ第2の試練に辿り着くようだ。

 我は念話を飛ばす。


『用意はいいな、リン』

「ぎぃぎぎぎぃいい」


 すっかり愛銃となったKG-9(改)を構えた。

 それと同時に衛士どもが現れる。


「今度はゴブリンかよ」

「油断するな。さっきのように何か隠しているかもしれん」

「は! 楽勝だろ、雑魚モンスターだぞ!」


 仲間を殺され、頭に血が上っているのか。

 1人の衛士が猛牛のように突進してきた。

 槍を振り上げ、ゴブリンに接敵する。


 リンは銃口を衛士に向けた。


「気を付けろ! それが貫通痕の正体だ」


 もう1人の衛士が何かに気付いた。

 KG-9(改)が火を吹く。


「大気の神アラムよ。我が声を聞き届け、邪悪なるものの進軍を阻め!」


 銃火が光る一瞬前、衛士は呪文を唱えた。

 9×19mmのパラペラム弾が大気の壁に弾かれる。


「た、助かったぜ……」


 突っ込んだ衛士がホッと胸を撫で下ろす


 一方、我は舌を打った。


 衛士の中に魔法使いがおるのか。

 先ほどのスライムの手際を看破した推理力といい、地方の警備局にいるにはもったいないほど優秀だ。


 だが、これぐらい越えてもらわなければ、こちらとしても張り合いがない。


『リン、下がれ』

「ぎぃぎぎいぃい」


 リンはピョンと飛び上がって、数歩分後ろに下がった。

 衛士はしつこく追いかけてくる。


「逃がす――――」


 言葉は途中で切れた。

 不意に皆の視界から衛士が消える。


「まさか――」


 魔法を制御していた衛士が駆け寄る。


 部屋にぽっかり大きな穴が空いていた。

 底には先端を尖らせた木の棒が幾重にも打ち込まれている。


 その1本に同僚が串刺しになっていた。

 口をカッと開け、絶命している。


 仲間の死の余韻に浸る間もなかった。

 リンのKG-9が再び火を吹く。

 乾いた連続音が空間内に響いた。


 すぐさま切り替え、衛士は1度目の射撃を回避する。


「大気の神アラムよ。我が声を聞き届け、邪悪なるものの進軍を阻め!」


 大気のスクリーンを呼び出し、防御した。


『リン、後退しろ。1人倒すことが出来た。十分だ』

「ぎぃぎぎぎ」


 リンは奥の道へと逃げていく。

 衛士は追撃しようとしたが、足を止めた。


「やはり撤退すべきだ」


 振り返る。

 そこに村長の姿はなかった。




『ニーア、もうすぐ衛士が来るぞ』


 念話で我が妻に話しかける。

 ニーアはすでに準備万端整っていた。


 愛用のFN Five-seveNをくるくると回す。

 銃の扱いにはかなり慣れたらしい。


「わかったー。それよりもおじいさんいかせていいの」


 今し方、頂上への道を案内した村長のことを聞く。

 老人が残していった足跡に向け、サイトを覗き込む。


『よい。村長のこと我に任せよ』

「わかったー」

『ニーア。相手の衛士はなかなかの手練れだ。あまり無理をするなよ』

「ニーアのこと心配?」

『心配をしなかったことなどあるものか』

「てへへへ……。嬉しい。でも、大丈夫。ニーアは強い」

『わかってる』

「来た」


 ニーアの目から光が消える。

 残ったのは殺意という冷たい刃だった。

 坂道を走ってきた衛士は額の汗を払いながら、顔を上げた。

 少女の姿を見て、息を飲む。


「君は……」

「ここから先は行かせないよ」


 Five-seveNの銃口を衛士に向ける。

 放たれた殺意を受け止め、改めて衛士は息を飲んだ。

 ゆっくりと槍を構える。


「君が何者であろうと、通してもらおう」





 村長は胸を押さえながら、ようやく頂上にたどり着いた。


 我を見て、一瞬後ずさる。

 そのまま心臓発作を起こすのではないかと思うほど、口をあんぐりと開けていた。


「どうした、村長よ。近う寄るが良い」

「お、恐れ多いことで」

「来るが良い……!」


 その場で膝を折ろうとしたのを言葉で押しとどめる。

 村長は再び立ち上がり、我の前に立った。


 緊張からか上手く息が出来ないらしい。

 まるで喉に穴が空いたような奇妙な音を奏でていた。


 やがて我の前に傅いた。


「確認しよう。貴様が村長か」

「私が村長です」

「何故、我に生け贄を送った?」

「い、生け贄がお気に召しませんでしたか? ならば、もっと見目うるわ――」

「我は理由を聞いておる」

「ひぃ!」


 子鼠のような声を上げる。

 頭を垂れ「お許しを」と唱えるばかりだ。

 我は呆れ、そのまま話を続けることにした。


「我は生け贄など欲してはおらぬ。3000年の歴史の中で1度としてな」

「私はあなた様のことを思い」

「自分のためではないのか?」

「滅相な」


 すると、我の背後から1人の少女が現れた。

 近くの川で水浴びをし、すっかり身綺麗になっていた。


「フラン! お前、どうして生きている?」

「…………」

「お前が捧げたものを我がどうしようと勝手であろう」

「そ、それはそうですが……」

「そもそもこの女は今こそ綺麗な姿でおるが、我の元へ送られた時は、口に入れるのも憚るほどの汚い姿をしていた。貴様は、我を神聖視しながらも、泥を喰らえというのか」

「ち、違います」

「我に捧げるものでありながら、己が手を挙げたものを我に供すのが、そなたら人間の礼儀か!?」


 我は吠えた。


 村長は額を地面にぶつけ、手を組んで許しを請うた。

 涙ながらに顔を上げると、フランに言った。


「フラン、頼む! どうかそなたからも竜様にお怒りを沈めるようにいってくれ。頼む。この通りだ」


 また額をこすりつけ、獣人の少女に頭を下げた。

 フランは小さく丸まった村長を見つめる。


「といっておるが、どうする、フラン」

「…………」


 フランは何も言わなかった。

 ただじっと薄汚い老人を見つめた。


「我に任せるということで良いか?」

「……はい」

「フラン! お願いだ。私を助けてくれ」

「フランは何度も村長に『助けて』っていいました」

「――――!」

「でも……。でも、助けてっていっても。村長はその数だけぶちました」


 涙ながら、フランは語る。

 我は涙を拭き取るように、小さな顔を舐めた。

 フランは我の顎に寄りかかり、さめざめと泣く。


 少女の嗚咽がタフターン山に、しばし響き渡った。


 我は顔を上げる。


「村長よ、先ほど言ったな。生け贄が召さないのであれば、また連れてくると」

「は、はい」

「我の好みを知りたいか?」

「ぜ、是非お教えください。必ずやご期待に……」

「老人がよい」

「はっ?」

「白鬢、禿頭。齢80を越える小ずるい老人が良い」

「それは――――」

「おお。ぴったりなご馳走(ヽヽヽ)があるではないか。目の前に……」


 我は目を細める。

 ニヤリと笑った。


 逆に老人は枯れ木のような足をがくがくと振るわせた。

 緑のローブに黒いシミが広がっていく。


「ひぃひいいいいいい!!」


 猿のような獣声を上げた。

 老人はくるりと身体の向きを変え、犬のように四つん這いで逃げ始めた。


 我は大きく息を吸い込む。

 ボッと口内が炎で満ちるのを感じた。



 炎息!



 紅蓮の塊が老人を飲み込んだ。


「――――――――――!」


 悲鳴が聞こえたような気がしたが、それすら炎でかき消されていく。

 残ったのは、微細な塵だ。

 それも山風が攫っていくと、村長だった者はこの世から完全にいなくなった。


「ガーデリアル様、ありがとうございます」

「うむ。フランは我が眷属となったのだ。部下の要望を聞くことも、上司としての務めだ」

「ガーディ、終わったよ」


 洞窟の方から声が聞こえる。


 ニーアがFive-seveNをくるくると回しながら、歩いてきた。

 やはり苦戦したらしい。


 頬に傷が出来ていた。


「大丈夫か、ニーア。大事な顔に傷が出来ておるぞ」

「うん。かすり傷。大丈夫」


 傷を撫でると、ニーアは親指についた血をペロリとなめた。


「き、痕が残ると大変だ。早速手当をせねば」

「傷がある女の人、ガーディ嫌い?」

「そなたがどんな容姿であれ、我はそなたが好きだぞ」

「ありがとう、ガーディ」


 我はべろりとニーアを舐めた。

 容姿は関係ないといったが、ニーアが女の子であることに変わりはない。


 早く治さなければ。


 我はいつもよりも念入りに舐める。


「くすぐったいよ、ガーディ」

「しばらく我慢するのだ」

「2人ともとっても仲良しなんですね」

「うん」

「うむ」


 我らの息は同時に頷くのだった。


1度でいいから、村長を燃やしたかった。

次は町長、お前だ。


明日、1話だけの更新の予定です。

明後日からはもうちょっと更新出来るように頑張ります!

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