第七章 7/8
「そも、魔法とはどのような仕組みか」
チョークを手に黒板の前に立つミサコ。
「呪文を唱えたり、印を結んだりだろ」
がらんとした空き室の一つを教室にして、ミサコの魔法の講義が始まった。
「それは手段じゃな。ワシはもっと本質的な話をしておる」
「本質と来たか」
「さよう。魔法の本質とは、この世界に対するハッキングじゃ」
ミサコはその細い腕と細い指を見せつけるように顔の前に立てた。回りくどいな、と俺は背もたれに背をつける。
「そう怪訝な顔をするな。「クロスサイトスクリプティング」……と言えばわかるじゃろう」
「ああ、なるほどそういうことか……ってなるか阿呆! なんだそのクロスカントリー選手権とかいうのは。何語だ」
「日本語じゃ」
「どう聞いても英語だ」
「外来語も日本語じゃよ。日本語の懐は深い」
「悪いが俺の日常にはそんな外来語は飛び交ってなかったんだよ」
ほうそうか、良い例えじゃと思ったんじゃが、とミサコは残念そうだった。
「なら他のたとえで説明しようかのう。端的に言えば、魔法、それは……」
もったいぶるように、チョークをくるくると宙に放り投げ、
ぱきっ。
……落下するそれをキャッチし損なって床で二つに割れるのを二人で沈黙をもって見る。
……。
「「とじかっこ」を喋る技術じゃ」
拾おうとしないので仕方なしに俺が拾う。
「とじかっこ?」
「そうじゃ。とじかっこじゃ」
俺から割れたチョークの片方を受け取り、ミサコは黒板に文章を書き始めた。
『偉大なる魔導師ミサコは、空を見上げて呟いた。
「」
タケマサはミサコの可愛さに見惚れている。』
「たとえばこういう文章があったとして、この会話文のところに何を入れる?」
俺はもう片方のチョークで黒板に向かう。
『偉大なる魔導師ミサコは、空を見上げて呟いた。
「雨おいしいなあ」
タケマサはミサコの可愛さに見惚れている。』
殴られた。
「なんじゃそれは。ワシを何だと思っておる」
「しょうがないだろ、お前が会話文のあとに余計な一文を書くからだぞ」
「これじゃ可愛いは可愛いでもアホの子を見る目ではないか」
「つまり正しいだろ」
また殴られた。
「正しいわけがあるか」
ミサコは俺が書き加えた台詞部分を消した。
「ったく……。まあよい。さて、魔法というものは簡単に言えば、こうすることができる技術じゃ」
『偉大なる魔導師ミサコは、空を見上げて呟いた。
「雨よ、降れ」すると突然どしゃぶりの雨が降り始めた。「いやん」
タケマサはミサコの可愛さに見惚れている。』
「このように、とじかっこを入れて、台詞を終わらせる。そして地の文を続ける。……わかるかの? 「雨よ、降れ」の直後のとじかっこをワシが「喋った」ことによって、以降は台詞ではなく地の文になるのじゃ。つまり背景描写のふりをして雨を降らせることができるわけじゃ。そして最後に台詞に戻すための開きかっこをつけて会話に戻る」
「いやんって何だよ」
「そこじゃなかろうが。今つっこむのは」
まあな。
「えっと……よくわからんが、この「雨よ」から「いやん」までの途中の地の文を挟んでいる部分全部を付け加えたってことか?」
「そうじゃ。本来ならこのタケマサが見惚れている間、ワシは言葉を喋るだけじゃ。だがこのように魔法で「地の文を挟む」ことで雨を降らせることに成功しておる。つまり、魔法の鍵となるのはこのとじかっこじゃ。これを喋ることで地の文、つまりこの世界の理に働きかけることができる」
「なるほど! ……とはならないだろ。とじかっこを喋るってどういう意味だ。わけがわからん」
やれやれ、とミサコは肩をすくめてみせた。
「せっかちじゃな。そこがミソなんじゃろうが。そこが難しいんじゃろうが。考えてもみろ。誰もがそんな簡単にとじかっこを喋れてしまったら、大変なことになってしまう。何でもやりたい放題じゃからな」
そうだよな、と俺は黒板を書き換える。
『偉大なる魔導師ミサコは、空を見上げて呟いた。
「空からお金が落ちてこないかなあ」すると突然タライが落ちてきた、「カーン」
タケマサはミサコの可愛さに見惚れている。』
「やめい! だいたいそれに見惚れてたらお前変な趣味じゃろうが!」
「まあつまりやりたい放題だってことだろ? とじかっこを喋ることさえできれば、この地の文のとこでいきなり世界を滅亡させたり、長編1000ページの冒険小説を差し挟んでもいいわけだ」
理解は早いのじゃな、とミサコは口を尖らせた。
「まあそういうことじゃ。もちろん、「とじかっこ」というのは比喩で、会話文とか地の文というのも例えじゃがな。じゃがイメージとしては、魔法の本質はそういうものじゃ。ただ、こんな乱暴なことは普通人間にはできん。もし自由にとじかっこを操り、何でも地の文をいじくれる者がおったなら、それはもはや神と同じじゃからな。この世界自体をいかようにでも書き換えられるわけじゃから」
ミサコは、台詞部分を再び消した。
「このやり方は、人間には基本的には不可能じゃ。人間にはどうやっても、とじかっこを喋ることなどできん。直接的にはな」
「直接的には?」
「人間の代わりにやってくれる者がおる。つまりこうじゃ」
『偉大なる魔導師ミサコは、空を見上げて呟いた。
「精霊よ、雨を降らせよ」
(……精霊は命令に従い雨を降らせ始めた……)
タケマサはミサコの可愛さに見惚れている。』
「その最後の文もういらないから消していいか?」
無視された。
「つまりこのように、地の文を直接ワシがいじることができなくとも、代わりにそれをやってくれる存在がおる。それを精霊と呼ぶ。我々人間が魔法を使うには、基本的にこの精霊に力を借りる必要がある」
「それで、ライセンスか」
「さよう。ライセンスを取得しておれば、呪文や印、魔法陣といった手段を使って精霊に命令を下し、自分に代わって地の文を書き換えるように働きかけることができる。火を起こしたり、風を起こしたり、空を飛んだり、瞬間移動したりな」
「……精霊って、そもそも何なんだ?」
「ワシも見たことがあるわけじゃないからよくわからんが、ありとあらゆる場所に存在する、力ある元素みたいなものではないかと思う。原始的なものと、高等なものと、種類は様々いるようじゃがな」
「見たことがなくてよくわかるな」
「物理法則という誰も見ることができないものを解明してきた世界の人間が何を言う。百聞は一見に如かず、しかし百見は一考に如かず。見ることよりも考えることのほうが圧倒的に多くを知ることができる。それを実践してきたのが我々「異世界人」ではないのかね?」
「……時々感心させられるよ、あんたには」
エヘン、とミサコは無い胸を張った。
「しかし百考は一行に如かず。考えるだけではライセンスは取れん。実際に使ってみなければならんのだが、あいにくと精霊力の無いワシには魔術師のライセンスはとれん」
「精霊力……か」
「魔力とも言うな。さきほど言った、精霊に命令を出すための力、相性のようなものだ。訓練次第で上げることもできるが、簡単ではない」
お主には、と俺を指さす。
「魔法の腕輪という反則技を使っているが、一応魔術師としては人並みの精霊力を持てている。先ほどのたとえで言えば、とじかっこを喋ることはできずとも、精霊に命令を出して地の文に働きかけることはできる程度の力がある、ということじゃ」
裏通りの雑貨屋で買った腕輪をしげしげと見つめる。
「幸運だな」
「全くじゃ。しかし幸運も利用しなくては意味がない。制約魔法を使うには、少しばかり魔法体系について学んでもらうぞ。良いな」
よしこい、と俺は頷いた。
*
「無理だ」
「あきらめるのが早い!」
「いやだって、三日ってどういうことだ」
「たったの75時間じゃ」
「72時間だよ! お前の心臓換算で数えるんじゃねえ。……あのな、呪文を覚えるのに三日とかならまだわかる。蘇生魔法だって習得に一週間かかったしな。だが、呪文の詠唱だけで三日かかるってどういうこった。不可能だろ。起きてるだけで不可能だ」
「睡眠妨害魔法を使うから平気じゃ」
「明らかに平気じゃなさそうだろ、何その健康被害が出そうな魔法。だいたい食事はどうする。トイレは? 三日間ずっと呪文唱えてろって俺は修行僧か」
「うるさいのう。五分や十分くらい詠唱を中断する技術も存在するから安心せい。食事も取りながらで良いし、軽く体を動かしながらでも良い。三日間というのはあくまで予想じゃ。もっと早く終わることもある」
「なんったって、そんな長くかかるんだ」
「さっきから言っておるじゃろう。制約魔法は、まだ契約精霊を使うことができん。原始精霊を使った術式の組み立てしかできておらんのじゃ」
「その契約精霊とか原始精霊って何だよ」
「契約精霊というのは高等精霊じゃ。言ってみればパッケージ化された魔法じゃな。精霊に細かくいろいろ注文を出さなくても、予め決められた一定の効果を出すように教えてあって、契約を結んだ相手であれば比較的短い呪文で精霊に命令が出せる。たとえば、「おいしいハンバーグランチを作っておいて」と命令するような感じでな。そうすると、肉屋八百屋牧場を回って適切な材料を手に入れて、肉を切り玉ねぎを刻み調味料を混ぜ焼いて皿に盛りつけ仕上げのソースをかけてナプキンとナイフとフォークを並べてくれる。それが契約精霊。ライセンスを結んで使う一般の魔法は、こっちじゃ」
「いいじゃないか。便利な使用人だ」
「その通りじゃ。じゃからある程度の修行を積めば誰でも呪文丸暗記で使えたりする。熟練の魔術師なら、肉の焼き加減に注文をつけたり、好みの調味料を加えたりといったアレンジした指示を出すこともできるようになる。呪文の組み替えというやつじゃな」
「それができるのが……魔術師ライセンスって話だったか」
「さよう。しかし所詮はアレンジにすぎん。ハンバーグランチを作るという大きな作業の流れはインプットされている。精霊もそのつもりで動く。それが契約精霊。……じゃが、原始精霊というのはそうではない。何もインプットされておらん」
「となると?」
「まずどこの肉屋に行って、何の動物のどこの肉を何グラム買ってこい、というところから指示しなくてはならん。次は野菜。玉ねぎは新玉ねぎを、付け合わせにレタスを、無ければ他の野菜を……と細かく指示を出し、料理の工程も一から十まで指示をする。そうしないと何もできんのが原始精霊じゃ」
「……使えない使用人だな。自分でやったほうが早そうだ」
「それができればな。とじかっこを喋れない我々には直接やるという手段はない。面倒でも、一個一個指示を出していくしかない。じゃから、呪文も長大になる」
「……なんとなく理屈はわかったが……しかしそんな読み上げるだけで三日もかかる呪文を覚えるなんて不可能だぞ」
「覚える必要はない。原始精霊はそんなこと認識せん。スクロールを読みながらで良いし、間違えたら訂正もできる。もっとも、どう間違えてどう訂正するかは自分で考えなければならんがな……」
「うーん、不便なんだな……制約魔法……」
「じゃからライセンス化したいと思ってはおる。契約精霊を使うことができればだいぶ楽になる。じゃがそれにはまだまだ研究が必要じゃ。今は原始魔法で我慢せい」
「うう……」
「原始魔法にも良いところはある。ライセンスが不要で、誰でも魔力さえあれば使える。……契約精霊というものはあれはあれで厄介でな。どういう仕組みかわからんが、他の契約精霊と契約すると効果が出なくなったりする。それで神殿はライセンスを相性の良いもの同士で組み合わせてパッケージして、職として整理しておるのじゃ。ものによっては他の契約精霊を一切拒否するようなものもおる。お主の使う蘇生魔法なぞその典型じゃな」
「そういうことだったのか……」
まさか魔法の仕組みをこの世界の人間じゃないこいつに教わるとは思わなかった。
「いずれにせよ、原始精霊を使う分には蘇生師ライセンスであろうと問題ない」
「ただ魔力がありさえすればいい、か」
車に乗るなら免許は要るが、自分で走って行くなら免許は要らない。ただ体力が要る。……というのと同じようなものか?
「さっき紙を見ながらでもいいと言ってたが、だったら俺は何をしたらいいんだ? 呪文覚える必要が無いなら、ただ何も考えずに読み上げればいいのか?」
たわけ者、とミサコは俺の頭をはたいた。
「それじゃ一文字でも間違えたらアウトじゃろうが。一言一句暗記しろとは言わんが、呪文の全体構成くらいは頭に入れておいてもらわんと、間違った時に修正も効かんし……それに、そもそも詠唱とてただ棒読みするのでは駄目じゃ。原始魔法というのは契約精霊を使うのと違って、対話型の魔法じゃからな」
「対話型?」
「精霊と会話をしながら魔法を組み上げていくということじゃ。精霊の反応に合わせて臨機応変に術式を変えることが必要じゃ」
「急に難易度が上がったぞ」
「すぐ音を上げるな。心配するな。一人でやれと言っとるわけじゃない。ワシが横について術式の組み替えはサポートする」
「なんか……だいぶ勝手が違うんだな」
「原始魔法というのはそういうものじゃ。そもそも魔法とは、複数の魔術師が何晩もかけて行う儀式だったのじゃ。精霊魔法、つまり契約精霊を使う魔法が出現するまではそれがこの世界の魔法の使い方だったのじゃぞ」
「お前ほんとに俺と同じ世界から来たのか? 何でそんなに詳しいんだ?」
「オタクを舐めるでない。……で? やれそうな気になってきたか?」
「まあわかったよ。……やってみるさ」
*
「……まったく発動しないぞ」
教えられた通り、まずごくごくシンプルな原始魔法を使い、原始魔法の何たるかをつかむことから始める。初めにトライしてみるのは、「手先を暖める魔法」。じんわりと手先を暖める程度らしいのだが、この程度でも呪文の詠唱に5分ほどかかる。抜群の使いづらさだ。
「推測じゃが、原始精霊とのネゴシエーションが全くできておらんのじゃろう。対話型だと言った筈じゃ。ただ呪文を読み上げとるだけでなく、もっと精霊の声に耳を傾けろ」
「んなこと言われてもどこにいるのかもわからんのにどっちに傾けたらいいんだ」
「どこにでもいる。耳で聞くのではない。原始精霊の息吹を感じ取るんじゃ」
急に指導がフワッとしたものになり始めた。
「んな無茶な。コツを教えてくれ」
するとミサコは困った顔をした。
「ワシにだってできぬことじゃ。これに関しては理論も何も無いのでな。教えられん」
「なにい。……どうやってたんだ、前の王様は」
「アルフレッドか。……わからん。最初からできたからのう。原始魔法の心得はあったようじゃ」
「くそ……。天才は全く参考にならんな」
感じ取れとか言われても、原始精霊の息吹とかいうものが全く感じられない。それがどういうものかも想像がつかないので正直弱る。
「まさかこんな最初の一歩で躓くとは……」
*
ガチャリ。
「どう? 順調?」
「……アリサリネか。……まったく順調じゃない……」
俺は見ていた紙を置いて、首をふってみせた。
「こうも最初でつまづくとはな……。呪文構成はわりとすぐ理解できたんだけどな……」
「あれ、魔導師様は?」
「ミサコか? あまりにうまくいかないから、他の手を考えると言って出て行った。これはやはりアリサリネの対象限定を解くしかないかもしれんぞ……と言っていた。俺もそうなりそうな気がしている」
俺はポリポリと頭をかいた。
「原始精霊とかいうものが全く感じられない。俺にはその才能が無いらしい」
「才能なんて要らないよ、原始魔法はそんなもの要らないのがメリットなんだから。でも確かに原始精霊の反応を感じるのは大人になってからだと苦労するかもね」
「なぬ。子供ならできるのか?」
「魔術師を目指す子供は、ライセンスが取れる年齢になるよりはるかに前から、魔法の勉強や訓練をする子が多いよ。仮免が取れるまでの間は簡単な原始魔法を使うことで魔法のコツをつかんだり精霊力を上げる訓練をするの。原始魔法は小さいうちのほうが慣れるのが早いから、子供向けの魔法だって言う人もいるくらい」
「……それを聞くと、この年になって異世界に来てしまった俺としては辛いな……」
もう手遅れだと言われているような気分だ。
「大人だって使えないなんてことはないんだから、まだ諦めるのは早いって。二、三時間やれば大抵はコツがつかめてくるって」
「もう六時間以上やってるんだが……」
紙に書いた原始魔法の呪文を暗記するほど繰り返した。だが何度やっても、手が暖かくなる感覚などないし、それ以外にも何も感じなかった。
「ちょっとやってみてくれよ。手を暖める魔法」
アリサリネは頷いた。静かに呪文を唱え始める。
「できた……かな。発動条件にやっぱり引っかかるみたいで、ほんのちょっとしか効かないけど」
「発動条件……対象限定の話か」
「うん。自分自身は対象に入れてないから」
まあ、蘇生魔法を自分自身にかける機会があったらビックリだしな。
「ほら、手がちょっと暖まってる」
アリサリネの出した右手を握る。
「うーん……暖かいと言われればそんな気もするが、俺の手が冷たいだけのような気もするな」
「左と比べてみて」
出された左手を握る。
「ああ、確かに言われてみると差があるな。すると右は魔法が発動しているってことなのか」
ガチャリ。
「タケマサ。さっき聞いたけどあんたティルミアとかいう女と結婚してるって本当……」
ミサコが何か言いながら部屋に入ってきて、俺たちを見て硬直した。
バタン。
そして扉を閉めた。なぜか、見てはいけないものを見た、という表情だった。
ガチャリ。
再び、そうぅっと扉を開けるミサコ。
「……お邪魔だったかな……?」
俺はそこでようやくその反応の意味に気がついた。
「待て。変な誤解をするな」
「両手を取り合って見つめあってんのを他にどう解釈しろと」
「今のは原始魔法を試しにだな……」
「不倫はダメでしょうが。いくら異世界とはいえ」
「おいちょっと待て。さっき変なこと言ってたろ。ティルミアとは結婚なんぞしてないしつきあってもいない。誰が言ってたんだそんなこと」
「あの魔王様が。ティルミアって殺人鬼が突撃してくる可能性があるから注意しろとか言っててさ。それ誰って聞いたら、あんたのヨメだって」
魔王め。説明が雑だ。
「ティルミアは別に嫁じゃない。だいたいまだ17のガキだぞ」
「十分じゃん。ありえないほどの年齢差じゃないでしょ」
「23にとっての17だぞ? 比率で言ったら、46歳にとっての34歳だぞ」
「……わりとありうる年の差カップルだけど」
まあ確かにそうだ。例えが悪かった。
「ともかく魔王の言ってることを真に受けるな。ティルミアは殺人鬼で、確かにあの事務所の連中も含めて城に来ることは十分にあると思う。っていうか、俺的にはそれを待ってるんだけどな。だが結婚だとかなんだとかいう話はただの魔王の決めつけだ」
「そうなの? まあ正直別にあんたが既婚だろうと何だろうとどうでもいいんだけど、不倫はダメでしょ不倫は」
「いやまず誤解だ。アリサリネには単に原始魔法を試してもらってただけだ。何もない」
アリサリネがウフフと笑いながらしなだれかかってきた。
「そんなムキになって否定しなくてもいいじゃない。ひとつ教えておくとね、タケマサ。この世界では一夫一妻でないといけない決まりもないし、結婚してるからって他の異性と何かしちゃいけないことがあるわけじゃないのよ? つまり今だけ私とイチャイチャしても何も問題ないってこと」
「あのな……。そんなことより、原始魔法のコツがサッパリ掴めないままなんだが……。これどうするんだ」
話が前に進まない。こんなことで本当に制約魔法が使えるようになるのか。




