第六章 2/8
メイドがいた。
宴の翌日の朝。昨日飲んだ酒のせいか、早く目が覚めてしまった俺は朝の散歩と洒落こむことにした。アジトの外に出て、早朝の静かな空気を味わおうとしたところでその姿を見つけた時は、まだ夢かと錯覚した。
深い紺のロングスカートに、白いエプロン。そしてカチューシャあるいはヘッドセットと言うのだろうか、頭に乗せるひらひらした白い飾り。まごうことなきメイドの格好だった。
困った顔をしていた。
メイドの格好というのは困った顔が似合う。メイドというのはもしかしたらその職務の筆頭は困ることではないだろうかと、そんな意味も無く失礼なことを思った。
「何か用か? ここに」
目があってしまい、仕方なしに俺は声をかける。
こんな辺鄙なところに来るくらいだから、ここがメイリ率いる面白タレント事務所だと知っていて来たのだろうとは思ったが。
「あ、あの……! 朝早くに申し訳ございません……!」
確かに朝早い。6時を回ったくらいか。
「その格好じゃ旅人ってこともないだろうが……何か用か?」
そもそも森の中の道なき道を抜けて来なければこの場所にはたどり着けないので、そんなロングドレスで歩いてきたら草木にすれてだいぶ汚れてしまう筈だが、汚れは目立たない程度だ。どうやって来たのだろう。
「あの、このあたりにメイリ様の事務所があると伺ったのですが、どちらかご存じでしょうか」
おずおずと、自信なさげに尋ねる。メイドには自信なさげな態度が似合う。
「これだよ」
俺は今自分が出てきたばかりの小屋を指差した。そう、意見するととても小さなオンボロ小屋にしか見えないのだ。入れば地下の広大な空間が広がっていて反対側は崖下の海辺につながっている巨大なアジトなのだが、カモフラージュなのか何なのか、地上部分はあの簡易住居魔法くらいの大きさしかない。外見は一部屋がいいところに見える。これではないと思っても無理はない。
「まあ、そうなのですね。あの、あなたはこちらの?」
「ああ、この事務所のもんだ。新人だけどな。蘇生師をしている」
言ってから、蘇生師であることは隠した方が良かったかと思う。魔王の一件もあるし、あまり軽々しくバラすことではない。
だが、するとメイドは顔を輝かせた。まるで合格発表で番号を見つけた時の受験生のように。
「蘇生師様……! ああ、良かった!」
そのあまりの喜びように、俺はまだ素人だけど、と続けようとして言えなくなってしまった。
「どうか、どうかお力を貸してください! お願いです。何でもしますから」
思わず顔がこわばる。
蘇生師としての力を貸してくれという言葉が意味するものは、つまりその必要のある人間が出た、平たく言えば人が死んだということだ。
俺は医者よりも坊主側、つまり生きている人間よりも死んだ人間に用がある職業についたのだなあと今更ながら複雑な気分になった。
「力って、蘇生魔法か?」
「はい! そうでございます! お力を頂けるなら何でもしますから! 何でもお望みのものを仰ってください……!」
「ええと……あんたは?」
メイドはびっくりした顔をして胸に手を当てた。
「わ、私ですか!? え……えぇ!? 私の身体って意味ですか!? ど、どうしよう……まさか想定していた最悪の展開がいきなり来るなんて……。わ、私なんてその……。こ、こんな貧相な体では満足いただけないのではないかと……」
「いやうん、そういう意味じゃなくて」
顔を赤くしてとんでもない誤解をするメイド。その慌てようにかえってこっちが戸惑う。
「そうじゃなくだな。えっと……何しに来たんだ? そもそもなんでそんなもの着てるんだ?」
「え、これ……? これはメイドだからで……あ、えっ!? まさか……なんでさっさと脱がないのか、ってことですか!?」
「いやいやいや落ち着け。そうじゃなくて。さっぱり見えないんだよ、話が……」
「見えない……! やっぱり! 脱がないと見えないってことですね!? ひぃ……まさかこんな目にあうなんて……。でも背に腹は変えられないし……わ、わかりました。み、見せるだけなら……。今、よく見えるよう脱ぎますから……!」
「ちょっ……待て待て待て! なんで服を脱ぎ始める。頼むからまず落ち着こう。落ち着いて、こっちの言うことを聞いてくれ。いいか、まず言うことを聞くんだ」
「い……言うことを……何でも聞け!? そんな……こっちが下手に出るしかないからって、どんな屈辱的なことをさせる気……! くっ……。でもしょうがないわ、やるしかない……! わっわかりました。ど、どんな恥ずかしい命令でも聞きますから」
「いやこっちが恥ずかしいわ。俺さっきから何も変なこと言ってないよな。参ったな、満足に話もできないぞ」
「ま、満足できない……!? わ、私に満足させろと仰るんですか!? くっ……! で、では約束してくださいますか? 私が蘇生師様を満足させたら、お力をお貸しいただけると……!」
やべえ。頭いたい。
一体なぜこうなるのだろうか。
このメイド服の女は何者なのだろうか。
なぜ俺がいつのまにか凄い悪役っぽい感じになっているのだろうか。
そして、俺が誰かに助けを求めようかとアジトの入り口を見たところで、なんでそこにティルミアがいてこっちを見ているのだろうか。
「その人誰?」
もうその形相で、何か誤解しているらしいとわかる。
「待て……ティルミア。変な誤解をしてないだろうな」
「変な誤解って何? タケマサ君がその子に服を脱げとか何でも言うことを聞けとか言ってたこと?」
「言ってない。よく聞け。言ってないんだよ俺は」
「知らないよ。興味もないよ。タケマサくんがその人とどんないやらしいことをしようと私には関係ないもん」
「おい。言葉の断片だけで妄想たくましく誤解するな」
「タケマサくんこそ、なんですぐ女の子と知り合いになるの!? たまには男の子と知り合いになりなよ!」
よくわからないキレ方をされた。
「こないだなっただろうが、魔王と」
「あんな変なのじゃなくて! まともな男の子と!」
魔王が「あんな変なの」呼ばわりされてライトにディスられた。
「まともな男の子ってどんなのだよ」
「ラインゲールさんみたいな」
「え、あのブーメランパンツの男が?」
「なんでそういうとこしか見てないの?」
俺だってそんなとこ見たかなかったんだが。この世界の水着事情が悪い。
*
その後ティルミアとメイドをどうにか落ち着かせ、アジトに入った。階段を下りて、食堂まで行く。適当な椅子に座った。あの最初にいた街にあったアジトもそうだったが、この事務所は食事は皆で一緒に取るという方針なのか、全員座れる広さの食堂が用意されている。
「……落ち着いたな?」
「はい、先程は取り乱してしまいすみませんでした。この事務所についての恐ろしい噂を色々聞いていたもので、どんな要求をされるかとビクビクしていたもので」
メイリ……評判大丈夫なのか、この事務所は。
「……とりあえず、俺は無茶な要求をふっかけたりしようと言うんじゃない。ただよく事情も知らずに蘇生魔法を使うのはごめんだから、事情を説明してくれと言っているだけだ。いいな? それで? 順を追って話してくれ」
さっきの取り乱しようとは打って変わって、メイドは冷静に頷いていた。
「はい、どこから話せば良いのでしょうか」
「なぜメイド服を着ているんだ?」
「え、そこから?」
珍しくティルミアがつっこんだ。
「なぜメイド服を着ているかと言いますと、私はメイドだからです」
なるほど。
「俺が悪かった。凄くバカな質問をした感じになってしまったが……。一応言い訳させてもらうと、俺は異世界から来たんでな。こっちの世界のメイドが同じ概念なのかわからないんだ。住み込みで家事労働をする使用人の女性、という理解でいいか?」
ティルミアが横で呆れたように笑った。
「他にどんな意味があるの?」
「喫茶店でオムライスが美味しくなる呪文を唱えたりするタイプのやつじゃないよな、と思って」
「そんな便利な魔法あるんだ?」
「ああ。俺には効かなかったがな。人によってかなり効果に差がある」
それた話を元に戻すべく、メイドに話の先を促した。
「つまり、こんな辺鄙なところに来るのにどうしてそんな室内で家事をするための格好をしてるんだってことだよ」
アジトの周りは少し開けているとはいえ、そもそもこの辺まで来るには結構深い森を抜けてこないといけない筈だ。
「だいたい、どこのメイドさんなんだ?」
「お城でメイドとして働かせていただいております。今日はお勤め中に抜け出して来てしまいましたので、この格好なのです」
「え、城って、王様の?」
「はい。王城でございます」
「……あれ、今魔王が支配中で大変なことになってるんじゃないのか」
俺の言ったその言葉は、地雷だったらしい。
みるみる顔が曇るメイド。
また取り乱すかと思ったが、今度は割と冷静に事情を話してくれた。
あの日、王城で何があったかを。
*
ユリンという名前のこのメイドは、主人が殺されるその瞬間を目撃していた。主人、つまり国王はその時、国王らしく謁見の間に鎮座していた。そしてその前には、普段のように謁見を受ける民ではなく、一人の男が王を見下ろすように立っていた。
既に城内は戦場だった。混乱を極めている。兵士や魔術師達が魔王の手下との戦闘を繰り広げていて、多数死人も出ている。城で働く料理人やメイドたちは逃げ惑っていた。そんな混乱の最中、不幸にもユリンはその場面に立ち会うこととなった。すなわち。
魔王が自分の主人の首を飛ばす場面に。
無精髭を生やして快活に笑うその男は、卵を割るような動作で王の首をちぎり飛ばした。
彼女はそれをただ、見ていた。
齢60を越え、真っ白な髭を蓄えたその頭部が、ごろりごろりと転がって柱にぶつかり、その額から外れてコロコロと転がってきた王冠が自分の足下に転がってくるのを。
これが彼女が謁見の間で魔王と接した一部始終である。
その長身と長寿から俗称で「大樹の王」と呼ばれていた十三代目の国王は、その死をもって王位から退いた。
そして次の王となった男は、部下に命じて炎で焼かせたのだった。玉座に座り続けていた前王の首から下を。
城内で起こっていた戦闘は、ほどなくして停止した。新王となった男が、前王の首を手に臣下たちに新たな王が誰であるかを示していった。戦意を喪失する者、戦意を維持したがゆえに殺された者。
一つの国が奪われたにしては、それはあまりにも短時間の、あまりにも犠牲者の少ない戦争であったと言えるだろう。城内のあちこちで上がっていた火の手もすぐに消され、城は表面上平穏を取り戻した。
魔王との戦争がまがりなりにも終わり、その直後魔王はふらりと姿を消してしまい、今に至る。
「魔王は、王を殺す前に、王位を……譲らせたのか」
俺の問いに彼女は頷いた。
「それだよそれ。一体どうしてそんなことになるんだ」
王には王のお考えがおありだったのだと思います、と首を振るメイド。
「いや、その、まず第一にだな。そんなことできるのか? 王家の血を引いてなくてもいいのかよ。この国の王様になるのに」
「この国では王の権力は絶対です。前王が認めたのであれば血筋すら関係ありません。血筋も、立場も、地位も財産も人格も一切関係ありません。王は王に認められた者だけがなる。それがこの国の王の歴史なのです」
「……じゃあ、正当な王様なのか、今はあの魔王が。あのふざけた男が」
頷くユリン。
「王位に関するルールの穴じゃないか」
「ルールを決めるのも王です」
……。
「……で、ここに来たのはどうして?」
ティルミアが尋ねる。
「魔王を殺してほしいってこと? 良かったら殺すよ?」
それを聞くとユリンは急に眉をつり上げた。
「と、とんでもない! あの魔王を殺すだなんて! そんなことは不可能です。あれは……人間に倒せるような存在ではありません」
「……そうだぞ」
後ろから声がかかった。メイリだった。
「見ただろう、あの竜を。ティルミア君がいくら強かろうと、魔王を倒すのは無理だ」
「一回殺したけどな」
メイリは首を振った。
「やつが何を考えているのかはわからんが、おそらくあれは「殺されてみた」んだろう。やつは誰の命も大したものだと思っていない。自分の命もな。すぐに蘇生される自信があったのか、何も考えていないのかはわからんが」
「うーん、まあ確かに本気で反撃されたらわからないや」
ティルミアも、魔王が本気でないのは感じているらしい。
「いずれにせよ、本気で魔王を倒すならこの事務所の今の戦力では足りない。ティルミア以外にも腕の立つ人間は多いが、ちょっとレベルが違いすぎて戦いにならないだろう」
メイリがそこまで言うのだからそうなのだろう。
俺も目の前で竜の襲撃と撃退を見ていればわかる。この事務所の連中が凄腕の冒険者たちであるらしいことは。だが、同時にその竜を一刀両断した魔王はもはや「災害」と言ってもいいレベルの相手であろうことも理解していた。
「おわかりであれば良かったです。あの魔王を倒そうなんて、そんなことは考えてはいけません。命がいくつあっても足りないのですから」
メイドはそう言って、さらに続けた。
「私がお願いに参ったのは、他のことでございます。蘇生を、していただきたいのです」
メイドはじっと俺を見る。
「蘇生って、誰を? 王様か?」
いえ、王のご遺体は……とユリンは顔を伏せた。
蘇生できるような状態ではない……ということか。
「王ではなく、魔導師です」
「魔導師?」
「はい。宮廷に仕えていた魔導師で、「魔力なき魔導師」としてその名を轟かせた人です。各国からお呼びがかかるほどの偉大な魔導師なのですが……魔王の襲撃で命を落としました」
彼女曰く、魔術師でなく魔「導」師と呼ばれていたのは王宮でその者一人だった。名前は誰も知らない。だが常に王のそばに控えていたと言う。
「王を守ろうとするように魔王の前に立ちはだかったので、魔王はその心臓を貫いて殺しました。何の魔法を使う隙も与えませんでした」
「王の護衛役だったのか」
「そういう訳ではないようでした。もっとも、近衛兵たちさえ戦意を失ってしまっていたあの状況では誰ももはや護衛役として機能していませんでしたが」
その近衛兵たちを不甲斐ないと蔑むことは俺にはできない。隊長が裏切ったばかりだったのもあるのだろう。
「その魔導師を蘇生させたい、と?」
「はい。その魔導師様がいらっしゃれば……ある魔法の存在により、魔王を打ち負かすことに繋がる筈だと、大臣様が」
「魔王を打ち負かす……。やっぱり、魔王に全面降伏したわけじゃないんだな」
「表向きは、しています。王城につとめる使用人たちも表向きは魔王の部下たちに従う振りをしています。幸いにも食事を用意しろと言った程度の要求しかありませんでしたので……。ですが、兵士たちは反撃の機会を窺っているのです」
「……その反撃の鍵がその魔導師だと」
「はい。幸い、魔導師の遺体は我々で確保してあり、遺体修復、防腐魔法も万全です。ただ、蘇生を行う者だけがいないのです」
「宮廷にいた蘇生師たちは? 王のもとには蘇生師たちがいるんじゃないのか?」
だがそう言いながら、いやな予感はしていた。
ユリンは首を横に振った。
「全員殺されました。魔王に。……魔王は蘇生師が気に入らないらしく」
……やはり。タルネ村であの男は言っていた。蘇生師は殺すか従えることにしている……。
「それで、ここに? どうしてタケマサ君がいるとわかったんだ?」
メイリがそう尋ねた。
「いえ、ここに限らず、王都以外で魔術師がいそうなところには使いを回しているのです……。蘇生師のライセンスはここ十年ほどは宮廷の蘇生師の分のみしか出ていませんでしたので、それ以外となると神殿も把握が難しくて」
なるほど、俺のような野良の(?)蘇生師を見つけるのには苦労があるということらしい。それで俺が蘇生師だとわかった時にあれほど取り乱していたのか。
「なるほど、事情はわかった……。その魔導師を生き返らせることが魔王の手下の連中に反撃するのに必要だと」
よほど強力な魔導師なのか。……あれ、待てよ。
「変だな。さっき、魔力なき魔導師って言ってなかったか?」
俺がそう言うと、ユリンは頷いた。
「そうです。魔導師様ご本人は魔法をお使いになれません。魔力をお持ちでないそうで……」
混乱してきたぞ。
「それなのに反撃の要なのか?」
「それはその……魔導師様だけがご存じの、とある魔法が鍵らしいのですが、私も詳しくは知らなくて」
「それ、「制約魔法」のことでしょうか?」
いつの間にか話を聞いていたサフィーだった。
「制約魔法って何だ? サフィー」
「一般にライセンス付与されて使える魔法とは異なる、非常にレアな魔法です。このネクスタル王国の魔導師が発明したとして有名ですので、それで間違いないかと」
「それです! よくご存じで」
ユリンが頷いた。
「どんな魔法なんだ?」
「詳しくは知りませんが、相手に武器を取れないよう制約したり魔法の使用を禁じたり、といった効果だったと思います。もしかしたらそれで、魔王の攻撃を封じようと言うのでは?」
「きっとそうだと思います! 私も作戦は詳しく知らないのですが、大臣様たちはきっとそう考えているのだと思います!」
ユリンは深く頷いていた。
「なるほどな……。相手の攻撃手段を封じられるなら確かに効果的だ」
俺は頷いた。
「なるほど。俺がやるしかないのか。その魔導師の蘇生を……」
「ダメ」
俺の台詞を遮って、ぴしゃりと言ったのはティルミアだった。
「ティルミア? なぜだ?」
「聞いてなかったの? 殺されたんだよ、お城にいた蘇生師は全員。魔王は蘇生師だっていうだけで殺すんだよ。お城に行って魔王に見つかったらどうするの? ……タケマサ君、確実に殺されるよ」
「……」
実を言うと、それは考えていなかったわけではなかった。
「どうしてもって言うなら、私も行く」
それを聞いてユリンが慌てた。
「あ……ティルミアさん、でしたか? あの、ティルミアさんは蘇生師ではないのですよね……」
「うん。違うよ。私は殺人鬼」
「そ、それはあの、申し訳ないのですが……王城にはライセンス感知型の結界も張られているんです。今は蘇生師以外のライセンスを持つ民間人は入れないように制限されているんです」
「じゃあ、ダメ。タケマサ君だけお城に入るなんてダメだよ。どうしてもって言うならその魔導師さんの死体をこっちに持ってきて」
「それがその……魔導師様にかけられている防腐魔法がその、数ヶ月ほど持つようにと強力な、部屋ごと保存するようなタイプのもので……動かせないんです。その場で蘇生魔法をかけて頂くしかなくて」
「お城に来いってこと?」
ユリンが頷く。
「ダメ! 絶対ダメ!」
ティルミアが腕を振り回し始めた。
「まあ待て。俺もまだ引き受けるとは言ってない」
「さっき言いかけてたじゃん!」
「言ってねえよ。俺がやるしかないとしても、その魔導師がどんなやつでその制約魔法ってのがどんなものかもわからないんじゃ、そもそもその作戦もうまくいくのかどうかわからないだろ? 俺だって無駄死にしたいとは思わねえよ」
「ほう、意外に冷静だな、タケマサくん」
メイリが感心した声を出した。
「あんただってそうだろ。魔王のこととなると慎重になる」
ふん、とメイリは頷いた。
「いい心がけだ」
「あ、じゃあ、図書室で調べてみませんか?」
サフィーが手を挙げた。
「図書室?」
メイリがああ、と頷いた。
「この本拠地にはな、ほうぼうから集めた本が並べてある図書室がある。確かに、そこにいけば魔導師のことや制約魔法のことも調べられるかもしれんな」
「私、行きたいと思っていたんです」
サフィーが目を輝かせている。メイリはいいだろう、と言って図書室の場所を教えてくれた。




