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結構可愛いんだけど殺人鬼なのが玉にキズ  作者: 牛髑髏タウン
第五章 「私嫌い、こういう……話の通じなさそうな人。自分だけ人を殺していいんだとか……」
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第五章 4/8

 ディレムは少し気になることがあるとかで、一人でどこかへ行ってしまった。俺たちはとりあえず宿に案内して貰い、三部屋(ティルミアとディレムの部屋と、俺とニックの部屋、それにサムエルとライアンの部屋だ)を取った。宿にいてもやることがないので、俺とティルミアは村をブラブラしていた。ニックはもう一度蘇生師様のところに行ってみると言っていた。サムエルとライアンは積もる話(?)もあるとかで宿に残っている。


「タケマサ君、弟子入りは良かったの?」


 俺は、首を横に振った。


「そんな金がないからな。というか……金を取ると言われるとあまり気乗りしない。俺が大学というところで学んだ一番のことは、世の中金を払って学ぶのはあまり意味がないということだ」


「そうなの?」


 人にもよるだろうが。


「それに……正直言うと、ちょっとうさんくさい」


「……インチキかもしれないってこと?」


 わからん、と首を振る。


「実際、骨だったライアンさんをあんな短時間で生き返らせたわけだから蘇生自体は凄いんだろうと思う。ただ、村の住人全員を蘇生したというのが、本当なのかなという気がした」


 単純な直感だけれども。

 あの蘇生師の言葉から、俺の何十倍もの回数の蘇生を行ってきた人間の重みを感じなかった、というのがその理由だ。……いやこうして言葉にしてみると言いがかりかもしれないが。


「俺が蘇生してきたのは死んだばかりの人間だけだった。でもあのクルトローという男は違う。死後何年も経過し、誰もがその死を受け入れている人間を蘇生したんだ。それはなんというか、人の世の営みを歪ませるようなことなんじゃないかと思う」


「タケマサくんが難しいこと言ってる」


「あら……わかるわ……。あの男のやっていることは……呪術の臭いを感じるもの……。呪術とは正に……人の世の営みを歪ませることだわ……」


 呪術師が自分で言うと完全に悪役だな。


「そうなのかなー。よくわかんないけど」


「まあそうだな、なんていうか、単純にルールを破ってるような感じだ。人には人生ってものがあって、それを全うして死ぬ。死ねば二度と生きては返らない……っていうルールを」


「……そんなルール誰が決めたの?」


「いや……神様?」


「タケマサくんの信じる神様?」


「いや俺はまあ無宗教だから神様なんて信じちゃいないんだが」


「……?」


 ティルミアが大きなハテナを頭の上に浮かべている。そりゃまあ、そうなるよな。自分で言ってて矛盾しているのはわかる。もちろんそんなルールは、実際には存在しないのだ。


「神は違うな。もっとこう、世の中の常識とか秩序、みたいなものか。うまく言えないんだが……つまり、クルトローがやった、何年も前に滅んだ村の人間を全員復活させるなんてことは、かなり大それたことをやってると思うんだよ。だってあの村が滅んだ後、多くの人間があそこを調査して、確かに滅ぼされてるって確認して、村人の誰も助けられなかったことを知って、悲しんで、それでも受け入れたんだと思うんだ。長い年月をかけて。あそこの村に知り合いがいたり親戚がいたりした人間もいたと思う。大切な人がいた人もいたと思う。そういう人たちが、一夜にして失ったんだ。そう簡単に受け入れられることじゃなかった筈なんだ」


 ……。


「それなのに……やっと受け入れたことなのに、だ。はい全員生き返りましたよって、そんな話あるか。そんな簡単に生き返ってたまるか、って話じゃないか、普通。誰だって、親しい人間が死んだら生き返ってほしいさ。生き返ってほしいけど、それはかなわない。どうしようもないほど悲しいことだけど、それでも飲み込んで生きていくしかない。生き返らないからだ。人は死んだら生き返らない」


 ……。


「クルトローのやったことは、その常識を、その価値観を、その過去の人々の悲しみを、全部ひっくり返しちまうことじゃないか。それって、とんでもないことじゃないのか? 世界が変わっちまうようなことじゃないのか? それなのに……それをやった当人のクルトローにその重みを感じないんだよ。まるで、自分のやったことを理解してないみたいな……」


 俺は口ごもる。


「ん-。タケマサくんの言いたいこと、なんとなくわかったかも」


「そうか?」


「でもそれを言ったら、タケマサくんの蘇生も程度の差があるだけで同じだよ」


「程度の差がでかいんだよ」


「でも程度の差でしか無いよ。数日以内ならみんな心の整理がついてないから、死んだことにはならない、なんてことはないでしょ? 生き返るまでの時間が短くても、確かに死んだんだもん。タケマサくんは間違いなく、取り返しがつかないものを取り返したんだよ」


「……言ってくれるじゃないか」


 まあ、そうだ。ティルミアの言うことは、正しい。


「そうだな。確かに程度の差はあれど俺も人を生き返らせたことには違いない」


 だから俺は重荷を感じてるんだからな。


「この重みの何十倍の重みをやつは背負ってるのか、本当に」


「んー、どうかな。重いって思い込んでるだけじゃないかな」


 ティルミアは笑った。


「人を生き返らせたければ生き返らせればいい。殺したければ殺せばいい。重く考えすぎても駄目だよ」


「おま……」


 俺はため息をつく。


「一緒にするなよ。蘇生と殺人を」


「似たようなものだと思うけどな。人が生きててほしいかどうか自分で考えて、実際に行動に移してる」


「……」


 俺は首を振った。なぜだか、真っ向から否定する気もしなかった。

 わかっていたのかもしれない。

 殺人と同じだとは思わないが、それでも、「蘇生」というのはたぶん、少しばかり、人の命を軽んじる行為なのだろう。

 職業選択が正しかったのだろうかと今更ながらに思う。


「それはそうと……私もね、実を言うとちょっと胡散臭いと思ったの、あの人たち」


 俺がなんでだと目で問うと、ティルミアは少し小声になって言った。


「私、気になって聞き耳を立ててたんだ。ティーナさんがあの蘇生師の耳元で囁いてた言葉に。私てっきり耳が遠い蘇生師さんに私たちの言葉を伝えてたんだと思ったんだけど」


 俺もそう思った。


「でも、聞こえなかったの」


「聞こえなかった?」


「うん。ティーナさん、すっごく小さな声で喋ってたから」


「そりゃ普通だろ。耳元で喋るのに大声な必要あるか」


「あるよ。だって、「耳が遠い」んだよ?」


「……」


 そうか。そういえばそうだ。


「それなのに普通より小声だったんだよ。……変じゃない? 耳が遠くて聞こえないんだったら、ティーナさん、大きな声を出すはずでしょ?」


 確かに、俺達の言葉を復唱するだけなら、耳元で大きな声を出すはずか。


「そう。もちろん私達には聞こえないくらいのギリギリの大きさであの蘇生師さんには聞こえたのかもしれないけど、それも変。聞こえなくする理由無いもん。あれは、耳が遠いんじゃなかったんだと思う」


「な……。それはどういうことだ。耳は良かったと? ……ま、確かに全ての台詞をティーナは伝えてた訳じゃなかったが……」


「……あれは、私たちの言葉をそのまま伝えてたんじゃなくて、別なことを私達には聞こえないように話してたんじゃないかと思う。それが何かはわからないけど」


 俺は、じっとティルミアを見た。


「な……何?」


「お前って……。時々鋭いよな」


「あ、ありがと」


 なるほど……。

 俺は頭をフル回転させる。少し考えて、一つの仮説を立てた。


「これはひょっとすると……芝居って可能性があるぞ」


「芝居?」


「蘇生なんて嘘かもしれない」


「えっと……」


 素直な考えだと思う。

 この村の数百人は、実は以前の村人とは別人なんじゃないか。全くの別人が、廃村に入り込んで、かつての村人が蘇ったという芝居をしている。

 もちろんサムエルが見せた写真も嘘。つまりサムエルもグルだ。

 俺がティルミアにそう話すと、ティルミアはびっくりした様子だったが頷いた。


「そっか……。ティーナさんが囁いてたのは……あの蘇生師役の人のセリフってこと?」


「おそらく、あの蘇生師、そんなに演技がうまいわけじゃないのかもしれない。ティーナは演技指導の役割も兼ねてるんだろう。村の入り口で俺らを出迎えたのも偶然じゃない。そういう役割なんだ」


 そう考えてみると、合点がいくことがある。

 あの壊れたレコーダーのように同じ台詞を繰り返していた村人たちだ。

 なるほど、これだけ村人がいれば全員演技派という訳にはいかないだろう。中には大根もいる。……決められた台詞を繰り返すしかできなかったのだ。


「でも、じゃあライアンさんは……?」


「もちろん、グルだ。サムエルもだろう。わざわざ奥の部屋に引っ込んで蘇生するふりをしたのはそこにライアンが予め隠れていたからだ」


「じゃあ、伝説の蘇生師って、嘘だったんだ」


 ティルミアは、なんだか気が抜けたような声を出した。


「さすが、タケマサ君。頭いいね」


「褒めるのは早いだろ。全然謎が全て解けてない。この予想が当たってるとしたら、一体なんでそんなことをするんだ?」


「ビックリさせるためじゃないの?」


「大がかり過ぎるだろ。ちょっとしたイタズラのレベルじゃない。何百人も動員してただの旅人の俺達を驚かすだけだってのか?」


 ティルミアは首をかしげた。もっとも俺も答えは持っていない。


「例えば逃亡中のお尋ね者が身を隠すためにこの村の連中と入れ替わった……とか?」


 自分で問うておいて首を振る。


「そっか。それなら説明がつくね」


「つかんわ。目立ちすぎる。こんな人数集めるほうが明らかに大変だしな。明らかに、これは「偉大な蘇生師」として目立つことを選択してるんだよ。隠れようとしてない」


「うーん、そっか。確かに」


「なにが狙いなんだろうな」


 そして俺は気がつく。


「あのニックって人、危ないんじゃないのか」


「え?」


「ニックがやつらの仲間ならいいが、そうは見えなかった。俺たちと同じように騙されてるんだとしたら、奥さんの蘇生はできないわけだしな。嘘を突き通すには、ニックの口を封じて……って可能性はないか?」


 ティルミアは、行動が早かった。


 俺が、しまいまで話す前にいなくなっていた。


「おーい……」


 どうやら、ニックのところに行ったらしい。


「……」


 俺は取り残された。


「あれ? というか、俺も危ないんじゃないのか」


 ……しまった。

 俺、完全な非戦闘員だぞ。


「やつらが人の命を大事にしてくれる連中だといいが」


 ……そりゃないか。


「蘇生をネタに詐欺を働こうっていう連中だからな」


 俺は、とりあえず宿に帰ることにした。

 宿へと歩き出そうとした、その時。


「お。村人だ。ほんとにいたよ」


 声が後ろから聞こえた。


 *


「あんた、タルネ村の?」


 かけられた言葉に、俺は首を横に振った。


「ああ……いや、すまん。俺は村人じゃないんだが……」


「てことは向こうにいたエイを連れた連中のお仲間かい」


「……そうだが。……あんたがたは?」


 声をかけてきたのは俺たちと同じようにこの村を訪れた旅人らしかった。一人は男で、年は俺と同じかもう少し上くらいだろうか。顎に少し無精ひげが生えている。全体的に野生味のあるいい男だ。

 もう一人は女で、スカーフで口元を覆っているので顔はよくわからないが腰まである美しい銀髪が眩しい。旅してきたらしく衣服が汚れているのに髪は輝きを放っているためにどこか場違い感がある。


「あんたも……ここの蘇生師の噂を聞いたのかい」


 男のほうがそう尋ねてきたので俺たちと同じ目的だとわかった。俺は頷く。


「まあな。そんな凄い蘇生師がいるなら見てみたいと思ってな」


「いたかい? 死んだはずの村人は?」


 俺は一瞬口ごもる。いた、と言うべきか。

 だが俺が答える前に、はっはっは、と男は豪快に笑った。


「そうかそうか。その様子じゃ俺の予想は当たったかな。何年も前に滅びた村の村人数百人を一夜で蘇生したってんだからな。蘇生条件も常識を無視しているし蘇生速度も早すぎる。俺の予想じゃ「何かある」」


 淡々とそう言ったので驚いた。

 ついさっき俺とティルミアが話していたことを聞いていたのか、とさえ思った。


「まあ、俺はその手の胡散臭い話が大好きでね。単なる興味で来たんだ。仲間たちに黙って出てきたからそうグズグズもしてられないんでな、早速だが失礼するぜ」


 男は手を挙げて村のほうへと足早に……行こうとして戻ってきた。


「失礼。名前も言ってなかったな。俺は、ダン・ホーライ・ゲイルザック・アルシュトミック」


「なんだって? ……もっかい言ってくれ。長くて覚えられなかった」


「はは。構わん。俺も思いだせん」


「……なに?」


「今のは適当に考えた偽名だからな。ダンで結構だ」


「……ダンは本名か?」


「この村にいる間はな。ダンと呼べば返事はするつもりだ」


 ……。

 俺が呆れている間に男は去っていった。


「変なやつだな」


 俺は呟いて、後ろを振り向いて、


「うぉ」


 ずっと黙っていたもう一人の女がまだいた。

 女が俺のほうを見た。冷たい目……いや目が細いから一見きつく見えるだけで、敵意は無いようだった。


「君さ……」


 いきなり声をかけられる。


「お、おう」


「蘇生師でしょ」


 思わず黙ってしまった。黙ってしまったことが肯定の返事であると受け取ったらしく、女は心なしか笑ったようだった。口元が隠れているのでよくわからないが。

 そして女の次の言葉に俺はまた驚かされる。


「……私もなの」


 また俺は黙らざるを得ない。女は笑ったらしい。


「私はアリサリネ。じゃあ、またね、タケマサ」


 ……。


「なんか……どこかで……」


 見覚えがあるような。

 ……。


「そういえば、俺、名乗ってないぞ」


 なぜ、俺の名前を知っているんだ?

 ……。

 首を振る。


 俺は、宿に急いだ。

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