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結構可愛いんだけど殺人鬼なのが玉にキズ  作者: 牛髑髏タウン
第二章 「殺人鬼の世界にようこそ」
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第二章 2/8

 街の中を、子どもたち(?)をぞろぞろと連れて歩く。通り行く人たちがちらちら見ている。


「とりあえず連れてきたものの、どうするべきか……」


 もとが盗賊団だったわけではあるが、こうなってしまっては収監するのも可哀想な気がする。


「なんかこう、子供を預かる施設みたいの、無いのか? 保育園的な」


 保育園、という言葉があるのか不明だったが、ティルミアには俺の言わんとするところは通じたらしい。


「ある筈だよ。きっとこの街にも。でもさ……」


「お金かかるのか」


「いや、お金は大丈夫。かかんないとこもあるよ。国がある程度お金出してくれてたり、凄くお金持ちのスポンサーがついてたりするとこもあるしね。親がいなかったり、引き取り手がいない子供とかも多いから」


 保育園と孤児院が混ざっている感じか。


「でもさすがに引き取ってくれないと思うな。この人達」


「やっぱダメか」


 まあ……ダメだろうな。見た目は大人、中身は子供。事件なんか全く解決しそうにない。むしろ事件になる。


「ダメ元で一応聞いてみよっか。情報屋さん行って」


「情報屋? そういう職ってことか?」


「情報屋っていうライセンスは無いんだけどね。お金出すと色んな情報をくれる商売があるの」


 日本から来た俺は情報屋という言葉からSEなんかをつい連想するがそんなのを指してるわけじゃないのは確かだろう。


「そういえば……この街、電気は来てるのか?」


「デンキ?」


「電気がわからないか。……んー、電化製品とか無いのか? あとは電灯とか」


 自動車を見ないな、とは思ってはいたが、そういえば電灯も見ていない。夜に見たのは火を灯した明かりくらいだ。冷蔵庫なんかも見ない。


「デントウ?」


「そういう文明は伝わってないのか。えーと、電気ってのはだな……雷はわかるだろ?」


「カミナリ?」


「雷わからないのか? 稲妻。イカヅチ。そういう魔法は無いのか。でも自然現象として存在しないなんてことは流石にないだろう?」


「イナヅマ? イカヅチ?」


「……おまえ、もしかして遊んでるな?」


「アソンデルナ?」


「おい」


「オイ?」


「……東京特許許可局」


「トウキョウキョッ……キョッ……」


 ……よし。


「なめるなよ。一週間以上呪文を噛まずに言う練習ばっかり繰り返していた男を」


 別に戦闘中でもなければ呪文は早口で言わなくてはならないことはないのだが、かといってあまりゆっくり詠唱しても意味が変わってしまうとかで、ここ一週間、今までの生活からは考えられないくらい言葉を発した。俺が今ドヤ顔というやつをティルミアにしてしまっているのも当然と言えよう。


「むー」


「むーじゃねえ。とりあえずお前が暇人なのはわかった」


「トウトウ……キョウトク……」


「東京特許許可局、だ」


「それ何?」


「……ライセンスを与えるところ、だな。俺のいた世界で」


 正しくは特許庁だが。


「え、タケマサくんのいた世界にもあるんだ、ライセンス。しかも神殿まであるの?」


「神殿じゃない。ライセンスを与えるのは神官じゃないからな」


「そうなの? じゃあ何?」


「審査官だな」


「シンサカン? 一文字違いだね」


「そうだな。案外似た世界なのかもしれないな」


 無駄話をしているうちに、目的地についてしまった。


「あ、ここここ。情報屋さん」


 結局電気の件は聞きそびれた。


 *


「あら……あなたたち。ティルミアちゃんとタケマサくんね!」


 初対面の筈の情報屋はいきなり俺達の名前を当ててきた。


「お……おう。俺たちを知ってるのか」


「さすがにね。知らないようじゃ情報屋の看板は下ろさなくちゃならないわ」


 情報屋と言うと、目深にかぶった帽子で顔を隠して新聞を広げて読んでいる無愛想かつ寡黙な中年男、という俺の勝手なイメージがあったが、出迎えたのは、愛想が良く猫のような瞳孔の細い目が印象的な女性だった。髪がルビーレッドでまぶしいが、眉が黒いのを見ると染めているのか。派手だ。


「どんな噂なんだ」


「ん? 聞きたい?」


「……タダなら」


 あははは、と情報屋は笑った。


「何でもかんでも金取るわけじゃないのよ。私は情報屋のシズカ。よろしくね、ティルミアちゃんとタケマサくん」


「シズカ……?」


 名前の響きから俺はもしかして、と思ったが、猫目の情報屋は手を顔の前で振った。


「おっと、それ以上の詮索はだめよ。情報屋のことが知りたければ他の情報屋に聞くことね。何もわからないと思うけど」


「……」


 猫のような目がキラリと光った。目だけではない。髪をかきあげた拍子に見えた耳もどことなく人間のそれとは違う感じがする。そういえば街でもたまに尻尾の生えた人間などを見たが……亜人というのだろうか、特殊な人類みたいなのがこの世界にはいるのかもしれない。


「あははっ。二人は蘇生師と殺人鬼っていうものすごくレアなライセンスの取得者だからね。有名なのよ。どっちも今この街には一人もいないかもしれない職よ」


 そんなに珍しいものだったのか……。まあ確かにサフィーやレジンも似たようなことを言っていた気がする。


「しかもその二職の組み合わせっていうのがまたおもしろいよね。そんな二人組滅多にいないわよ。よっぽど仲いいのね、お二人さん」


 俺とティルミアは首を振った。俺は横に、ティルミアは縦に。


「あはははっ。もう笑わせないでよ」


 それにしてもよく笑う人だ。


「で……なんだっけ。何の情報が聞きたいんだっけ?」


「実は子供を引き取って欲しいんだ。つまりその、育児を請け負ってくれるところを探してる。ちょっと人数が多くて、五人ほどいるんだが……。託児じゃなくて、引き取って欲しいんだ。孤児……みたいなもんでな」


「なぁんだ、そんなこと。お金払って聞くほどの情報でもないわよそれ。この街にはいくつもあるからね、そういう施設。王様の命令で孤児対策が進んでるのよ。国からの補助金が出るから、むしろ子供をほしがってる孤児院もあるくらいで……」


「そうか、それは素晴らしいな。じゃあ何箇所か教えてくれ……」


 だが話をまとめようとした俺をティルミアが後からつついた。


「ちょっとタケマサくん、全部正直に言わなきゃ。肝心な情報が抜けてるじゃん」


 ちっ。


「ああ、そのな、シズカさん。訳あって、子供たちが皆結構、育ってしまっているんだ。身体も大きい」


「変な言い方するのね。発育のいい子供なんでしょ? むしろいいじゃない」


「……もう、タケマサくん!」


「あー、年齢も結構高めなんだ。精神年齢はちゃんと低いんだが」


「……? 何を気にしてるのかよくわからないけど、子供なんでしょ?」


「まあその、中身はな」


「?」


「あー、もう、タケマサくんダメだよ。どうせすぐバレるんだから」


 ティルミアは、戸口から外に向かって呼びかけた。


「おーい、坊やたちおいで。入っておいで」


 ぞろぞろと、縄でつながれた「坊やたち」が入ってきた。


「お姉ちゃーん」


「待ってー僕もいくー」


「だーだー」


 ……。俺もまだこの光景には慣れない。予想通りシズカは青い顔になった。


「にゃっ……!? ちょっと待って。待って! あんた達、まさか……。ここを襲う気?」


 ああそりゃ、そう思うよな。見るからに荒くれ者が五人も入ってきたら。


「いや違うんだ。預かって欲しいのはこいつらなんだ。見てくれ、縄で繋いである。暴れたりしても大丈夫だ」


「子供って言ったじゃないのよ!」


「中身は子供なんだ。色々あって精神的には5歳とかだと思ってくれ」


「思えるわけないでしょ! ……て、ていうか……どっかで見た顔だと思ったら、ボギー盗賊団の連中じゃない……?」


「知ってるのか」


「情報屋が賞金首の顔知らないわけないでしょっ。そこで指しゃぶってるのがそうよ!」


 賞金首だったのか。このチームリーダー……お頭。


「……こら、やめなさい、おてて、ばっちいでしょ」


 ティルミア、盗賊団のお頭をしつけるのはやめろ。


「おてて、ばっちくないもんー」


「汚れてるでしょ! 血で!」


 ……うん、そうだけどさ。お前が言うな殺人鬼。


「本当に……そいつら、子供に……? 演技してるだけじゃなくて?」


 シズカの恐怖は全く正当なものだが、軍隊なんか呼ばれても困るので訳を話しておかねばなるまい。


「本当だ」


 外での一件を話す。幸い蘇生魔法が失敗しやすいものだということは知っていたらしく、納得はしてくれた。


「盗賊に襲われたのに律儀に生き返らせたの……。お人好しねえ。でも悪いけど、そいつらを引き取ってもらうのは無理よ。どこもそんなの受け入れちゃくれないわよ」


「まあ、普通に考えりゃそうだよな……」


「軍にでも引き渡したら?」


「まあそうするしかないか……」


 子供に戻っちまってるせいで可哀想にも思えるが、こいつらはそもそも犯罪者なのだ。いやこの世界じゃ犯罪という概念はないが、けして褒められた人間ではない。


「うわーん」


「やだー、牢屋やだー」


 ……おいおい泣き始めたんだが……。なんでだ。話聞いてて理解したのか。自分たちがこれから牢屋に入れられるということがどういうことかを。


「わがまま言うんじゃありません!」


 だからしつけるのをやめろティルミア。

 慌てた俺を見かねたのか、シズカさんがおずおずと言った。


「んー、もしかしたら、1ヶ所だけ引き取ってくれるところがあるかもしれないわ」


 なんと。そんな奇特なところがあるのか。シズカは棚から紙の束を下ろしてめくり始めた。


「これはタダってわけにいかないけど」


「情報料か? 金は出す」


「オッケー。安くしとくわ。……ずいぶん前に連絡受けたところだから、まだやってるかわからないしね……。あ、これだ。これ。「もりのわんぱくランド」」


「え、何だって。もりのわんぱく……」


「わんぱくランド。個人でやってるとこだけど、孤児も引き取ってくれるわよ。ここなら……この子? たちでも引き取ってくれる可能性が無くはない、かも。どんなに手に負えないわんぱくな子供でも受け入れますって書いてきてたから」


「わんぱく……と言って通用するかな、こいつら」


 後ろの坊やたちを見やる。


「少なくとも手には負えないでしょ。言い張っちゃいなさいよ」


 結構このシズカさんもイイ性格をしている。


「とりあえず行ってみるか。……どこなんだ?」


「それが、ちょっと遠いのよね。それに、今もまだやってるかわからないのよ。だから薦めなかったんだけど。街の中じゃないのよ。街道沿いですらない外れた森の中にあるとこでね。丸一日歩く……ううんもう少しかかるかな。往復するだけでも三、四日見ておいたほうがいいわ」


 案外と遠い。


「うーん……。まあ、とはいえ他にあてもないしな」


 ティルミアを見る。


「行こうよ! タケマサくんと冒険の旅。行きたい!」


「……じゃあとりあえず……まず俺達だけで行ってみて、話をしてみるか」


 こいつらを連れてくのは結構骨が折れる。そもそもやってないかもしれないし断られる可能性が高いのならいきなりゾロゾロ連れて行くのは避けたい。


「なあシズカさん、それまでこいつら預かっててもらえたりしないか?」


 さすがにシズカさんは首を振った。


「軍に頼んで一時的に収監しといてもらうのがいいわ。わんぱくランドに預けられなかったら、そのまま収監してもらえばいいんじゃない」


「一時的に収監……軍の牢屋ってそんな使い方できるのか」


「事情を話せばたぶん大丈夫よ。もともとそういう連中を収監するための場所だし、牢自体は結構余ってるしね。ただそうは言っても、引き取り手がいるなら引き取ってもらうのは歓迎されるわ。収監した連中に与える食事を用意しなくてよくなるしね」


 俺たちはシズカのアドバイスに従って、盗賊団の連中を軍に預けてから旅立つことにした。


 *


 街の外、二回目。城門をくぐるのは本日三度目だ。


「何読んでんの?」


「……すまんな、キリのいいところまで読んでおきたい」


「その本は?」


「魔法陣の教本だ。サフィーに借りた」


「勉強熱心だねぇ」


「さすがに五回も立て続けに失敗するとな、何か理由があると思ってな」


「幼児化魔法のこと?」


「……蘇生魔法な。教会で婆さんを蘇生させた時だけはわりかしうまくいった。呪文を間違って覚えてる訳じゃないとすると、やっぱり魔法陣に問題があったのか……おっと」


 俺はつまづきそうになる。


「タケマサくん。本読みながら歩くと危ないよ」


 そうだな、と俺は本を閉じた。


「しかし、昨日も思ったが、街を出ると途端に人がいなくなるもんだな」


「そりゃあ、外は基本的に魔物の住む世界だからね」


 高い塀で囲まれた街。城門をくぐって外に出れば、眼前には地平線まで続くのではないかと思うほどまっすぐな道に、草が生えているだけの何もない平野。遠くの方にはところどころ、こんもりと小さな森のようなものがいくつか見える。川もあるようだ。そういえば、この世界には海はあるんだろうか。

 俺とティルミアは歩き始めた。

 天気が良かった。これで安全さえ確保されてるなら散歩するにももってこいだ。子どもたちも街の中じゃなくて外で走り回って遊べるだろう。


「どうしたの? タケマサくん、キョロキョロして」


「新鮮な光景なんだ。こんなに広く開けた場所というのは元の世界であまりお目にかからなかった」


「そうなんだ」


「まあ、インドア派の俺は出かけるのは町中だけでほとんど遠くに行かなかったからかもしれないが……」


 かもしれないっていうか、単にそのせいだな。


「しかし、天気のいい日に空の広い場所に出るというのがこんなに気持ちいいもんだとは思わなかった。そりゃキョロキョロもするさ」



「そっか……。てっきり、タケマサくん、気づいてたのかと思ったよ」



「ん……何に?」


「右のほう」


 右……? 俺は右を見る。草原しか無いが……。

 ……。

 あ。


「気づいた? そう、それ」


 俺の全身に鳥肌が立つ。狼がいる。こっちを見ている。……大きめの犬くらいの大きさだが、犬だと思ってはいけない。明らかにこちらを獲物として見ているのが遠くからでもわかる。

 魔物、というやつか。

 ついにエンカウントしてしまったのか。魔物に。

 そういえばここは異世界だった。

 魔物を倒して経験値をためてレベルを上げたりしなくてはいけないのかもしれない異世界だった。


「……あれ、俺たちを狙ってるのか」


 距離はまだ五十……百メートルはあるか。俺の視力だとよくわからないが、結構離れている。ティルミアに言われなきゃわからなかっただろう。


「うん、城門を出た時から狙ってたよ。今は左後ろのほうにも二頭いる。挟み撃ちにするつもりかな」


 全然気づかなかった。ティルミアとのサバイバル能力の差が歴然だ。


「だ、大丈夫なのか?」


「うん、あんなの三頭くらい。私なら全然余裕だよ」


「俺という足手まといがいた場合はどうなる?」


「あははっ。タケマサくん卑下しすぎだよ。そんなに強くないし、タケマサくんでも十分戦えるかもしれないよ?」


 戦えるわけないだろ。


「一応俺の運動神経を説明しておくと、たまに五分くらい走ると息が切れて二日後に筋肉痛が来るレベルだ」


「ごめん伏せててくれる? 危ないから」


 ですよね。


「すいません、俺をお守りください殺人鬼様」


「もう、調子いいんだから!」

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