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死にたがり令嬢の幸せ  作者: 春風もも
モルテの森
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銀髪

木は青々とした葉を広げ、日の光をいっぱいに受けている。

隙間から差し込む日差しは地面にまだら模様を描き出していた。


草木を揺らす昼の風は冷たさを失っていて暖かく、初夏の訪れを感じさせた。


朝は泉で水を汲み、昼は木の実や草を摘み、広い森を歩き続ける。

幽霊のくせに、知恵を使って獣を仕留めては肉を焼き、魚を捕まえ調理してくれる。

人ほどの重いものなどは動かすことはできないようだが、便利なものだ。


適度な運動と、陽の光と、新鮮な食事。

その生活はどんどん私の体力を増やしていった。


夜になると、月明かりの下で眠たくなるまで話をする。

くだらない冗談、奇妙な昔話、人との会話に慣れていない私の反応はそこそこだったはずだが、飽きもせず話を続けてくれる幽霊の青年の存在は、確かに私の心を慰めていた。


……こんな日々があるなんて。


長い虐げられた日々の中で、一度も感じたことのなかった安らぎが、ここにはあった。





体感で、三ヶ月程は経っただろうか。

家にいた時よりも健康的で快適で、朝目が覚めて、生きていることに、絶望を感じにくくなった。


そして、ずっと世話を焼いてくれるその陽気な幽霊の青年に、私は少しずつ心を開いていた。


その日の夜は少し肌寒い風が吹き、焚き火を囲んで話をする。

ぱち、ぱち、と木がはぜる音と、柔らかな炎の揺らめきが心を落ち着かせてくれた。


「ねえ、君って今いくつ?」


「十五です。冬に十六になります。」


「えっ!? もっと小さい子かと思った!」

大袈裟に驚くその姿を見て、

私は目をぱちぱちと瞬いた。


「…貧相だから、そう見えるのですね。」


少しムッとしたのを見逃さなかったのだろう。慌てたように、早口で訂正する。


「違う違う!いや、違くもないけど….」


気まずそうな顔をしてから、宙にしゃがみ込むように近づき、いたずらっぽく笑った。


「でも君、確実に変わってきてるよ。」

「……変わって?」


「うん。最初は幽霊かと思うくらい真っ青で細くて、風が吹いたら飛ばされそうだったけど……」

そう言いながら指折り数える。

「体型も、顔色も、表情も、少しずつ、ほんとに人間らしくなってきてる。」


「本当、ですか。」

焚き火の炎を眺めながら私は考える

ほんのわずかだが、疑いではなく期待してしまう。


「本当本当。僕が保証する。どんどん生気が宿ってきてる。」


私の髪を撫でるように、ひんやりとした涼しい風が吹く。


「君の髪、銀髪だったんだね、すごく綺麗だ。」


複雑に絡まり、栄養もなく、ボサボサで老婆の白髪のようだった髪は、毎日綺麗な水で清めることによって、本来の輝きに戻ろうとしていた。


綺麗だ、なんて。

そんな言葉、いつ言われたっけ。


私は小さく肩を揺らして控えめに笑う。

それを泣いたと勘違いしたのか、彼は慌てた顔で私に本当だよ、嘘じゃない、と何度も語りかけてくれた。

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― 新着の感想 ―
実際に虐待されて十分な栄養を与えれていないと発育不良で小さい体になりますね。わたしも同じような理由で中学生になるまでずっと小さかったので読んでいて身につまされる思いでした。 森で暮らすことになって徐々…
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