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9.駆け抜けろ

 王都の西城門より更にその先、広い草原の上に騎士隊が整列している。聖騎士部隊・銃騎士部隊・魔道士部隊、その中で俺はイザナと共に銃騎士部隊の先頭に立っている。

 いきなり部隊の最前列に連れてこられ正直焦る。新参者だからもっとこう最後列かと思ったら全然違かったのだ。イザナ曰く、救世主は部隊の士気を高めるためにも最前列に立つらしい。


 イザナの傍に俺を置くという前提上、こういう形になってしまったわけだ。確かに部隊の士気を高めれば勝利への確率も上がるだろう。それにしてもこの光景には圧巻である。

 千を超える部隊の人数が並んでいるからだ。合わせて三千。まさに映画の中での出来事のように思えて鳥肌が立ってくる。


 姉貴はシェリルと共に聖騎士部隊の中にいるようだった。シェリル、姉貴、久遠は聖騎士部隊。イザナ、俺は銃騎士部隊。ルルナは魔道士部隊にそれぞれ配置している。

 姉貴は戦いに興が乗ると周りが見えなくなるから正直不安である。本音を言えば姉貴の傍に居たかったのだが、シェリルが姉貴の面倒を見ると言っているのだ。信じるしかあるまい。


「カズカズ、緊張してるっすか?」


 隣にいたイザナが俺に気を使ってなのか話かけてきた。


「まぁ、多少は。それに銃なんて今まで触ったことなかったから」


 俺は宿舎で支給されたライトアーマーを装着しリボルバー式のライフル銃を背中に背負っている。ラド達が使っていた武器と同じものだ。メタリックシルバーに金で彩られた装飾が施されている。

 出発する前に訓練場で撃ち方を教わり、数発撃たせてもらったが体に掛かる衝撃にビックリした。結構肩に響くのだ。あと的へと命中させるのが中々に難しい。


 やはり銃より剣だ。左腰に差している長剣へと左手を添える。


「無理もないっすよねー。今からあんなウジャウジャいっぱいの『凶禍』と戦うんだもん。誰だって怖いと思うっすよ」


 六面体が繋がり合っているドーム状の結界がはられている先を見ると映像で見たときよりも数が増えていた。結界に沿ってへばりついている数が尋常じゃない。まさに黒いカーテンが広がっているように見える。

 司令室での作戦を思い出す。全ての部隊を混合させた二大部隊を編成、結界付近へと左右二方向に進軍し同時に遠隔で結界を部分解除、進路を確保し挟み撃ちしながら殲滅する。大雑把だが一箇所に集中してる化物を討伐するにはこれが最善策なのだろう。


 二つの大部隊の内、シェリル、ルルナ、姉貴、久遠の編成。残りの大部隊が俺とイザナだ。もう一人こちらの陣に『神器』持ちが欲しいところだが、ルルナが久遠の面倒を見ると後から進言した為にこういう配置になったのだ。


「さてと、自分も戦闘準備するっすかね! いくよ、『ビナー』!!」


 右手を頭上へ掲げた先の空間が歪み、弾ける音と共に大型のライフル銃が顕現した。そのライフル銃は青白い輝きを放っている。

 銃身にはもう一つのグリップがあり、イザナは両手で顕現させた『神器』を掲げる。

 

「うわ、イザナが銃騎士部隊にいるのがわかった気がする。『神器』が銃だったのか……」


「ふふん、かっこいいっしょ! これが自分の『神器』、『ビナー』っす! こいつで化物どもを撃ち倒すっすよ! バキューンってね」


「なあ、それ重くないのか? 見た目凄い重そうなのに随分と軽々持っているのな」


「全然っす! 軽いっすよ、これ。まぁ、『神器』使いは身体能力が飛躍的に上がるっすから」


「へー、『神器』ってすごいんだな。流石、救世主様って感じだな」


「ふふーん、もっと褒めてくれてもいいんすよ?」


 イザナはふんぞり返って鼻を高くしている。どうやらイザナは褒めると調子に乗るタイプのようだ。これから戦闘だというのに調子にのって死なれたら困るぞ。

 丁度その時、馬にまたがったウェイブ将軍が前へと出てきた。それに気づいた騎士達が背筋を正す。


 皆黙ったまま緊迫している。時折吹いてくる風の音がやけに煩く感じた。 


「いいか皆の者! 目の前には我らが怨敵である大量の『凶過』、必ず何処かに『異界』が出現しているはずだ! 例え見つけたとしても通常兵器では『異界』に通用しない。では、我々は黙って奴らの餌になるのか、否ッ!! 我々には『神器』に選ばれし救世主がいるッ! 我らの希望の光! 救世主と共に化物どもを打ち倒そうぞッ!!」 


「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 ウェイブ将軍の言葉に部隊全体が雄叫びを上げ、士気が高まっていく。聖騎士は剣を、銃騎士は銃を、魔道士は杖を天高く掲げている。その瞳に宿す光は絶望に抗うとする強さが秘められていた。

 その光景に鳥肌が立つ。皆、守るべき者の為に剣をとるのだ。俺のいた世界とはまったくの真逆の世界。常に化物の驚異に晒されている世界。

 この世界に召喚された姉貴を俺は守らなければならない。生きて、必ず元の世界に帰るんだ。

 腰に差した剣を握る左手に力が篭る。


「カズカズ、自分から離れないでくださいね。君は自分が守るっすから。それと、お姉さんの為に危険な戦場に出る気概、嫌いじゃないっすよ」


 思いもしなかった言葉を掛けられ言葉に詰まる。彼女らにとって一般人が戦場に飛び込むのは邪魔以外にないだろう。だが、イザナは俺の気持ちを汲み取ってくれていた。

 出会ってからまだ数時間しか経っていないが、イザナの人柄がわかったような気がした。おちゃらけてはいるが、根本的には相手の気持ちを理解してくれるいい奴。


 不意に頬が緩む。


「ああ、俺もお前のような奴・・・・・・・、嫌いじゃないぜ」


 俺の意趣返しにイザナが顔をポカンとし、意味を理解したのか急に笑いだした。


「ぷっ、くく、買い被りっすよカズカズ」


「そうか?」


「そっすよ。さーて、そろそろっすね」


 イザナから視線を逸らし、前方へと視線を移すとウェイブ将軍がマントを翻し、右手を頭上に掲げている。


「硝煙弾、撃てぇッ!!」


 ウェイブ将軍の合図によって、俺がいる大隊から緑色の硝煙が天高く昇っていく。そして暫くすると左側に離れているもう一つの大隊からも同じ色の硝煙弾が打ち上げられたのが見えた。


「進軍開始の準備が整った合図っす。カズカズ、一気にポイントまで走るっすよ」


「ああ」


 イザナは視線を逸らさず前方のみを見つめている。緊迫した空気の中、俺もその先を見つめる。その先には今だに数を増やしていく『凶過』と呼ばれる化物。結界の限界が訪れる前に殲滅しなくてはならない。

 手が汗ばんでくるのが分かる。まさか異世界に姉貴と共に召喚され化物退治をするとは夢にも思わなかった。不意に辛かった修行を思い出す。ああ、今までの修行はこの日の為にあったのかと錯覚さえしてしまいそうだ。


 打ち上げられた硝煙弾の残響が消え、立ち上った硝煙が風によってゆっくりと流されていく。


 次第に静寂になり――――


「進軍、開始せよッ!!」


 ――――号令により、その場から駆け出した。


「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 騎士達は一斉に雄叫びを上げて走り出す。各々武器を携え、あらん限りの声を上げて。数千人の騎士達が蹴り上げる大地の地響きは獣の咆哮のように。

 俺はイザナを見失わないよう、しっかりと付いていく。先頭を走るイザナは息一つ乱れていない。むしろ俺が付いてこれる速さに合わせているようにさえ感じる。


「なぁ、イザナ。俺はまだまだスピードを上げられるからもっと速く走っても大丈夫だ」 


「え!? 自分のペースで速度を上げたらカズカズ付いてこれないっすよ! さっきも言った通り自分たち『神器』使いは身体能力が引き上げられているんすから。そんなことしたらカズカズと離れて本末転倒っすよ」


「大丈夫だ。それよりも比較的『凶禍』が少ない場所の結界を部分解除するんだろ? その時にいきなり『異界』が現れたらどうするんだよ。唯一有効武器の『神器』持ちがいなきゃ先頭の連中はやられちまうだろ」


 進軍開始の合図から随分と先頭集団から離れている。先を走っているのは聖騎士部隊。結界を部分解除した際、侵入してきた『凶禍』の排除・進路確保のため彼らは全力で走っている。

 『凶禍』が大量に集まっている方へ視線を動かすと、結界に沿って横へと流れ始めている。やはり二分化された大部隊に引き寄せられているようだ。


「うっ……。確かに一理あるっすけど」


 イザナが俺の傍を離れないということに対して、本来の役目の足かせになっているようだ。俺のお守りのせいで裏目に出ている事実に嫌気がさす。


 なら――。 


「イザナ、俺が先頭まで突き抜ければいいわけだな?」


「いやまぁ、そうっすけど」


 走りながら自身の内側へと意識を集中し、特殊な呼吸法で気を練り上げる。丹田に蓄積された気の力は荒れ狂う本流となって体の中を駆け巡ろうとするが、気の流れをイメージし脚元へと力を一点に集中する。脚元に蓄積された気の力はその開放を今か今かと待ちわびているように、脚の筋肉を膨張させる。


「なら、先に行くぞ」


 地面を深く踏み蹴り上げたと同時に――、


「へ? カズカズ焦る気持ちは分かるっすけど――」


 ――――気の力を放出して駆け抜けるッ!!


 蹴り上げた衝撃により一気にイザナとの距離が開いた。


「って、ええええぇぇぇぇぇ!? うそぉぉぉ!!」

 

 イザナの驚く声がフォードアウトしていくのを尻目に、俺は先を走る聖騎士達をどんどん追い越し結界付近まで目指して駆け抜けていった。



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