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7.5人目の救世主、そして……

「うわ……。すげぇ……」


 連れてこられた部屋は教会のような講堂だった。講堂の奥には祭壇があり、壁一面ステンドガラスが貼られ太陽の光を部屋一面に取り入れている。

 祭壇の中央上には銀色に輝く一本の小さな木があった。ステンドガラスから差し込む光を浴びて輝いているその光景は、まさに神秘的で鳥肌が立つのを覚えた。


「あれが『セフィロス』。『セフィラ』を実らせる生命の木よ。――シオン、『セフィラ』を」


「はい」


 シオンと呼ばれたゴスロリ少女は祭壇へと向かい、銀色に輝く木からオレンジ色に輝く宝石を手に取る。そしてそれを俺の方へと持ってきて、差し出してきた。


「どうぞ」


「え……」


 いきなりオレンジ色に輝く宝石を渡されて俺は戸惑ってしまう。

 どうすればいいのか分からず、シオンの方へと視線を向ける。


「もしあなたが救世主に選ばれたのなら、その子の名前がわかるはずよ」


「名前?」


「そう、名前。『セフィラ』には意味名があるの。例えば、あなたのお姉さんが持つ神器の名は『ネツァク』、意味は『勝利』。あなたがこの子に選ばれていたのなら声が聞こえるはず」


 シオンはゆっくりと視線を動かし、俺が手に持つ『セフィラ』を見つめる。

 俺もつられるようにオレンジ色に輝く『セフィラ』を見つめた。


 意識を自身の内側へと集中し、目を瞑る。


 ………………。 


「どう?」


 ………………。


「聞こえた?」


 ………………。


 ウン、キコエナイ!


 やっべぇー、散々期待させておいて、それっぽい場面なのに「聞こえませんでした」なんて恥ずかしすぎるぞ!

 でも嘘ついても仕方がないし、素直に言うか。


「声、聞こえないです」


 全員の顔が「やっぱりね。男だしね」というやれやれとした様な顔をしていた。

 正直気まずいぜ!


「そう、わかったわ」


 シオンは俺の手から『セフィラ』を受け取り、部屋の中央へと歩いて行き、床に描かれている模様の上に置いた。

 あれは……魔法陣なのか? 床に描かれた模様は目を凝らさないと見えないくらいに景観に溶け込んでいた。


 シオンはそのままラミアムの元へと向かう。


「ラミラミ、召喚の準備が出来たわ」


「ありがとうシオン。でも、まだイザナが来ていないわ。まったく、何やってるのかしらあの子は」


 暫く待っていると扉の入口が開き、オレンジ色の髪をした女の子が駆け寄ってきた。


「やー、只今到着しましたー! や、皆さんお揃いで! お待たせしちゃってすみませんー」


「遅いぞ、イザナ。召集がかかったら直ぐに来なければダメだろう」


「いやん、シェリリン怒らないでくださいよー。このとおり謝りますからっ! ねっ?」


 イザナと呼ばれた女の子はシェリルに向かって両手を合わせて「ごめんちゃい!」と謝るポーズを取っている。


「まったく……」


 シェリルはやれやれとした表情をしていた。

 うわー、この子随分と軽い性格しているな。遅れて来たくせに、屈託のない笑みしてるぞ。


「お? お? そこのお方、もしかしてもしかして! その新顔は救世主さんですか!?」


 う……。その話ぶり返さないでほしい……。今さっき赤っ恥書いたばかりなのに。


「違うわよイザチン、そいつは私の弟。私の召喚の時に巻き込まれたのよ。ついでよついで」


 姉貴は「にしし!」と悪戯な笑みを浮かべている。


 こ~の~バカ姉貴~……。俺のカブを下げるなー!


「はぇー、それは災難でしたね。えっと、私はイザナです。救世主やってます。あなたのお名前、お聞きしてもいいですかっ!」


 屈託のない笑みを浮かべながらイザナは右手を差し出してきた。


「鳴神和真です。姉貴のついででこの世界に来てしまいました。よろしく」


 俺は視線をずらし、イザナの右手を握り返した。

 くっ……挨拶とはいえ、可愛い女の子と手を繋ぐのは緊張するぜ! 手、柔らかいし!


「へへ~、よろしくねカズマ君!」


 繋いだ手をブンブンと振り回される。


「はいはい、2人ともいい加減もういいかしら。自己紹介するなら、最後の救世主を召喚してからやってもらえる?」


 ラミアムが呆れた顔をしている。


「シオン、始めて」


「はい――」


 シオンが魔法陣の前に立ち、なにやら呪文のようなものを唱え始めた。何を言っているかはさっぱりだ。次第に魔法陣が輝きだし、部屋の中なのに風が吹いた。どうやら風の発生源は魔法陣に置かれている『セフィラ』からのようだった。


「来ます――衝撃に備えてください」


 へ? 衝撃?


 突然、魔法陣の中央に光の柱が登った瞬間に突風が巻き起こり、体に強い衝撃が襲ってきた。


「ぬおぉぉ!!」


 両腕で顔を庇い風が収まるのをじっと耐える。徐々に風が止んできたので、両腕を降ろし魔法陣を見入やるとそこには、ピンク色の髪をした女の子が横たわっていた。


「うっそ……」


 俺はその光景にど肝を抜かれた。本当に人がそこに現れたからだ。マジで召喚する場面とか普段みれない。というかありえない。


 皆が魔法陣に横たわっている女の子の方へと集まって行ったので、俺も続いて魔法陣へと向かう。

 俺は横たわる女の子の姿を見て驚く。

 その姿は白装束に黒い陣羽織、刀を2本腰に差している。そしてなにより驚いたのが白装束がミニスカート。


 なんてエロいんだ……。って、違う違う! ……うーん、この姿からして侍か? いやいやいや、女の子で侍とか聞いたことないし!

 あれ? なんだ、お尻に尻尾……? ってことは、まさか頭には……ああ! 獣耳があるぅぅ! この子、半人半獣!? 


「……ぅ、ん。……ここ……は。――――はっ! 何奴!」


 侍姿の女の子は気がついたかと思うと、直ぐ様腰にある刀を抜刀し警戒。どうやら気が立っているようだ。

 ラミアムは落ち着いた様子で、女の子の前にしゃがみ込んだ。


「気がついたようね。私はラミアム。理由わけ合ってあなたの力を貸して頂きたく、ここに招いたの」


 周りの皆は黙って事の成り行きを見守っていた。


 ゆっくりと、ラミアムは侍の女の子に話しかけていく。




 ◇



 

「なるほど、この国の危機を救いがたい為に拙者の力が必要だと。――ふむ」


 侍の女の子は腕を組み、思案している。

 この子もシェリルに劣らず、胸がでけぇな! 腕組んだら余計にプルプル揺れてるよ!

 

「こら、バカ和真! 大事な時にどこ見てるのよ!(小声」


「ふぐっ!」


 脇腹を殴られた。


「ラミアム殿と言ったか……。その話――――」


 あー、きっと断るだろうなー。普通、いきなり訳もわからない所に連れてこられて、世界を救えだなんて馬鹿げた話だもんなー。

 しかも、あの子侍っぽいから、理不尽な話に怒るかもな。


「是非承ろう!」


 ええぇ!? そんなあっさりと受けちゃうの! マジでか!


「――くぅ! まさか拙者が異世界を救う英雄に選ばれるとは。今こそ、我が一族の汚名をこの地で晴らす……見ていてください父上、母上」


 ええー……、今度は泣き出したぞ。


「話は決まりね。良かったわ。揉め事なくて」


 ルルナと呼ばれていた赤髪の女の子が、ほっと胸を撫で下ろしている。


「やっぱ、揉めたりするの?」


「そうね、そういう時もあったわ。今この場にいる子たちは、すんなりと受け止めたわね」


「え? じゃー、揉めた時ってのは?」


「イオリとあの子が選ばれる前の、『セフィラ』の持ち主よ」


 なるほど。ん? てことは……。


「なぁ、前の持ち主って……」


 ルルナはどこか遠い目をし――。


「――――死んだわ」


 その一言に、俺は何も言えなかった。



 ◇



「申し遅れました皆様方。拙者、久遠と申します。以後お見知りおきを」


 犬耳侍っ子は魔法陣の上で正座をしながら自己紹介を始めた。


「クオン、自己紹介を始めてもらって申し訳ないのだけど、先ずはこの『セフィラ』の適合者かどうか確認させてほしいの」


 ラミアムは久遠の隣に転がっていた宝石を拾い上げ、久遠に手渡す。


「ほう、これが先ほどの話にあった『セフィラ』でござるか。む……何やら声が聞こえるのでござるが……」


「クオン、この子の名前、聞こえる?」


「名前でござるか? …………『ホド』」


 突然、久遠の手にある『セフィラ』が輝きだし、形状を変えそこには2本の刀が顕現していた。


「こ、これは一体……」


 久遠は目をぱちくりさせ驚いている。

 俺も目の前の光景に目をぱちくりしてしまった。


「まじか……。宝石が刀に変わったぞ……」


「『ホド』……意味は『栄光』……か」


 隣にいたルルナがポツリと呟いたのが聞こえた。


「ラミアム殿! これが神器か! なんと神々しいまでの刀身……」


「そうよ、『セフィラ』は持ち主の心を写すの。それは最適な武器へと変わる。まさか、イオリと同じ形状の神器とはね……」


「イオリ?」


 久遠の頭にハテナマークが浮かんでいるように思えた。


「はいはいー! 私のことだよ、くーちゃん。 私の名前は鳴神伊織。よろしくね」


「く、くーちゃん!?」

 

 姉貴の馴れ馴れしい態度に戸惑ってるな。まぁ、あともう一人馴れ馴れしいのがいるがな。

 イザナの方を見ると目があった。その顔をは「なんすかー?」という顔をしていた。

  

「へー、くーちゃん大小の2本なんだね。私なんて大太刀だけだよ。見せてあげるね。――『ネツァク』」


 突然、姉貴の目の前の空間がガラスのように弾け、一本の大太刀が顕現した。


 うおぉぉ! 姉貴もマジか! というか、『セフィラ』手に持ってなかったけどどうやって出したんだ?


「なんと! 伊織殿も刀とな!? もしや伊織殿は侍でござるか!」


「違う違う、まぁ、剣術はすこーし囓っているけどね。侍でも武士でもないよ」


 姉貴は自分の刀を鞘から抜いていく。


「ねぇ、カズマ君。侍とか武士ってなに?」


 ルルナが俺に話しかけてきた。そうか、此処は異世界だから侍はいないのか。なら、知らないのは当然だよな。


「んー、この世界で例えるなら、侍は騎士と同じようなものかな。主君に仕える者だよ。武士は兵士みたいなもん。軍事に携わるみたいな」


 めんどいので端折った。


「ふーん」


 どうやらルルナは納得したらしい。


 俺は姉貴と久遠へと近づく。


「姉貴、神器見せてもらってもいい?」


「お、和真気になる? なるよねー」


 くそー、姉貴のやろー。俺が刀好きなのを知っていて自慢してやがるな。態度でわかんだよチキショウ!


「あ、本人以外は触れないから、このままで見てね」


 姉貴が掲げている刀を見せてもらう。


「へー、先反り・添樋そえび濤瀾乱刃とうらんみだれば火焔帽子かえんぼうしかー。如何にも姉貴ってイメージがあるなこの刀」


「おー! そなた刀の知識あるのか! ここは異世界だと言っていたから、てっきり拙者のような武士を知らないと思っていたが」


「ふふん! 俺の世界には昔、侍が居たからな」


「おおー!」


 ちょっと悦に入る俺。


「和真、悦に入ってるのきもいよ」


 ほっとけ! 好きなんだからしょうがないだろ。


 久遠の方へと見る。


「えっと、俺は鳴神和真。よろしくな。で、だ。武士の魂であるくおんの刀、見せてもらいたいんだ。ダメかな?」


「応とも! 拙者嬉しいぞ! このような世界で和真殿のような男子に出会えたのは!」


 すっげー尻尾フリフリ振ってる。まさに犬だな。どれどれ。あれ? 大小の波紋がそれぞれ違うぞ……。


「太刀の方は無反り・棒樋ぼうひ丁子ちょうじ・丁子乱れちょうじみだれこみか。なんか禍々しい感じがするのは気のせいか? で、小太刀は波紋だけ細直刃ほそすぐは中丸帽子ちゅうまるぼうしと。なんか凛としたイメージだな」


「本当でござるな。何故?」


 うーん、神器は持ち主の心を写すとか言ってたよな。その影響なんだろうか。


「なぁ、久遠。お前、突き技を主体とした剣術使うの?」


「和真殿、何故分かったのだ!?」


「だってお前、刀見りゃわかるよ。無反りだしなぁ」


「おおぉー……」


 すっげー尻尾フリフリ振っている。

 

「いや、だからキモいって和真」


 ほっとけ!



 ――パンッ、パンッ!!


 ラミアムが両手を叩いていた。


「はいはい、3人ともそろそろいいかしら? 皆の自己紹介は後でいいでしょう。先ずはルークス王にご挨拶に行くわよ。救世主が5人揃ったわけだし。日が完全に落ちる前にクオンのことを報告しないと」


「あ、ラミ先生ごめんなさい。和真ー? あんたのせいで怒られたじゃない」


 お、俺のせいかよ。いやまぁ、刀に夢中になってたのは悪いけどさ。


「さ、皆行きましょう。カズマ君の処遇も決めないとね」


 ラミアムが部屋の出口へと向かっていく。


「っすねー! ささっと王様の所へ行きましょー!」


「あ、こらイザナ! 走るな! はしたない」


 走り出すイザナをシェリルが嗜めている。


 皆が部屋の出口へと向かう。俺はその最後尾をトボトボと歩く。だって姉貴のおまけだしな!


 あー、悲しい。ま。銃騎士隊にでも入隊して――



 突然、世界の音が消えた。



 な、なんだ!? 何が起きた!!



 ――――、――――。



 そして、誰かが俺を呼んでいるような声が聞こえた。

 何故か、切ない気持ちになるような、懐かしい気持ちになるような、そんな声だった。

 俺は辺りを見回す。人は姉貴たち以外いない。その姉貴たちも俺の先を歩いている。そしてまだ世界の音は消えている。


 そして俺はある一本の木に目が止った。


 それは『セフィロス』。『セフィラ』を実らせる生命の木――。


 俺は何故かその木に向かって祭壇の方へと歩いてく。


「ん? 和真? ってあんた、ちょ、なんであんた祭壇に登ってるのよー!?」


 『セフィロス』の目の前に立ったとき、皆の足音が背中越しに聞こえてきた。


「おい、何をしているカズマ! 貴様、正気か!?」


「カズマ、そこから降りたまえ!」


「な、何するの……ねぇ……」


 俺は手を伸ばし――――。


 触れた瞬間、生命の木セフィロスが光り、弾けた。


 弾けた破片は銀色のように輝いている。そして俺の目の前へと風を起こしながら収束していき――。


 ――――1つの宝石が目の前に現れた。


「う……そ……」


 誰の声か分からない声が、その場に響いた――。




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