6.王の間
シェリルの後をついていくと、広い講堂の様な部屋に連れてこられた。部屋の隅には騎士のような人が何人かいる。扉の入口から真っ直ぐに真っ赤な絨毯が引かれており、その上を歩いていく。
そしてその先には階段の様な壇上があり、その目の前でシェリルが止まったので同じように止まる。その壇上には人がいた。
壇上の中央にある豪勢な椅子に座っているのは厳つい顔をした中年男性。王冠を被っている。
そしてその隣には黒いニーソックスにミニスカートを履いている赤髪の女の子。
その右隣に初老の老人と妖艶な女性、そして小さな女の子の五人だ。
老人の方は腰まで届く白髪で白を基調としたローブを羽織っていて外見はヨボヨボだが、その目は鋭かった。
次に隣の女性。男を誘うような妖艶な服装で胸元がはだけてて一言で言うなら、エロい。肩の所で結んで胸元まで伸びた紫色の髪の毛が、部屋の光によって艶やかに光っている。
そして最後の一人は小さな女の子。白い肌に白い髪、表情に生気が伴っていない。ただ、服装は可愛くフリフリしたスカートを履いている。一言で例えるなら、ゴスロリのお人形みたいな感じだ。
おかしい……。シェリルの話では、まず司祭に会わせるという話だったが、どう見てもこの王冠を被っている人物は王様じゃなかろうか。姉貴に会うためなのになんでこんな場所に連れてこられた?
「先ずはシェリル、この度はイリカ村での任務ご苦労であった。結界を修復したのはこちらでも確認した。のう、爺?」
「はい、確認しております」
白髪の老人が頭を垂れる。
「すまぬなシェリル。ゼクシア帝国の姫君にこのような雑務をさせて」
「何をおっしゃいますか、私はゼクシア帝国の姫としてではなく、民を救う救世主として行動を起こしているのです。それに結界は『セフィラ』でなければ修復できぬもの、私が向かうのは道理です」
「そうか、デール王もできた娘を持ったものだな」
「はっ。有り難きお言葉」
デール王? シェリルの親父さんかな?
「さて、本題に入ろうか。シェリル、その者が報告に上がったナルカミ・イオリの関係者なのだな」
「はっ。名はナルカミ・カズマ。イオリの弟だと本人は申しております」
「ふむ……。爺、どう思う」
「はい、召喚を行う際、対象者以外の者も一緒に召喚するなど、まずありえません。『セフィラ』の力を利用しておりますので、適合者でしか召喚できないはず」
「あら、マーザリック司祭。こうは考えられなくて? 彼はイオリの弟、つまり血の繋がりがある。召喚する際、彼が近くにいて巻き込まれたという可能性は考えられなくて? そこの君、その時の状況はどうなのか説明してくれるかしら?」
妖艶な女性にいきなり話しかけられて、一瞬ドキリとしてしまう。今思えば、確かにあの時俺は姉貴の腕を掴んでいた。
あの時は咄嗟だったからな。
「ええ。確かに俺は姉貴の腕を掴んでた。で、気づいたらこの世界に――」
「だがそれでもありえん! 召喚ゲートを通るには『セフィラ』という繋がりがなければ本来ありえんのだ! ましてや男など!」
マーザリック司祭と呼ばれていた老人は声を荒げる。
「ですがマーザリック司祭、現に彼はこうしてこの世界にいます。今、イオリを隣の部屋に連れてきています。本人に合わせれば事実ということが確認できましょう」
「ぬぅ……」
そう言って妖艶な女性は近くにいた騎士に声を掛けると、その騎士は部屋から出ていく。
暫く待っていると見知った顔が現れた。
「姉貴っ!」
「か、カズマ!? あんたどうして此処にいるのよ!?」
姉貴が俺の傍まで駆け寄ってきた。
「まさかあんたもこの世界に来ていたなんて……」
「俺もびっくりだよ。でもよかった、姉貴無事だったんだな!」
俺は姉貴の体に抱きつき力を込める。良かった。姉貴が無事で。
「ちょっ、か、和真!? か、顔近い! 離れてっかず、離れっ、っていい加減離れろバカっ!」
「ごばぁっ! ぃってぇー! 何すんだよ姉貴!!」
頭に姉貴のゲンコツが落ちた。心配してたのに何故殴られなきゃならん。
「あんた、人様の前で抱きついてきて……そういうのは人のいないところでしなさい」
姉貴が顔を赤くしてそっぽを向く。
え? なに顔赤くなってるの?
「マーザリック司祭、どうやらイオリとカズマは本当に姉弟のようですわね」
「ぐっ……。そのようだな。まさかこのような事態が起きようとは……」
「お父様、もしかして彼も救世主なのではないでしょうか」
今まで黙っていた赤髪の女の子が王冠を被っている男に話しかける。
「ふむ……」
お父様? ってことはあの子、皇女さまなのか。
ローブのような服を纏い、そこから見えるミニスカートとニーソックスの生足が眩しい。皇女としてはありえない服装だ。
「ナルカミ・カズマと申したな。 名を名乗るのが遅れたが、私はルーベンブルグ王国の王、ルークス=ルーベンブルグだ。事実確認をしたかったものでな、自己紹介が遅れてしまった」
まぁ、そんなことだろうと思ったよ。
「カズマよ、訳あってこの国は戦争をしている。その相手は人間ではないのだ。故に我々は対抗できる存在、救世主として君の姉君を呼び寄せた」
「ええ、その辺の話はシェリルから聞きました。『セフィラ』と言う神器、救世主のことも……。
失礼ながらルークス王、単刀直入に言わせてもらいます。俺と姉貴を元の世界に返してほしい。正直、勝手に召喚されて世界を救えなんてのは身勝手すぎる」
「貴様、王に向かってなんたる口をッ!」
「よい、爺。カズマの言い分は最もだ。だがなカズマ、お前たちの世界も他人事では済まされぬのだ」
この王様は何を言っているんだと思っていると、ゴスロリチックな女の子が前に出てきた。
「今私たちの世界を襲っている存在は『異界』と呼ばれるもの。あらゆる次元と繋がる存在。そしてそれが私たちの世界を飲み込もうとしている。そう、蛇のように。この世界を飲み込んだあと、次なる世界を飲み込む」
ゴスロリ女の子は言い終えると後ろに下がった。
「カズマよ、ここへ来る途中、空の彼方に黒い柱を見なかったか?」
「いえ……」
「そうか、後でシェリルにこの城の見晴らしの良い場所へ案内してもらうがよい。そこでなら見えるであろう」
「あの、見えるとは――」
「蛇だよ。この星を飲み込もうとする蛇だ。今、この世界は空から連なる巨大な蛇がこの世界を飲み込もうとしているのだ。我々は救世主の力によってそれをなんとか防いでいるのだ」
マジなの?
姉貴の方へ向くと、首を縦に振っていた。
「和真、私この世界を救うわ! 帰る気ないし(ぼそ」
「ちょ、姉貴本気か!? いやいや、無謀すぎるでしょ! てか今帰る気ないとか言わなかった!? 」
「何言ってるの和真! この世界の人々が苦しんでるのよ? それにこの展開……燃えるわ!!」
ソウダッター! 姉貴、正義感強すぎるの忘れてたー!
頭を抱えてると、姉貴が俺の頭を撫でてきた。
「――それに安心しなさい。和真はおねーちゃんが守ってあげるから」
姉貴は優しく微笑んでいた。
その笑顔をみて昔を思い出す。
『かずまは、おねーちゃんが守ったげるんだからっ!』
俺がまだ小さかった頃の思い出が――。
「おーい、和真ー? どしたー?」
…………。
懐かしさに頬が緩む。
はぁ、しょうがないか。世話の掛かる姉貴だけど放っとけないものな。
「わかった。姉貴の意思が堅いなら付き合うよ」
「さすが和真わかってるー! くふふ、これで世界を救ったら私はモテモテ……(ぼそり」
オイ、イマ、ナンテイッタ?
「おい、姉貴。まさか――」
「え今和真何か言ったキコエナイー」
こ~の~バカ姉貴~……。人が折角――。
「うおっほん! 2人ともそろそろ説明を続けても良いか?」
ルークス王は渋い顔をしている。
っと、いけね。
「あ、はい。えーと、要するに救世主の一人である姉貴の弟の処遇をどうするかってことでいいんですよね?
俺の目的は姉貴と元の世界に戻ることでしたが、その姉貴がノリノリなんで保護者として残ります。
あ、衣食住ってどうなります? 騎士隊とか入ればそのへん大丈夫ですかね? あ、なんだったら雑用の仕事とかやりますよ? 先ずは生活基盤を固めなきゃならないんで」
周りの人たちはポカーンとした顔をしていた。
「お主、気持ちの切り替えが早いな……。こほんっ。君の処遇に関してなんだが、その前に確かめたいことがある。仮にも君は召喚された者だ。
残り一つの『セフィラ』が君を選んだのかを確認したいのだ」
突然、司祭の爺さんが慌てて出てきた。
「ルークス王、何をおっしゃいますか! 本来『セフィラ』に選ばれるのは女性、男が選ばれるはずがありません!」
「あら、司祭様。随分とムキになられるのね。頭の堅い男は嫌われるわよ。それに王のお言葉に逆らうのかしら」
妖艶な女性に嗜まれ、顔を歪める司祭。
「ラミアム、貴様――」
「まぁまぁまぁ、2人とも喧嘩は止めましょうよ。ここはほら、お父様の言うとおり1度確認してもいいじゃないですか。それで違ったら彼の待遇を改めれば言い訳ですし。ね?」
赤髪の女の子が仲裁に入る。
「ルルナの言うとおりだ。それでよかろう? 爺」
「……はっ。申し訳ありません」
マーザリック司祭が頭を下げていると、後ろの入口から人が駆けてくる音が聞こえた。
「ルークス王! 申し上げます! 先程『生命の木』に実っている最後の『セフィラ』が輝き出しました。適合者が見つかったかと思われます!」
「まことか!」
ルークス王は王座から立ち上がり、妖艶な女性ラミアムとゴスロリ女の子の方へ向く。
「ラミアム、シオン――」
「はっ! 直ちに。シオン、行くわよ。立会いの儀として、ルルナ様、シェリル、イオリも一緒に。 そこのお前、イザナも直ぐに『召喚の間』へ向かうように伝えなさい」
「はっ!」
報告しにきた男が直ぐに踵を返して走り出していった。
「それと……カズマだったわよね。あなたも一緒に来なさい」
「お、俺も?」
「念の為よ」
そして俺も一緒に『召喚の間』へと連れて行かれた。




