3.探し人
エウレの家についた時には既に夜の帳が降りていた。
家の中に入ると、出迎えてくれたエウレの母親がビックリした顔をしていた。
なにせ、泣きじゃくっている娘が王国の騎士と一緒にいた為どうやら悪いことをして捕まり、連行されてきたのではないかと勘違いしたらしい。
まぁ、俺も身内が警察の人と一緒に家に現れたらビックリするしな。
王国の騎士が母親に事情を説明すると、エウレの母親は顔面を蒼白にしエウレに抱きついた。
「ああー、エウレ! 無事で良かったよエウレ! あんたまで死なれたらあたしゃ……」
「ぐすっ……お、おかーさん……おかーさん」
二人が抱き合い落ち着いたところを騎士が見計らい、二人に近づく。
「ご婦人、事が済むまで少しの間。私がこの付近を警護致しましょう」
え? いいの?
「あの、さっきの騎士さんたちに合流しなくていいんですか? またさっきの化物が出たら……」
「なに、心配するな。救世主の内が一人、シェリル様がおられるからな。それに、先程シェリル様が君に個人的な話があると言っていたであろう? なら、戻られるまで私が護衛するのが道理だ」
きゅ、救世主!? な、なんかさっきの化物といい、話のスケールがでけぇなぁ……。
黙っていると騎士は俺が不安になっていると思ったのだろう、優しく微笑みながら俺の肩に手を乗せる。
「安心したまえ。私たち王国の騎士が君たちを守る。必ずだ」
そう言い残し、騎士は家の外へと出て行った。
「ナルカミ、あんたも無事で良かったよ。よく生きていてくれたね」
エウレと抱き合っていた母親が俺の顔をみる。
「お、おかーさん、あ、あのね! わたしナルカミさんのお陰でこうして生きていられるんだよ!
私を逃がしてくれて……そ、それでね、騎士様を呼んで戻ってきた時に見たんだけど、光る剣で怪物と戦ってたんだよ!」
光る剣? ……ああ、さっきの気で練り上げた時か。
………。
って、光ってた!? 無我夢中で気がつかなかったが、そんなことはありえない。
本来、気とは生物のエネルギー。それを感じ取ることはできても目に見えるという事はない。
俺でさえ、気は陽炎の揺らぎのようにしか認識できないのだ。
それが光っていたなんて……。
「あんた、魔法使いだったのかい? いやそれよりも……ナルカミ、娘を助けてくれて有難うさね。今思えば、こうして気絶していたあんたを介抱したのも何かの縁だったのかもしれないねぇ。本当に有難う」
「い、いえ、そんな。むしろエウレが俺の命の恩人といいますか。こうして介抱してくれなければ野垂れ死んでいたわけですし、それに……男が女の子を守るのは当然です」
母親の顔を見て、そして最後にエウレの顔を見つめる。
本当に守れて良かったよ。古流術を叩き込んでくれた親父に感謝だな。
「あぅ。ナ、ナルカミさん……。う~~~~……」
エウレの顔が真っ赤だ。今更ながら、くさいセリフを吐いた自分が恥ずかしい。う~ん、俺も顔が暑くなってきたぞ。
「はっはっは、そうかいそうかい。ナルカミ、あんた本気でこの村に腰を据えないかい? うちの娘も満更でもないようだしねぇ」
「ちょ、ちょっと、おかーさん!? な、何言ってるのよ! もうっ!」
エウレは顔を赤くしたままポカポカと母親の胸を叩き、それを母親が優しく見つめている。
その姿を見ていたら、急に家族の姿が目に浮かんできた。
ああ、そうだった……。親父とお袋、どうしてるかな。やっぱり、心配しているだろうな。
それに、姉貴のことも気にかかるし……。
「はは、お気持ちは嬉しいですけど、どうしても元の世界に……家族のところに戻らないといけないんです。エウレ、ごめんな……」
「あ……。い、いえ! わ、私はその! た、たははは……」
エウレの悲しそうな顔が見ていて辛い。俺自身、女の子に好意を寄せられるのは初めてで、なんとも言えない切ない気持ちになる。
――トンットンッ。
扉を叩く音が聞こえてきた。
「――――失礼する」
扉が開いた先には護衛してくれた騎士ラドと、シェリルと呼ばれていた女騎士がいた。
他の騎士が見当たらないが、きっと外を警護しているのだろう。
「おお、騎士様! 娘を助けていただき有難うございます。なんとお礼を言ったらよいのやら」
深々とお辞儀をする母親とエウレ。
俺も一緒にお辞儀したほうが良かったか?
「気になさるな。民を守るのは騎士として当然のこと。時にご婦人、そこの者と話をしたいのだが席をお借りしても良いか?」
「え? ええ、構いません。ささ、どうぞお座りください。今お飲み物をお出ししますので」
「すまぬな、ご婦人」
女騎士はテーブルの側にあった椅子に座り、同じように俺もあとに続いて座る。その隣にエウレが立っていたので隣に座らせた。そしてラドは座らず立ったままだった。
「さて、自己紹介がまだだったな。私はゼクシア帝国の騎士が一人、シェリル=ゼクシアだ」
「ゼクシア帝国? あれ? ここってルーベンブルグ王国なんですよね? なんで他国の騎士が……」
「その疑問は当然だな。本来、私は他国の騎士。だが隣国、ルーベンブルグ王国のとある儀によって選ばれてな。いやまさか私がこの世界の救世主の一人に選ばれるなんて思わなかったが」
「え!? す、凄いです! きゅ、救世主様ですって! まさかお目にかかれるなんて! きゃー!」
エウレはミーハーのように浮かれている。すまん、この世界の事情知らんのでなんとも言えない。話を深く切り込んでみるか。
「あの、その救世主ってのは一体どういう意味で……そもそもあの化物は一体……」
質問を言った傍から怪訝な顔をされた。
「君は何も知らないのか? 自分の生まれたこの世界の事情を」
「あ、いや、俺この村の出身じゃないので。あはは……」
「む、この家の者ではないのか? 確かに変わった服装をしているが、もしかして君は何処ぞの貴族の者か?」
「いや、貴族じゃないですけど、なんというかまぁ……」
どうしよう。この女の意図がまだ分からないから、本当のこと話していいのか判断がつかないぞ。取り合えず、話を濁すしか……ない!
「恥ずかしながら俺、無知なものでして。その辺を詳しく話して頂けたら助かるかな~って。はい」
「ふむ、私が君に訪れた理由にも関わるか。いいでしょう、ではこの世界の事情についてお話しましょう」
ゴクリと唾を呑み、俺は聞き逃すまいと姿勢を正した。
◇
この世界には二つの国がある。ルーベンブルグ王国とゼクシア帝国。元々は一つの国であったが、王選に破れた王族の一人が新たに国を建国する。
それがゼクシア帝国。しばらくして互の国がいがみ合い、両国の戦いの火蓋が切って落とされようとした時、世界に異変が起きる。
空から一匹の黒い大蛇が落ちてきて、世界を黒く染めた。その黒蛇の身体からは異型の化物が生まれ、生物を食らっていく。
両国は必死に抵抗したが、黒蛇だけは殺せなかった。否、武器が通用しなかった。
そして二つの国が滅びかけようとした時、5人の戦士が現れる。5人の戦士にはそれぞれ色が違う光り輝く宝石を握っていた。
戦士たちが高々に声を上げると、その宝石は武器に変わっていく。
それはルーベンブルグ王国に伝わる5つの秘宝――――『セフィラ』。
その武器だけは黒蛇に通用したのだ。そして黒蛇は5人の戦士によって倒される。
疲弊した両国は休戦をし、復興を始める。が、束の間の平和は直ぐに終わる。
時を暫くして、また黒い大蛇が現れたのだ。両国は和平を結び、大蛇討伐を始める。
それが1000年前のお話だそうだ。そしてそれが今現在も続いているらしい。
そんな話を聞いて第一に思ったことは『うわー……』の一言。なにせマジで話のスケールがでかすぎる。
「で、君が先程遭遇した黒蛇を我々は『異界』と呼んでいる。そしてその『異界』から生まれてくる化物を『凶禍』――。普段我々が戦っている化物だ。
『異界』は普段姿を現さないのだ。で、我々はとある事情でこの村に来たのだが、まさか『異界』に遭遇するとは思わなかった。だがまぁ、切り伏せたから暫くは姿を現さんだろう」
出された飲み物を口につけるシェリル。少しの間が空く。
やべー……。なんで俺こんな世界にいるんだよー。
いや、むしろこれは夢だ。現実の俺はきっとエロゲー(RPG系)プレイ中に寝落ちしてこんな夢を見ているにちがない。
早速自分の頬をつねってみる
「あ、いひゃい。夢じゃひゃい」
「どうした?」
「なんでもないです。気にしないでください」
頭を抱えながら蹲る。
「まぁ、無知な君が真実を知って現実逃避をしたくなるのは分かる。だが真実だ」
わかっているなら、どうしたとか聞くなよ!
「で、ここからが本題なのだが――」
なんだよ、まだこれ以上まだあるのかよ! 聞きたくねー!
「――君、聖騎士隊に入隊しないか?」
…………。
はい?
入隊? 俺が? なんで!?
顔を上げてポカーンとしていると、シェリルは腕を組み興奮したような顔になっていく。エウレもポカーンだ。
「私は君が『異界』を吹き飛ばすところを見たのだ。鳥肌がたったぞ。その能力……、その力をぜひこの国の為に使って欲しい!」
「だが断る!」
「即答だと!?」
何言ってるんだこの金髪巨乳美少女は。
「何故だ!? 君は騎士の素質がある!」
鼻息を荒げる金髪巨乳。
「それに自らの身を呈して他者を守るその騎士道精神。立派だ!」
テーブルに身を乗り出す金髪巨乳。あ、揺れてる。
「どうだっ! 私たちと一緒に世界を救わないか!?」
シェリルは目を輝かせている。その後ろでラドも「うんうん」と頷いている。
ちょいちょいちょいちょーーい!
ラド、あんたもも頷くなし!
「いやいやいやいや、おかしいでしょそれ! だって、俺、一般人だよ!? 世界救う以前に今生きていくのに精一杯な身だよ! そんな危なっかしい話、断るよ!」
「何故だ? それ程の実力を持っているのに。その力、民の為に使ってはくれぬか?」
「だから断る。俺は巻き添えをくらった一般人だ。……それに俺には探さなきゃいけない人がいるから」
姉貴の顔が浮かび上がる。
「そ、そうか。無理を言ってすまなかった」
シェリルはバツが悪そうにシュンとした顔をする。
あー……、理由はどうあれ女の子の悲しむ顔を見ると胸が締め付けられるが、平常心平常心。
シェリルは顔を上げ席から立ち上がった。
「時間を取らせてすまなかった。私が君に話したかったのはそれだけだ。……それと探し人が見つかるとよいな。では私はこれで失礼する」
シェリルは笑顔を見せ扉へと向かう。見送るために俺も席を立つと、エウレも勢いよく立ち上がった。
「あ、今わたしが扉開けますのでっ――――きゃっ!!」
「っと、大丈夫かエウレ?」
椅子に足を引っ掛け転びそうになったエウレを支える。
「あ、有難うございます、ナルカミさん」
ったく、エウレはおっちょこちょいだな。
「エウレ、気を付け――」
「ナル……カミ……? 今、ナルカミと言ったか?」
突然、こちらに背を向けていたシェリルの歩む足が止まる。
そして振り向き俺の目を見てきた。
「鳴神は俺の名前ですけど……」
「イオリ――」
ドクンッ――。
「え―――」
今、なんて言った。
何故、シェリルがその名前を知っている。
いや、まさかそんな……。
「……ナルカミ――、君はナルカミ・イオリの関係者か?」
「――――なッ!!」
シェリルの口から姉貴の名前が出たとたん、俺は彼女の元へ駆け寄り、その肩を掴んでいた。
「シェリルッ! 姉貴を知っているのか!?」
「そうか。君が……」
「なぁ! 質問に答えてくれ! 姉貴はっ、姉貴は今どこにいる!? 無事なのか!?」
「安心しろ。彼女は今、私たちの仲間と王都にいる」
無事だという言葉を聞き、一気に脱力する。
そうか~、無事か~。まぁ、暴力姉貴がそう簡単にくたばらないとは思っていたが、一応家族だからな。
ふぅ~! のどに刺さった骨がとれた気分だぜっ!
「ただ……」
ん?
彼女の間を置いたその一言に嫌な予感を覚えた。
え、え? まさか……、まさか!?
シェリルは誇らしげな表情を浮かべ――。
ちょいちょいちょいちょーーい!
「彼女は私と同じ神器に選ばれし者――、救世主の一人だ」
もう開いた口が塞がらなかった。




