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14.儀式の間

 ――――…………。


 ――――……。


「か、和真っ! ねぇ和真! あんた大丈夫!?」


「――ッ!!」


 突然、名前を呼ばれて意識が戻る。瞼を開くと強烈な光が目に差し込み、視界が戻るまで少しの時間を有した。


 視界に映ったのは、先程いた場所とはまったく違う風景だった。

 『異界』の姿は無く、代わりに見覚えるのある場所……。数時間前にいた部屋。そう、――召喚をおこなった部屋だった。


 い、一体何が……。俺はあの時、『異界』に飲み込まれて……。


 ――はっ!! シェ、シェリル!! シェリルは!?


「和馬っ!!! あんた聞いているの!?」


 いきなり怒鳴られ後ろを振り返るとありえない光景が目に映る。

 そこにいたのは7人。ラミアム、シエル、姉貴、ルルナ、イザナ、久遠、そして――シェリルの姿があった。

 シェリルの姿は無傷。『異界』に穿たれ切り裂かれた姿では無く、驚いた表情で立ち尽くし俺の顔を見つめていた。


「……ど、どういうことだ。な、なんで……」


「はぁ!? どういうことなのかはこっちが聞きたいわ! カズマ君、なんてことをしてくれたの!? 『生命の木セフィロス』が消滅したってどういうことよ!」


 ルルナが素っ頓狂な声を上げる。


「いやー、私驚いちゃいましたよー。流石イオリンの弟さん! パネェっす! カズカズ、ちょっとその体を研究したいんで、後で私の部屋に来てもらってもいいっすかね?」


 イザナが手をワキワキさせながらこっちにくる。 


 見覚えのあるやりとりに目を疑う。ルルナは『生命のセフィロス』が消滅した言ったのだ。

 そう、俺が数時間前・・・・に触れたことによって消滅した『生命の木セフィロス』が、今消滅・・・したかのように――。


「やめなさいイザナ。これは緊急事態よ! 直ぐに国王とマーザリック司祭に報告しなくては。それにしてもまさか、『生命の木セフィロス』が消滅するなんて……」


 おいおいおい……、頭が余計に……。な、何がどうなっているんだよ!? お、俺の頭おかしくなっちまったのか!?


 背筋に冷ややかな汗が流れていくのを感じた。


「な、なあ……。おかしなことを聞くかもしれないが……」


「なんだカズマ? 何か思い当たる節でもあったのか? というか、顔色が悪いが大丈夫か?」


 シェリルが心配そうな目で見つめてきた。


 顔色が悪い? ああ、今俺自身に起きている不可解な現象に吐き気が起きそうだ……。

 吐き気を押し戻すかのように唾を飲み込み、意を決して口を開く。


「お、俺たち、さっきまで『異界』と戦っていたよな……?」


 俺の一言に皆が目を丸くして見つめてきた。


「何言っているんですかカズカズ。さっきまでも何も、ずっと召喚の儀に立ち会ってたじゃないっすか」


「和馬、あんた本当に大丈夫? 『生命の木セフィロス』に触れて頭がおかしくなったんじゃないでしょうね? ラ、ラミアム先生――」


「……。」


 ラミアムは黙って何か考え込み、皆はラミアムが口を開くのを待っている。


 背中にじわりと汗が流れてくる。その間に耐え切れず――。


「あ、いや……。ごめん。そ、そうだよな。俺、さっきの出来事で頭が混乱しちゃたのかも。あ、あはははは」


 ああ、そうだ。先程までの出来事はきっと夢なんだ。


 脳裏にシェリルの悲惨な姿が浮かぶ。


 夢に……違いない……。


「皆、この状態に混乱しているでしょうけど、今は国王の元に報告しに行くわよ。カズマ、当然貴方も来なさい」


「は、はい」


 ラミアムに名前を呼ばれ頷く。


 壇上から降り既に出口へと向かっているラミアム達の後を追おうとしたら、その場に動かない者が一人――。


 シエルだった。


「……どうした? 早く行こうぜ?」


 シエルは黙って見つめてくる。


「貴方は――」


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 突然、高音質の音が部屋全体に響いてきた。その聞き覚えのある警報音に、全身の毛穴から汗が噴き出す。


 おいおいおいおい、まさか……。


 ラミアムたちの方へと視線を動かす。


「なんだ一体!?」


「警報!? イザナ!」


「ぅっすー! えっと、ちょっち待ってくださいねー。……あ、大変! 西ゲート先のエリア結界付近に大量の『凶禍』押し寄せてるっすよ!」


 ラミアムに呼ばれたイザナが左腕をめくると、液晶ディスプレイが付いている大型の腕時計のようなものを出し何やら操作し始めた。

 どう見ても操作しているそれはテクノロジーの産物。その光景をはっきりと覚えている。そこから映し出される映像も――。


 うそ……、だろ……。


「今、映像出すっす!」


 イザナが空中に映し出した映像には、真っ黒く蠢く『凶禍』が結界にへばりついていた。赤く不気味に光る目が、こちらを覗いているかのように錯覚させる。


「な、なんて数なの……」


 ルルナが声を震わせている。姉貴とくおんも顔を強ばらせていた。


「ふん、まさか結界付近にこれ程までの『凶禍』が攻めて来るとはな。だが、討伐することには変わりない。ラミアム、出撃命令を」


 シェリルの凛とした声が響き渡たる。その姿は落ち着き払っていた。


「まったく、『生命の木セフィロス』が消失したタイミングに『凶禍』が攻めて来るなんて。――――この件は後回しよ! 皆、司令室へ」


 ラミアムが駆け出し、皆がその後を追いかけていくのを眺める。


 な、なんでだよ……。これじゃまるっきり、あの時と……。……あの時と同じじゃないか!! またあの悲劇が起きるっていうのかよ!!


 騎士たちが食い殺される光景が、シェリルの胸を貫いた光景がフラッシュバックする。

 手の平が熱くなる。無意識の内に力強く握り締めていたようだ。爪が食い込み、皮膚を切り裂き血が流れている。


「……上等だ」


 何の因果があって、この時間をまた迎えているのか。


 考えても答えは見つからない。


 なら――。


 もう一度やり直せるというのなら――。


 あの悲惨な光景を無かったことにできるのなら――。


「――俺が運命を変えてやる!!」


 己に誓いを立て、その場を後にした――。


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