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間男の策略で冤罪を着せられた俺、集めた証拠で元カノと加害者全員を地獄に突き落とす  作者: ledled


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沈黙の共犯者たち(ゼミメンバー視点)

僕、田代健吾は経済学部三年生で、栢森透と同じゼミに所属していた。ゼミは十二人の少人数制で、毎週ディスカッションや発表を行う。栢森は真面目で頭の良い奴だった。データ分析が得意で、発表はいつも論理的で分かりやすい。教授の評価も高く、正直、僕は少し嫉妬していた。


だけど、十一月のある日。ゼミの雰囲気が変わった。


「なあ、聞いた?栢森、彼女裏切ってたらしいぞ」


ゼミ仲間の一人、望月がひそひそと話しかけてきた。


「え、マジで?」

「サークルで噂になってる。浮気してて、バレたんだって」

「栢森が?信じられないな」


だけど、望月は真剣な顔で頷いた。


「証拠もあるらしいぞ。メッセージとか、彼女の物を盗んでたとか」

「うわ、最低じゃん」


僕は、そう言った。でも、本当にそう思っていたわけじゃない。ただ、その場の雰囲気で、そう言うしかなかった。


それから、ゼミでの栢森の扱いが変わった。グループワークで誰も彼とペアを組もうとしない。発表の質問タイムでも、誰も栢森に質問しない。まるで、彼が透明人間になったかのように。


僕も、栢森を避けるようになった。廊下で会っても、目を逸らす。話しかけられても、素っ気なく返事をする。なぜなら、周りがみんなそうしているから。栢森と仲良くしていると、自分も変な目で見られる気がした。


ある日、ゼミの掲示板に、課題提出一覧表が貼られた。そこに、栢森の名前だけが赤ペンでバツ印をつけられ、横に「浮気野郎は単位なし」と書かれていた。僕は、それを見て笑った。他のメンバーも笑っていた。


「誰が書いたんだよ、これ」

「知らないけど、面白いじゃん」

「栢森、ざまあだな」


みんなで笑いながら、教室に入った。栢森は、その掲示板の前で立ち尽くしていた。その背中が、どこか寂しそうに見えた。でも、僕は気にしなかった。だって、浮気するような奴が悪いんだから。


それから数週間、栢森はゼミでほとんど発言しなくなった。発表の時も、最低限のことしか話さない。質問されても、短く答えるだけ。明らかに、やる気を失っている様子だった。


「栢森、最近おかしくない?」


ゼミの女子、水野が言った。


「まあ、彼女に振られたからじゃない?」

「自業自得だよね」

「でも、ちょっと可哀想かも」

「可哀想?浮気した奴が?」


望月が、鼻で笑った。


「そんな奴、同情する価値ないだろ」


僕も、それに同調した。


「そうだよな。自分がやったことの結果なんだから」


水野は、何か言いたそうにしたけど、結局黙った。


ある日、教授がゼミで言った。


「栢森くん、最近、君の様子がおかしい。何かあったのか?」


栢森は、俯いたまま答えた。


「いえ、何もありません」

「そうか。だが、君の発表の質が落ちている。もっと真面目に取り組みなさい」

「すみません」


教授は、それ以上何も言わなかった。僕たちも、黙っていた。誰も、栢森を擁護しなかった。


十二月に入り、就職活動の話題が増えてきた。ゼミのメンバーは、みんな大手企業を志望している。教授の推薦状をもらえれば、有利になる。僕も、推薦状をお願いするつもりだった。


そんな時、栢森が突然ゼミを休むようになった。一週間、二週間と欠席が続く。教授も、心配そうにしていたけど、誰も栢森に連絡を取ろうとしなかった。


「栢森、もう来ないんじゃない?」

「そのうち退学するんじゃね?」

「まあ、いなくても困らないし」


そんな会話を、僕たちは平気でしていた。栢森がどれだけ苦しんでいるのか、考えもしなかった。


だけど、二月。全てが変わった。


大学のハラスメント委員会から、僕たちゼミ全員に呼び出しがかかった。栢森が、神楽蓮司という先輩を告発し、僕たちゼミのメンバーも、栢森へのハラスメントに関与した疑いがあるという。


「田代くん、あなたは栢森くんに対して、どのような態度を取っていましたか?」


委員会の教授が尋ねた。


「えっと、普通に接していました」

「普通に?具体的には?」

「グループワークとか、一緒にやってました」

「本当ですか?」


教授は、一枚の紙を取り出した。


「栢森くんの証言によれば、グループワークで誰も彼とペアを組もうとせず、孤立させられたとあります」

「それは、その」


僕は、言葉に詰まった。確かに、誰も栢森とペアを組んでいなかった。


「掲示板に、栢森くんを侮辱する文言が書かれていたことは知っていますか?」

「はい、見ました」

「あなたは、それを止めようとしましたか?教授に報告しましたか?」

「いえ、しませんでした」

「なぜですか?」

「その、みんな笑ってたし、大したことじゃないと思って」


教授は、眼鏡を外した。


「大したことじゃない?栢森くんは、あなたたちの行為によって、深刻な精神的苦痛を受けていました」

「でも、僕は何もしてないです」

「何もしなかった、それが問題なんです」


教授の言葉が、胸に突き刺さった。


その後、他のメンバーも同じように聴取を受けた。そして、明らかになったのは、栢森への浮気の疑いが、全て神楽という先輩の策略だったということ。栢森は、完全に無実だった。


「え、じゃあ、僕たちは」


望月が、青ざめた顔で言った。


「無実の人を、追い詰めてたってこと?」

「そういうことです」


委員会の結論は、厳しいものだった。ゼミのメンバー全員に、厳重注意。そして、教授の評価が下がり、推薦状は一切書かないという通告。


「君たちは、栢森くんが無実であることを確認もせず、集団で彼を排除した。これは、重大なハラスメントです」


教授の言葉に、僕たちは何も言えなかった。


三月、就職活動が本格化した。だけど、僕は苦戦していた。推薦状がないことが、こんなにも不利になるとは思わなかった。面接でも、ゼミでの活動について聞かれると、上手く答えられない。


「田代さん、ゼミではどのような役割を担っていましたか?」

「えっと、グループワークのリーダーとかを」

「教授からの評価は?」

「それは、その」


言葉に詰まった。評価が下がったことを、どう説明すればいいのか。


結局、僕は第一志望の企業に落ちた。第二志望も、第三志望も。最終的に、内定をもらえたのは、中小企業だった。同じゼミの望月は、留年が決まった。水野も、希望していた大学院進学を諦めた。


ある日、僕は勇気を出して、栢森に連絡を取った。


「栢森、本当にごめん。俺、お前のこと信じるべきだった」


だけど、返信はなかった。当然だ。僕たちは、栢森を裏切った。証拠も確認せず、噂だけで彼を断罪し、孤立させた。


四月、新しい会社に入社した。だけど、僕の心は晴れなかった。栢森のことが、頭から離れない。あの時、僕が声を上げていれば。栢森を擁護していれば。少なくとも、掲示板の侮辱的な文言を教授に報告していれば。何かが変わっていたかもしれない。


でも、僕は何もしなかった。沈黙という形で、栢森へのいじめに加担した。


同期との飲み会で、ある先輩が言った。


「お前たち、学生時代にいじめとか見たことある?」

「いや、特には」


僕は、そう答えた。だけど、心の中では分かっていた。僕自身が、いじめの共犯者だったことを。


ある日、SNSで栢森の近況を見た。大手企業に就職し、新しい環境で活躍しているらしい。写真には、笑顔の栢森が映っていた。良かった。栢森は、あの地獄から抜け出せたんだ。


でも、僕は違う。僕は、あの時の罪を背負って生きている。推薦状がもらえず、希望の企業に入れなかった。それは、自分がやったことの結果だ。


望月も、同じように苦しんでいるらしい。留年して、就職活動をやり直しているけど、上手くいっていない。水野は、地元の企業に就職したけど、夢だった研究職には就けなかった。


僕たちゼミのメンバーは、みんなそれぞれに代償を払っている。栢森を追い詰めたこと。沈黙という形で、いじめに加担したこと。それは、決して許されることじゃない。


僕は、会社の帰り道、ふと思った。もし、あの時に戻れるなら、僕は違う行動を取るだろう。栢森の話を聞く。証拠を自分の目で確認する。集団の圧力に屈さず、正しいことを主張する。


でも、時間は戻らない。僕にできるのは、この経験を教訓にすることだけだ。二度と、誰かを根拠もなく断罪しない。沈黙という形で、いじめに加担しない。


それが、僕が栢森に対してできる、唯一の償いだ。


会社のデスクで、僕は栢森に送れなかったメッセージを、もう一度読み返した。


「栢森、本当にごめん。俺、お前のこと信じるべきだった」


このメッセージは、もう栢森には届かない。でも、この言葉を、僕は一生忘れない。そして、同じ過ちを繰り返さないために、この罪を背負って生きていく。


これが、沈黙の共犯者の末路。これが、集団の圧力に屈した者への報いだ。


僕は、パソコンの電源を切り、窓の外を見た。夕日が、ビルの向こうに沈んでいく。新しい一日が、また始まる。


だけど、僕の心には、あの時の後悔が、いつまでも残り続ける。

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