王宮でのお茶会(1)
王宮の庭園に佇む東屋は、柔らかな陽射しを受けて穏やかに輝いていた。四人が囲む白磁のティーセットには、摘みたてのハーブを使った香り高い紅茶が注がれ、爽やかな風が甘い香りを運んでいた。
「ああ、久しぶりにこうして四人で集まれたわね!」
キャサリンが満面の笑みで椅子に腰掛け、エレノアの手を両手で包み込んだ。エレノアはもう髪を染める必要がないからか、学園の時のようなブルネットではなく、ノエルと同じ美しいプラチナブロンドの髪をしている。ノエルも長かった髪の毛をバッサリと切り、中性的で美しい顔立ちをしつつも、今はどこからどう見ても立派な好青年の姿になっている。
「お姉様、やっとお会いできて本当に嬉しいですわ!」
「私もよ、キャサリン」
エレノアは微笑みながらキャサリンの手を握り返した。
「セドリック兄様とお姉様の結婚式、待ち遠しくて仕方がないわ! 王宮中が盛大に祝うって話題になってるのよ!」
キャサリンの目がキラキラと輝く。
「ふふ、そんなに騒がれているの?」
「ええ、とんでもなく! なんて言ったって、王族と公爵家の嫡男の婚礼ですもの!」
「確かに……準備も大変だったよ」
セドリックが肩をすくめた。
エレノアとセドリックの結婚式は、来年の春に行われる予定だった。
本来ならば、もっと早く執り行われるはずだったが、エレノアは王族としての役割を果たしながら、商会の立ち上げに奔走していたため、準備が長引いたのだ。
セドリックもまた、王室直属の商会に正式に研究員として所属し、自身の研究に勤しんでいた。
「商会の立ち上げも順調みたいだね」
ノエルが微笑みながら紅茶を口に運ぶ。
「ええ、おかげさまで。セドリックのおかげで、記念すべき第一号商品が決まったの」
エレノアがそう言うと、セドリックは照れくさそうに笑った。
「小型体温調節機具だろう?」
「ええ。あれは、国民の生活を向上させる素晴らしい発明ですもの」
「セドリック兄様が開発したものなら、絶対に大ヒット間違いなしですわ!」
キャサリンが無邪気に称賛する。
「期待されるのは嬉しいが……実際のところ、今は改良の真っ最中でね。もう少し使いやすくしたいと思ってるんだ」
セドリックは少し照れくさそうに後頭部をかいた。
「完成が楽しみね」
エレノアが優しく微笑む。その時、ふと彼女の視線がキャサリンの手元に落ちた。
「……まあ、キャサリン?」
エレノアの声に驚き、キャサリンが「ん?」と首を傾げる。
「その指輪……」
エレノアの視線を追い、セドリックとノエルもキャサリンの左手に目を向けた。
キャサリンの指に輝いていたのは、繊細な細工が施されたプラチナのリング。
中央には大ぶりのダイヤモンドがはめ込まれ、その周囲にはノエルの瞳と同じ、鮮やかなサファイアが上品に散りばめられていた。
そのデザインはまさに気品と華やかさを兼ね備え、王族の婚約指輪として申し分ないものだった。
キャサリンは一瞬ハッとして、頬を染めた。
「えっと……」
「キャサリン」
セドリックがじっと見つめると、キャサリンは観念したように深く息をついた。
「先日、ノエル様にいただきましたの……」
言葉とは裏腹に、その表情はどこか誇らしげで、幸せに満ちていた。
「まあ……」
エレノアは目を細めて微笑んだ。
「つまり、もう正式に……?」
「……ええ」
キャサリンが少し照れたようにうなずくと、セドリックが小さく笑い、ノエルの方を見やった。
「『王女殿下と添い遂げます』って、昔馬車の中でキャサリンが言ってたんだけど、まさか本当にそうなるとはな」
セドリックがくつくつと笑いながら言うと、ノエルは肩をすくめて微笑んだ
「今は王子殿下、だけどね」
にやりと笑うノエルに、キャサリンはぷくっと頬を膨らませた。
「もう、揶揄わないでくださいまし! あの時は半分冗談で……」
「半分?」
ノエルがすかさず指摘する。サファイアの瞳がキャサリンをじっと捉えた。
「てことは、半分は本気だったんだ?」
その言葉に、キャサリンの顔は一気に真っ赤に染まる。
「も、もう!当時はこれでも 真剣に悩んでたんですのよ! 自分に、これは友情だ、友愛だ、って言い聞かせて……だって相手は王女殿下よ! 同性な上に、王族なのよ!」
「うん、うん、それで?」
「それでって……」
キャサリンはノエルの悪戯な笑みを前に、ますます顔を赤くした。
「葛藤してるキャサリンも可愛いけど、素直に愛を伝えてくれるキャサリンも、もっと可愛いよ」
ノエルが優しく微笑みながら囁くと、キャサリンはとうとう顔を両手で覆った。
「~~~~っ!!」
可愛らしく身を縮めるキャサリンの様子に、セドリックとエレノアは苦笑する。
「お前たち、本当に相変わらず仲がいいというか……」
「仲がいいを飛び越えて、甘々じゃないのよ」
「パーティのお迎えの時のお返し」
ノエルは小さく舌を出して、いたずらっぽく微笑んだ。
「あのときの姉上とセドリックお義兄様の方が、もっと熱々でしたよ」
「殿下に『お義兄様』って呼ばれるの、違和感あるな…」
「……お兄様、突っ込むところ、そこですの……?」
キャサリンは怪訝に呟いたが、その顔は嬉しそうでもあった。
「まぁでもあれだ。ノエルも、あまりウチの妹分を困らせないでくれ」
セドリックが腕を組みながら言う。
「こいつは恋愛ごとに疎いんだ。どっかの誰かさんが婚約話を水面下で揉み消していたおかげでね」
「婚約話だけじゃなくて、学園でも、キャサリンに色目を送るやつは黙らせてたけどね。王女パワーで」
ノエルは悪びれもせず、涼しい顔で答えた。
「ちょ、ちょっと!? ノエル様!? それ、本当ですの!?」
キャサリンが驚きのあまり椅子から立ち上がりそうになると、ノエルは涼しい顔のまま、カップに口をつけた。
「さて、どうかな?」
「どうかなじゃありませんわよ!!」
キャサリンがぷんすか怒るのを見て、エレノアとセドリックは吹き出した。
「もー! 皆してからかって!やめてくださいましー!」
キャサリンがむくれるが、その表情はどこか幸せそうだった。
ノエルはそんなキャサリンの頭をぽんぽんと撫でながら、柔らかく笑う。
ノエルが本来の性格を出せて、生き生きとしてますね。
番外編で、キャサリン視点のノエルとキャサリンの話を書く予定です。二人の出会いから、卒業パーティ後二人に何があったのかなど書いていこうと思ってます!お楽しみに!




