卒業パーティ(12)
会場のざわめきが収まらない中、エレノアは一歩前へ出て、国王へ向かって優雅に一礼をした。
「先程の騒動、誠に申し訳ございませんでした。王家の名を背負う者として、慎むべき場面であったことを深く反省しております」
エレノアは会場の貴族たちへも向き直る。
「会場にいらっしゃる皆様に於かれましても、卒業パーティという門出を祝う場で、このようなお見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません」
落ち着いた声と端正な礼儀作法。
先程まで「平民」などと侮辱されていた彼女の姿は、今や誰もが認める気品ある王女のそれだった。
国王は穏やかに頷き、手を軽く振ってエレノアの謝罪を受け入れた。
「よい。お前の責任ではない。後処理は、お前とノエルに任せる。それで手打ちだ」
そして、国王は壇上から集まった貴族たちを見渡しながら、場を仕切り直すように口を開いた。
「さて、先程の騒ぎで少々予定を乱されたが、ここからは事前に予告していた『重大な発表』について伝えよう」
再び場が静まり返る。
「すでに市井に出回っている『双剣のロゴマークの魔道具』について、貴族の皆も知っていることだろう」
双剣のマーク。
それはここ数年で市場に急速に広まり、高い評価を受けている魔道具ブランドだ。
「そのブランドの正体について、気づいている者もいるかもしれないが……このブランドを立ち上げ、運営していたのは、王太子ノエルと王女エレノアである」
会場が一瞬静まり、そしてどよめいた。
「王族が……?」「あのブランドを……?」
国王は続ける。
「王族として、国民の生活をより良いものにするため、彼らは身分を隠し、匿名でこの事業を立ち上げた。そして、技術の向上と実用性を重視し、多くの民に役立つ魔道具を生み出してきたのだ」
その言葉に、貴族たちは次第に驚きを感嘆へと変えていった。
確かに、双剣のロゴマークには王家の紋章に似たデザインが施されていたが、それをまさか本当に王族が手がけているとは誰も思っていなかったのだ。
「しかし、今後は『王室直属の商会』として正式に活動していくことになる。そして、この商会の会長には――エレノアが就任する」
これまでの驚きが、さらに大きな衝撃へと変わった。
王族が商会を設立し、運営するなど、前代未聞のことだった。
それに、彼女はただの象徴的な存在ではなく、実際に商会を統括する立場になるというのだ。
エレノアは前へ進み出て、改めて宣言する。
「この商会は、貴族だけでなく、民の皆様にとってもより良い未来を築くためのものです。これからも王族として、そして事業の運営者として、皆様の期待に応えられるよう尽力いたします」
貴族たちの間から、少しずつ称賛の声が上がる。
この発表がどれほど革新的なものか、ようやく彼らも理解し始めていた。
「そしてもう一つ」
国王は、満足そうに頷いた後、再び場を見渡した。
「これはすでに知っている者も多いと思うが、改めて、我が娘エレノアの婚約者を紹介したい」
静寂が訪れる。
「セドリック・ハウフォード」
王の声が響いた瞬間、会場全体が一斉にセドリックを注視した。
セドリックは一歩前へ出た。
貴族たちは誰もが納得したように頷く。
「魔法具・魔法学コンテスト」での彼の功績を知る者も多く、セドリックほどの名門で、実績も知性も兼ね備えた男であれば、王族の伴侶としてこれ以上ない適任者だろう。
だが、セドリック自身はそんな周囲の反応など気にせず、まっすぐエレノアを見つめる。
そして、堂々とした足取りで壇上へと歩を進めると、王の前で一礼し、エレノアへと手を差し出した。
エレノアはその手を取り、静かに微笑む。
「この場を以て、正式に二人の婚約を発表する」
王の宣言が響くと、会場は祝福の拍手に包まれた。
セドリックはその拍手の中、エレノアの手を優しく握りしめた。
「ようやく、皆の前で堂々と婚約者だと言える」
「……ふふ。そうね」
二人は視線を交わし合い、微笑みを交わした。




