卒業パーティ(6)
周囲がざわめき始める。貴族たちは囁き合い、その目は金封筒に釘付けだった。その中には、ヴァニエルの発言が事実であると信じる者もいるようだ。
「これは本物の王家からの手紙だ!」と、彼の取り巻きの一人が声を上げる。「以前、俺はその手紙を目にしたことがある。間違いなく王家からのものだった。ヴァニエル様が言っていることは、すべて真実だ!」
その一言に、ざわめきはますます大きくなり、ヴァニエルは勝ち誇った表情で群衆を見回した。
「俺が王家にふさわしい人間であることは証明済みだ」
彼は腰元にある細身の剣に手を当てて見せる。
「先日、王家主催の魔法剣士としての試練を受け、正式に剣を賜ることもできた。この剣を捧げる相手はただ一人――王女殿下だ。間違っても、貴様のような穢らわしい平民ではない」
彼の声には嘲りと侮蔑が混じり、その場にいる誰もがヴァニエルの言葉に圧倒されそうになった。しかし、エレノアだけは狼狽えることなく、その場に立ち続けていた。
「そうですか」
彼女は静かに言った。その一言は、周囲の騒ぎを一瞬で鎮めるほどの冷静さを帯びていた。
「ですが、ヴァニエル様」
彼女は彼の目をまっすぐに見つめた。
「その剣も、その手紙も、あなたの価値を証明するものではありませんわね」
「何?」
ヴァニエルは戸惑ったように眉をひそめた。
「あなたがどれだけ自分を偉いと思い込み、どれだけ周囲に自慢しようと――最終的に評価されるのは、あなた自身の行いですわ」
エレノアの声は静かだが、芯の通った強さがあった。
「その剣も手紙も、あなたがそれに見合う人間であることを保証するものではありません。それどころか、それを振りかざす姿は、まるで自信のなさを隠そうとしているように見えますわ」
「……黙れ!」
ヴァニエルは声を荒らげた。その声には自分でも抑えきれない焦燥感が混じっていた。
「貴様のような平民が、俺に説教するつもりか!?」
エレノアは動じることなく、その場に立っていた。彼の苛立ちに満ちた声が空間に響くたびに、彼女の静けさが際立つ。
「私は、説教などしておりません。ただ、ヴァニエル様ご自身の振る舞いが、あなたが掲げる理想や未来の計画とは、随分とかけ離れているように感じられると言ったまでです」
エレノアの指摘に、ヴァニエルの顔が赤く染まる。拳を強く握りしめ、その震えを抑えようとするが、その怒りは隠しきれなかった。
「貴様……」
ヴァニエルは声を低く震わせた。
「私が言いたいのは、ただ一つ」
エレノアは一歩前に進み、彼を真っ直ぐに見据えた。
「品格とは、地位や財産ではなく、その人自身の言動や在り方で示されるものです」
その言葉が、ヴァニエルの心にさらなる火をつけたようだった。彼の拳は震え、顔は真っ赤に染まっている。苛立ちが頂点に達した彼は、手を腰元の剣へ伸ばす。
「貴様……っ!」
ヴァニエルは低く唸るような声を漏らし、細身の剣が勢いよく鞘から抜き放たれる。瞬間、剣の表面に赤々とした炎が灯った。
「身の程を弁えろ、平民風情が!」
叫ぶと同時に、ヴァニエルは剣を振るった。




