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空気が、凍りました。
はい、絶対凍りました。
助けてください!!
誰か助けてーっっ!!
ここから出してーっ!
その時、私の願いが通じたのか、ただ単に偶然か屋上に出る扉が開く音が聞こえた。
「たぶん久我は、屋上で佐和と飯食ってるはず」
それは斉藤さんの声。
「じゃぁ、真崎と瑞貴はここにいるかな。課長はどこにいるんだろう」
そして間宮さんの声。
近づいてくるのに、男三人プラス加奈子は身じろぎ一つしない。
その間にもどんどん足音は近づいてきていて。
私はじーっと物置の角を見つめる。ぷりーずぷりーず、早くきてぇぇっ!
「おーい久我ーっ。午後いち会議だってーのに、俺と間宮しかいないってのはどーいう……」
そのまま尻すぼみに、言葉が止まる。
「斉藤さーん、間宮さーん」
思わず涙声になりながら名前を呼ぶと、斉藤さんと間宮さんは一瞬絶句したように立ち止まって、大きな溜息をついた。
「あー、なんとなく状況は飲み込めた。とりあえず加倉井課長」
斉藤さんが課長の肩を軽く叩くと、課長は少し眉を顰めて私の腕から手を離した。
「なにやってんですか、課長らしくない。ほら、お前らも会議だから。さっさと戻るぞ」
斉藤さんの一言で、なんとなく場の緊張感が切れて空気が動き出す。
課長は無表情に、真崎は何にも考えてないようなアホ面で、哲は右手でがしがしと頭をかきながら歩き出した。
斉藤さんはそのままの体勢で、立ち上がった加奈子を見る。
「佐和にも悪いことしたな」
その言葉に、加奈子はにっこりと微笑み返す。
「いいえ? 無表情で何考えているのか分からない上司とただの子供と若さで突っ走ってる後輩を見るのは、とても楽しいから大丈夫ですよ」
企画課全員の動きが、ぴたりと止まる。
「――佐和?」
斉藤さんが思わず名を呼ぶと、加奈子は笑みをたたえたまま薄く目を細める。
「ただ、私のテリトリーを侵害するなら、それなりに考えがありますので頭に入れて置いてくださいね? ――それだけです」
そう言い放つと斉藤さんの隣をすり抜けて、私の頭を軽く撫でてふんわりと笑うとそのまま屋上から出て行った。
「……すげぇ、迫力」
呟いた斉藤さんの言葉に、思わず皆で頷いた。




