表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/219

18


*****************************


……美咲


誰かの、声が、する


……美咲


真っ暗で何もない空間の向こうから、私を呼ぶ声が聞こえる。


意識をそらそうと目を瞑る






意識を、消したかった。

もう、二度と表に出たくなかった――


父親から逃げ出して、住宅街を駆け抜けた。

あの頃の思い出がたくさん残る、生まれ育ったこの町は。

今の私には、とても辛い思いしか抱かせないから。


確か、土手に行って――



そこまで思い出したとき、頭に鈍痛が響く。



あつ……い……


頭が、ぼうっとする。



意識が、少しずつ浮上していくのが分かる。

それを、じっと心の奥底から見ている、私。

もう、外に行きたくないよ……

誰かを傷つけるくらいなら、私はこのまま消えてしまいたい――




ぼそぼそと、何か話し声が聞こえる――


「……僕達は、帰るね。大勢でいたら、美咲ちゃん驚くだろうし……」

真崎さんの、声。それに重なるように、斉藤さんの声も聞こえる。


「俺のせいで、美咲……嫌な思いを――」

哲?

懺悔のように口にするその言葉が、棘のように澱のように意識を侵食していく。



あぁ、哲のせいじゃないよ、関係ないよ……


思わず顔を歪めると、額に、何か温かいものが触れた。



……この温もり、知ってる。

大切な、大切な人のてのひら。

温かい――



「お前だけじゃない、……とにかく熱が下がってくれればいいんだが」


熱……?


浮上しかけていた意識が、再び落ちていく




哲のおばさん、悲しそうな声してた。

あの人も。

こんな状態の私を見て、皆苦しんでる。



消えてしまいたい

存在自体、消してしまいたい

意識を消せば楽になれると思ったけど……。

私だけしか、楽になれない。


幸せを掴もうとすればするほど、皆を傷つける。

なんて、酷い女だろう。



私が、大切なものを作ろうとしたばかりに……離さないって足掻いたばかりに、皆を傷つけてしまった――




もう、やめよう……


タイセツナモノなんて、なくても生きていける。



それで、いいよ。


誰かを、傷つけるくらいなら。


それで、いいよ。


誰かを、縛り付けるくらいなら。



ずっと、一人でいい。

ずっと、独りでいい。



期待もしない。

望みもしない。


最初からそう思えば、簡単に諦められる。



もう、やめよう――




意識が遠のき、再び深い眠りに引きずられていった――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ