表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/219

21

***************************************


「瑞貴。お前は、待ってなくてよかったのか?」



本社前の大通りは、駅に向かう人、遊びに出る人で結構な人通りがあった。

俺は先輩二人の後ろについて歩きながら、その声に顔を上げる。

そこには、少しだけ心配そうな先輩達の顔。


「――いいんですよ。俺のせいで、今日は迷惑かけたわけですし」



それに。



俺を躊躇なく抱きしめる、美咲。

美咲を背中から抱きしめていた課長。

あの姿を見て。会話を聞いて。


俺の考えが、確信に変わった。……思い知らされた。


美咲の中の、俺の立ち位置。

美咲の中の、課長の立ち位置。



美咲の想いの先を、目の当たりにしたら。



あの二人を、見ていたくなかった――




斉藤さんは、そうか……と呟くと俺の頭にでかい手を置く。

「俺にとっては、お前も久我も可愛い後輩で。課長は尊敬する上司で。よーするに、幸せになってもらいたいんだよ」

「まぁ、課長への尊敬は、数パーセント崩れてるけどね」

間宮さんが、皮肉交じりに肩を竦める。

「真崎なんか、尊敬どころか嫌ってるんじゃないかな?」

その言葉に、斉藤さんがちがいねぇやと俺から手を下ろしながら笑った。

「もともと、気が合わない二人だからな。さもありなん」

面白そうに、軽く笑う。


「だから、別に遠慮することないんだぜ? お前はお前の思うように動けばいい」


遠慮……



ははは……、と自嘲気味に笑いを零す。


「ありがとうございます……。でも……まぁ、あとは俺……」

俺の、気持ちのもっていき方だけなんで――

「……大丈夫ですよ」



そう言って二人を見ると、複雑な表情を浮かべていたけれどそれをすぐに普通に戻した。

微かに口元にだけ、笑みを浮かべながら。




俺はその笑顔に答えながら、内心湧き上がってくる、黒い願望を、懸命に隠していた――






*******************************


「久我先輩!」

翌日、いつも通り昼休憩の為、加奈子の待つ屋上へと階段を上がっていたら、後ろから呼び止められた。

そこには、柿沼の取り巻き三人。

昨日いた宮野を筆頭に、経理の女性社員が二人。

三人三様に謝罪を繰り返し、許された安堵と共に柿沼の悪口を一つ二つ口にして戻っていった。


その後姿を見送りながら、意味も分からず力が抜ける。

あれだけ私を敵視しておいて、手のひら返したように柿沼の悪口を言っていくのか……

なんか、友達って、切ないものだなぁ。



複雑な胸中をごまかしつついつもの場所に行くと、いつものように加奈子がそこにいた。

その姿に、ふっ……と心が軽くなる。

私には加奈子がいる。

いろんなことがあったけど、私から離れないでいてくれる、友達がいる。


「加奈子」

名前を呼んで、横に座る。

既にお弁当を食べ始めていた加奈子は、ふわりといつものように微笑んだ。

「美咲、お疲れ様」

隣に座った途端加奈子に言われたのは、この言葉で。

思わず怪訝そうな表情になった私の頭を、加奈子は柔らかく撫でる。


「終わって、よかったね」


その言葉に、口を開く。

「加奈子、何で知ってるの?」

だって、昨日のことは企画課と当人以外知らないはず。

「瑞貴くんがね、さっき来たから」

――え?

「哲が?」

そう言えば、時間よりも早く企画室出て行ったっけ……


お弁当に視線を戻した加奈子はおかずを口に運びながら、目を細めて笑う。

「知らなかったとはいえ、迷惑かけましたって。なんだか、いきなり落ち着いちゃった感じね。瑞貴くん」

「――加奈子も、そう思った?」

頷く横顔を確認して、小さく息を吐く。


表面上は普通だけど、やっぱりいつもと違う。

まぁ、昨日の今日だからとも思うけれど。


「明後日には年末休暇に入るから、そこで気持ちをリセットできればいいわね。瑞貴くんも……美咲も」


加奈子の言葉に頷きながら、溜息をついた。



哲の心を傷つけていなければいい……と、非常階段で見せた表情を思い浮かべながら願う。


小学校のあの時。

私が怪我をしてから、少し内にこもってしまったから。

大人だけれど、心の柔らかい部分ってそうそう変わらないと思う。



お弁当に視線を落としながら、もう一度、溜息をついた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ