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本音の希み-1


自分で


この想いを消すぐらいなら


 


いっそのこと


お前に壊して欲しい





例え、そばにいることが出来なくなっても――――





               第八章 本音の希み






日々、仕事があるというのは、本当にありがたいことだと思います。


さすがにガーゼを頬に貼って出社した初日は、前日のおかしな外回りと合わさって、ものすごく不信がられたけれど。

不信に思われようが不思議に思われようが、私が取り合わなきゃ話は進まないわけで。

課長も哲も、追及することを諦めたらしいです。

加奈子は一通り私の言い訳を聞いた後、「騙されないわよ」と、一言おっしゃって壮絶な笑みを浮かべておりました。




それに、私は答えなかったけれど。





あの日から三日。

頬の腫れはひいてきたけれどまだ傷がくっきりとしていて、ガーゼが取れないでいる、私です。



斜め前のデスクでは、間宮さんがキーボードを軽快に鳴らしていて。

のんびりとした時間が、企画室に流れていた。


でも最近おかしな事が一点。


……あ、まただ


間宮さんの携帯に来るメールが、なぜか増えた。

もともとあまり携帯を使っていないように思えた、間宮さん。

どちらかというと、友人からのメールというよりは彼女さんとのやり取りに使われているんじゃないかというほど、仕事中に出しているところを見た事がなかった。


なのに。

一日の内に、十件位は仕事中に見てるんじゃないかな。

しかも、返信をしているように見えないし。

一体なんだろう。


つい、じっと見ていたのが気配で伝わったのか、携帯をポケットにしまおうとしていた間宮さんと目が合う。


「どうしたの? 久我さん」

そういわれて、思わず挙動不審になる。


――メール多いですねって……あたしゃどこのストーカーだっ


「あ、いえ……。そう言えば、三人とも遅いですね。ラウンジに行ったまま帰ってきませんね」

ただいまの時刻、午後の四時。

中休憩と称して、三人してラウンジに行ってから三十分以上経っている気がする。

「ん? そうだね。斉藤はその後何か用事があるって言ってたけど、課長と瑞貴は長い休憩だよね。いっそのこと、俺たちもラウンジに行く?」

「いや……私は……、ほらこのガーゼも恥ずかしいですし」


まだ取れていないガーゼを、左手の指で軽く撫ぜた。

こんなんで行ったら、注目されちゃうし。

それ以上に、もしかしたら柿沼たちがいるかもしれないし。


間宮さんは少し眉を顰めて、すぐに微笑む。

「そっか……、そうだよね。じゃぁ、何か淹れてこようか? 紅茶でいい?」

そういって立ち上がろうとした間宮さんを、頬を触っていた左手で制する。


「私が行きますよ、座りっぱなしで腰が痛くなってきたんで。間宮さんも紅茶でいいですか?」

「でも――」

言いよどむ間宮さんを置いて、さっさとドアノブに手をかける。

「なんたって後輩ですから。すぐ淹れてきますね」

そこまで言った時、また間宮さんの携帯がメールの着信を知らせた。

「じゃ、行ってきます」

間宮さんがそちらに気を取られた隙に、ドアを開けて廊下に出た。


後ろで間宮さんが何か言っていたように聞こえたけれど、聞こえない振りー。


なんだか最近、課長や哲だけじゃなくて、間宮さんも斉藤さんも私に過保護な気がする。

最近というか、三日前の怪しい外回りをしてから。


不信がられてるのかな、さぼってるとか?


そういう人達じゃないとは思うけど、確かに、ある意味さぼったといえばさぼったからなぁ。

流石に説明できないけれど。

なら、私はごまかすしかないわけで。



給湯室のある場所は、エレベーターホールに近いIDチェックのすぐ傍。

淹れている間にラウンジから哲たちが帰ってきたら、荷物持ちに使ってやるのになぁ。

そんなことを考えながら、IDチェックの手前からエレベーターの方を覗いてみる。


エレベーターが、稼動している雰囲気はない。

横の階数表示は、六階にエレベーターが止まっていることを示していた。


……ま、そんなタイミングいいことなんて、流石にないか。


そんなことを考えながら頭を引っ込めたとき、


「……」


「ん?」


何か、声が、聞こえた。


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