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異国の廃棄王女  作者: 古芭白あきら


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閑話③ 憂国の王弟は黒き魔女と友誼を結びたい

「もちろん彼女はカザリアの国益を目的としている。だが、彼女はカザリアの王女なのだ。それは当たり前のことではないか」


 むしろ、祖国よりもロオカの為などと言われた方が信用ならない。


「それに彼女がもっとも憂えているのは東方の国々全体の未来に思えてならない」

「カザリアでもロオカでもなく、全ての国を案じていると?」

「正確には民達をな」


 アルバート達はあまりに帝国の知識が無さすぎる。今までは南方諸国と戦う軍人として、それで問題ないと思っていた。


「俺達はあまりに帝国に無関心すぎた」

「我らは軍人であり、与えられた任務は南方諸国の安寧」

「さよう、帝国との外交に口を挟むのは越権行為ですぞ」


 老臣二人の意見はもっともだとアルバートも思う。


「だが、それは知らなくて良いとの言い訳にはならない。我らは軍人であることに甘え、政情が煩わしく自分達には関係ないと目を背けてきたのではないだろうか」

「……」


 老臣達に言いたいことはあった。軍人である自分達が知ったからと何ができるわけでもない。それよりも任務地の南方の国々を鎮める方に力と頭を使うべきだと。


 だが、同時にアルバートの批判も正しい。現に今、ギルスの不祥事に対して自分達はアルバートから下問を受けてもまともな回答ができていない。


 せいぜいが噂話を元にしたカザリアとメディアへの批判くらい。ギルスの暴挙も実際のところ何が拙いのかを正確に分析できないのだ。


「ロオカの今後の路線が帝国への恭順ならそれでも良い。東方諸国連合に加担して帝国と戦えと下命があれば喜んで戦おう」


 どちらに転んでもロオカに勝算があるとアルバートは睨んでいる。それは戦いに長けた家臣達も同じ。彼らは帝国と東方諸国の戦況が良く分かる。


「一番拙いのは手をこまねいて機を逸してしまうことですな」

「帝国とシュラフト、ストラキエの戦線が膠着している今、我がロオカの動き一つで戦況は一変する」

「だけど、ロオカの貴族の殆どは対岸の火事と決め込んでいるよね」


 老将の見解に貴族をバカにするようにノイルが口を挟んだ。それに対してセルゲイがふんっと鼻を鳴らした。


「傍観していれば嵐のように過ぎ去ってくれるとでも勘違いしているのだろ」

「どちらが勝っても戦いに寄与しなければロオカに未来は無い」


 その意見にはこの場の誰もが賛同して頷いた。


 家臣たちには政治が分からぬ。彼らは生粋の軍人である。剣を振り、馬を駆って戦場を生き抜いてきた。それだけに戦況に対しては、人一倍に敏感であった。


「そうだな、お前たちの意見は正しい。だが、帝国と東方諸国のどちらにつけば良いか判断できる者は誰かいるか?」


 アルバートの問いに先程まで滑らかに動いていた家臣たちの口は急に貝のように閉じられてしまった。


「それが分からぬ我らはお前たちが鼻で嗤った貴族たちと何ら変わりはない」

「それをカザリアの王女は分かると仰るのですか?」

「ニルバ、お前は帝国の体制や占領された国がどうなっているか知っているか?」


 アルバートはニルバの問いに問いで返した。当然ニルバには分からない。いや、この場の誰もが帝国の情報を持っていない。


「メディア王女殿下はそれらを全て知っていた。いや、他にも今の戦況を正確に読んでいる節がある」

「まさか」


 十九の小娘がとセルゲイは笑おうとして失敗し、顔を少し引き攣らせた。


「彼女は傑物だよ。恐らく東方諸国を纏めて帝国と拮抗した状況を作り出したカザリアの政策の裏には彼女がいる」

「馬鹿な!?」


 ゾーリンは目を剥いた。さすがに推測が飛躍し過ぎている。


「殿下、さすがにそれは考え難いんじゃないか?」

「そうですよ。そんな優秀な頭脳ならカザリアが手放すわけないじゃないですか」


 すかさずナッシュとノイルも否定の声を上げたが、アルバートは首を振った。


「それだけロオカの動向を重要視されているのだろう」


 実際にはメディアとカザリア国王ソレーユの間にある確執が理由であるが、アルバートはそこを深読みしてしまった。ただ、ロオカの動き一つで戦況が一変するのは事実であり、あながち完全な間違いでもないが。


「メディア王女殿下の話によれば……」


 先日の対面でメディアから聞いた帝国の政治体制や占領政策についてアルバートはこの場の家臣たちに語った。


「貴族がいない共和制?」

「民族浄化に焚書、ですか?」

(にわ)かには信じ難い話ですな」


 自分たちの知らない政治的知識に皆が戸惑う。自分自身も聞かされた時は同じだったのだから()もありなんとアルバートは思った。


「もちろん先日聞いたばかりで裏付けが取れてはいない」

「ですが、真実であれば由々しき事態ですぞ」

「さよう、このまま傍観して帝国に占領されれば属国どころか国が消滅する可能性もあるのですから」

「それどころか帝国側について勝利してもロオカの未来はあまり明るくないよね」


 色めき立つ老臣たちが最後のノイルの予測に顔を暗くした。


「それなら即刻カザリアと友誼を結び参戦して帝国を討つべきだろ」

「浅慮な発言はよせナッシュ。殿下は裏付けは取れていないと仰っていたであろう」


 黙って聞いていたニルバが迂闊な発言をするナッシュを(たしな)めた。


「ニルバの申す通りだ。俺はメディア王女殿下を信に足る人物であるとは考えているが、事はロオカの命運に関わる軽々な判断は慎まなければならない」

「そうは言っても考えるだけ時間の無駄ってもんでしょう」


 猛将のナッシュらしい考えにアルバートは苦笑いした。


「ああ、そこで俺はもう少しメディア王女殿下と……」


 ――トントン、トントン


 その時、会議室の扉をノックする音に、全員の視線が扉へと向いた。


「失礼します」


 入室して来たのは屋敷を任せている執事の一人だった。


「会議中申し訳ございません」

「どうした?」


 会議を中断させてまで入室してきたのだから、何か急な要件であるはずだ。


「先触れが届いたのですが……」

「先触れ?」


 アルバートは少し眉を顰めた。その程度のことなら会議後でも良さそうなもの。何とも気が利かない執事だと誰もが思った。全員が不愉快そうな顔をしたのに執事が気だつき慌てた。


「そ、それが、その送り主が――」


 すぐさま釈明をした執事の回答にこの場の誰もが目を丸くした。


「メディア王女殿下なのでございます」

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