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引きこもり吸血鬼の怠惰なる引退生活  作者: 雪菊


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無知と誤解


 清明が小娘を置いて帰ったあと、小娘はへたり込んでべそべそと泣いていた。



「なんで泣くんだ」

「だってぇ……。私、血を吸われて干からびて死んじゃうんだ……」

「こいつ、安倍清明が帰ったら秒でIQ下がったな」



 ラウルの感想に思わず頷いてしまった私は悪くないだろう。



「いや、今の時代に見知らぬ人間から吸血していると思われているとは、さすがの私も予想外だった。安心しろ。昨今はこういったものが出回っている」



 テーブルの上にピルケースを出すと、小娘は不思議そうな顔をした。

 これは我々吸血鬼の英知の結晶である合成血液成分錠剤……通称偽血錠だ。生物の血液の成分を錠剤という形にしたもので、これを飲むことで吸血せずともよくなる便利薬物である。



「そもそも、血液なんぞより人間も普通に食べている食事の方がかなり美味だ。吸血鬼になった人間の中には、食事が取れず血しか受け付けない者もいるにはいるが、現在では輸血パックの取り寄せができる。わざわざ子どもの血を吸うまでもない」

「そうなの?」

「……最近の魔族事情なども勉強し直すことを進める。公務員試験にも出るぞ」



 それこそ、人間という種族を吸血鬼に変えるような出来事でも起こらない限り、人から直接血を吸うことはない。そんなこと、したくもないが。やったところで、トラブルにしかならんのだ。同胞に男から望まれて吸血鬼に変容させた女がいたが、最終的に長命と血液を必要とする体質に耐えきれず、これも全てお前のせいだと逆上して殺されたからな。メリットなどないない。



「なぁんだ。それじゃあ、あなたたちも私たちと同じ食事を摂っているのね!」

「そうだ」

「特に人間と変わらないってことね」

「いや、種族によって障りはあるぞ」

「え」

「ただ、あまりにも無知すぎるからな。とりあえず自分で全て調べろ。小娘、お前にはとりあえず離れをくれてやる。資料の一部も置いているし、調べものには十分だろう」



 離れの鍵を渡し、場所を教える。

 というか、さすがにな。年ごろの男女を同じ屋敷には住まわせんぞ?



「設備も整ってはいるが、オートマタを一体付けてやるとするか。生活能力がないと言っていたしな」

「そこまでしてやらなくてもいいんじゃないっスか?」

「事故でもあると普通に迷惑だろう」

「あ、そっち」



 そっちだ。それに、清明の提示した報酬は私個人としても破格だと思ったからな。常識を叩きこむくらいはしておくとしよう。ラウルと同じ学内にあんなモンスターがいるのも心配にはなる。ラウルに突っかかっていらん迷惑をかける可能性が高い。



「そういえば、マデリーンさんが『一体、試しに面白機能をつけてみたの!』って言ってませんでしたか?」

「そういえば」



 人形使いの魔女マデリーンが置いて行った仕様書をさっと流し読みすると、家事指導モードなるものが搭載されたようだ。ちょうどいい。生活能力をつけるというのも目的であるようだし、こいつを離れに送るとしよう。ポンコツ小娘にはピッタリであろう。



「では、あれも帰ったし、私はゲームに勤しむか」



 もうすぐポチモンの最新作も出るからなぁ! それまでに過去作をもう少し触っておきたいところ。久しぶりにちょっとマニアックな個体を育ててみるもよかろう。

 ウキウキと部屋に戻ろうとすると、肩を掴まれた。



「なんだ、ラウル?」

「いえ、久しぶりに手合わせでもお願いできないかと。……清明ボコれるくらいになりたいし」



 後半の言葉がとても物騒だが、あのジジイをボコりたいという気持ちは痛いほど理解ができる。とても迷ったが……息子の頼みを無視するような狭量な男にはなりたくないのでな。きっちり付きあったぞ。


 ところで、何故か離れがやたらと騒がしいが何が起きているのだろうな。



いつも読んでいただき、ありがとうございます。


〇安倍清明

 平安時代から生きている超越者。見た目完全にインテリ系ヤのつく職業。素は関西弁だが、普通に話すだけでやたらと怖がられる。解せない。

 妖狐の血が入っており、血族には稀にその特徴を持った子どもが現れる。そのため、その子等を保護している。

 フェリクスをガキ扱いする数少ない存在。

 割とすけべ。

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