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続・由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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74 シェルダンの帰還2

 皇帝シオンの執務室に入るや、最初に目を引くのは机上の膨大な書類だ。毎日、これを捌いているらしい。

「また、上手くやったな」

 シオンだけではない。アンス侯爵も当然のような顔で室内にいて、自分を見るなり、ダミ声を飛ばしてくる。

「今回は、部下の手柄だ、などとは言わせん。国使をしたのはお前だ。聞き取りとやらもな」

 さらにアンス侯爵が告げるのだった。

「ただの使いです。そう、大きな手柄ではないでしょう?」

 シェルダンはそっけなく応じる。

「その前に捕虜なんかの下準備をしておいてくれただろう?他の人間ではこうも上手くはいかなかっただろう。私とアンス侯爵共通の認識だ」

 笑って皇帝シオンが告げる。怖い、細い、険しいと評価されることの多い政治家だ。

「そうだな、出来れば、その面でも部下を育てるのが理想だが、そう人材が都合よく転がっているわけもないか」

 アンス侯爵も納得して頷いていた。

 ミュデスを糾弾するために廃人を2人も作っている。その過程について、皇帝シオンもアンス侯爵も必要悪と考えている様子だ。

(バーンズにも、さすがに強要は出来ないし、本人も乗り気ではないからな)

 シェルダンはチラリと思うのだった。腹心で力自慢のデレクも『聞き取り』を嫌っている様子だ。出生国の違いを感じさせられる。

「必要だと感じた人間が、自ら手を汚す。そういう性質の仕事だと思いますよ、私は」

 いろいろな思いの代わりに、肩をすくめて告げるにシェルダンはとどめた。

 手柄として吹聴するには、あまりに陰惨な仕事だという自覚もある。

(ミュデスを潰せたのは良かったが、これはウェイドにも教えるかどうか、悩ましいぐらいだからな)

 自分もレイダンから教わったわけではない。旧アスロック王国の軍務の中で覚えざるを得なかったのだった。

「で、君の目から見て、フェルテアはどうだ?ミュデスのように強硬に足を引っ張る人間がいなければ、魔塔は攻略出来そうなのかな?」

 シオンが話題を変えた。陰惨な仕事の是非よりも今後の展開なのだ。実務的なシオンらしかった。

 横に控えているペイドランもじっと見てくる。興味があるらしい。

「フェルテアも国ですから。少し探ってみただけでも様々な人間がおります。面白い人間、気骨のありそうな人間もいくばくか。しかし、魔塔を倒せるかは分かりません。魔塔の内部が未把握ですから」

 シェルダンは素っ気なく言葉を並べた。実戦に出られないシオンらしい問ではあれ、また、訊くしかないのだと理解も出来る。

(それでも、訊かれて答えられるものでもない)

 シェルダンは思うのだった。

 アンス侯爵が苦笑いだ。自分の考え方など百も承知なのだろう。

「ミュデスのような人間をのさばらせ、魔塔を生んだ、という事実は揺るぎません。もう起こった出来事ですから」

 シェルダンはさらに重ねて告げる。

 汚名返上出来るかはこれからなのだった。

「君は厳しいし、魔塔のことには慎重だからね。楽観的な返事など出来るわけもない、か」

 皇帝であるシオンも苦笑いである。

 苦笑いするぐらいなら最初から訊かなければ良いのだ。シェルダンは軽く皇帝と侯爵とを睨みつける。

「だから、少し質問を変えよう」

 シオンが居住まいを変えた。両肘を机について自分を凝視してくる。

「我が国から誰かしらかを送り込むべきかな?君はどう思う?」 

 フェルテア大公国の人間が挑める情勢となった。

『魔塔攻略は挑んだ以上は失敗出来ない』と、かつて聖騎士セニアやクリフォードあたりに告げたことがある。

(それは今も変わらない)

 シェルダンは腕組みした。

(フェルテアが更にしくじれば、民の絶望と失望は増す。それは瘴気を増して次の魔塔を生むかもしれない。その悪循環は常につきまとう)

 1000年続く軽装歩兵の当代として、シェルダンは生きてきた。一族が連綿と紡いできた歴史を自分の代で終わらせたくないという思いがある。

(そして、魔塔の存在は、魔物との戦いは死ぬ危険性を増すものだから、避けたいということだったが)

 結果、死なないがために、関与する羽目になったのであった。

「実力的には聖騎士セニア様に、クリフォード殿下、ゴドヴァン騎士団長に、治癒術士のルフィナ様、斥候にペイドランを加えた5人がドレシア帝国では最高の戦力です。最古の魔塔もこの組み合わせで攻略しましたから」

 シェルダンは淀みなく言葉を並べた。

 名を挙げられたペイドランが嫌そうな顔をする。

(規格外のくせに嫌な顔をするな、まったく)

 シェルダンはかつての部下を睨みつけてやるのだった。

「ペイドランのところは、入れ替えて君のほうが良いのでは?」

 笑顔で皇帝シオンが言う。

 高く買っている従者を魔塔へ送り込みたくないのだろう。護衛としてもペイドランというのは最高の人材なのだ。 

 直感が鋭く、襲撃を『なんとなく』だけで予期してしまう。刺客からすれば最悪の、悪夢のような存在である。

「私には彼のような特殊な才能がありません」

 シェルダンは故に即答した。

「代わりに知識と経験があるじゃないか」

 さらにシオンが言い募る。

「魔塔では彼のような才能のほうが羨ましいのですよ」

 シェルダンもまた負けじと言い返す。

「いずれにせよ、その5人もお前も出せん。分かっとるだろう?次点を並べてみろ、んん?」

 しかし、アンス侯爵が言い、話はさらに次へと移っていくのであった。

 

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― 新着の感想 ―
シェルダンとシオンの会話。 話はやはり既にたってしまった魔塔をどうするか? シェルダンは自分含めた以前のメンバーでは行けないとする。 今回は聖女クラリスに誰かが加わっていくのでしょうが。 難しい選択で…
[良い点] 魔塔に向けて着々と進んでいますね。果たしてどうなるのか楽しみにしています!
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