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続・由緒正しき軽装歩兵  作者: 黒笠


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51 部下の教練2

 ピーターがちょうど片手剣の点検をしているところだった。

 バーンズはちらりと時計を確認する。自分の分隊が出撃するべき時間まで、まだ余裕があった。隣にはジェニングスが立つ。こちらは時間などいちいち気にしていないだろう。

「ピーター」

 バーンズは声を掛ける。

 ビクッと身体を強張らせてからピーターが振り向く。

「はいっ。た、隊長、何か問題でも」

 オドオドした口調でピーターが尋ねてくる。この態度を前にすれば実力を正確に把握できなくても仕方がない。バーンズは自分を責めないこととした。

「少し訓練に付き合え。腕前を見たい」

 端的にバーンズは告げる。そして訓練用の木剣を渡す。

「はいっ、でも、隊長自らなんて。しかも戦地で。俺、何かしましたか?」

 ピーターがしつこく確認してくる。

 本当に何かしでかしているのだろうか。

 隣でニヤついているジェニングスにもバーンズはいらいらさせられる。

「俺の知る限りでは何も無い。だが、本当は何かしてるのか?もしくは、こんなにしつこく訊いてくること自体がどうかと、思うな。俺は」

 バーンズはピーターを一睨みしてやった。

 するとピーターがますますすくみ上がるのである。悪循環だ。

「おっ、どうしたどうした」

 騒ぎの気配を感じたのか、マイルズとビルモラク、分隊の年長者2人も近づいてきた。

 ピーターが先輩2人を見て、緊張を増す。

「ピーターのやつ、真面目にやってるでしょう?腕も上げたと俺、思うんですよ。ちょっと、隊長にも見てもらおうと思って」

 ピーターの代わりにジェニングスが言う。

 事の経緯をこれで理解したピーターがホッと安心する。

「よく、目を配っている。ヘイウッドやマキニスよりも良い心がけだが。もう1つ、考えが足りんな」

 苦笑いを浮かべてビルモラクが言う。

 バーンズはジェニングスと顔を見合わせて首を傾げる。だが、すぐに理由は分かった。

「ぐわっ」

 ピーターが木剣を弾き飛ばされて尻餅をつく。

 緊張しすぎである。力み過ぎて動きが硬い。力が強いとのことだが、木剣を当てる向きを工夫すれば、どうとでもあしらえる。

「あーあ、なるほどなぁ」

 言い出したジェニングスが苦笑いである。デレクあたりなら不甲斐ない姿を見せるな、と怒りそうなものだが、そこはジェニングスも気性が良いのであった。

「俺もまだ見る目が甘いなぁ」

 ジェニングスがさらにボヤく。

「こういうことも慣れてくれば、いろいろ気が回るようになる」

 副官のマイルズが笑って言う。集団を運営するということでは、バーンズよりも経験豊富な男だ。言葉にも重みがある。

(だが、ピーターの腕力、実力は俺も興味がある)

 バーンズは木剣を杖代わりにして立ち尽くし、しばし思案する。

 ピーター本人が申し訳無さそうにしていた。

「よし、ピーター、ちょっと付き合え」

 もう一度、バーンズは告げる。

 ちょうど第6分隊の出撃時間が迫っているのだった。

「はいっ」

 ピーターが返事をして立ち上がった。

「他の連中も出るぞっ、時間だ」

 バーンズは声を上げる。他人事を決め込んでいたヘイウッドや薬草に夢中のマキニスが慌てて駆け寄ってきた。

(シェルダン隊長が送り込んできた人間なんだもんな、ピーターも)

 特命やエレインの件で気が散っていた。自分もまだ甘い。

 バーンズとしては反省もあるのだった。

 7人で陣営の外へと出る。

「お疲れさまでした」

 戻って来る部隊に、バーンズは頭を下げる。

「宜しく願います」

 対して、帰還した部隊の面々も頭を下げ返す。長い駐留の中、生まれた慣習である。

 針葉樹の多い森の中を7人で進む。

(確かに思っていたよりも)

 バーンズはピーターの戦いぶりを見て思う。あまり積極的には手を出さないようにした。

 当たると強い。チラノバードぐらいであれば、たやすく一刀両断してしまう。当たりどころが悪く、斬れなかった時には、チラノバードが弾かれて大木に激突して死んでいた。

「あっ」

 一羽を仕留め、もう一羽に距離を詰められてピーターが声を上げる。

 大振りのため隙も大きい。

 バーンズはすかさず突きを放って仕留めてやった。

(なるほどな)

 ジェニングスのように、しつこく稽古に付き合っていないと分からない強さだった。

 分隊として戦う時には誰かが助けてくれる。助けられた、という事実があると、なかなか強いと思ってはもらえない。

(斬撃の威力は強く、そして速い。だが、大振りだ。片刃剣での戦いから両刃の剣に慣れればだいぶ改善されるかもしれない)

 連続で振り回し続ける修練も必要だ。だが、慣れてくれば確かに戦力として向上はする。

「確かに面白いかもしれない」

 バーンズはジェニングスに声を掛ける。

「ちょっと待ってください、こいつ、仕留めちまうんで」

 自分が戦い出すとあまり周りを気にしないのがジェニングスという男だった。

(言い出したのはお前だろうが)

 ビルモラクやマイルズと組んでレッドネックを倒すのに専従している。ビルモラクの飛ばした泥の塊で目潰ししたところを、二人がかりで斬り倒していた。

「で、なんですか?」

 ジェニングスが何食わぬ顔で尋ねてくる。

「ピーターの得物を変えるぞ。両刃の短い剣に変えさせよう」

 バーンズはヘイウッドらと戦闘中のピーターを横目に見て、宣言するのであった。


 

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― 新着の感想 ―
ピーターの戦いぶりを見て彼の特性を活かした武具を与えようとする彼ら。 たしかにこれが一番ピーターの実力を向上させるものなのかも知れませんね。 そしてバーンズはピーターにピッタリであろうという武具を言い…
ピーターさんは、自信のない振る舞いとは裏腹に、なかなか見どころがあるのですね。獲物を変えて、彼がどのように成長するか楽しみです。
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