100 魔塔攻略班顔合わせ2
閃光矢とオーラしかまだ使えない。打ち明けたクラリスは皆の反応を覗う。
魔術師のラミアにしろ、将軍のガズスにしろ、それぞれの分野ではフェルテア大公国では1級とされている人達だ。付け焼き刃のものしか身に着けていない自分など軽蔑されるのではないか。
「へーえ、その2つはどういう役に立つのよ?」
ラミアが早速、尋ねてくる。怒っていると言うよりはまだ、面白がっているかのような口調だ。
「なるほど、瘴気を遮断する術ですか。私も覗いてきた第2階層では、瘴気が濃すぎて、毒気にやられて動くこともままならない。あそこで活動するための術がおそらくほ『オーラ』ですな」
巨漢のガズスが口を挟んできた。
本当は一人称が『俺』であることをクラリスは知っている。メランやラミアに他国の軍人もいる場だから『私』なのだろう。
(祈りの巡礼のときにはいつも、自ら護衛を率いてくれていたから)
部下などに指示を出す時や雑談をする時の口調が今もクラリスの耳には残っている。
(私は祈ることで、ガズス将軍閣下は戦うことで、この国を守り抜いてきた。そう自負していた時期もあるけど。今じゃ、なんて畏れ多いの)
思い、ガズスを一瞥すると、カチリと視線が合ってしまった。ますます縮こまらざるを得ない自分が情けない。自分は失敗した人間なのである。
「なるほどね。あんたら軍人が戦果もなく帰ってきたのはそういうこと。ドレシアの奴ら、知ってて黙ってたのね」
ラミアが吐き捨てるように言う。
「当時はミュデスがいましたから。協力しなかったのも、やむを得ないでしょう」
すかさずメランが口添えする。
「ま、そりゃそうね。外交のことはいいわ、メランに任せる。今は、そっちよりも実地の戦闘を考えましょ」
次期大公にも憶せずラミアが言い放つ。悪意もなく民衆の支持も高いラミア相手だからか、メランも苦笑いだ。
「恐れながら失礼します」
後方からバーンズが口を挟んできた。
「なによ」
ラミアが反応した。
「私のような一軍人が発言しても?」
しかし、ラミアにではなく、バーンズがメランに尋ねる。あくまで国の要人は正規にはメランとガズスなのであった。そういうところをきっちり捉えているのがバーンズという男だ。
「もちろん。ドレシアからの手練の助勢だ。挨拶が遅れたが、次期大公のメランという。宜しく頼む」
メランが胸に手を当てて自己紹介した。
「俺はガズスという。軍の責任者を押し付けられている。ともに、魔塔上層へ挑むこととなる」
ガズスもメランに倣った。
(ガズス将軍閣下も上られるんだ)
なんとなく話しぶりで察してはいたが、改めて言われるとクラリスは驚く。顔を上げて、ガズスの顔を見る。考えてみれば当然のことで、ガズス自身、大斧を振るう剛力の武人なのだ。
「魔塔上層の階層主並びに魔塔の主である魔物には、核がございます。これを砕けば倒せますが、倒しても砕く術がなくては、倒したことになりません。復活されるそうです」
どこでそんなことを知ったのか。バーンズが魔塔上層について説明を始めてくれた。
「聖女クラリスのおっしゃる『閃光矢』というのは初歩の神聖魔術で、攻撃する術です。核を砕けるのは神聖魔術や神聖術のみだそうです」
バーンズが告げて皆を見渡した。メランもラミアもガズスも真剣に聞く顔だ。
ラミアがクラリスに向き直る。
「じゃ、つまり、まだ最低限って感じ?」
ずばりラミアの言う通りなのであった。
「はい、その」
再びクラリスは俯いてしまう。落胆させてしまっただろう。
落胆させてでも役に立とうという思いはあるが、やはり落胆させたと思うと申し訳のなさが先に立つ。シャットンからは焦るな、と言われたばかりなのだ。
「上々よ、上々」
意に反してラミアが告げる。
顔を上げると、ニセモノとは思えない、ニカッと眩しい笑顔を向けてくれていた。
「動けないってんじゃ、どうにもならないから。動けるようにしてくれるなら助かるし。敵はあたしらが倒す。んで、核を壊さないと倒しても倒せないっていうんなら、トドメだけはお願いするわ」
ラミアの言葉にガズスも頷いていた。
(本当に強い人なんだわ、強い人ってみんな、こうなの?)
フェルテア大公国に帰ってきて、人々がラミアを支持し、熱狂する理由が分かるような気がした。
気迫と自信に満ちた態度、振る舞いが人を引き付けるのだ。それが伝播して人々も力を得ているのだろう。
(私も、なんだか前向きになれそう)
クラリスは少しだけ自分よりも背の高いラミアを見上げて思う。
「戦闘は私たちに任せて。そのために力を磨いてきたのよ。目にもの見せてやるってのよ」
グッと握りこぶしを作って、力強くラミアが言い切ってくれた。
「そのとおり。魔塔上層の魔物といえど、まともに戦えるなら、遅れは取りません」
ガズスも笑って言う。
「ミュデスのときに2度、なんの情報もなく挑み、ただ撤退する羽目になったのですよ」
苦々しげにメランも加えた。
自分はどうやら役に立てるらしい。クラリスはホッと胸を撫で下ろすのであった。




