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39話「開戦」

 エレベーターが引っかかり、止まった階の入口には、横に大きな穴が空いている。


 その奥からは凄まじい破壊音が断続的に聞こえて来ていた。


「ここかな」


 恐る恐ると言った雰囲気で、辺りを見回す翡翠に「だろうな」とぶっきらぼうに返す茜。

 彼女も緊張しているのだろうか、言葉に気を使う余裕は無さそうだ。


 分かりやすく破壊された壁や機材等を横目に、音のする方向へと進んでいく。


 表向きは「ブラックタイガーが率いる怪人軍団」が破壊した施設跡を危険を顧みずに進んで行く。

 すると目の前に約10階分のフロアが縦に崩れ落ちたような空間が開けた。

 彼らが戦って壊れてしまったのだろう。


 突然の来訪者に、怪人が振り向き牙を剥く。

 そして一際通る声。


「待っていたぞMAST諸君!」


 今しがたまで命を削る戦闘を繰り広げていた筈なのに、いつものように少し高いところで腕組みをして仁王立ちのブラックタイガーが叫んでいた。


「よくもここまで徹底的に破壊してくれましたね」


 蒼士がいかにも憎々しげに返す。

 憶測ではあるがこの辺りには彼らの待機所もあったはずなのだが、今ではその残骸を探すすべも無い程、瓦礫に埋もれてしまっている。

 幸い死体などが目に留まることはない、殆どの人員は避難することが出来たのだろう。


「こんなものは序の口だぞ、MASTの存在自体が消えるのだからな!」


 そう言いながらブラックタイガーはマントをバサリと翻し高笑いを決める。

 なんというか、こちらも劇がかっているのだが、普段からこうなので、あまり違和感がない。


 その茶番劇をただ黙って見ていた怪人も、段々とフラストレーションが溜まってきたのか、負けない声で叫び出す。


「全員敵だ! 邪魔するなら殺してやる!」


 ブラックタイガーに散々逃げ回られ、完全に頭に来ているのだろう。

 初対面で余裕をカマしていたクローシスですら、今は我を失うほどに叫び散らしている。


「望むところ、だぜ!」


 そう叫んだ茜がバットを取り出すのとほぼ同時に、目の前にピンク爆弾の好送球。

 間髪入れずに、爆弾が怪人軍団へと向かって襲いかかる。


 怪物の一匹である植物系の生き物が、その触手を伸ばして、自分たちへ到達する前の爆弾を防ぐ。

 推力は止まったがその時点で爆発し、1本の触手を吹き飛ばした。


 続いての爆弾はもう不意打ちではない。


「散開しろ!」


 クローシスの言葉に、4体は一気に飛び上がりバラバラになって各所へ陣取る。


「グリーン、分析は」


 桃海と茜が特訓に励んでいる中、翡翠は想定される怪人の組み合わせを考え対策をねっていた。


「人同士の掛け合わせ一匹」


 クローシスの事だろう、彼は一番高く飛び、戦場全体を見れる位置にいる。あれが指揮官であるのは一目瞭然だ。

 ブラックタイガーの件もあるので想定の範囲内。


「サソリと人間の掛け合わせ一匹」


 特徴的な毒針が付いた長い尾に、あの人間のボディは間違えようがない。

 彼女はいまブラックタイガーの近くに飛びのき、瞬時睨み合っている。


「こっちに向かってきているのが、ノコギリザメと昆虫の怪人……あの羽だとたぶんハエかも」


 分析通り、丸っこい体に2枚の羽を持つ怪物は、全身をザラザラとした表皮で覆われており、顔の中心から前方に向けて、まさにノコギリザメの鋸が付いていた。


「初期位置から殆ど動いていないのは、イカか植物の怪物のようだよ」


 一番体の大きなその怪物は他の敵より移動が遅いようだ。

 しかし、確かにイカのような触手を伸ばしているため、機動性よりも射程範囲に特化しているように見える。



 そんな4体の怪人たちが今、まずは誰から血祭りにあげるべきかと思案しているようだ。


「まずは一番小さくて弱そうな奴から叩いていくぜ!」


 そんな状況で、茜だけはいつもの調子で宣言する。

 結局最終決戦まで彼女の性格は治らなかったが、闇雲に飛びかからずに宣言してくれたことで、ほかのメンバーにも彼女の考えていることが分かるようになったのだけは成長と言えるのかもしれない。


「やれやれ、相手にも筒抜けなのは作戦とは言えませんがね」


 蒼士のため息もまぁ分からなくはないが。


「レッドは迎撃、グリーンは壁、私が牽制を致します」


 ちゃんと指示を出してくれるあたり、律儀だ。

 その指示を受け、手の空いたマゼンタがピンクの方に向き直る。


「じゃぁ私とピンクはあっちのイカ怪人の方を!」


「はい」


 それぞれの受け持ちが決まると、その場を蹴って敵のもとへと飛ぶ5人。



挿絵(By みてみん)



 それを高い場所から見ていたクローシスは少し焦った様子で指示を飛ばす。


「バカもの、バラバラで戦うな!」


 そう叫ぶと、ブラックタイガーの方へ視線を移す。


 大きな瓦礫に阻まれて、サソリ怪人と二人だけ孤立してしている。

 これなら簡単にMASTの連中も助けに入ることは出来ないだろうが、不安なのは強化されているとはいえ怪物がどこまで持つかという所だった。

 お互いの弱点を補うように選ばれた組み合わせではあったが、どうやらMASTはそこを見越してバラバラに戦闘するつもりらしい。


 どちらに加勢するか


 既にブラックタイガーは戦いを始めていた。

 サソリ怪人の鋭い尾が、上から降り注ぐのを避けると、横からハサミ攻撃が飛んでくる。

 人間相手ではありえない攻防に四苦八苦している様子だ……それだけではなく、いまひとつ動きに精細を欠いているようにもみえる。


「避けるばかりか、このへっぴり腰が」


 サソリ怪人は、まともに相手をしないブラックタイガーに対して、プライドを傷つけられているかのように怒り狂っており、その攻撃は更に熾烈さを増していった。


「ええい、ちょこまかと、死ね!」


 毒針の渾身の一撃を、両手で受け止めたブラックタイガーの胴体をハサミが捉えた。


「ははは! このまま切り離してあげるわ!」


「待てぇい!」


 ハサミに力を入れたその瞬間、戦場に声が響き渡った!

 その声に上方に居たクローシスまでもが上を向く。


「世界に悪がはびこる限り、不死鳥のように現れる……」


 足場も殆ど残っていない不安定な場所に何やら人影が。

 そしてその人物は、そこから飛び降りると、3回転半捻りを加えて着地。


「誰が呼んだか、グリックレッド、見参!!」


 お決まりのポーズを取る。

 満を持しての登場だ。


「ええい、早く何とかしてくれ! 口上長くなってんぞ!」


 彼の決めポーズ等どうでもいいと言った雰囲気で、ブラックタイガーが苦しそうに叫ぶ。


「いや、ここが一番大事なんだが……」


 そう言いながら、ため息をひとつ付くと、すぐさま飛び上がりサソリ怪人へと蹴りを放った。


 彼女はブラックタイガーを挟んでいたハサミを片方外すと、その蹴りを受け止め逸らす。

 しかし、その瞬間を狙ってブラックタイガーはしっぽを引っ張りながらハサミから逃れたのだった。


 一旦距離を起き、対峙する3人の上からクローシスが降ってくる。


「大事なミッションを邪魔しやがって、誰だ貴様は」


 憤りを顕にした彼のスーツは流動的に動き、頭に角のようなものを生やしている。怒髪天を突く程怒っているのだろうか。


 だが、そんな事を意にも介していないかのように、ブラックタイガーとグリックレッドは向き合って何か言い合っている。


「仲間がピンチの時は、助けてから名乗るもんだぞ普通は!」


「そういうもんか?」


「戦隊が怪人にそんな初歩的なこと教わってんじゃねぇ!」


 全くクローシスが視界に入っていないようだ。

 クローシスはもう語ることをせずに、握った拳をそのままブラックタイガーへと向けた。

 またもやスーツが変化し、その拳の大きさが倍ほどに膨れ上がる。

 だがそれを受け止めるブラックタイガー。

 足元の瓦礫を弾けさせながら2m程後ろに下がる。


「強そうだな、俺が代わるぜ?」


 グリックレッドがそう進言するも、ブラックタイガーは首を縦には振らない。


「いや、お前はそっちのネーチャンをやっつけてくれ」


 そういえば戦いにくそうにしていたなと思い出す。

 グリックレッドがサソリ怪人に向き直ると、何となくその理由がわかった。


「お前さ、もしかして裸の女は苦手なの?」


 その問いかけに明らかに動揺するブラックタイガーを横目に、吹き出しそうなほど笑いを堪えるグリックレッド。


「図星かよ!」


「お前みたいに所帯持ちじゃないんでな」


「いやお前、その歳なんだし、見たことくらいあるだろ」


 完全に遊びに掛かっているグリックレッドの言葉に、攻撃を捌きながらも段々と腹が立ってきたブラックタイガーは、その怒りをぶつけるようにクローシスの拳に自分の拳をぶち当てる。

 お互いの間に衝撃波の様なものが走り、お互い距離を取った。


「彼女くらい……」


「うるせぇな! 童貞で悪ぃかぁ!」


「何の話をしている!」


 クローシスが叫ぶ。

 そのカオスな状況の中で爆笑しているグリックレッド。


「とにかく、お前はそっちのネーチャン頼む、俺はこっちのクローニンって奴をやる」


「クローシスだ!」


 言うが早いが先程と同じように拳を肥大させ振るう。

 またもやそれを両手で受け止めると、捻じりながら逸らす。クローシスは体を一回転させて着地する。

 そこに足を振り上げるブラックタイガー。

 クローシスは打点を肥大化させ、ダメージを緩和すると、またも距離を置く。


「なんだよそのスーツは面倒臭ぇな」


 イラつくブラックタイガーは受け止めた手が少し痺れたのか、プラプラと振りながら問う。


「新型ですよ、感情や意識に反応して威力を高める効果が付加されていましてね」


 どうやら、殴ろうと思えばその拳が大きくなり。

 受けようとすればその部分が肥大し衝撃を緩和する。

 ダメージを増したり、軽減したりするオプションが付いているという。

 この短時間で新作を作ってくる血沸博士は本当に天才なのだろう。


 だからこそ今ここで討つべきなのだと、ブラックタイガーは拳を更に強く握るのだった。

毎週土曜日更新中の【セイギのミカタ】!


ついに殴り合いの最終決戦。

襲い来る新型スーツにブラックタイガーは勝利することが出来るのだろうか!?



作者への応援、☆、お待ちしております♪

簡単な感想でも楽しみにしております♪

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[良い点] いよいよ最終決戦ですね( ー`дー´)☆ なのにっ……クローニンにっ、それ以前の感想が塗りつぶされて、全部持ってかれたーww ブラックタイガーさんのボケセンスがすげぇ(笑)
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