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トラとの出会い

番外編です。

最初はトラとの出会いを描こうかなと思います。

アタルはまだ高校生です。

この日は朝から雨だった。しかも、大雨、風もビュービュー! 自転車がなかなか前に進まない。


朝5時、俺は新聞配達のバイトへ向かっていた。

俺は朝が苦手だ、苦手というか夜遅くまで起きているのだから、朝が苦手なのは当たり前だろう。


俺は毎日高校から帰るとご飯を食べて仮眠をする。そして22時57分インターネットにパソコンを繋いでオンラインゲームを満喫していた。

この時代のインターネットは定額制ではなかった。電話線を利用してインターネットに接続するので、3分10円の通話料金が掛かるのだ。3分10円と侮るなかれ、1時間で200円だ! 一か月1000円のお小遣いの俺にそんなお金はない! そんな貧乏学生にも便利なサービスがある、それはテレホーダイ。なんと23時から朝方まで電話代が定額制になるのだ。価格はたしか一月1500円程度だったはずだ。ただし、電話会社との契約者の申請が必要なので、なんとかばあちゃんを説得して加入した。

ちなみに23時以降になると回線が混雑して繋がらなくなる、その対処法として3分前にログインするのだ。たまに回線が切れるが、そうなるともう終わりだ、ネットにはよほど運が良くない限り繋がらない。本当に激戦の時代だった。


そのお金を稼ぐために俺は新聞配達のアルバイトをしている。原則アルバイトが禁止の高校だったが、母子家庭で奨学金を借りているということもあり、特別にアルバイトを許可してもらえた。


新聞会社の営業所近くの十字路で、ビュービューという風に紛れてミャーミャーという音が聞こえた。それはあまりにも必死で、それでいて助けを求めるような必死な鳴き声だった。


自転車を漕ぐのをやめ、立ち止まるとやはりミャーミャーという鳴き声が聞こえる。

しかし、声の主が周りを見渡しても見つからない。あきらめて新聞配達に向かおうと自転車を漕ぎ始めたが、どうしてもあの鳴き声が気になった俺は、もう一度十字路へ戻った。


十字路近くになると確かに鳴き声が聞こえる。でも、どこを見回してもやはりなにもいない。

そこで俺は気が付いたのだ、鳴き声が下から聞こえる……道路の下から鳴き声が聞こえるのだ。道路の下から声が聞こえるのを確認した俺は、助けなければいけないと思った。鳴き声は猫、捨て猫か野良猫のわからないが、道路の下に迷い込んだ猫を助けない、という選択肢は俺にはなかった。


俺は近くのU字溝にハマっていたグレーチングを気合で外し、ほふく前進で鳴き声の方へ向かった。グレーチングは他にもあったが、他のグレーチングは硬くて外せなかったのだ。

雨のせいか、日頃は干からびているU字溝にも水が流れていたので、新聞配達の為に着ていたカッパはもうグチョグチョだ。進むたびに身体が重くなる、俺はいったいなにをやっているのだろう。


10mくらい進んだだろうか……鳴き声がすぐ近くに聞こえてきた、でも肝心の声の主が居ないのだ。間違いなく近くから聞こえるのが姿が見えない、暗いので尚更どこに居るのかわからない。

鳴き声が聞こえる方向を探すと、腕がギリギリ入る位の裂け目があった。U字溝を潜ったのはさすがに人生初体験だが、道路の下に空間があるなんて驚きだ。そして、その奥から猫と思われる鳴き声が聞こえるなんてさらに驚きだが、その時の俺にはそんなことを考える余裕もなかった。


思いっきり奥まで腕を突っ込むと、柔らかいものが手に触れる。居た! そう思い掴もうとするが、声の主はさらに奥へと移動する、俺はできる限り腕を突っ込み無理やり声の主を引き抜いた。正直言ってこれより先に行かれると、俺にはどうしようもなかった。たまたま道路の下の空間がこれ以上先にはなかったのか、逃げるのをあきらめたのかはわからないが、これは俺にとっても、声の主にとっても幸運だったのだと今になっては思う。


引き抜いたのは子猫、でも今はそれどころではない。ここは水が流れるU字溝、子猫を助けて俺まで帰れなくなってしまっては意味がない。ミイラ取りがミイラどころか、ネコ助けがネコろんだまま溺死だ。これで逃げられたらもう助けられないので、俺は首根っこを掴んだまま、来た道を後退した。


ようやくU字溝から脱出した俺は右手の子猫を見た。

まだ生まれて間もないだろう、すごく小さい子猫が俺の右手には居た。

このまま新聞配達は無理だと判断した俺は、来た道を逆走し家へ戻った。子猫を自転車の籠に入れておくのは危ないし、雨も降っているので俺のカッパの中に子猫を入れた。グチョグチョに濡れているが、雨風は防げるだろう。

不思議と子ネコは逃げなかった。むしろ、俺にしがみついてミャーミャー鳴いていた。

めちゃくちゃ爪をたてられているので胸が痛い。


家に帰り、弟を叩き起こした。


「コイツを見ておけ!」


そういって俺は全速力で新聞配達をこなした。

当時、新聞配達で何件配っていただろうか? ゆっくりすると大体1時間位かかったはずだ。その日の俺は相当ハイになっていたのだろう、30分程度で新聞配達を終わらせた。




新聞配達を終え、弟の部屋に向かうと子猫が相変わらず鳴いていた。

30分の間に弟が濡れた子猫を拭いてくれたおかげか、毛が乾き、黒と白のキジトラのかわいい子ネコに劇的ビフォーアフターしていた。

正直言って、その後の記憶はあまりない。なにか食べさせた気がするが、何を食べさせたのか思い出せない。当時は近所にコンビニなんてなかった。すぐそこと言われるコンビニでも40分くらいの距離があるのだ、キャットフードなんて用意できるわけがない。それくらい田舎なのだ。

平日だったので、俺はじいちゃんに子猫を預けて学校へ行ったような気がする。


じいちゃんとはずっと離れて住んでいた。しかし、高校3年になり、弟も高校生になった辺りで同居することになった。理由は俺の上の世代、母親の世代に男が居なく、次の世代の長男が俺だったからだ。要するに跡継ぎの為にじいちゃんの家に呼ばれた。ばあちゃんとお母さんはそれほど仲が良い訳ではなく、ずっと離れていたことをその頃になってようやく知った。高校生になり、学区が関係なくなったタイミングで引っ越したのだろう。




学校から帰宅すると子猫の姿はなかった。

じいちゃんに確認するも、「はてな?」と言ってのんびりしている。じいちゃんは動物好きだが、のんびりしているのかおっとりしているのか、こういうことには鈍感だ。ちなみに、ばあちゃんは動物嫌いだ。朝から何回も猫を捨てて来いと言われている。

が、動物嫌いのばあちゃんも孫には甘いのだ、俺が何とか説得した。


ところでだ、猫が居ない。

外には出てないはずなのだが、どこを探してもいない。それこそ数時間、子猫を探し続けた。そして、タンス裏側の細い隙間に子猫を見つけたのは、探し始めて何時間経った頃だろうか?

タンス裏の隙間で、子猫はぐったりしていた。そして、あまりにも奥に居るので手が届かない。どうしようもないので、弟をまた呼びつけタンスをどかして子猫を救出した。朝からずっとこの猫を探し回っている気がする……


ようやく見つけた子猫はかなり弱っていた。それこそ、抱っこしても動かない、ペットを飼ったことがない俺でも、これはヤバいやつだと思った。慌てて部屋に駆け込み、インターネットで獣医さんを検索した。テレホーダイなんて気にしている場合では無かった。


子猫を探すのに時間がかかってしまったので、19時を回っていた。

19時以降でも診察してくれる獣医さんを探して電話をし、母親に車を出してもらい動物病院へ向かった。動物病院は米沢にあり、車でもそれなりに時間がかかった。その間にも子猫の元気は無くなっている。


動物病院に着き、受付をした。そこで、今朝拾ったことや、元気がないことを伝えた。それで診察を受けれると思っていたのだが……


「この子の名前を教えてください」


受付で、名前を聞かれたのだ。動物病院で診察する場合、動物の名前が必要なことを俺は初めて知った。


「え? ネコで……」


そう言ったのだが、受付のお姉さんからは冷たい返答を喰らった。


「は? 助けるんですから、これから飼うんですよね? 名前が必要なのでは?」


動物病院で働く職員さん達は、動物が好きだからこの仕事をしているのだろう。

あきらかに俺に対する対応は冷たい……


「ちなみに性別ってわかります?」


性別がわからないのに名前は付けれない。しかし、子猫の股間を見てもなんもわからない。今までずっと股間を見ると分かるものだと思っていたが、小さすぎるとわからないのだ。


「多分オスですね」


受付のお姉さんは、子猫の股間も見ずに教えてくれた。当時はわからなかった……でも、今なら俺も顔つきで何となくわかる。猫にも優しい顔つきと、凛々しい顔つきの猫がいるのだ。それで性別が大体わかったのだろう。


「じゃあ、トラでお願いします」


俺は即決した。トラっぽいからトラだ。そもそも、早く診察してもらいたいし、そんなにひねった名前なんて付けれない。顔も何となく凛々しい感じがするし、この名前がジャストミートだろう。


名前を登録し、すぐに診察室に入れてもらえた。

そこで俺は驚愕する、獣医さんがトラの尻尾を上げたかと思うと、体温計を肛門にぶっ刺したのだ!


「え! ケツに刺すんですか!」


俺は獣医さんにビックリして質問した。獣医さん曰く、体温を測るときはこうやるのだそうだ。


トラの体温は、40℃を超えていた。

診察結果は、注射を打つが、これから先はわからないということだった。


トラは見た感じ生後1~2週間程度、一匹で居たことを考えると、親が育児放棄をしたのだろうと獣医さんは言っていた。身体が小さいので体力がなく、さらに40℃の高熱は子猫には致命的らしい。最悪命を落とすし、助かったとしても後遺症が残る可能性が有ると言われた。

というか、助からない可能性の方が高いと言われた記憶がある。

それと、もし助かって後遺症が残っても、せっかく助けた命なんだから責任もって育てて欲しいとも言われた気がする。俺にとって、死んでしまう可能性が一番高いと言う、獣医さんの言葉がインパクトでかすぎて後半はあやふやだ。


ひとまず注射を打ってもらい、その後受付のお姉さんからいろいろ話を聞いた。

猫を飼うのに必要なもの、餌などだ。

それを聞いて帰り道にホームセンターに回り、必要な物を買いそろえた。たしか、子猫用のキャットフードに、トイレ、砂辺りを購入した気がする。通院用の籠も必要だったが、お小遣いが足りずに変えなかった。

動物の治療費がめちゃくちゃ高いことにもビックリしたな。今まで母子家庭だったから、病院に行ってもお金を払ったことがなかった。そこにきて、1万円くらいの診察料金は、高校生の俺にとってはすごい出費だった。

今回は動物病院から籠を借りてきたけど、次回からどうしようかなと考えてきた気がする。




数日後、トラは奇跡的な回復を見せた。

歩いている俺の足に飛び掛かってくるくらいに元気だ! おかげで俺の両足はずっと傷だらけだが……

特にオンラインゲームをしていると、無意識にする貧乏ゆすりに反応して飛び掛かってこられるのが一番困る。オンラインゲームは一瞬の判断が命取りなのだ、トラにかまっている暇はない!





目を開けると天井が見える。ここは宿の天井だろう。

お腹の上ではトラが丸くなっている。異世界に来てトラと出会った。

トラの死に目には会えなかったけど、またこうやって生活ができるのが嬉しいような、懐かしいような気分だ。

この世界では俺は不老、トラも寿命がないようなものだと言っていた。トラとはこれからも長い時間一緒に居ることになるだろう。猫は気まぐれとよく言うが、俺も気まぐれだし案外馬が合うのかもしれない。

猫だけど……まぁ、仲良くやっていこう!

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