表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミック5巻2026年2/5発売】病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)  作者: 沢野いずみ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/91

73、誘拐



「え……?」


 聞き間違いか? 今、モブという、この世界では聞かない単語が聞こえた。

 驚きを隠せない私に、ミリィは笑みを浮かべる。その笑みが底知れない感じがして、私は後ろに下がろうとしたが、すぐに背後の洗面台にぶつかった。


「いいわよね、あなたは。悪役令嬢なんて、最高のポジションじゃない。それを利用してルイス様と仲良くなるなんてズルいわよ」


 先程とは口調も違う。


「同じ転生者なのにどうしてこんなに違うわけ? 片や、侯爵令嬢でお金持ち。顔も美人で婚約者もイケメン。片や、ただの子爵令嬢で、お金持ちでもなければ容姿がいいわけでもない……ズルすぎない?」

「ズル、と言われても」


 私はズルなどしていない。ただ、健康になろうと……生き残ろうとしただけだ。

 間違いない。この口調に話の内容。ミリィは……。


「あなた、転生者なの?」

「そうよ。やっと気付いた?」


 ミリィは私の目の前に立った。


「転生したらただのモブなんだもの。つまらなすぎてビックリした。なのにあなたはストーリーを変えて……ねえ? どうして? どうしてあなたと私はこんなに違うの?」

「……私だって大変だったのよ。まさか転生した悪役令嬢が、病弱だったんだもの」


 本当に大変だった。食べるものも自由に食べられないし、少し歩くと息切れするし、無理をすると倒れてしまう。


「ハッ! それぐらいなんだって言うの? それでもお釣りが来るぐらい恵まれているじゃない!」


 ミリィがバンッと私の背後にある鏡を叩いた。パリン、とガラスが割れた音がする。


「あなたには消えてもらうわ」

「……どうして。あなたに迷惑かけてないわ」

「かけてるわよ。だって私、ルイス様が推しなんだもの」


 ミリィが顔を赤らめた。


「あなたのポジションを私が貰うの。いい考えでしょ?」

「いい考えって……あのねぇ。仮に私がいなくなったとしても、あなたにルイスが見向きもしないかもしれないじゃない」

「私は何度もルイス様を攻略してるのよ? 好感度を上げるなんて簡単よ」

「嘘でしょう」


 私ははっきり言い切った。


「もし、本当にあなたがルイスを攻略できるなら、もっと前から行動していたはず。――もう行動に移して、見向きもされなかったんじゃない?」


 バッサリと話の矛盾を指摘すると、ミリィの顔が歪んだ。


「うるさいわね……」

「ここはゲームとは違うの。だから」

「うるさいうるさいうるさい!」 


 ミリィがもう聞きたくないとばかりに耳を両手で塞いだ。


「今更何を言っても遅いのよ」

「何言って……」


 そこで私の言葉は遮られた。首に大きな衝撃を受けたからだ。

 何?

 私は立っていられずそのまま倒れ込むかと思ったら、誰かに抱き止められた。それを誰か確認する前に、私の意識は沈んだ。



         ◇◇◇



 目覚めたとき感じたのは首の痛さだった。


「うっ……」


 首を押さえて起き上がる。硬い床に寝かされていたようで、身体も痛い。


「どこ? ここ」


 見覚えのない倉庫のようなところにいるようだった。


「目が覚めた?」


 声にバッと顔を上げると、そこにはミリィが立っていた。


「ミリィ! こんなことしてタダで済むと思ってるの!? あなた、侯爵令嬢を誘拐したのよ!? 今頃きっと大騒ぎになってるわ!」

「大騒ぎにはなってるでしょうね。でも私は問題ないわ」

「問題ないって……」

「だって誰にも目撃されないようにやったもの。誰も見てなかったら、誰がこんなモブがあんたを誘拐したと思う? 誰も私の仕業なんて気付かないわよ」


 どうやら衝動的に行動したのではなく、計画的犯行らしい。


「……私の首を叩いたのは誰?」

「俺だ」


 ミリィ以外にも人がいたのか。スッと現れたフードの男に、私は警戒した。

 この男が、ミリィの協力者。


「あなたは誰?」

「そう言って答える人間はいないだろう」


 正論だ。


「……どうして私を生かしてるの? 私を消すのが目的なら、殺したほうが早いでしょう」


 おそらく彼らに私を殺す気はないと判断して聞いた。殺す気なら、気を失っているときにしたはずだ。そのほうが相手に抵抗されないし、スムーズに実行できる。でもしなかったということは、私を生かしておかないといけない理由があるはずだ。


「聡いわね。そうよ。あなたは殺さない。そのままあるところに売るの」

「……どこに?」


 ミリィがニヤリと笑った。


「リビエン帝国よ」


 リビエン帝国……?

 なんだろう、どこかで聞いたような……どこだっけ……。

 必死に記憶を手繰り寄せ、ふとエリックの顔が浮かんで思い出した。

 エリックの故郷!


「どうしてリビエン帝国に……」

「あの国は転生者を集めている。転生者はこの世界にない知識を持っているから、囲い込んで自分たちのものにしてるんだ」


 フードの男の説明に、私は思わず口を閉ざした。集めている? 囲い込んで自分たちのものにしてる? とても転生者が望んでいる暮らしだとは思えない。つまり、それは――こうして無理やり攫っているということだろう。


「酷い……」

「転生者の知識でリビエン帝国は栄えた。なぜか昔から転生者があの国では多く生まれた。……しかし、近年は生まれなくなった。だから、最近はよその国からそれらしい人間を攫っているんだ」


 フードの男は一国の恐ろしい闇を淡々と話す。


「……今の話が本当なら、ミリィ、あなたも危ないんじゃないの?」

「心配してくれるの? お優しいのね」


 ミリィが小馬鹿にしたように言った。


「さっき言ったでしょ? 転生者の知識が必要だって……残念ながら、私にはあなたのように現代の重要な知識がないの。だから、あっちからしても、要らないものってわけ」

「私のような重要な知識……?」

「栄養学って言うの? そういうの」

「……私は本格的に学んだ人間じゃないから、そんな知識たかが知れてるわよ」


 ただの趣味だったのだ。栄養士ではないから、知識は偏ってるし、知らないことのほうがきっと多い。


「そんなの向こうには関係ない。役立ちそうな知識があったらそれを奪う。それがやつらのやり方だ」


 フードの男が言った。


「……あなた、リビエン帝国の人じゃないの? 言葉の節々にリビエン帝国を嫌っている様子が見えるけど、もしそうならどうして私をリビエン帝国に連れていこうとしてるの?」

「……少し話しすぎたな」


 フードの男は腰に下げていた剣を鞘から抜いた。


「これ以上の無駄口は不要だ。知識さえあればいいから、五体満足でいる必要はないからな」


 目の前に剣先を向けられ、私は息を飲む。


「――わかった。もう話さない。だからそれしまって」


 私の言葉に、男は少し間を置いて、剣を鞘に戻した。私はふう、と息を吐く。

 とんでもないことになってしまった。ルイスの心配は行き過ぎじゃなかった。


 ――ルイス、どうしてるかな。


 きっと私を心配してくれているだろう。こんなことになって申し訳ない。

 でも今頼れるのはルイスだけだ。私が戻らなければルイスが動いてくれるはず。


 ――ルイス、助けて。


 私は目をつぶって祈った。



読んでいただきありがとうございます!

もしよければ、ページ下部の★★★★★クリック評価や、ブックマーク追加で応援いただけるととても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』コミックス5巻
 


『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

コミックス5巻
2/5発売!


i00000


描き下ろし番外編あり、
特典あり
なので、お好みなものをぜひお楽しみください!

あと今FLOS COMIC創刊8周年記念フェアにて
小箱先生直筆サイン本当たります!

ぜひこの機会にご応募ください!
(応募詳細は最後の方をどうぞ)

コミックス詳細はこちら⬇

i00000


『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』
コミックス5巻


発売日:2026年2月5日



あらすじ

ヒロインに怯える悪役令嬢×過保護がブレない公爵令息のラブコメディ

ついに「きらめきの中に」のヒロイン・アリスがフィオナの前に現れた!
しかも作中でルイスが彼女に一目惚れするシチュエーションで!
これまで順調に遠ざけていた破滅が、チラつき始めフィオナの鼓動は激しさを増す…
が、アリスは想像以上に愛嬌があり、妙にフィオナに好意的!?
それでも必要以上にアリスに関わらないよう振る舞うフィオナだったが、アリスはフィオナ達の視察について行くと言い出して…
彼女の真意は何…!?



コミカライズはこちらで読めます!



FLOS COMIC創刊8周年記念フェア
小箱先生のサイン本当たります!

応募方法などはこちらのサイトからどうぞ!



ぜひお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
[一言] <以下『ネタ』です。本気じゃないです> ジェレミー「カミラにチケットが渡るよう手配しろ!」 部下「はい!」 ジェレミー(カミラは俺を誘ってくれるはず。事前に会場にいろいろ仕込んでおけば…。…
[一言] ゆるゆるのやさしい世界からの、メンヘラ転生モブ出現による修羅場とは、あまりの急転直下でびっくりしました。  しかし、ルイスも裕福な公爵家だったら、男女ともに信頼できる身辺警護の人員を常に配…
[気になる点] うわー、はたから見ればこの誘拐はカミラが主犯のようにも見えますね。 表向き謝罪ということで呼び出して、謝罪の品としてチケット渡して特定の場所に移動させて仕込んでいた手駒に誘拐させる。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ