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【コミック4巻2025年8/5発売】病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)  作者: 沢野いずみ
第一章

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44/90

42、次の仕事


「ホワイトマスク一号は元気ですか?」

「ルビーだってば」


 ルビーに会いにうちに来たサディアスを家に入れると、ルイスが顔を顰めた。


「なんでサディアスがここに来るんだ?」

「この子の面倒を見てたのはサディアスだもの。様子が気になるのは当たり前でしょう?」

「そうです。私はホワイトマスク一号が気になるだけで……あ、これ毛玉対策にいいと聞いた猫草です」

「ありがとう。ほら、ルビー、どうぞ」


 ルビーは猫草をクンクン嗅ぐと、ちょっとずつ齧り始めた。気に入ったらしい。


「この子猫が気になって、ね」

「なんですか?」


 ルイスがサディアスに疑いの視線を向けた。


「いや、本当に気になってるのは子猫なのかと思ってね」

「そうに決まっているじゃないですか。おかしなことを言わないでください」

「でもここに来てからずっとフィオナを見ているじゃないか」

「気のせいだと思います」

「今まさにガン見してるじゃないか」

「気のせいです」


 何やらルイスとサディアスが言い争いをしている。


「ふう、うちのお嬢様の魅力に気づいてしまった人間がまた一人……」


 アンネも何か言ってるし。

 面倒なことに巻き込まれたくないから、私は静かにルビーと遊んでいた。フワフワ、モコモコ。可愛い。

 猫っていいわね……前世では猫を飼う余裕なかったけど、実は飼ってみたかったのよね。


「おー! みんないる!」


 密かに前世からの夢が叶って喜んでいると、部屋にズカズカとニックが入ってきた。


「ニック、部屋に入る前にノックをだな……」


 ジェレミー殿下がもっともなことをニックに指摘している。


「えー、知り合いなのに? 先に近しい来客が来てることがわかってるのに?」

「するんだ。覚えておきなさい」

「面倒だなぁ~」


 ニック……。

 筋肉について以外の常識も教えてあげないといけないかしら……。

 ジェレミー殿下はそんなニックに代わって頭を下げた。


「突然来て済まない。おかげで学校事業は大成功だ」

「よかったです」


 学校についての評判は私も聞いている。子供たちは楽しく通いながら学ぶことができて、親からの評判も上々だ。


「夜間学校も、今の子供の通っている学校と教材を利用してできるからすぐに始められた。大人でもやはり学びたかった者が多かったようで、入学希望者が今殺到してるよ」


 夜間学校も上手くいっているようで安心した。自分で発案した事業が上手くいっていなかったら申し訳ないものね。


「それで相談なのだが――」


 いきなり声のトーンが変わり、私は嫌な予感がしてルビーを撫でるのをやめた。


「今度は病院や孤児院の環境や食事面の指導をしてほしいんだけど」

「嫌です!!」


 私は食い気味に言った。

 学校事業、楽しかったしお金ももらえてよかった。よかったけどやっぱり大変だったし疲れで何度熱を出して寝込んだか。その度にルイスが「やっぱり国を買っておけば……」とか言い出すのを毎回止めなきゃいけないし……。

 もうあの経験は一度だけでいいかな、というのが本音だった。


「そうだよな、わかる。わかるんだけど……」


 ジェレミー殿下が申し訳なさそうにしながらも、言った。


「ちょっと来てくれないか?」



◇◇◇



 来たのは病院だった。


「何これ……」


 私はそれを見て衝撃を受けた。


「みんなこれを食べてるの……?」


 ドロドロで原型がわからない食事。


「咀嚼ができない人だけじゃなく? 全員がこれ?」

「そうだ」


 ジェレミー殿下が頷いた。


「それじゃあ食べるのに支障がない人も、これ以外選択肢がないんですか?」

「そうだ」


 ジェレミー殿下がもう一度頷いた。

 そんな……これを……?

 私は恐る恐る一口それを食べた。

 うっ……。


「こんなの食事に問題のない人間が食べるわけないじゃないですか!」


 不味かった。

 食感も最悪だし、味も最悪。とりあえず食べられそうなものを突っ込んで煮詰めて出したというのが丸出しだ。患者のことをまったく考えていない。


「そうだよな。今まではこれが当たり前だと思っていたから疑問にすら思わなかったが、フィオナ嬢の教材で栄養について知ってから、これはおかしいなと思ったんだ」


 それで、とジェレミー殿下は続けた。


「食事も残されることが多く、患者が体調を崩すことも多かったんだ」

「それはそうですよ……食事をきちんと取れなければ、体力も落ちますから……」


 食事は生きる上で大切だ。きっちりきっかり栄養ばかり考えた食事だと逆にストレスになって身体に悪くなることもあるから栄養バランスを毎食きっちりしろとまでは言わないが、こんな食べる気さえ起きなくなる食事はダメだ。


「食べ物って大切なんです。味を楽しむことで、元気になるし、その食べ物で身体を作るんですから」


 私と共に教材を作ったり、日々私の話を聞いたりしている面々は、深く頷いた。


「そうだよな! この俺の筋肉も食事から出来ているんだ!」

「ニック、暑苦しい」

「はい!」


 ニックが自慢げに腕を出したが、私の言葉にすぐにしまった。


「食事だけじゃないね」


 病院の中を見て回っていたエリックがイライラした様子で戻ってきた。


「シーツ交換の頻度が半年に一回だって。部屋の掃除も、換気も出来てない。衛生面という観点が抜け落ちてるよ」


 エリックが信じられないと思っていることを隠さずに、病院のダメな点を羅列する。

 私の前世の世界でも確か衛生について考えが広まったのが1800年代……今のこの中世ヨーロッパ風の世界なら、衛生という言葉すら、一般の人は知らないかもしれない。エリックが知っているのはやはり先進国にいたからだろうか。

 私は病院を見て、一つため息を吐いた。


「孤児院も似たような感じなんですね?」

「ああ。そうだ」


 子供たちまでこのような過酷な環境で暮らしているということだ。

 見捨てられるはずがない。

 私の答えは決まった。


「やります」



読んでいただきありがとうございます!

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病弱令嬢コミックス4巻発売!
 


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『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』
コミックス4巻


発売日:2025年8月5日



あらすじ

健康オタクがバレた悪役令嬢×過保護が加速する公爵令息のラブコメディ

領民の生活改善を進めたことから、国全体の健康改善プロジェクトにスカウトされたフィオナ。
その主要メンバーは「きらめきの中に」の攻略対象の面々!
作中では彼らの前で断罪される運命であり、内心穏やかでないフィオナ。
ジェレミーはフィオナに好意的なものの、その側近・サディアス、婚約者・カミラからはそうでもないようで、ちょっと一筋縄ではいかない状況に…。
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発売日:2025年8月2日



あらすじ

社畜のように日々働いていた主人公は、ある日、目が覚めると異世界の令嬢クリスティナに憑依していた。
望んでいたような人生のやり直し、ではない。
記憶によればこの身体の持ち主はとんでもない悪女で、すでに色々『やらかしたあと』だった!
王太子からは「次はない」と脅され、抑制の手段という理由で監視役の公爵令息からは「一緒に住む」と言われ…!?
本気で抹殺の理由を得ようとしていると震えるクリスティナは、好感度を下げないために労働することを思いつく。一方、公爵は監視の他にも思惑があるようで……。

やらかし終えた元悪女と、監視役公爵との無自覚ロマンスファンタジー!



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