第52話 解決
「わからないとは?」
「言ったままです。どこに住むか、どんな部屋に住むかによっていろいろと条件が変わります。」
桜も先程の鋭い目から少し柔らかくなった。正直怖かった。
「まず家賃、これだけで値幅は広いです。そこから大学までの交通費を考えます。さらに電気、ガス、水道代を更に計算して残ったお金が生活費です。自由に使えるお金は微々たるものになります。」
「つまり、桜には一人暮らしはできないと?」
「そうは言いません。したいというならさせるのもいいと思います。現に朝食も夕食も美味しかったですよ。炊事洗濯掃除……全て合格点ですから!」
そこは胸を張って言える。だけど難点があるとしたら……
「ただ……朝が弱すぎますね。寝坊は常習犯になるかと……」
「「あーー……」」
流石ご両親……分かってるご様子で。そう私も朝が弱いが更に私よりも朝が弱い!
「そ、そんな事……いや!それを言うなら理子だって朝めちゃくちゃ弱いじゃん!」
「それでも遅刻はした事ないよ!」
そう!私は文華が来るまでも遅刻はした事はない。
「わからないじゃん!私だって!私だって!」
「いや、早朝の教科は全滅すると思うよ?」
「そこまで!?」
「そこまで言うよ!だって生活も必要だけど学校生活だって大切なんだから!」
「……つまり1人暮らしできないと?」
「だからわかりませんって。学校の近くに住めば良いだけですが家賃はそれなりに……になります。」
桜の父親からの質問に素直に伝えた。それが私の仕事だから。
「ふぅー……桜、お前は良い友人を得たな。」
「うん……私もそう思う。」
「友達だから言いにくい事もあるだろう事を素直に言ってくれる友達なんてそうそういないぞ……大切にしなさい。」
「はい、お母さん……」
「桜、それでもお前は1人暮らししたいか?」
「は、はい!」
父親からの質問に力強く答えた桜にゆっくりとうなづいた。
「わかった……だが、するのは来年春からだ。そしてその間に住むアパートや寝坊癖を直す事だ。それが出来ればいいぞ。」
「わ、分かりました!」
「じゃあ私の役は終わりかな?」
「待ちなさい……」
これで私の仕事は終わったので帰ろうとしたら母親の方に呼び止められた。
「折角ならお昼を召し上がっていかれませんか?」
「あっ、えっ?でも私これからバイトがあるのでまたの機会で……」
「あっ、そういえば理子……15時からバイトだったね。今は……13時半……」
丁度良い頃合いだった。行きにコンビニに寄ってその後迎えばいいでしょう。18時までのバイトだし。
「それでは、私はこれで……」
「理子さん!」
私を呼び止めたのは父親の方だった。そして振り返ると立ち上がり深々とお辞儀をしていた。
「こんな娘を2ヶ月も面倒を見ていただきありがとうございました。機会があればまた家に遊びにきていただけませんか?」
「はい!喜んで!」
そうして親父さんは桜へ向き直った。
「桜、すまなかったな……そして友達を大切にしなさい。それとまたお前の手料理を作ってくれないか?」
「い、いいわよ。私たちはその……家族なんだし……いつでも作ってやるわよ!」
「どうやら一件落着の様ね。さぁ2人とも理子さんをお見送りしないと!」
私は門の前まで見送りされて桜の家(屋敷)を後にしてバイトへ向かった。
「……今度は文華とくるかな……」
セミの声が私の声をかき消すくらい鳴いていた。遠くには入道雲、帰りは傘が必要かもしれない……
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