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第38話 浴衣

 浴衣は見たことはある。勿論着ている方を……だけど私には縁遠い物である。それが今私の前にあった。


「どれ着てみる?」

「いやいや!なんで?どうしたのこれ?」


 私は目の前の光景にまだ脳が追いついていなかった。


「いや、見たまんまの浴衣だけど?」

「……うんそうだね。じゃあその浴衣が何でここに?」


「持ってきたからだけど……?何どうしたの?」

「ごめん、頭がおいついてないだけ……でも、私こんなの着たことないんだけど?」

「珍しく狼狽えてるわね。大丈夫よ、私が着せてあげる。帯とかは任せてよ。」


「……分かった。じゃあこの青のがいいなー。」


 私が選んだのは紺色に白い波の模様が付いたものだった。


「やっぱりそれにしたね。私もそれが理子には似合うと思ったんだ!」

「そう?まぁ悪い気はしないけど。じゃあ桜はどれにするの?」


「ん?私は無難にこれよ。」

「無難なの?」


 それは水色で金魚が泳いでる柄の浴衣だった。


「夏らしくていいでしょ?文華ちゃんはやっぱりこれだと思うんだよね!」

「あー、わかる。文華ならこれよね。」


 それは白い浴衣に朝顔の柄が入ってる浴衣だった。文華らしい白を基調にした物だ。


「でも、私らだけ浴衣なのはどうなの?あの2人の分は?」

「あー、2人には連絡済みだよ。桃華も早苗も浴衣持ってるから着てくるって。」


 なんとも準備のいい事だろう……


「でも、私たちが浴衣ないってよく知ってたわね?」

「えっ?普通に文華ちゃんから聞いたよ。だから持ってきたんじゃない?文華ちゃんから何も聞いてないの?」

「聞いてないわね……」


「忘れてたんだね。今日模試だったし。」

「かもね……じゃあ着付けしてくれる?私着たことすらないんだ。」

「まっかせなさい!」


 という事で着せてもらった。帯が少し苦しい……でもそれなりに似合っていた。


「どぉよ?」

「うん!似合ってるよ。」

「ありがとう!」


 私は素直にお礼を言った。でも、桜は少し考えごとをしている様にみえた。


「ねぇ、何で今まで浴衣とか着なかったの?」

「ん?単に興味なかったからよ。」

「ええ、もったいないなー、めっちゃ似合ってるのに!」


 そんなに力説されても困る。私は別におしゃれとか興味ない。化粧もそんなにしない。生まれてこの方彼氏すらできた事もない。そんな私が浴衣?ないない。


「まぁ私のことは置いといて……文華も着たことないと思うよ?」

「ええー!なんでよ!夏祭りとか一緒に行かなかったの?」

「うーん……うぅーーーん……一度だけあるわね。」


「どんだけ悩んでるんよ!即答しなよ!」


 そう言われてももう10年以上前だから仕方ない。だけど言われても仕方ない。


「それでその時はどうだったの?」

「急かすわねー、あの日も特に私は浴衣とか着てなかったけど……文華は着てたなー……あっ」

「ん?何か思い出したの?」


「えっ、あっうん、焼きそば美味しかったなーって……」

「何よそんな事?夏祭りの焼きそば、わたあめ焼き鳥は美味いに決まってるじゃん!」

「あはは……そうだね……」


「ただいま。」


 私は笑ってお茶を濁した。すると丁度良いタイミングで文華が帰ってきた。


「あ、おかえりどうだった?」

「うん、結構やれたよ。」


 文華のやれたと言う時はは80オーバーは確定だ。そのくらい手応えがあるのだろう。


「ねぇ、文華ちゃんは浴衣どれにする?」

「ん?私は……これかな?」


 文華が選んだのは私と桜が予想していた朝顔の浴衣だった。


「やっぱりそれを選ぶよね……文華らしいよ。」

「ふふふ……理子がもし選んでくれるならこれだと思ったんです。」

「おお、さすが文華ちゃん!正解!」


 桜はパチパチと手を叩いて賞賛を贈った。とは言え、私じゃなくてもあの浴衣を選んだだろう。現に桜とも意見があった訳だし……だが、それを言うのは野暮だ。私はそっと心の奥底にその言葉を閉まった。

 ここまで読んで頂きありがとうございました。

次回更新もお楽しみに!


 面白い、続きが気になるという方はブックマークをしてお待ち頂けると幸いです。

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