第37話 堕落
朝は私が先に起きた。おそらく私よりは遅く寝たのであろう文華はまだ寝ている。今日は文華の模擬試験の日だ。
「起きるか……」
私は文華の手と繋いでいる状態だからとりあえず手を解いて起きようとするも文華はなかなか手を離さない。それどころか強く握りしめてくる。
「離しなさい。」
まぁ言って離すはずない。だけど離さないと朝ごはんが作れない……でも、本来寝てるなら……
「朝ごはんが作れないんだけどー……」
「……ご飯……炊けてる」
「起きてるなら離しなさいよ!!!!」
「いやああぁぁぁ!痛い痛い!」
やっぱり起きてたか……寝てるのに掴む力が強くなるなんてあり得ないもの、私は文華に片手でこめかみをグリグリしてやる。
「ご飯炊けてるなら漬物でお茶漬けにするわよ。あとは卵焼きと味噌汁ね。」
「はい……」
半泣きしてる文華を放っておいて私は味噌汁と卵焼きを作る。暑いし汗もかくだろうから少し塩味を濃くする。
「ほら、そろそろ起きて着替えなよー。模試は9時からでしょー!」
「うん……頑張ってくる。」
着替えを済ませて文華が出てくる。私はまだパジャマである。先に着替えれば良かったと後悔しつつも卵を丸めてお皿に移す。卵焼きの完成だ。あとは切り分ける。
「はい、出来たよ。しっかり食べて行ってらっしゃい!」
「うん。いただきます……理子は食べないの?」
「私は……もう少し寝るー……おやすみ……」
私は再びお布団に入って寝た。要するに二度寝だ。休みの日、しかも今は文華だけ……ならやる事はこれに限る!
「ご馳走様でした。」
「お皿は台所においといてー後で洗うから……」
眠りそうで眠れない。二度寝をしてなかったが為の弊害だ。結局文華が出掛けるまで寝られず見送ってから二度寝するのだった。
起きたら12時過ぎていた。文華は遅くても16時には帰ってくる。もう一眠り出来る……私はそう思って15時にアラームをかけてまた寝ようとした。
ピンポーン
そう思ったらチャイムが鳴った。インターホンで確認すると桜だった。しかも大荷物……
「おはよー」
「おはよーってもう13時になるわよ!早く着替えたら?」
「いいよー……まだ15時まで寝かせてー……」
私は1つ大きなあくびをした。それを見た桜は少し呆れているようだった。
(人は誰もいないとここまで堕落するのか……)
「まぁいいや、着替えるから中で待っててよ。」
「お邪魔します……って布団すら片付けてないじゃんか!」
「いや、今まで寝てたし」
「嘘でしょ⁉︎」
桜は額に手を当てながら信じられない目で私を見てる。私は普段どんなふうに見られてるのかもう一度確認したい。
「こんなの見たら100年の恋も一瞬で冷めるわね。」
「好きに言ってて。さぁて片付けよ。」
私は布団を片付けてると桜は台所にあるお皿を洗い始めた。
「いいよ、置いといて私が洗うから。」
「朝ごはん食べた後二度寝なんてしたら太るぞー」
「それは文華のために作ったの、私は食べてないわよ。」
「……理子に文華ちゃんが居て良かったと思うわ。下手すると今頃理子死んでたんじゃない?」
「なぜそうなる……」
「1人だと人間らしい生活してなさそうだからよ。」
言葉が詰まった。言い当てられてるからだ。だけど怯んでる場合じゃない。なんとか言い返さなければ1人ではダメ人間というレッテルを貼られてしまう。
「いやいや、実際1ヶ月は大丈夫だったわけだし、そのまま継続してればいいだけだから問題なかったと思うわよ!」
「……説得力ないと思うぞー」
今の私の現状は確かに説得力がない。パジャマのままの私、台所には洗われていない食器、布団は現在進行形で畳まれて直している。
「気にしすぎだって!ほら、お昼食べた何か作るよ?」
「もう食べたわよ。とりあえず着替えて寝癖直してきたら?私がその間お昼作っててあげるからさ。」
「いいわよ。カップ麺あるし」
「ズボラが加速して行ってるじゃん!いいから早く着替えて寝癖直しておいで!」
言われるがままに私は洗面所で顔を洗って寝癖を直した。髪は短い方だけど流石に後ろが凄かったので直した。それから歯磨きして少しお化粧をした。そして着替える。花火観て夏祭り少し周るくらいだから普段着より少しラフにしてみる。
「お待たせ……」
「おっ、来たね。お味噌汁まだあったから温めておいたよ。あとは塩おむすび作っておいたよ。」
「しょっぱいものばかりね。まぁいいけど……」
「帰りは買い物して帰らないとね。」
どうやらこの言い方だと今日からまたしばらくはうちにいるみたいだ。
「円満解決はしなかったみたいね。」
私はお味噌汁を啜りながら桜の表情を見た。
「うん……まぁ仕方ないかな?私も早く一人暮らししたいし……バイトもしたいんだ。」
「んーー……なんでそんなに急ぐの?遅かれ早かれ一人暮らしは出来るはずなのに?」
「……理由は言えない。」
「そう、なら聞かない。」
桜は目を見開いた。
「私は別に気にしないし、興味ないからね。ただ友達が困ってるなら少しは力になってあげたい。それだけよ。」
「……ふふ、普通は聞くんだけどね……」
困った様に笑う桜は新鮮だった。私はそれが面白くも思った。
「でも、教えてくれないんでしょ?なら無理に聞かないよ。」
私はおむすびを頬張ってそれを味噌汁で流し込んだ。
「そうね……それに文華ちゃんだけで手いっぱいなんでしょ?」
「分かってるじゃん。ご馳走様でした!」
私は手を合わせて食事を終わらせる。
「さて、時間まで何するよ?」
時刻は13時半、準備はほとんど終わったから待ち時間となる。
「はぁ?何言ってるの?ほら着替えるわよ理子!」
「ん?着替えてるけど?」
「ほんと何言ってるの⁉︎夏祭りなのにそんな服で行くわけないでしょ!ほら着付けするから脱いで脱いで!」
そう言って桜が荷物から出したのは浴衣だった。
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