第29話 寂しい
「私もバイトする!」
「ん???」
バイトから帰ってきて夕飯を黙々と食べていたら急に文華が言い出したのが今回の始まり。7月も中旬に入る頃にいきなりの発言だ。
「なんでいきなり?」
「理子は期末テストでバイト行けないから……短期バイトして力になりたいなと……えっ?なんで泣いてるの⁉︎」
今私はめちゃくちゃ感動している。今まで守ってきた文華が自分からバイトをするなんて言うとは思わなかったのだから。
「成長したね……面接はもう受けたの?」
「ううん……まだ、明後日面接なの……」
「そっか……受かるといいね。」
「うん。」
2日後……
「ただい……」
「理子〜〜!」
私の帰りを待っていたかの様に飛びついてきた文華、正直受かったか受かってないかよく分からない。なぜならどちらも見た事ないテンションだからだ。
「私……!受かったよ!」
「お、おお、良かったね。」
流石にこんなに喜ぶとは思ってなかったから戸惑いつつも喜んだ。
「私、今まで何かに受かった経験ないからすごく嬉しくて……」
「そうなんだ……おめでとう!」
私は文華の頭を撫でてあげた。初めて何かに認められる。それは確かに嬉しい事なのだろう。私にも経験ある事だし、それが文華は今日だったのだろう。
「でも、受かるのは通過点、本番はここからだよー!」
「うん!ありがとう!頑張る!」
少し泣きつつも笑顔で応える文華、こんなに可愛かったかな?と少し疑問に思いつつも今は喜ぶことにする。
後日……
「行って来ます!」
「行ってらっしゃい。」
私は手を振って出掛ける文華を見送った。初出勤で今日から1週間のバイトだ。
「……」
静かすぎる。テスト前で授業もなくなったから家にいる時間も長くなった。もちろんバイトも休みだ。学生の本分は勉強という店長の方針らしい。
「私も勉強するか……」
そうして机に向かうこと数時間……
「で、私を呼んだと?」
「ありがとう!1人だと寂しくて!」
ぺし!
桜は無言で私の頭を叩いた。痛くはなかった。
「そんなタマじゃないでしょ!本当は?」
「早苗も桃華も連絡取れなかったから桜が出てくれてホッとしてます。」
「私は最後なの?」
「最近連絡した人順だと桜が最後でした。」
「はぁ……まぁいいわ。それでどこかわからない所でもあるの?」
「ん?特には?」
「はい?まさか本当に寂しくて呼んだの?」
「そうだけど?」
再び私の頭をペシペシ叩く桜……痛くはないが腹は立つ……
「ばっっかじゃないの⁉︎くだらない!いくつよあ・ん・たは!」
「いや久しぶりに部屋に1人だと寂しくて……」
「まったくもう!それで私はいつまでいればいいの?」
「文華が帰ってくるまで……」
「何よ、寂しがりやなの?てか、試験前よ!試験前!遊んでる暇ないの!」
「だから、ここで勉強すればいいじゃん!」
「あー!もぅ!分かったわよ!じゃあ話しかけないでね!集中出来ないから!」
「……ありがとう……」
とりあえず了承を得られた。これでようやく私も勉強に集中できる。
しばらくカリカリと文字を書く音が部屋に響いていた。しかしふとわからない所が出て来た。
「桜、あのさ……」
「話しかけないでって言ったよね?」
めちゃくちゃ怒ってる顔で私を見て来た桜、まだ30分も経ってないのだから仕方ない。
「いや、ごめん……ここわからないんだよね。」
「ん?あぁ、数学のか……これ積分使わないとダメなのよ。だからここは……」
「なるほど……あれ?ここからこの式が出て来たのよね……だったら答えが違ってくるよ?」
「ん?ん、ん、ん、」
桜は1つずつ式を見ていく、シャーペンでなぞってはパラオードの様に打っていく。
「あ、ここで係数がズレてた。そうだよね。いきなりbが消えたからか……だからここをこうすれば……ほい、出来た。」
「ありがとう……助かったよ。練習問題あとは解きまくるからまた分からなかったら教えて。」
「あいよ。」
そうしてまた沈黙が続いて時刻は15時を過ぎてた。
「お昼食べる?」
「食べる!何作るの?」
「焼そばよ。そろそろ文華も帰ってくる頃だしね。」
「おぉ、何か手伝おうか?」
「いいわよ。お客さんだし、ゆっくり勉強しててよ。」
私は桜を静止して焼そばを作り始めた。そして丁度良いタイミングで文華が帰ってきた。
「ただいま。あれ?桜さん?なんでいるんですか?」
「あぁ、理子が寂しいから来てって言われたのよ。まぁ勉強で分からない所もあったから渡に船だったわ。」
「……子供みたいですね。」
「だよねー!」
私の後ろで笑ってる2人に後で覚えてなさいと思いつつも焼そばを作るのでした。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
次回更新もお楽しみに!
面白い、続きが気になるという方はブックマークをしてお待ち頂けると幸いです。




