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第25話 正しさは立場で変わる


「実質、ただの村……か」


「若、そうはいっても野盗をやってるのは見逃せませんがね」


 建物の前に、人々を集め、座らせる。

 拘束は手間がかかるし、女子供もいる状態であった。


 とはいえ、ボルクスのいうようにこのまま無罪放免とはいかないのは間違いないのだ。


「お兄様、どうされるのですか?」


「ワシはお前さんたちに任せるぞ」


 フェリシアは心配そうに、爺さんはどうするかお手並み拝見という感じだ。

 そのことはわかりつつも、判断に迷っていた。


(一番の問題は、ここがたぶん正式に領地に組み込まれてないところなんだよな)


 この場所も含め、魔があふれた森はどの貴族も抱えたがらない。

 かといって放置は怖い、誰かが気にかける必要がある。


 そこで、誰の所有でもなくし、その周辺は緩衝地帯とし、隣接する領主が防衛は怠らないこととなっている。

 ずいぶんとあいまいな扱いだが、妥協も妥協といったところか。


「お前たちは今、どの領主の元にもいない、間違いないな?」


「は、はい。その通りです……」


 今もなお、淡く光る宝剣を手にしたままの俺に、おびえたような視線を向ける村人たち。

 正確には、村人としても扱えないのだが、まあいい。


(こいつは……わかってて放置されているか、気が付いてないか、どっちかだな?)


 とたん、厄介さが増したような、すっきりしたような不思議な感覚。

 つまるところ、好きにしていいということになったのだ。

 表立っての非難は、どこからも来ない。


「隠し事はなしだ。殺しはどれぐらいやった」


「ひっ! こ、今回が初めてだ、です。だから、一人も……お頭自身は知りませんけど」


「どういうこと……ああ、いや。そうか、あの頭目らしい男、よそ者か」


 道理で、逃げ方がおかしいはずである。

 この分だと、脅かすだけのつもりだったとかそういった可能性も出てきた。


 その理由は、建物の中にあった。


「そうだ、です。数か月前、あの男が村に逃げ込んできたんです。多分、どこかの傭兵かなんかでしょう。自分たちにとっては強くて……襲って皆殺しにしたらばれないとか言いだして」


「だからといって、犯罪はだめだろう。子供たちに顔向けできない結果になるぞ」


 説教を口にしながら、建物に目を向ける。

 丸太小屋に近いその中には、様々なものが積みあがっていた。


 その中には、干した薬草類や、毛皮、そして……銀鉱石があった。

 見るからに純度がおかしく、このまま産出できるのなら大儲けだ。


「それはその……男に脅されてというのは言い訳ですね」


 その後、うなだれる男たちに話を聞けば、やはり細々とした暮らしで過ごしていたようだ。

 森からは各種素材、何より銀鉱石が掘れる小山があるらしく、足元を見られて安いとわかっていても売っていたのだとか。


「売り先はどこだ。ベリエ子爵か?」


「いえ。逆方向です」


 指さししながら示した方角とは逆を示す男たち。

 あっちは、別の領地だ。


 確か……ゴルドア子爵。


「管理はおざなり、うまみだけもらう、見逃せんな」


「はい。はっきりさせましょう」


 そばで聞いていたフェリシアも、硬い声だ。

 そうと決まれば、あとは村人たちの処分をどうするか。

 過去の野盗行為が不明なので、実質俺たちへの襲撃のみが対象か。


「爺さん。次はない、は甘いか?」


「甘いのう。じゃが、厳しいだけでは人はついてこん。それも真理じゃな」


 甘くて結構、といったところだ。

 法が及ばない事柄なら、自分自身の心に従う。


「ボルクス」


「へいへい。そのための従者ですからねえ」


 細かいことは言わずとも、伝わったようだ。

 ベリエ子爵への手紙を俺が書き、ボルクスが届ける。

 その間、この村で森の様子をうかがうために寝泊まりといこう。


「この森周辺に住むのは、本当はだめなのだからな。そのうえで野盗行為だ。本来なら縛り首でもおかしくないが、機会をやろう。ベリエ子爵側に、保護を頼め。金になるとわかれば、無視はされないはずだ」


 ただし、と宝剣をぎらつかせれば、男連中だけでなく、話がわかったらしい女子供もうなずいた。

 ここで実家が近ければ、ウチで抱えてもいいが今回は無理だ。


 村の男どもから1人、代表でボルクスについていかせることにした。

 村には、一応馬が飼われていたからだ。


 いざというときに女子供を少しでも逃がすためだというが、なかなか複雑な気分である。


 そして、話が決まってからは……葬式だ。

 オークに襲われ、どうしても間に合わなかった人々がまだ倒れたままなのだ。


「フェリシア、付き合ってもらえるか?」


「え? 付き合う……あ、はい! 大丈夫です!」


「ワシも手伝おうかのう……」


 なぜか慌てるフェリシアと、笑う爺さんを引き連れ、村人たちとともに村中を回る。

 村人とともに、死体の残るオークたち。


 それらが、宝剣か魔法以外で倒された存在だということに、全ての埋葬が終わってから気が付くのだった。


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